2020/12/31

2020年 展覧会ベスト10

早いもので今年も最後の1日となりました。

年々仕事も忙しくなり、ブログを書くだけの時間的余裕がなくなったこともあり、今年はブログをお休みさせていただいてましたが、まあ記録のためにも展覧会ベスト10だけは残しておいた方がいいかなと思い、1年ぶりにブログを更新することにしました。

今年は新型コロナウイルスの影響で展覧会の延期や中止も相次ぎ、なんとか開催されても多くの展覧会が企画や展示作品の変更を余儀なくされました。さまざまな予定が狂い、いくつもの楽しみが台無しにされ、ほんと悲しい一年でした。

コロナ禍で大変な中、企画を練り直し、展示作品をかき集め、感染防止対策を講じ、展覧会を開催してくれた美術館・博物館にはほんと頭が下がります。本来、展覧会の企画は数年の時間を要しますが、今できうることを考えてくれて、特に秋以降の展覧会にはそうした努力や苦労が伝わってくる素晴らしい展覧会が多かったように思います。海外から作品を借りられない分、国内の所蔵作品で構成された展覧会も多く、あらためて日本には素晴らしい作品が多くあるということも知りました。

個人的には、身近に基礎疾患を持つ人や高齢の人がいることもあり、おいそれと混雑する場所や地方に行くことができず観逃した展覧会が多くありました。また、夏に突発性難聴になり、耳鳴りに悩まされて美術館のような静かな空間が苦痛になり、しばらく展覧会に行く気になれない時期もありました(後遺症は今も残ってますが、慣れました笑)

そんなこんなで今年は例年以上に観た展覧会の数は減ってしまいましたが、その分、記憶に残る展覧会が多くありました。

いろいろ悩んだ末、2020年のベスト10はこんな感じになりました。
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1位 『桃山 天下人の100年』(東京国立博物館)


今年は大きな展覧会がかなり中止になりましたが、このコロナ禍の中、ここまでの規模の展覧会が開催されたことには感謝しかありません。90分の鑑賞推奨でしたが、2時間あっても観終わらないぐらいの物量に圧倒されました。元信に永徳、山楽、山雪、探幽といった狩野派黄金期の傑作に加え、土佐派もあれば等伯もあるし又兵衛もある。利休も長次郎も織部も光悦もある。これ以上望むものはないのではないかというぐらい、桃山文化の満漢全席、正に空前絶後、贅沢の極みでした。本来であれば長蛇の列必至だったのでしょうが、事前予約制になったことやコロナの影響もあって、来場者も少なく(企画側は残念な結果だったのでしょうが)、混雑を気にすることなくじっくり堪能できたのも良かったです。


2位 『性差の日本史』(国立歴史民族博物館)


古代にはなかった男女の性差がいかに変容してきたか、その歴史を多くの史料から紐解く非常に意義深い展覧会でした。律令制、幕藩体制、明治国家と政治制度が大きく変わるたびに女性が政治や社会から排除され、職業さえ女性を分離していく。資料中心の展示でしたが、全体の流れにストーリーがあり、徹底した調査と検証により説得力のある展示になっていました。背景として知っている事柄でも視点を変えるだけで別の側面が見え、これまで光の当たらなかった事実も浮き彫りにされ、とても興味深かったです。ここ数年、ジェンダーの問題は関心も高く、タイミング的にも良かったと思います。


3位 『もうひとつの江戸絵画 大津絵』(東京ステーションギャラリー)


コレクターの視点に注目して大津絵を観るというユニークな企画で、しかもこれだけの規模の大津絵の展覧会というのは東京では珍しく、さまざまな画題やいくつものバリエーションが集まり、とても楽しい展覧会でした。個人的にも大津絵が大好きで、これまでも割と大津絵は観てるのですが、今回はコレクター垂涎の品などもあって、あまり見ない画題や、初期の貴重な作品も多く、興味深いものがありました。いずれもコレクター所有だったというだけあり、表装もコレクターのセンスを感じられて良かったです。


4位 『舞妓モダン』(京都文化博物館)


コロナが蔓延しだしてから地方はおろか、東京からほとんど外に出てないのですが、たまたま関西に仕事が入り、時間を調整して何とか観ることができました。京の舞妓が近代から現代にかけてどう描かれてきたかを紐解く意欲的な展覧会だったと思います。日本画、洋画を分けることなく一つの流れで見せていくのも良かったし、さまざまな画家が舞妓というモチーフに創作意欲を刺激され、いかに取り組んで来たかがよく伝わってきました。舞妓が京都や美人のメタファーとして描かれていったことも個人的には新たな気づきでした。明治から戦前にかけては京都画壇による作品が中心で、近代京都画壇ファンとしては魅力的な展示でもありました。


5位 『生誕120年・没後100年 関根正二展』(神奈川県立近代美術館鎌倉別館)


コロナの影響で期間短縮となり、観ることのできなかった人も多いのでは。画業僅か5年、二十歳で夭折しただけに作品数は多くありませんが、それでもその短い生涯でとても濃密な創作活動を送っていたことがよく分かりました。代表作を観るだけでも大変ありがたかったのですが、デューラーを思わせる筆致やセザンヌの影響を感じる油彩、デッサン力を感じさせるスケッチ、珍しい日本画などあって、とても興味深い展覧会でした。


6位 『きもの KIMONO』(東京国立博物館)


小袖などは東博の常設でも展示されていますが、そこは特別展なので鎌倉や室町時代の貴重な着物もあり、日本のファッション史や風俗史を知る上でもとても勉強になりました。展示品自体がどれもファッショナブルで、着物を着て観にくる来場者も多く、会場の雰囲気がとても華やかだったのも印象的でした。初期風俗画の展示もことのほか充実していて、江戸初期のファッションという視点からあらためて観られたのも良かったです。


7位 『河鍋暁斎の底力』(東京ステーションギャラリー)


暁斎の展覧会は毎年のように開催されていますが、本展は下絵や画稿、席画だけで、完成された本画の展示は一切なしという潔さ。だからこそ純粋に暁斎の筆技が堪能できるし、あらためて暁斎の才能を思い知りました。北斎、応挙、西洋美術からの影響がよく分かったのも収穫でした。本画が一切出てないのに全く退屈しない展覧会というのはなかなかないと思います。いくつもの展覧会を観て廻るアートクラスタがどよめくのも納得の面白さでした。


8位 『京都の美術 250年の夢』(京都市京セラ美術館)


元々は約8ヶ月という長期間で、三部に分けて開催される予定だった展覧会ですが、コロナの影響で総集編としてまとめられ、出品数も減らされたのはつくづく残念でした。展示替えも多く、特に楽しみにしていた江戸から明治にかけての縮小は痛かったです。それでも会場が広かったこともあって展示作品数はそれなりにあり、江戸時代から現代まで京都の美術の250年の流れを一気に観られたという面白さと、京都の美術ここにありという気概が感じられ、観たあとの充実感は最高でした。


9位 『石元泰博写真展 伝統と近代』(東京オペラシティアートギャラリー)/『石元泰博写真展 生命体としての都市』(東京都写真美術館)


生誕100年ということで東京オペラシティアートギャラリーと東京都写真美術館でそれぞれ開催されましたが、ここまで真剣に、しかもまとめて石元泰博の写真を観たことが初めてだったこともあり、非常に刺激のある展覧会でした。オペラシティアートギャラリーは写美より回顧展色が強く、さまざまな側面から石元の作品が観られたのに対し、写美はいくつかのテーマに絞り、じっくりと作品と対峙できたのも良かったです。どの作品からも緊張感が伝わってくるというか観ていて背筋が伸びる感じがしました。


10位 『石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか』(東京都現代美術館)


今年一番観てて疲れた(いい意味で)展覧会といえば、石岡瑛子展は頭一つ二つ抜きん出てるかもしれません。資生堂時代に手がけたポスターからパルコや角川書店などアートディレクターとしての仕事、映画やオペラの衣装デザインなどなど、映像や衣装など資料の物量と情報量が物凄いし、彼女の仕事に対する姿勢とパワーに圧倒されっぱなしでした。びっしり指示が書かれた校正紙からは細かさと的確さと妥協のなさにビビると同時に感動すら覚えました。





惜しくも選外となりましたが、最後まで迷った展覧会としては、アイヌの手仕事の数々からアイヌ民族の精神性まで伝わってきた『アイヌの美しき手仕事』(日本民藝館)、取り合わせの妙が新鮮で面白かった『琳派と印象派』(アーティゾン美術館)、東京では滅多にお目にかかれない地方絵師の作品が充実ていていた『奇才 江戸絵画の冒険者たち』(江戸東京博物館)、館蔵品と見せ方で存分に楽しませてくれた『日本美術の裏の裏』(サントリー美術館)、また現代アートでは、どこか不穏で幻想的な世界観にハマってしまった『ピーター・ドイグ展』(東京国立近代美術館)があります。

『桃山 天下人の100年』では狩野派黄金期の傑作の数々を観ることができましたが、今年は『狩野派 画壇を制した眼と手』(出光美術館)、『狩野派学習帳』(板橋区立美術館)、『本門寺狩野派展』(池上本門寺霊宝殿)などでも狩野派の作品を観る機会に恵まれたことも個人的には今年特筆したい点です。

そのほかの展覧会では、『坂田一男 捲土重来』(東京ステーションギャラリー)、『利休のかたち』(松屋銀座)、『肉筆浮世絵名品展』(太田記念美術館)、『見えてくる光景 コレクションの現在地』(アーティゾン美術館)、『津田青楓とあゆむ明治・大正・昭和』(練馬区立美術館)、『和巧絶佳展』(パナソニック汐留美術館)、『ベルナール・ビュフェ回顧展』(Bunkamura ザ・ミュージアム)あたりが特に印象に残っています。

来年もまだまだ新型コロナウイルスの影響は続くでしょうし、年明けて感染者がさらに増えるようであれば、折角開催された展覧会も中止を余儀なくされるといったことがあるかもしれません。しばらく地方遠征もしづらく(反対に地方から東京にも来づらいでしょうし)、観に行きたくても行けず涙を飲むこともあるでしょう。それでも今から楽しみな展覧会が来年はいくつも予定されていて、新型コロナウイルスが一日も早く収束し、安心して美術館・博物館に行ける日が来ることを願うばかりです。

今年も一年ありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願いいたします。

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