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2018/11/25

ピエール・ボナール展

国立新美術館で開催中の『ピエール・ボナール展』を観てきました。

ナビ派を代表するボナールの国内では37年ぶりとなる回顧展。オルセー美術館の所蔵作品を中心に、国内外のコレクションを含め、油彩画や素描、版画、写真など130点超の作品が集められています。

これまでもドニやヴァロットンの展覧会があったり、ボナールも2015年に三菱一号館美術館で開催された『ワシントン・ナショナル・ギャラリー展』や昨年同館で開催された『オルセーのナビ派展』でまとまった形で観る機会があったり、ナビ派は近年再評価が進んでいるので、今回のボナール展は待望の展覧会といえるのではないでしょうか。

昨年の『オルセーのナビ派展』は好評でしたし、お客さんもそこそこ入っていたと思ったのですが、ボナール展はガラガラだなんて話も聞き、ちょっと心配してましたが、私が行ったのは開幕してから1ヶ月以上たった11月の日曜日の午後ということもあり、混んでるというほどではないけれど、適度にお客さんが入っていて一安心しました。


会場の構成は以下の通りです:
1 日本かぶれのナビ
2 ナビ派時代のグラフィック・アート
3 スナップショット
4 近代の水の精たち
5 室内と静物 「芸術作品-時間の静止」
6 ノルマンディーやその他の風景
7 終わりなき夏

ピエール・ボナール 「黄昏(クロッケーの試合)」
1892年 オルセー美術館蔵

ボナールがパリで日本美術展を観て、日本の浮世絵に衝撃を受けたのが1990年のこと。昨年の『オルセーのナビ派展』ではそれ以前の作品も展示されていましたが、本展では日本美術の影響を受けたあとの作品から始まります。

当時、日本美術に影響を受けた画家は大勢いますが、その中でもボナールは‟日本かぶれのナビ(ナビ・ジャポネール)”と呼ばれ、日本美術に特に傾倒していたことが知られています。屏風仕立ての「乳母たちの散歩、辻馬車の列」や、後ろ姿だけ見たらまるで日本の女の子のような「砂遊びをする子供」、遠近法を無視した平坦な色面や装飾的な表現で構成された「黄昏(クロッケーの試合)」や「白い猫」など、日本美術の影響を随所で感じることができます。

ピエール・ボナール 「白い猫」
1894年 オルセー美術館蔵

「庭の女性たち」は、『オルセーのナビ派展』にも出展されていましたが、「白い水玉模様の服を着た女性」「猫と座る女性」「ショルダー・ケープを着た女性」「格子柄の服を着た女性」から成る4点組装飾で、女性を大きくフィーチャーした構図や横顔を少し覗かせた後ろ姿が浮世絵の美人図を思わせます。草花や木々をあしらった装飾性は四季美人図といった様相です。

ピエール・ボナール 「庭の女性たち」
(左から「白い水玉模様の服を着た女性」「猫と座る女性」
「ショルダー・ケープを着た女性」「格子柄の服を着た女性」)
1890-91年 オルセー美術館蔵

日本かぶれな中にも、インティメイトな雰囲気の小品や象徴主義風の作品、点描を中心とした新印象派的な作品など、ボナールの個性がさまざまな作品から知ることができます。

ピエール・ボナール 「ランプの下の昼食」
1898年 オルセー美術館蔵

ボナールというとマルトの裸婦画も有名。1925年以降晩年にボナールが手掛けた‟浴槽の裸婦”は今回来てないのが不満ですが、1908年ごろから描き始めたという身体を洗う裸婦画や鏡に映った裸婦画など複数の裸婦画があるほか、マルトを描いた作品は裸婦画に限らず複数展示されています。

ピエール・ボナール 「化粧台」
1908年 オルセー美術館蔵

1990年代末から20世紀初頭にかけてのボナールと妻マルトのスナップショットもいくつかあって、二人のヌード写真なんかもあったりするのですが、マルトを描いた一連の作品群の一瞬の動きや表情を切り取ったようなスナップ的な光景は、こうした写真の影響もあるのだろうなと感じます。

実際ボナールは「不意に部屋に入ったとき一度に目に見えるもの」を描きたかったと語っていて、目にした光景をその場で素早くスケッチし、スケッチと記憶に頼りにアトリエでカンヴァスに向かったといいます。

ピエール・ボナール 「猫と女性 あるいは 餌をねだる猫」
1912年頃 オルセー美術館蔵

本展のメインヴィジュアルにもなっているのがマルトとお馴染みの白猫を描いた「猫と女性」。子どもたちと一緒に白猫がお行儀よく食卓に並んで座っている「食卓の母と二人の子ども」も愛らしい。

今回の展覧会で印象に残った作品の一つが「桟敷席」。ボナールにしては薄暗い色彩で、中央に立つ人は顔の上部が描かれてなく、桟敷席には似つかわしくない倦怠感が伝わってきて、先日観たムンクを思わせもします。ボナールの作品には、不穏な空気が漂っていたり、人々の視線が交わらなかったり、こうした憂鬱な人物を描いた作品が時々あります。

ピエール・ボナール 「桟敷席」
1908年 オルセー美術館蔵

パリ郊外ヴェルノンに移り住んでからの作品は、明るい陽光と色彩溢れる華やかな自然の描写が美しく、遠近感のない平坦な描写も相まって、マティスのようだったり、まるでホックニーのようだったり、これまでの室内を中心とした作品とはかなり違った印象を受けるようになります。ウジェーヌ・ブーダンを思い起こさせるトゥルーヴィルを描いた作品もありました。

晩年のボナールの作品には、大画面の装飾壁画や古代アルカディアのような風景画など、神話や牧歌的な傾向が強まり、南仏ル・カネに移り住んでからは、さらに原色に近い単純明快な色彩が増し、とても興味深いものがあります。南仏のカラフルな風景とふくよかな女性が描かれた「地中海の庭」などはまるで晩年のルノワールを観るような思いがしました。

ピエール・ボナール 「花咲くアーモンドの木」
1946-47年 オルセー美術館蔵

会場の最後には、甥の手を借りて描いたという遺作の「アーモンドの木」があります。出来栄えに満足せず、最後に足した左下の黄色の絵具はボナールの色彩へのこだわりが感じられて涙ものです。


【オルセー美術館特別企画 ピエール・ボナール展】
2018年12月17日(月)まで
国立新美術館にて


もっと知りたいボナール 生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)もっと知りたいボナール 生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)

2017/06/25

ジャコメッティ展

国立新美術館で開催中の『ジャコメッティ展』を観てまいりました。

ジャコメッティというと20世紀のモダニズム彫刻を代表する彫刻家。異常に細長く痩せこけた人間の彫刻で有名で、一度観たら忘れられない強烈な個性があります。最近では、2010年に「歩く人」が94億円、2015年には「指さす人」が彫刻作品としての史上最高額の、なんと170億円で落札され、話題になったりしました。

国内での回顧展は約10年ぶり。前回は神奈川県近代美術館・葉山館(DIC川村記念美術館にも巡回したらしい)だったので、遠くてあきらめたのを覚えてます。

今回は国立新美術館ということもあり、スペースも広く、国内では過去最大規模の展覧会。デッサンやリトグラフも多いので、彫刻はちょっと少ないようにも思えるのですが、彫刻作品だけで約50点も展示されてますし、マーケットでは1点何十億という金額で売り買いされていることを考えれば、もの凄いことだと思うんです。

アルベルト・ジャコメッティ 「女=スプーン」
1926/27年 マルグリット&エメ・マーグ財団美術館

ジャコメッティが彫刻をはじめたのは13歳の頃だといいます。すごく早熟な気がするのですが、ジャコメッティの父は画家なので、環境的にも恵まれていたのかもしれませんね。ちなみに弟のディエゴも彫刻家で、白金の松岡美術館の玄関フロアーにある猫の彫刻が有名です。

初期の作品はシュルレアリスムの影響を受けたものが多く、板に凹みがあるだけの「見つめる頭部」やスプーン型の「女=スプーン」といった造形的にも抽象的な、ときにアフリカやオセアニアの原始彫刻を思わせるものがあったりします。その名も「コンポジション」という作品やキューブ型の立体的な彫刻があって、時代的にもカンディンスキーやモンドリアン、またキュビズムなどと被る部分も感じます。

アルベルト・ジャコメッティ 「3人の男のグループⅠ(3人の歩く男たちⅠ)」
1948/49年 マルグリット&エメ・マーグ財団美術館

シュルレアリスムと決別した後、ジャコメッティは具象彫刻を目指します。しかし、長い暗中模索が続き、見たものを記憶によって造ろうとすると彫刻は小さくなり、モデルに似せようとするとどんどん細長くなったといいます。僅か数センチの針のような小像が、今度は極端に引きのばされた人体像になっていく様は、追い詰められた彫刻家のある種の強迫観念を見ているようでした。わたし自身は、ジャコメッティの細長い彫刻は人間の抽象だとずっと思ってたのですが、実は身体の本質を突き詰めたらボリュームを削ぎ落としたスタイルになったということも初めて知りました。その過程は作家の葛藤と重なり感動的ですらあります。

デッサンもいろいろ展示されていますが、意外なことに造形前のデッサンでは全然痩せ型ではなく、いたってフツー。 ジャコメッティはスイス系イタリア人だからということもあるのか、割と女性好きだったようで、なんと理想の女性の体型はマリリン・モンローなんだとか。人間の身体を突き詰めて突き詰めて突き詰めたら、肉を削ぎ落とされた骨と皮だけの枯れ木のような姿になるんだから面白い。

アルベルト・ジャコメッティ 「犬」
1951年 マルグリット&エメ・マーグ財団美術館

まるで地面を嗅ぎまわるような、ひょろひょろと痩せ細った犬。身のない魚の骨のような猫。一見写実には見えないんだけれども、しかし犬や猫の動きやニュアンスがとても実感のあるものとして伝わってきます。

ジャコメッティのリトグラフはリトグラフといわれないと、ただの殴り書きか下絵のようにしか見えないのですが、数点だけ展示されていた油彩画はいいなと思いました。「マルグリット・マーグの肖像」の独特の色彩や筆致も好きだし、セザンヌ風の「林檎のある静物」も良かったです。

アルベルト・ジャコメッティ 「大きな女性立像Ⅱ」
1960年 マルグリット&エメ・マーグ財団美術館

アルベルト・ジャコメッティ 「歩く男Ⅰ」
1960年 マルグリット&エメ・マーグ財団美術館

ヴェネツィア・ビエンナーレのために制作された「ヴェネツィアの女」9点がボーリングのピンのように展示されていて、これがなかなか良かった。モデルは妻アネットで、9点それぞれに少しずつアレンジされてて、ほかのジャコメッティ作品に比べても、女性性が一番強いように感じました。

最後の広いスペースは<チェース・マンハッタン銀行のプロジェクト>の3体の彫刻が展示されています(ここだけ写真撮影可)。針金の骨組みに直に石膏をつけて削ぎ落とすという方法で制作されたものの、満足のいく作品ができず中断。結局このプロジェクトは実現せず、ジャコメッティの死後、石膏像をもとにブロンズで鋳造されたのだそうです。ジャコメッティというとイメージするのがこのコーナーの彫刻なのですが、みんなが写真を撮るので、静かにじっくり作品と対峙できるかというと、ちょっとそれができないのが残念(そんな自分も写真を撮ってたわけですが)。ただ、最後の最後まで人間の身体表現の追求に挑み続けたジャコメッティの強いこだわりは体感できます。

[写真右] アルベルト・ジャコメッティ 「大きな頭部」
1960年 マルグリット&エメ・マーグ財団美術館

今回、滅多に借りない音声ガイドを借りたんですが、速水もこみちのガイドがなかなか良かったと思います。最初、MOCO'Sキッチンみたいなノリだったらどうしようとちょっと心配だったんですが、落ち着いた声で聞きやすかったです。山田五郎のスペシャル解説もあって、テレビのあの感じでこちらも聴き物。ちょっと話が長いのが難ですが。会期末はまた混雑するでしょうから、ゆっくり観るなら、まだ人も少ない夏休み前がオススメです。


【国立新美術館開館10周年 ジャコメッティ展】
2017年9月4日(月)まで
国立新美術館にて


ジャコメッティジャコメッティ

2017/03/17

ミュシャ展

国立新美術館で開催中の『ミュシャ展』を観てまいりました。

ミュシャというとアールヌーヴォーを代表する画家ですし、これまでも時々展覧会はありましたが、今回はミュシャのもう一つの顔を象徴する「スラブ叙事詩」を中心とした展示になっています。

「スラブ叙事詩」はミュシャが故郷チェコ・スロヴァキア(現在のチェコ)のプラハに帰国してからの後半生で制作した大作の連作。それまでのフランス時代のアールヌーヴォー的な作品とは雰囲気がかなり異なります。

アールヌーヴォーが個人的にそんなに好みでないので、ミュシャは積極的に観てこなかったのですが、なるほどこういう一面もあったのかというのが個人的には新しい発見でした。

会場に入ると最初のコーナーがその 「スラヴ叙事詩」で、最初に「スラヴ叙事詩」をどーんと観せることで、そのあとに展示されている一連のポスターや装飾画が「スラヴ叙事詩」に連なる源泉として観ることもでき、なかなか興味深く感じました。

 (※このスペースのみ写真撮影可です)

 「スラヴ叙事詩」がチェコ国外で公開されるのは今回が初。全20点が並ぶ様は正に圧巻です。たぶんこれ、日本の展覧会史上「モナリザ」や「ツタンカーメン」クラスの事件ではないでしょうか、というぐらいに凄い。諸事情も含め、よくこんなデカい作品を持って来れたなと驚きますし、20点全てが展示できる広くて天井の高い空間があったことに感謝。


【ミュシャ展】
2017年6月5日(月)まで
国立新美術館にて


ミュシャ展ミュシャ展

2016/10/09

ダリ展

国立新美術館で開催中の『ダリ展』を観てまいりました。

国内では10年ぶり回顧展だそうで、もうそんななりますかという感じです。2006年の上野の森美術館の『ダリ回顧展』のときは狭いところで、混んでて…という印象しか残ってないのですが、前回が約100点に対し、今回は過去最大規模という約250点。初期から晩年まで満遍なく作品が揃い、ボリュームがあるので見応えがあります。やはり国立新美術館の天井の高い広い空間は観やすく、前回はなかった大画面の作品も多い。

前回の『ダリ回顧展』も休日は1時間待ちとかでしたし、今回も先に公開された京都市美術館では連日混雑していたようなので、早めに行った方が吉(なんでもそうですが)とばかりに開幕の週最初の夜間開館に伺ってきました。(ブログの記事アップがすっかり遅れてしまいましたが…)


会場の構成は以下のとおりです:
第1章 初期作品
第2章 モダニズムの探求
第3章 シュルレアリスム時代
第4章 ミューズとしてのガラ
第5章 アメリカへの亡命
第6章 ダリ的世界の拡張
第7章 原子力時代の芸術
第8章 ポルトリガトへの帰還-晩年の作品

初期作品はまだ10代の頃のものからあって、カタルーニャ地方の伝統的な舞踊を幻想的に描いた「魔女たちのサルダーナ」やラファエロの自画像にヒントを得た(らしい)「ラファエロ風の首をした自画像」が印象的でした。新印象派的な点描の作品やセザンヌ風の作品、フォーヴィスムに影響を受けた作品もあって、早熟で、10代にして前衛的傾向があったことも分かります。

サルバドール・ダリ 「ラファエロ風の首をした自画像」
1921年 ガラ=サルバドール・ダリ財団蔵

王立サン・フェルナンド美術学校では、後に映画監督として成功するルイス・ブニュエルやスペインを代表する詩人となるガルシア・ロルカと出会います。特にブニュエルとはシュルレアリスムの記念碑的映画『アンダルシアの犬』を共同制作。『アンダルシアの犬』と、同じくブニュエルと組んだ『黄金時代』は会場の一角でも上映されています。『黄金時代』は1時間ぐらいありますが、『アンダルシアの犬』は15分ぐらいの短編なので、時間に余裕があれば折角なのでご覧になるのがいいかと(ちょっと刺激的な場面がありますが)。

サルバドール・ダリ 「ルイス・ブニュエルの肖像」
1924年 国立ソフィア王妃芸術センター蔵

ブニュエルの肖像画もあって、一目見てブニュエルと分かるぐらい似ていて笑えます。特徴を捉えた写実的な風貌、キュビズムの影響を感じさせるボリューム感、デ・キリコを思わす形而上絵画的な背景。発展途上とはいえ、ダリの進む方向が見えるようです。

ピカソと出会ったり、シュルレアリストらとの交遊が生まれたりするのもこの時代。キュビズムやピュリスム、未来派といった芸術運動を貪欲に吸収し、それを作品化していってるのですが、どの作品もそれなりに完成度が高いのがスゴイ。

サルバドール・ダリ 「子ども、女への壮大な記念碑」
1929年 国立ソフィア王妃芸術センター蔵

ダリは「パラノイア的=批判的方法」という独自の哲学に基づきダブルイメージと呼ばれる表現手法を構築。シュルレアリスムの急先鋒として数々の作品を発表していきます。「謎めいた要素のある風景」でキャンバスに絵を描いている人物はフェルメールをイメージしてるとか。右奥のセーラー服の少年はダリの分身だといいます。

ダリの作品は複雑なイメージが重なっていて、まるで説明のつかない(しかしそれぞれに意味がある)夢のシーンのようです。同じシュルレアリスムでもマグリットがイメージを切り取ってフレームの中に“絵画”として見せるのに対し、ダリはどこか映像的で、イメージを重層的に表現し、フレームの枠を超えた広がりというか、映像のシークエンスから切り取られた一コマを見てるような気になります。

サルバドール・ダリ 「謎めいた要素のある風景」
1934年 ガラ=サルバドール・ダリ財団蔵

サルバドール・ダリ 「見えない人物たちのいるシュルレアリスム的構成」
1936年 ガラ=サルバドール・ダリ財団蔵

第二次世界大戦中はアメリカに亡命。アメリカでも人気のダリのもとにはさまざまな仕事が舞い込み、映画制作に参加したり、宝飾品のデザインを手がけたり、仕事の幅が広がっていきます。注文肖像画も多く受けていたようで、たぶんアメリカの新しいもの好きのセレブリティにはダリは人気だったんでしょうね。ダリ的風景を背景にした肖像画なんて、すごく面白し、羨ましすぎます。

サルバドール・ダリ 「アン・ウッドワード夫人の肖像」
1953年 公益財団法人諸橋近代美術館蔵

ここではディズニーと組んだ『デスティーノ』や、美術協力として参加したヒッチコックの『白い恐怖』の夢のシーンが上映されています。『デスティーノ』は結局未完に終わり、その後2003年に復元。『白い恐怖』の夢のシーンは、撮影したものの結局ヒッチコックが気に入らず大半がカットされてしまったといいます。ダリはどんな夢のシーンを用意していたのか、とても興味をそそられます。

サルバドール・ダリ 「不思議の国のアリス」
1969年 ガラ=サルバドール・ダリ財団蔵

ダリが手がけたバレエなどの舞台美術のデザイン画やその映像なども紹介されていましたが、一番面白かったのがダリが挿絵を手がけた『不思議の国のアリス』。カラフルな色彩と滲みを活かした水彩画のような独特なタッチ、そしてシュールな空想の世界に目が釘付けです。

サルバドール・ダリ 「ウラニウムと原子による憂鬱な牧歌」
1945年 国立ソフィア王妃芸術センター蔵

広島・長崎に落とされた原爆に衝撃を受けたダリは“原子力の絵画”なるものを数多く発表していて、ここでは1コーナーが設けられています。それこそ戦争や原爆をイメージさせるモチーフや分子構造みたいな作品もあって、原爆投下がダリの作品世界にどんな影響を与えたかが分かります。「ポルト・リガトの聖母」はキリスト教的主題を、この時代のダリの作品特有の原子核構造のような浮遊的構図で神秘的に描いた作品。愛妻ガラが聖母マリアに置き換えられています。

サルバドール・ダリ 「ポルト・リガトの聖母」
1950年 福岡市美術館蔵

晩年はルネサンスや古典絵画への回帰が強まり、大画面の作品も多く手掛けたといいます。会場でひと際大きかったのが「テトゥアンの大会戦」。カタロニアの画家フォルトゥニーの歴史画に着想を得た作品だそうですが、よく見ると、人の顔や盾の形などに数字がたくさん隠れているというユニークな作品。ダリの遊び心を感じます。個人的には「海の皮膚を引きあげるヘラクレスがクピドをめざめさせようとするヴィーナスにもう少し待って欲しいと頼む」(長いタイトル!)のシュールさが好きですね。

サルバドール・ダリ 「テトゥアンの大会戦」
1962年 公益財団法人諸橋近代美術館蔵

サルバドール・ダリ 「海の皮膚を引きあげるヘラクレスがクピドを
めざめさせようとするヴィーナスにもう少し待って欲しいと頼む」
1963年 長崎県美術館蔵

誰もが知ってるようなダリの代表作が来日しているわけではないのですが、これだけの作品が集まる展覧会もそうはありませんし、ダリの世界に触れられる良い機会ですし、何より観ていて楽しいというのが一番だと思います。会期後半はかなりの混雑が予想されるのでお早めに。


【ダリ展】
2016年12月12日(月)まで
国立新美術館にて


もっと知りたいサルバドール・ダリ (生涯と作品)もっと知りたいサルバドール・ダリ (生涯と作品)


ダリの塗り絵ダリの塗り絵

2016/08/27

ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち

国立新美術館で開催中の『ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち』を観てまいりました。

イタリア・ルネサンス期の中で、ローマ、フィレンツェとともに一時代を築いたヴェネツィアのルネサンス美術、いわゆるヴェネツィア派にスポットを当てた展覧会です。ヴェネツィア絵画を中心に約2000点の充実したコレクションを誇るヴェネツィアのアカデミア美術館から、ルネサンス期のヴェネツィア絵画ばかり57点が集められています。

ボッティチェリやダ・ヴィンチ、ミケランジェロといったルネサンスを代表する名だたる画家のいるフィレンツェばかりにスポットが当てられ、なかなかヴェネツィアまで目を向けられることが少なかったと思うので、その意味でも本展は好企画ですし、ヴェネツィア派の初期から終焉まで流れを追うことができるのが大変ありがたい。


第1章 ルネサンスの黎明-15世紀の画家たち

フィレンツェで開花したルネサンスはヴェネツィアにも伝播し、ベッリーニ一族とヴィヴァリーニ一族の二大流派が誕生します。ジョヴァンニ・ベッリーニはヴェネツィア派の始祖と呼ばれるヤコポ・ベッリーニの息子。父ヤコポのイコン画とは異なり、遠近法を用いた空間表現や写実性などフィレンツェのルネサンスからの影響や、自然の光の表現や質感など油絵具による革命的な変化を強く感じます。

ジョヴァンニ・ベッリーニ 「聖母子(赤い智天使の聖母)」
1485-90年 アカデミア美術館所蔵

カルパッチョの「聖母マリアのエリサベト訪問」やモローネの「聖母子」のようなルネサンス的な油彩画がある一方で、この時代はまだテンペラも混在しています。クリヴェッリの「聖セバスティアヌス」と「福者ヤコポ・デッラ・マルカ」はいくらか写実化されてますが、まだどこか中世の祭壇画の雰囲気を残します。アントニオ・デ・サリバの「受胎告知の聖母」はアントネッロ・ダ・メッシーナの同題の傑作の模写。本当はオリジナルが観たかった。

カルロ・クリヴェッリ 「聖セバスティアヌス」
1480-90年 アカデミア美術館蔵

アントニオ・デ・サリバ 「受胎告知の聖母」
1480-90年頃  アカデミア美術館蔵


第2章 黄金時代の幕開け-ティツィアーノとその周辺

ここではヴェネツィア派の第二世代ティツィアーノにスポットがあてられています。ティツィアーノは3点。「ヴィーナス」は工房作なのか、身体に比べて顔が小さすぎたり、右腕と左腕のバランスが悪かったり、あまり感心しなかったのですが、「聖母子(アルベルティーニの聖母)」は我が子にやがて訪れる過酷な運命を受け止めているかのような聖母マリアの表情が秀逸です。

ティツィアーノ・ヴェチェッリオ 「聖母子(アルベルティーニの聖母)」
1560年頃 アカデミア美術館所蔵

晩年の傑作「受胎告知」はサン・サルヴァトール聖堂の祭壇画の一つで4mを超える大作。神秘的ですらあるドラマティックな構図と創造性溢れる自由な表現、そして“色彩の錬金術”と評されたティツィアーノならではの眩惑的な色彩に圧倒されます。ティツィアーノに学んだともいわれるエル・グレコへの影響も感じます。ティツィアーノは来年東京都美術館でも展覧会があるのでそちらも期待大。

ティツィアーノ・ヴェチェッリオ 「受胎告知」
1563-65年頃 アカデミア美術館所蔵

周辺の画家では、ボルドーネの「眠るヴィーナスとキューピッド」が白眉。ティツィアーノに学ぶもその才能の高さは師ティツィアーノさえ羨んだといわれます。自然風景を大きく取り入れ、横たわるヴィーナスの詩情性と写実的表現もさることながら、いたずらっ子のようなキューピッドの描写がとにかく良い。

ボニファーチョ・ヴェロネーゼの「嬰児虐殺」も目を引きます。イエスの誕生を知ったユダヤ王ヘデロの命令でベツレヘムに生まれた2歳以下の幼児を虐殺するという新約聖書のエピソードを描いたもので、残酷な兵士たちと子どもを必死に守ろうとする母親の形相、その対比、構図が劇的で素晴らしい。

パリス・ボルドーネ 「眠るヴィーナスとキューピッド」
1540-50年頃 アカデミア美術館所蔵

この時代を語る上ではジョルジョーネが外せませんし、解説でもティツィアーノと並べて紹介されているのですが、ジョルジョーネが一つも来てないのはとても残念でした(アカデミア美術館も所蔵してるのに…)。


第3章 三人の巨匠たち-ティントレット、ヴェロネーゼ、バッサーノ

ティントレットの時代になると、色彩はより艶やかになり、明暗表現は強調され、大胆かつドラマティックな構図が多く目につきます。油彩の技法が確立されたことも大きく、下塗りされたキャンバスを使うようになったのもヴェネツィア派が最初だといいます。その中でもやはりティントレットのダイナミックな構図と表現力はズバ抜けてます。その最たるものが「聖母被昇天」で、ちょっと派手なぐらいの色遣いと情熱的ともいわれる劇的空間、マニエリスム的で独創的な表現は強烈なインパクトがあります。

ヤコボ・ティントレット 「聖母被昇天」
1550年頃 アカデミア美術館所蔵

ヴェロネーゼは、上部に勝利を祈る聖母とローマの守護聖人を描き、下部に激しい海戦の様子を描いた「レバントの海戦の寓意」がユニーク。絵画といえばイコール宗教画という時代に、こういう同時代の戦闘を描いた画があったのを初めて知りました。ヴェロネーゼの工房作の「羊飼いの礼拝」はドラマ性の高い構図の中にも神聖な空気と静かな安らぎを感じる作品。ヤコポ・バッサーノは自然風景を大きく取り入れた「悔悛する聖ヒエロニムスと天上に顕れる聖母子」とちょっとフランドルのブリューゲルを思わす「ノアの方舟への乗船」も印象的でした。

パオロ・ヴェロネーゼ 「レバントの海戦の寓意」
1572-73年頃 アカデミア美術館所蔵

パオロ・ヴェロネーゼの工房 「羊飼いの礼拝」
1592-94年 アカデミア美術館蔵


第4章 ヴェネツィアの肖像画

ヴェネツィア派の肖像画はそれまでの儀式的で型苦しいポーズではなく動きのあるカジュアルな姿勢や情感を特徴としたと解説に書かれていましたが、そこまでカジュアルな感じはしませんでしたが、確かにボッティチェリやダ・ヴィンチ、ラファエロらが描いた肖像画に比べると人間らしさを感じる気もします。ちょっと首を傾げて前を向くリチーニオの「バルツォをかぶった女性の肖像」はその表情と美しい肌が秀逸。服や帽子の黒さと明るい肌のコントラストもいい。

ベルナルディーノ・リチーニオ 「バルツォをかぶった女性の肖像」
1530-40年頃 アカデミア美術館所蔵

ティントレットは肖像画も得意だったそうで、ここでも複数の作品が展示されています。いずれも高級官僚を描いたもので、肖像画の注文も絶えなかったんでしょうね。人物が少しタテに長く、マニエリスム的なのも面白い。ティントレットの肖像画と並んで息子ドメニコの肖像画も展示されています。ドメニコといえば、つい先日トーハクで「伊東マンショの肖像」を観たばかりですが、こうして観ると、父譲りの確かな腕を持っていたことが窺われます。


第5章 ルネサンスの終焉-巨匠たちの後継者

1580年代の終わりから90年代前半にかけて、ティントレット、ヴェロネーゼ、バッサーノというヴェネツィア派を牽引した3人の巨匠が相次いで他界。ここではドメニコ・ティントレットや、ティツィアーノやティントレットの伝統を継承したパルマ・イル・ジョーヴァネ、ティツィアーノ風の官能的な神話画を描いたパドヴァーニなど、ヴェネツィア派の最後を飾る画家たちを紹介しています。

パルマ・イル・ジョーヴァネ 「聖母子と聖ドミニクス、聖ヒュアキントゥス、聖フランチェスコ」
1595年頃 アカデミア美術館所蔵

ここで一際目を引くのが3mを超す大作、パルマ・イル・ジョーヴァネの「聖母子と聖ドミニクス、聖ヒュアキントゥス、聖フランチェスコ」。非常にまとまった構図で、色味のバランス、筆致の確かさ、表現の豊かさ、どれをとっても非の打ち所がありません。

16世紀も末になるとバロックがヴェネツィアにも影響を与えているのが分かります。暗い背景、強い明暗、より動きのある劇的な描写。パドヴァニーノの「オルフェウスとエウリュディケ」はヴェネツィア絵画とバロック絵画の融合と紹介されていましたが、そこには最早ティツィアーノやティントレットらの面影はなく、新しい時代の絵画の萌芽とヴェネツィア絵画の終焉を感じさせます。

パドヴァニーノ 「オルフェウスとエウリュディケ」
1620年頃 アカデミア美術館所蔵

誰もが知っている、というような画家がいるわけではないので、ある程度ルネサンス美術に傾倒した美術ファン向けになるかもしれませんが、これまでヴァネツィア派だけでここまで作品が集まった展覧会はあまりなかったと思うので、その意味でも貴重な機会です。来年はティツィアーノ展もあるので、その予習にもいいかもしれませんね。


【日伊国交樹立150周年特別展 アカデミア美術館所蔵 ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち】
2016年10月10日(月・祝)まで
国立新美術館にて


ヴェネツィア――美の都の一千年 (岩波新書)ヴェネツィア――美の都の一千年 (岩波新書)

2016/06/18

ルノワール展

国立新美術館で開催中の『ルノワール展』を観てまいりました。

ルノワールの展覧会は毎年どこかでやっていて、またルノワールか…と思ってしまうのですが、いやぁ~これはスゴい!

今年は京都や名古屋でも別のルノワールの展覧会があるのでちょっと混乱しますが、本展は世界有数の印象派コレクションで知られるオルセー美術館とオランジュリー美術館からルノワール作品を中心に100点を超える絵画やデッサンなどを集めた展覧会。その8割がルノワール。

ルノワール・ファンなら誰でも知っている傑作がいくつも来てるし、ここ何年かで観たルノワールの展覧会ではダントツの充実度じゃないでしょうか。初期から最晩年までルノワールの全貌に触れられます。


会場は10の章で構成されています:
Ⅰ章 印象派へ向かって
Ⅱ章 「私は人物画家だ」:肖像画の制作
Ⅲ章 「風景画家の手技(メチエ)」
Ⅳ章 “現代生活”を描く
Ⅴ章 「絵の労働者」:ルノワールのデッサン
Ⅵ章 子どもたち
Ⅶ章 「花の絵のように美しい」 
Ⅷ章 《ピアノを弾く少女たち》の周辺
Ⅸ章 身近な人たちの絵と肖像画
X章 「芸術に不可欠な形式のひとつ」

ピエール=オーギュスト・ルノワール 「陽光のなかの裸婦(エチュード、トルソ、光の効果)」
1876年頃 オルセー美術館蔵

まずはイントロダクションとしてルノワール初期の作品が2点。
「猫と少年」はルノワールには珍しい少年の裸体画。写実的な筆致や青みがかった肌はマネの影響を感じさせます。小さなお尻をこちらに向けた少年の猫に寄り添う姿が愛らしい。もうひとつはその8年後の作品で、第2回印象派展に出品されたルノワールの代表作「陽光のなかの裸婦」。さまざまな色の絵具を塗り重ねることで色彩は調和し、木漏れ日のような繊細な光が見事に表現されています。柔らかで筆触と明るく豊かな色彩からは自然の中をそよぐ風までも伝わってくるようです。

ピエール=オーギュスト・ルノワール 「ジョルジュ・アルトマン夫人」
1874年 オルセー美術館蔵

会場はおおよそジャンルごとに分けられていて、最初は肖像画(人物画)。 ルノワールは生涯に4000点以上の作品を残していますが、その多くが人物画で、ルノワール本人も人物画家と自負していたといいます。

まだ“光”を発見してない頃の作品がいくつかあって、たとえばアルフレッド・シスレーの父親を描いた「ウィリアム・シスレー」なんてかなり写実的。まだ際立った特徴もなく、ルノワールだと言われないと分からないでしょう。

やはり筆触や色彩が大きく変わってくるのは70年代中頃からで、「ジョルジュ・アルトマン夫人」は変化に富んだ黒の色彩感が見事。シックな黒いドレスに身を包んだブルジョア的雰囲気も印象的です。この絵は何年か前の『オルセー美術館展』にも来てましたね。初期印象派時代のルノワールらしい作品といえば、「読書する少女」や「ポール・ベラール夫人の肖像」もいい。

ピエール=オーギュスト・ルノワール 「クロード・モネ」
1875年 オルセー美術館蔵

昨年の『モネ展』ではルノワールが描いた新聞を読むモネの肖像画が展示されていましたが、本展に出品されているモネは絵筆とパレットを持ち、より画家らしい雰囲気が漂っています。モネとルノワールの近しさも伝わってきます。

ピエール=オーギュスト・ルノワール 「草原の坂道」
1875年頃 オルセー美術館蔵

ルノワールは風景画も多い印象があるのですが、1870年代の油彩画に限れば風景画は1/4ぐらいなのだそうです。パリ郊外の自然やセーヌ川の風景を描いた作品がいくつかある中で、個人的なお気に入りは「草原の坂道」。暖色系の色彩が溢れる緑豊かな草原を楽しそうに進む子どもたちとその後ろをパラソルをかざして優雅に歩いてくる母親。草原の爽やかな空気と家族の幸せそうな雰囲気が伝わってきます。ルノワールは「その中を散歩したくなるような絵画が好きだ」という言葉を残しているそうですが、正に散歩したくなうような風景。

ピエール=オーギュスト・ルノワール 「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」
1876年 オルセー美術館蔵

Ⅳ章の<“現代生活”を描く>は本展のメインのコーナー。もうルノワールの傑作のオンパレードという感じで、すごーく贅沢な空間になっています。

目玉はルノワールの最高傑作「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」。ルノワールの中でも恐らく1番有名な作品でしょうし、まさかこれが日本に来るとは思いませんでしたよ。“ムーラン・ド・ラ・ギャレット”は屋外のダンスホールで、庶民の遊び場として人気だった場所。割と大きな作品で、構図、人の配置、色彩が綿密に計算されているんだろうなと感じます。画面手前で談笑する若い男女はルノワール作品でお馴染みのモデルたちや画家仲間なのだとか。群像を描いたこの時代のルノワール作品はどれも開放的で、観ているだけで気分が昂揚してきます。会場には楽しげなミュゼットも流れていて雰囲気満点。

そばにはルノワールの息子ジャン・ルノワール監督の映画の中から父ルノワールの絵画のベル・エポックの世界を描いたようなシーンがダイジェストで流されています。

ピエール=オーギュスト・ルノワール 「ぶらんこ」
1876年 オルセー美術館蔵

「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」と一緒に第3回印象派展に出品された「ぶらんこ」もルノワールの傑作の一つ。たぶん「ぶらんこ」が来日しただけでも目玉になるぐらいでしょ。ルノワールのアトリエの裏庭で描いたそうで、木立の中を降り注ぐ光とくつろいだ雰囲気が平和でいいですね。みんな木漏れ日の中に溶け込んでいるかのようです。

ピエール=オーギュスト・ルノワール 「都会のダンス」「田舎のダンス」
1883年 オルセー美術館蔵

「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」の反対側にはこれもルノワールを代表する作品「都会のダンス」と「田舎のダンス」が並んで展示されています。こちらは45年ぶりの来日。シルクのロングドレスで上品に踊るシュザンヌ・ヴァラドンと木綿のオシャレ着で楽しそうに踊るルノワールの妻アリーヌ。寒色系でシックな前者と暖色系でアットホームな後者。どちらもちょっと紗がかかったような、ふわーっとしたところがあります。シュザンヌは絵画モデルとして人気で、ルノワールとも“関係”があったといわれています。ちなみにシュザンヌは後にロートレックやサティとも浮き名を流しています。

ジャン・ベロー 「夜会」
1878年 オルセー美術館蔵

ルノワールの作品を囲むように、ルノワール以外の画家による同時代のイメージを伝える作品が並んでいるのが良いですね。なかなか良い作品が揃ってます。みなさん立ち止まって凝視しているのがベローの「夜会」。とても写実的で、まるで写真のよう。

フィンセント・ヴァン・ゴッホ 「アルルのダンスホール」
1888年 オルセー美術館蔵

ゴッホが3点並べて展示されていて、ほぼ同時期に描かれた作品なんだけれど、それぞれに雰囲気が違っていてとても面白い。名前のとおりアルル滞在中に描かれた作品「アルルのダンスホール」なんて、いかにもポン=タヴェン派の影響が色濃いというか、輪郭線が強調されていて、エミール・ ベルナールの絵を彷彿とさせます。

ピエール=オーギュスト・ルノワール 「ジュリー・マネ(猫を抱く子ども)」
1887年 オルセー美術館蔵

子どもを描いた絵では有名な「ジュリー・マネ」があって感動。ジュリー・マネはマネの弟ウジェーヌと画家のベルト・モリゾの子ども。柔らかで淡い色彩と少女の穏やかな表情がとてもマッチしています。笑ったような顔でくつろいでる猫もかわいい。ちなみにこの猫のぬいぐるみが会場のグッズ売り場で販売されてます。

ピエール=オーギュスト・ルノワール 「バラを持つガブリエル」
1911年 オルセー美術館蔵

ルノワールの作品によく登場する女性といえば、ルノワールの妻の従姉妹で、子どもたちの乳母として生活も共にしていたガブリエル。ガブリエルを描いた作品も複数展示されていて、有名な「バラを持つガブリエル」や「ガブリエルとジャン」などいい作品が来ています。印象に強く残ったのがガブリエルをモデルにした「横たわる裸婦」で、となりにはほぼ同じ構図、同じサイズの、若くてきれいな女性のヌードを描いた「大きな裸婦」が並べてあります。見た目の美しさでは後者なんでしょうが、ルノワールらしさでいえば、断然前者。

ピエール=オーギュスト・ルノワール 「横たわる裸婦(ガブリエル)」
1906年 オランジュリー美術館蔵

ピエール=オーギュスト・ルノワール 「大きな裸婦(クッションにもたれる裸婦)」
1907年 オルセー美術館蔵

最後は最晩年の裸婦画を中心に紹介しています。晩年はひどいリューマチで、絵筆を握ることもままならなくなったため、手に絵筆を縛り付けて絵を描きつづけたといいます。「浴女たち」はルノワールの最後の数カ月を費やしたという大作。数年前にこの作品を題材にした映画が公開されたのも記憶に新しいところです。晩年のルノワールを特徴づけるボリューミーな造形。それでいてふわっとしている。不自由な手で描いたとは思えないルノワール的な幸福感に満ち溢れています。ルノワールは「ルーベンスだって、これには満足しただろう」と語ったそうです。

ピエール=オーギュスト・ルノワール 「浴女たち」
1918-19年 オルセー美術館蔵

金曜日の夜間開館に伺ったのですが、意外と空いてて、ゆっくりゆったりと思う存分ルノワールの世界に浸れて最高でした。ものすごーく幸せな気分になります。夏休みに入ると相当混雑すると思うので、早いうちに行った方がいいですよ。


【オルセー美術館・オランジュリー美術館所蔵 ルノワール展】
2016年8月22日(月)まで
国立新美術館にて


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