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2019/10/20

名勝八景 憧れの山水

出光美術館で開催中の『名勝八景 憧れの山水』を観てきました。

使ってる人は多いと思うのですが、『東京駅周辺美術館共通券』という東京駅近辺の出光美術館、東京ステーションギャラリー、三井記念美術館、三菱一号館美術館の4つの美術館(以前は現在休館中のブリヂストン美術館も入ってた)で利用できるお得なチケットがありまして、毎年2~3冊買ってるのですが、今年はまだ出光美術館のチケットだけ使えてなくて、ようやく行くことができました(まだ1枚残ってる)。

本展は名勝を描いた水墨画、特に瀟湘八景図と西湖図を中心に、古の人々が憧れを抱いた山水の世界を紹介しています。瀟湘八景や西湖の水墨を集めた展覧会は珍しくありませんが、そこはやはり出光美術館なので所蔵品を中心に集められただけあり優品揃いで、個人的にも元信や山楽、又兵衛など、好きな絵師の作品が多く、大満足の展覧会でした。


会場の構成は以下のとおりです:
第1章 瀟湘八景-「臥遊」の発展と継承
第2章 西湖-描かれた「地上の楽園」
第3章 閑雅なる名勝ー文人たちのいるところ
第4章 名所八景-日本の名所

自ら遊ぶ様子を妄想する鑑賞の仕方を‟臥遊”と言うのだそうです。瀟湘八景図や西湖図、また多くの文人画はそうした理想郷の中に描かれた風景や人物を自分に置き換えることで、ある種の描く喜びや観る喜びがあったのかもしれません。

瀟湘八景図は中国の名勝・瀟湘地方の情趣豊かな情景を八景に分けて描いたもので、鎌倉時代には既に日本にもたらされていたといいます。最初に雪村の「瀟湘八景図屏風」が2点、六曲一隻の屏風と六曲一双の屏風がありました。一隻のみの屏風には瀟湘夜雨や平沙落雁、煙寺晩鐘、洞庭秋月などが描かれ、コンパクトにまとめられた分、凝縮された味わいがありますが、一方の一双の屏風には八景が両隻にわたり描かれ、牧谿様の表現もあれば、米法山水を思わせる筆遣いも見せ、雪村らしい奇態な山も。雪村が中国絵画を高いレベルで身に付けていたことが窺い知れます。

伝 周文 「瀟湘八景図屏風」(重要文化財)
室町時代 香雪美術館蔵

瀟湘八景図では初公開という狩野探幽と安信の合作の画帖と小型の掛軸が素晴らしい。墨の滲みやぼかしを活かした草体の優品。探幽の弟子・久隅守景の「瀟湘八景図屏風」は探幽というより室町水墨画を思わせるところが面白い。

その中でとても興味深かったのが伝・周文の「瀟湘八景図屏風」。周文を思わせるオーバーハング(と解説に書かれていた)な峻峰が特徴的ですが、前景の山や家屋が迫って見えるぐらい細密で強調されていて、金泥の雲がたなびいてたり、一部に彩色があったり、時代的にも周文より後のものだろうなという印象を受けました。解説では周文の弟子・岳翁蔵丘説が濃厚とのことでした。

瀟湘八景図のコーナーとは別のところに展示されていましたが、岩佐又兵衛の筆とされる「瀟湘八景図巻」も。落款や印章はないのですが、精緻極まる筆致や単眼鏡でやっと分かるぐらいの人物の微細な面貌、そして奇怪な木の表現はやはり又兵衛という感じがします。

鴎斎 「西湖図屏風」(重要文化財)
室町時代 京都国立博物館蔵

狩野山楽 「西湖図屛風」
江戸時代 サントリー美術館蔵

西湖図では狩野元信の謹直な線と横に長い構図がユニークな「西湖図屏風」や、金地に黒と白のバランス、墨の濃淡、細密な描写、どれをとっても素晴らしい山楽の「西湖図屏風」など、もうたまりません。山楽の「西湖図屛風」には16世紀半ばに倭寇に襲来を受けるも焼け残った雷峰塔の姿が描かれていることから、山楽が最新の情報を得ていたのだろうと解説されていました。この屏風は京博の『狩野山楽・山雪展』にも出てないし、サントリー美術館でも観た覚えがないので私は初見かもしれません。

ここで印象的だったのが鴎斎の「西湖図屏風」。鴎斎は能阿弥が用いた号ですが、能阿弥と別人とされ、ただし室町時代後期の同時代の絵師と考えられているそうです。淡彩の柔らかな筆墨と湿潤な空気感が実にいい。

長沢芦雪 「赤壁図屏風」
江戸時代 根津美術館蔵

根津美術館の芦雪の「赤壁図屏風」も来てました。薄墨の山々にぬめり感のある濃墨の木々。一見粗放に見えて崖の上の枝は強風に曲がり、波や人物は丁寧に描いていて、ぶっ飛んでるのに実は計算されているところが芦雪の凄いところだなと思います。

他にも、右隻に吉野の桜、左隻に龍田の楓で一面を埋め尽くした見事な「吉野龍田図屏風」や、『源氏物語』の「総角(あげまき)」に取材したとされる、いわゆる留守模様の「宇治橋柴舟図屏風」、同じく『源氏物語』に基づく土佐光起の「須磨・明石図屏風」、中国の瀟湘八景になぞらえた「近江名所図屏風」など見応えのある作品が並びます。


【名勝八景 憧れの山水】
2019年11月10日(日)まで
出光美術館にて



日本水墨画全史 (講談社学術文庫)

2018/11/18

江戸絵画の文雅

出光美術館で開催中の『江戸絵画の文雅』を観てきました。

‟文雅”とはあまり聞き慣れない言葉ですが、『日本国語大辞典』には「詩文を作り歌を詠むなどの、文学上の風流な道。また、文学に巧みで風流なこと」と書かれています。漢文学や和歌といった古来の伝統の‟雅”と、俳諧や戯作といった新興の‟俗”。本展は、その江戸の‟雅俗”の文学を絵画に置き換え、‟文雅”というキーワードで江戸絵画を観ていこうという試みです。

会場の解説では、‟文雅”つまり‟文芸”とありましたが、あまり小難しいことは考えずに、文学的で風流な江戸絵画を集めた展覧会ぐらいに思えば、いいのではないでしょうか。


会場の構成は以下の通りです:
第1章 孤高の美学-大雅・蕪村の競演
第2章 文雅の意匠-琳派のみやび
第3章 禅味逍遥
第4章 王朝文化への憧れ-「見立て」の機知
第5章 幻想の空間へ-「文雅の時代」を継承するもの

大雅と蕪村は出光美術館で割と観る機会がありますが、今回は蕪村の国宝「夜色楼台図」が期間限定で公開されているというので慌てて訪問しました。2008年の東博の『対決展』で観て深い感銘を受けて以来、「夜色楼台図」は何度か拝見していますが、個人的に蕪村で一番好きな作品。胡粉を下塗りした上に濃淡の墨を施し厚い雪雲を表現した墨の階調。ところどころ胡粉を重ねて雪の重みを表した屋根や人の営みを感じる淡彩の家々。夜空の重厚さと生活の温かみが感じられ、実に素晴らしいと思います。

与謝蕪村 「夜色楼台図」(国宝)
江戸時代 個人蔵 (展示は11/18まで)

蕪村では晩秋の山合を鹿が駆ける「寒林孤鹿図」も印象的。細密な筆致で表現された背景の山肌や樹木も見どころです。六曲一双の「山水図屏風」は左右に屹立した山々を、中央に広い湖と湖畔右手に東屋を配した元信様式の山水図。中国趣味の屏風なのですが、左隻に伸びる細長い砂州が天橋立に見えなくもありません。絖(ぬめ)と呼ばれる高価な絹本に描かれていて、光沢のある素地の上を走る墨の滲みや擦れが独特の風合いを醸し出しています。

与謝蕪村 「山水図屏風」(重要文化財)
宝暦13年(1763) 出光美術館蔵

大雅の「十二ヶ月離合山水図屏風」は一見すると1月から12月までの季節の移ろいを描いた山水図屏風ですが、各扇に満開の花を愛でる隠士や酒盛りをする人、家鴨と遊ぶ子供、木陰で語らう人々など風俗が描かれていて、月次絵といった趣になっています。不思議な枝ぶりの木や印象派ばりの点描の柳、中国・明末期の奇想派のようなデフォルメされた山容などユニークさも目を引きます。

四幅対の小さな軸物「四季山水図」は「十便十宜図」を思わせる大雅らしいタッチと水彩画のような豊かな色調が魅力的。30代の頃の作品という「竹裏館図」、「洞庭秋月」「江天暮雪」と揮毫が朴訥として味わいのある「瀟湘八景図」、急峻な山の谷間を馬を乗り上がっていく人々の姿が印象的な「蜀桟道図」など良い作品が出ています。

大雅と蕪村に混ざり、円山応挙の円満院時代の作品という中国風の山水図屏風という興味深い屏風もありました。

池大雅 「十二ヵ月離合山水図屏風」(重要文化財)
明和6年(1769)頃 出光美術館蔵

琳派がまた面白い。出光美術館で琳派の展覧会があるとだいたい来てるので、ここの琳派作品も随分観てるつもりですが、伝・俵屋宗達の「果樹花木図屏風」は初めて観たかも。金地に「蔦の細道図屏風」風のこんもりした緑の土坡と橙?や朴など樹木との組み合わせがユニーク。深江芦舟の4扇の小型屏風「四季草花図屏風」は銀が黒変しているのが残念ですが、金地と銀地が複雑に交錯し、まるで加山又造のような斬新さ。光琳の「紅白梅図屏風」に似た細い枝ぶりの紅梅やひょろりと伸びた蕨、白い躑躅や秋海棠といった四季の草花がいかにも芦舟らしい逸品です。

ほかにも、伝・光琳の扇面の軸装に其一が薄を描いた「富士図扇面」や、花弁を銀(ただし黒変している)、葉を金泥と緑青で描き、まるで蒔絵工芸のような意匠を凝らした光琳の「芙蓉図屏風」、『伊勢物語』に取材し、弧を描く御手洗川が「白楽天図屏風」や「太公望図屏風」を思わす伝・光琳の「禊図屏風」、おおらかな筆致で白梅や撫子など四季の草花を描いた画面の余白に和歌を散らせた乾山の「梅・撫子・萩・雪図」などが出ています。

伝・尾形光琳 「富士図扇面」
江戸時代 出光美術館蔵

禅画では白隠の弟子・遂翁元盧の「祖師図」が傑作。祖師と弟子の構図も面白いが粘りのある独特の筆線、墨調が強い印象に残ります。白隠、大雅、蕪村も一点ずつあって、中でも大雅の「瓢鯰図」は禅僧が巨大瓢箪で巨大ナマズを押さえつけるという如拙の「瓢鮎図」のパロディ的なユーモアを感じます。

浮世絵では江戸の人々の機知ぶりが窺える見立て絵が中心。江口の君が普賢菩薩の乗り物である白象に乗るという見立て絵は過去にも観たことがありますが、竹田春信の「見立江口の君図」は菩薩の乗る白象が徐々に小舟に変わっているのがユニーク。解説によると謡曲では江口の君は小舟に乗っているのだとか。春章の「美人鑑賞図」は女性たちが探幽の「竹鶴図」を覗き込んだり、寿老人図の掛軸を掛けようとしていたり、まるで絵画鑑賞会といった様子。中国文人画の雅集図を美人図に見立てているのだそうです。

筆者不詳の「酒呑童子絵巻」も興味深い。絵的には狩野元信風の酒呑童子なのですが、解説にもあるように武者の顔が又兵衛風。女性は又兵衛的な豊頬長頤とまでいきませんが、岩佐派の手による作品なのでしょうか。気になるところです。

勝川春章 「美人鑑賞図」
江戸時代 出光美術館蔵

文人画から琳派、禅画、肉筆浮世絵とジャンルは幅広いのですが、‟文雅”というテーマでまとまりがあり、作品の質の高さも相まって、とても満足度の高い展覧会でした。1時間ぐらいで観終わるかなと思ったら、結局1時間半以上観てました。


【江戸絵画の文雅 -魅惑の18世紀】
2018年12月16日(日)まで
出光美術館にて


蕪村句集 現代語訳付き     (角川ソフィア文庫)蕪村句集 現代語訳付き     (角川ソフィア文庫)

2018/08/18

「江戸名所図屏風」と都市の華やぎ

出光美術館で開催中の『「江戸名所図屏風」と都市の華やぎ』を観てきました。

出光美術館が所蔵している「江戸名所図屏風」は明暦の大火(1657年)前の江戸の様子を描いた作品として貴重だといいます。

その目玉の「江戸名所図屏風」を中心に、江戸名所図や京都の洛中洛外図の屏風絵から江戸時代の都市景観を観るという企画展なのですが、後半は菱川師宣や宮川長春、鳥文斎栄之など肉筆浮世絵の優品が多く並び、江戸風俗画の展覧会としてもとても興味深いものがありました。

京都の洛中洛外図というと、一般的に清水寺や三十三間堂、三条や四条の賑わいから、御所や二条城まで、東から西へ京都の名所や町の様子を描いていて、中には祇園祭の山鉾などが描かれたものもあったりしますが、やはり寺社仏閣が多かったり、広い範囲で町が整理され発展していたり、屏風絵からも京都の長い歴史を感じることができます。

一方の「江戸名所図屏風」は、浅草寺や上野の寛永寺、吉原や日本橋から、江戸城や銀座、増上寺まで、北から南へ江戸の街の様子が描かれていますが、町が整然とした京都に比べると江戸はどこか雑然とし、海や川沿いに町が発展していったことも分かります。1650年頃の江戸の風景とされ、まだ江戸城には天守もあり、江戸時代初期だからなのか、郊外には長閑な風景が拡がり、急速に広がった町の新しさを感じます。

「江戸名所図屏風」(重要文化財)
江戸時代 出光美術館蔵

そして何より、びっしりと事細かに描きこまれた江戸の人々の描写がとても素晴らしい。屏風に描かれた人物は2000人以上というだけあり、いろんな人がいて面白いし、それぞれ姿形、表情、動きが一人一人みんな違うのが凄い。風呂上がり髪を拭いてもらう人、犬に吠えられてビビる人…。観ていて全然飽きません。単眼鏡必携です。

ほかに展示されていた江戸名所図は遊楽図や風俗図と名のついたものが多く、浅草寺の境内や茶屋、芝居小屋の賑わい、吉原(新吉原)の揚屋や隅田川の舟遊びなどが描かれていて、江戸時代の人々の様子を知る資料として格好の作品です。

英一蝶 「四季日待図巻」(重要文化財)
江戸時代 出光美術館蔵 (※写真は部分)

英一蝶の「四季日待図巻」は一蝶の2つある重要文化財作品の一つ。流島先の三宅島で江戸の庚申待(日待)を描いた作品。身を清め日の出を待つといっても、座敷遊びに興じたり、囲碁をしたり、浄瑠璃を観たり、なんかみんな楽しそう。江戸の風俗や芸能を描くことの多かった一蝶らしい作品であるのと同時に、遠い江戸を思いながら描いたんだなと考えるとちょっと感慨深いものがあります。

室町時代の「月次風俗図扇面」や桃山時代の洛中洛外図屏風、初期の歌舞伎図屏風など、初期風俗画としても興味深い作品がいくつかありました。特に、阿国歌舞伎図の最も古い作例の一つという「阿国歌舞伎図屏風」は右にかぶき者、左に阿国歌舞伎が描かれ、松や桜の大木が画面をドンと遮るという大胆な構図が面白い。線描もおおらかで、桃山時代らしい古色さがあってとてもいい。

永徳の弟・狩野長信筆という説がある小型の屏風「歌舞伎・花鳥図屏風」がまた素晴らしい。遊女歌舞伎と若衆歌舞伎と思しき歌舞伎踊りが六曲一双にそれぞれ描かれ、裏には桜の大木と梅の大木、雌雄の孔雀がそれぞれに描かれ、その優美さと細密さに目が留まります。

菱川師宣 「江戸風俗図巻」
江戸時代 出光美術館蔵 (※写真は部分)

後半は浮世絵、しかも江戸の名所を背景に描いた肉筆の風俗図や美人図なのですが、菱川師宣やその一派、宮川長春や懐月堂といった初期浮世絵の優品があって見逃せません。ここでも花見や舟遊び、茶屋や遊里の酒宴などが多く描かれ、江戸の風俗というとここに尽きるのかなと感じます。美人画の白眉は鳥文斎栄之の「吉原通い図巻」。浮世絵の華やかな雰囲気とは異なり、川面に淡い水色をつけた以外は水墨でまとめられ、人物も水墨の簡略な筆致で表現し、栄之でイメージされる美人画とはまた違う趣があって、とても素晴らしかったです。


【「江戸名所図屏風」と都市の華やぎ】
2018年9月9日(日)まで
出光美術館にて


江戸名所図屏風を読む (角川選書)江戸名所図屏風を読む (角川選書)

2018/07/01

歌仙と古筆

出光美術館で開催中の『歌仙と古筆』を観てきました。

「人麿影供(ひとまろえいぐ)」という言葉をよく知らなかったのですが、歌会の儀礼として“歌聖”柿本人麻呂(人麿)の肖像を掲げることを「人麿影供」というそうで、今年は歌人・藤原顕季が歌会の繁栄を念じて人麿像を床に懸けてから900年になるんだそうです。

本展はその人麿の図像を中心に、歌仙の図像がどう受け継がれたのかをとても丁寧に追っています。

まずは「佐竹本三十六歌仙絵」をはじめ、土佐光起や狩野永納などの人麿を描いた歌仙絵がいくつか並んでるのですが、いわれてみて気づいたのですが、そういえば歌仙絵に描かれる人麿って、みんな同じなんですね。句を考えているのか筆と紙を手にちょっと上を見つめ、傍らには硯箱があって。人麿の絵姿をパターン化することで、これ人麿ね、と誰にでも認識されるということがあったのでしょうか。和歌の神とされた住吉明神、玉津島明神とともに、神格化された人麿が描かれた三幅対の「和歌三神像」というのも興味深かったです。

「佐竹本三十六歌仙絵 柿本人麿」(重要文化財)
鎌倉時代 出光美術館蔵

土佐光起 「人麿図」
江戸時代 個人蔵

面白かったのが、「佐竹本三十六歌仙絵」の「山邊赤人」。わたしは知らなかったのですが、人麿と同一人物説というのがあるんですね。だからなのか、人麿と赤人は図像が左右を反転したみたいになっています。

「佐竹本三十六歌仙絵」は元は鎌倉時代に制作された絵巻で、大正時代に37枚(36人の歌仙と住吉明神)に分割され、今に至ります。そのほとんどが重要文化財で、上巻の頭を飾る「柿本人麿」を出光美術館が持ってるというのは流石です。本展では出光美所蔵の「柿本人麿」と「僧正遍照」、加えて前期(7/1まで)には「山邊赤人」(個人蔵)、後期(7/3~)には「住吉大明神」が展示されます。

岩佐又兵衛_三十六歌仙図柿本人麿

歌仙絵では岩佐又兵衛の「三十六歌仙図」が6点、さらに「三十六歌仙・和漢故事説話図屏風」と「三十六歌仙図屏風」が出ているのが嬉しいところ。又兵衛の「三十六歌仙図」は複数の絵師の手が認められるとのことでしたが、第一章に展示されていた4点(人麿、赤人、高光、宗于)は又兵衛らしい豊頬長頤も見られます。屏風2点はともに伝又兵衛。「三十六歌仙・和漢故事説話図屏風」は『岩佐又兵衛と源氏絵』のときにも出品されていたもの。もうひとつの「三十六歌仙図屏風」は初めて観ました。前者は上部に三十六歌仙、下部に和漢故事説話図という凝った作りで、表現も又兵衛風。工房の手によるものと解説にありましたが、又兵衛作品に見られる「勝以」印と「道蘊」印があるので又兵衛も何らか関与してるのだろうなと想像します。後者は歌仙の表情が判を押したように単調で面白味がなく、あまり又兵衛らしさも感じられず、ちょっとどうなのかなという気もします。

俵屋宗達 「西行物語絵巻」(重要文化財)
寛永7年(1630) 出光美術館蔵

宗達の「西行物語絵巻」が出光美術館所蔵の三巻の内、最初の一巻がまるまる展示されてます。宗達の「西行物語絵巻」は室町時代の海田采女佑源相保が描いたとされる絵巻の模写本ですが、そこには同じコーナーに展示されていた「中殿御会図」や「時代不同歌合絵」といった歌仙絵のパターンが継承されているのが分かります。こうして歌仙絵と比較してみると、観る視点ががらりと変わってきて面白い。

鈴木其一 「三十六歌仙図」
弘化2年(1845) 出光美術館蔵

後半には、国宝の古筆手鑑「見努世友」や伝・紀貫之の「高野切 第一種」、伝・藤原公任の「石山切 伊勢集」などの名筆がずらり。ちょうど直前に東京国立博物館で「高野切」の特集展示を観ていたので、とても興味深く観ることができました。

最後には近世の歌仙絵として又兵衛と鈴木其一が並びます。其一の「三十六歌仙図」は何度か観ていますが、表装の模様まで描きこんでいるのがいかにも其一らしいというか、面白いですね。


【人麿影供900年 歌仙と古筆】
2018年7月22日(日)まで
出光美術館蔵


古今和歌集 (岩波文庫)古今和歌集 (岩波文庫)

2017/10/07

江戸の琳派芸術

出光美術館で開催中の『江戸の琳派芸術』を観てまいりました。

出光美術館で琳派は何度も観てると思うのですが、江戸琳派をテーマにした展覧会は実に16年ぶりなんだそうです。

江戸琳派なので酒井抱一と鈴木其一が中心。光琳は数点あるけど宗達はなし。なんと出光美術館所蔵の抱一・其一作品のほぼ全てが展示されているそうです。

抱一や其一に代表される江戸琳派は宗達・光琳とはまた違う華やかさ、色彩美があり、その洗練された画風が大きな魅力でもあります。さすがにここまで江戸琳派が揃うと壮観。出光美術館の琳派作品の充実ぶりにあらためて感心しました。


会場の構成は以下のとおりです:
1 光琳へのまなざし - 〈江戸琳派〉が〈琳派〉であること
2 〈江戸琳派〉の自我 - 光琳へのあこがれ、光琳風からの脱却
3 曲輪の絵画 - 〈江戸琳派〉の原点
4 〈琳派〉を結ぶ花 - 立葵図にみる流派の系譜
5 師弟の対話 - 抱一と其一の芸術

酒井抱一 「風神雷神図屏風」
江戸時代・19世紀 出光美術館蔵

まずは“琳派といえば”的な抱一の「風神雷神図屏風」。隣には、光琳の「風神雷神図屏風」の裏に描かれた抱一の「夏秋草図屏風」の草稿が展示されていました。草稿なので銀地ではないし、彩色もあっさりとしていますが、逆にみずみずしい印象を受けます。雷神の裏には雨に打たれた夏の草花、風神の裏には嵐になびく秋の草花を描くという風流人・抱一らしい発想だと思うと同時に、本来四季を表した絵ではない「風神雷神図屏風」に夏と秋という季節的な意味をプラスしたというところがが素晴らしいなと思います。

酒井抱一 「紅白梅図屏風」
江戸時代・19世紀 出光美術館蔵

琳派は画風の継承というより、画題やモチーフ、デザイン性といったピンポイントなところを流用しつつさらに展開させるという自由さがあると思うのですが、伝・光琳の「紅白梅図屏風」と並んで展示されていた抱一の「紅白梅図屏風」は光琳のエッセンスを咀嚼することで抱一ならではの洗練された作品になってると感じます。ただ、抱一画に先立つ作品として鈴木芙蓉の「紅白梅図屏風」がパネルで紹介されていて、抱一は芙蓉の作品を参考にしてるのではないかとありました。

酒井抱一 「八橋図屏風」
江戸時代・19世紀 出光美術館蔵

「八橋図屏風」も光琳の「八橋図屏風」(メトロポリタン美術館所蔵)をもとにしていますが、実は燕子花の数が光琳は約130輪なのに対し抱一は80輪だったり、一隻の横幅がそれぞれ45㎝も長かったり、光琳の屏風よりすっきりとした印象があります。抱一の「八橋図屏風」は絹地に描かれていこともあって、色彩の質感もずいぶん違って見えます。ただ摸倣するのではなく、どうアレンジするかいろいろ考えていたのでしょう。

酒井抱一 「燕子花図屏風」
享和元年(1801) 出光美術館蔵

抱一は姫路藩・酒井家に生まれ、若い頃は吉原に遊び、俳諧を嗜むという風雅を地で行く趣味人で、浮世絵など当時の文化に親しみました。今でいえば、都会人であり、現代人であり、そうした環境で磨かれたセンスは雅趣というものは、抱一作品の端々から伝わってくる気がします。

「燕子花図屏風」の軽妙なフレーミング、自ら詠んだ俳句を揮毫した短冊と色紙を貼り交ぜた「糸桜・萩図」の風情。初期の浮世絵作品「遊女と禿図」も、遊女とかむろのバランスが悪いのはご愛嬌ですが、一端の浮世絵師という印象を受けます。

鈴木其一 「蔬菜群虫図」
江戸時代・19世紀 出光美術館蔵

鈴木其一 「藤花図」
江戸時代・19世紀 出光美術館蔵

抱一のもとで磨かれた確かな腕に、さらにグラフィカルなデザインセンスや色彩感覚を身につけたのが其一。愛嬌のある表情が可笑しい「三十六歌仙図」や、琳派というよりもっと博物学的なリアリティを感じる「蔬菜群虫図」。其一が描いた薄の表装に光琳の富士図の扇面を貼った掛軸装のやまと絵的な風情も見事。「秋草図屏風」や「藤花図」は銀地、銀箔が変色してなければ、どんなに美しかったか。

酒井抱一 「十二ヵ月花鳥図貼付屏風」(※写真は左隻)
江戸時代・19世紀 出光美術館蔵

抱一の「十二ヵ月花鳥図貼付屏風」が一双まるまる展示されているのも贅沢。抱一の十二ヵ月花鳥図は人気だったようで複数の作品が知られていますが、その表現は一様でないといいます。解説には「おそらく多くの需要に応えるべく抱一の工房・雨華庵の画家たちが動員されたと思われる」とありました。七月に描かれた向日葵と朝顔とカマキリは抱一というより其一的な匂いがすると以前から気になっていたのですが、もしかしたら弟子時代の其一が担当していた可能性もあるかもしれませんね。抱一の晩年の作品のいくつかは其一が抱一名義で描いていたとする説がありますが、「青楓朱楓図屏風」なんかも其一の画風に妙に近い気がします。どうでしょう。

酒井抱一 「青楓朱楓図屏風」
文政元年(1818) 個人蔵

其一の作品ではいかにも其一らしい「四季花木図屏風」や、個人的にも大好きな「桜・楓図屏風」が出ているのですが、あまりお目にかかることのない「月次風俗図」全十二図が出品されているのが嬉しいところ。「月次風俗図」は四角や丸、扇面など3つの形式の画面に、菜の花に鷽替、梅に鼠、曽我兄弟の仇討ち、雨中の楓、鮎の群れ、砧打、柿に菊、ほおずきに麦藁蛇など、月ごとの季節にちなんだ行事や自然、風俗などが描かれています。もとは押絵貼屏風だったようで、発注主の好みもあるのか、其一にしては割と瀟洒な表現が印象的です。

鈴木其一 「四季花木図屏風」
江戸時代・19世紀 出光美術館蔵

一時期あれだけ多かった琳派の展覧会も少し落ち着き、あらためて琳派の作品に対峙するいい機会かもしれません。去年サントリー美術館で開催された『鈴木其一展』に出品されていない作品も多いので、其一ファンは必見だと思います。


【江戸の琳派芸術】
2017年11月5日(日)まで
出光美術館にて


別冊太陽244 江戸琳派の美 (別冊太陽 日本のこころ 244)別冊太陽244 江戸琳派の美 (別冊太陽 日本のこころ 244)

2017/08/20

祈りのかたち

出光美術館で開催中の『祈りのかたち 仏教美術入門』を観てまいりました。

最近のトレンドなのか、いろんな美術館で、美術ビギナー向けの展覧会をやっていますが、出光美術館でも所蔵する仏画や仏像を中心に、仏教美術のイロハを紹介する展覧会を開催しています。

日本美術はとりわけ中世までは仏教に関係したものがほとんど。仏画にしても仏像にしても、その種類や造形、それこそ手の形や持ち物に至るまで、さまざまな意味や決まりがあり、理解しようとすると仏教の歴史や時代背景なども密接に絡んできて、美術ビギナーにはなかなか敷居の高いところがあるのではないでしょうか。

そんな本展は、古くはガンダーラの石像や中国の金銅仏にはじまり、密教や弥勒・普賢信仰、浄土教、禅宗などの仏教美術の優品が並び、とても充実。解説も丁寧で分かりやすく、自分もいろいろ勉強になることが多くありました。


第1章 仏像・経典・仏具-かたちと技法

仏像が最初に造られたのは1~2世紀のガンダーラ(もしくはマトゥラーとも)が最初といわれますが、展示されていたガンダーラの石像は2~3世紀のもの。どこかギリシャ彫刻の名残を感じます。中国・西晋時代(3~4世紀)の神亭壺には動物や楼閣などの文様とともに早くも坐像の仏様が施されていました。

中国の金銅仏では東晋時代の「金銅仏三尊眷属像」が見事。如来と左右脇侍の菩薩、さらには光背には化仏まで施され、ずいぶん手の込んだ造りです。法隆寺の国宝「阿弥陀三尊像(伝橘夫人念持仏)」に彷彿とさせます。日本のものでは白鳳仏「金銅聖観音菩薩立像」があって、白鳳仏らしい大陸様の造形の中にも両手で水瓶を持つ姿が珍しい。

「絵因果経」(重要文化財)
奈良時代 出光美術館蔵

仏画では、まずは奈良時代の「絵因果経」。「絵因果経」は過去現在因果経に絵をつけたもので、奈良時代の絵画を知る上でもとても貴重な遺品。素朴な画風も面白い。「扇面法華経冊子断簡」は扇面に法華経の経文と一緒に宮廷風俗を描いた装飾経。東博や四天王寺、藤田美術館にある「扇面法華経冊子」と同じ四天王寺伝来のものといいます。平安時代の大和絵作品としてこれも大変貴重です。

静嘉堂文庫美術館の『よみがえる仏の美』でも観た「百万塔および百万塔陀羅尼」が出光美術館にもあるんですね。制作年も同じなので、出どころは一緒なのでしょう。現存する世界最古の印刷物の可能性もあるとされています。

伝・土佐光信の「十六羅漢図」は16福の内8幅が展示されていましたが、中国・南宋時代の十六羅漢図の写しとのこと。土佐派の仏画はそんなに観ないので、興味深いものがあります。

仙厓は最後の章でまとまって出てきますが、ここにも少しあって、面白かったのが「釈迦三尊十六羅漢図」。仙厓にしては珍しく、真面目に描いたものなのか、初期のものなのか、あまり見ないタイプの作品です。一方で「大黒天画賛」や「七福神画賛」のようにゆるい作品も。


第2章 神秘なる修法の世界-密教の美術

鎌倉時代にもなると迫真的な表現が強まり、「大威徳明王図」にしても「愛染明王図」にしても恐ろしい形相をしていますが、その中で藤原信実筆と伝わる「五髻文殊菩薩図」は少年のような美しい文殊菩薩が印象的。藤原信実というと「北野天神縁起絵巻」の作者ともされる人。信実の筆かどうかは明らかでありませんが、確かに優れた絵師の手によるものだということは分かります。

「真言八祖行状図 (瀧智)」(重要文化財)
平安 ・保延2年(1136) 出光美術館蔵

「真言八祖行状図」(8幅)は去年の『美の祝典Ⅰ-やまと絵の四季』で修復後初公開として話題になった仏画。明治に廃仏毀釈により廃寺になった奈良の密教寺院・内山永久寺の真言堂の障子絵だったとされ、本展では真言堂での実際の配置を再現したという並び方がされています。人物や王朝風の建物とともに桜や紅葉、松、柳、草花などが描かれ、よくよく見ると、祖師図というより春や秋の情景を描いた和様の山水画にも思えます。


第3章 多様なる祈り-弥勒・普賢信仰の美術

平安時代から鎌倉時代に掛けて、末法思想を背景に篤い信仰を集めた弥勒菩薩、女性も守り導くことから貴族の女性の間で広く信仰されたという普賢菩薩を中心に紹介。「普賢菩薩騎象図」が2幅あったのですが、白象に普賢菩薩が乗った典型的な作例で、内一つは放射状の後光が描かれ、女性的な穏やかな表情が印象的でした。

「普賢菩薩騎象図」
鎌倉時代 出光美術館蔵


第4章 極楽往生の希求-浄土教の美術

今年は源信1000年忌ということもあり、いくつかの展覧会で地獄絵を特集していますが、ここでも源信の 『往生要集』の強い影響下で制作された作品が紹介されています。

「十王地獄図」は十王と本地仏、さらに地獄の様子を描いた双幅の地獄絵。各幅に5体ずつ十王が描かれ、それぞれ上部に忌日を記し、人は死後その忌日ごとに十王の裁きを受けなければならないことが絵画化されています。各幅の間には、地獄に落ちた者に救いの手を差し伸べる「地蔵菩薩立像」を配置していて、極楽浄土を求め、地蔵菩薩にすがったいにしえの人々の信仰に思いを馳せます。

「六道・十王図」はその名のとおり六道や十王を描いた6幅対の作品。さまざまな責め苦など地獄の恐ろしい様子が鮮やかな色彩で克明に描かれています。ただ恐ろしいだけでなく、阿弥陀来迎を描くなど救済の道も示しているのが興味深い。

「六道・十王図(閻魔王図)」
室町時代 出光美術館蔵

「当麻曼荼羅図」は當麻寺の「綴織当麻曼荼羅図」の約1/4の縮小版。阿弥陀如来の極楽浄土の様子がびっしりと描き込まれています。すごい人口密度。

ほかにも阿弥陀来迎図がいくつか展示されていたのですが、解説に鎌倉時代以降は来迎にも迅速性と早急性が求められるようになったありました。根津美術館の『高麗仏画展』で疑問に思ったことに、高麗仏画の来迎図は立ったまま“待っている”というイメージなのに対し、日本の来迎図は動的で“迎えに来る”という構図なのはなぜかということがあったのですが、日本の来迎図にはそういう背景があったということなのでしょうか。

「当麻曼荼羅図」
鎌倉時代末期~南北朝時代 出光美術館蔵


第5章 峻厳なる悟りへの道-禅宗の美術

禅宗美術は一休宗純ゆかりの住吉・床菜庵伝来の作品と、白隠・仙厓の禅画で構成。一休宗純関連のものは墨蹟や賛を入れた祖師像が中心で、以前『水墨画にあそぶ』という本で読んだ泉州時代の一休のことを思い出しながら観ていました。

仙厓は出光ではたびたび観ますし、去年は『大仙厓展』があったばかりなので、もっと他の絵師なり、仏画なりを見せてくれれば良かったのにと思わなくもありませんでしたが、ずらーっと仙厓が並んでます。まぁ、仙厓好きだからいいんですけど。

仙厓 「○△□」
江戸時代 出光美術館蔵

それにしても出光美術館の所蔵品だけでこれだけ厚みのある展覧会ができるのだから凄いですよね。見応えがありました。


【祈りのかたち 仏教美術入門】
2017年9月3日(日)まで
出光美術館にて


すぐわかる日本の仏教美術―彫刻・絵画・工芸・建築 仏教史に沿って解きあかす、美の秘密すぐわかる日本の仏教美術―彫刻・絵画・工芸・建築 仏教史に沿って解きあかす、美の秘密

2017/06/21

水墨の風

出光美術館で開催中の『水墨の風』を観てまいりました。

雪舟に始まり、雪舟が手本とした玉澗、雪舟に私淑した等伯、さらには室町水墨画、狩野派や岩佐又兵衛、そして文人画まで日本の水墨画の流れを、“風”をキーワードに読み解いていくという企画展。雪舟が中国で吸収した水墨画の技法が日本でどのように受け入れられ、どう変化していったか、明快な構成と分かりやすい解説で丹念に追っています。

出光の所蔵作品だけで構成してるので限界はありますが、そこは日本有数の日本美術コレクションで知られる美術館だけあり、さすが優品が揃い、なかなかの見応え。屏風も多いので展示作品数は40点ほどなのですが、じっくり観ていたら、結局2時間ぐらい掛かってしまいました。


第1章 雪舟を創りあげたもの -「破墨山水図」への道

まずは雪舟の「破墨山水図」。晩年の作だそうで、即興的な筆の動きはまるで現代アートのようです。いわゆる玉澗様の水墨山水で、国宝の「破墨山水図」や、昨年『若き日の雪舟』で観た拙宗時代の「溌墨山水図」と同じく、墨の濃淡で面を捉え、舟や家並みを描き入れるというのは雪舟のパターンなのでしょう。そばには玉澗の「山市晴嵐図」が展示されていて、墨を叩きつけたような粗放な画面の中に山を行く人や山あいに佇む家並みがあって、雪舟のイメージの源泉を感じます。

雪舟 「破墨山水図」
室町時代 出光美術館蔵

玉澗 「山市晴嵐図」(重要文化財)
南宋時代末期~元時代初期

雪舟と伝わる六曲一双と六曲一隻の2つの「四季花鳥図屏風」があったのですが、特に六曲一双の屏風は、先月まで東博に展示されていた伝・雪舟の「四季花鳥図屏風」を彷彿させ興味深いものがありました。写真で比べると右隻は鶴がいないことを除けば構図がほぼ一緒ですね。左隻は、東博本と雪舟真筆の唯一の屏風絵とされる京博の「四季花鳥図屏風」が雪の積もる冬を描いてるのに対し、出光本には雪がなく色彩も豊か。全体的にも東博本や京博本より華やかな印象を受けます。特筆すべきは左隻の松を遮るように描かれた竹で、その大胆さに驚きました。

そのほか南宋や明代の中国画や雪村の三幅対、また江戸時代の谷文晁と雲澤等悦の作品が並びます。文晁の「風雨渡江図」は大画面いっぱいに濃墨で吹きつける風と雨を表現したインパクトのある作品。ひときわ強い風なのか、厚い雲から覗く光なのか、白く残された斜めの線が大胆で面白い。

雲澤等悦は雪舟の流れを汲む雲谷派の画家だろうとのことですが詳しいことは不明。「琴棋書画図屏風」は描かれているモチーフに雪舟画からの転用が指摘されていましたが、その独特の山容や微妙な墨色の濃淡はいかにも雲谷派の山水図という感じがします。


第2章 等伯誕生 -水墨表現の展開

制作年が判明している水墨花鳥図としては最古という能阿弥の「四季花鳥図屏風」。室町水墨画の中でも個人的に特に好きな作品の一つです。四季花鳥といっても季節の花は蓮や椿(?)ぐらいで、叭々鳥や白鷺、雁、燕、鴛鴦、鳩といった鳥たちが群れ飛び、どこか幻想的。鳥や竹、枯木などのモティーフは牧谿の作品に拠っていて、まるで牧谿へのオマージュといった様相です。屏風全体を覆う湿潤な空気感や静謐で柔らかな光は雪村や等伯あたりに影響を与えたのではないかと感じます。

能阿弥 「四季花鳥図屏風」(重要文化財)
応仁3年(1469年) 出光美術館蔵

そして等伯はいつものことながら、「松に鴉・柳に白鷺図屏風」と「竹鶴図屏風」(後期には「四季柳図屏風」)。「松に鴉・柳に白鷺図屏風」の白鷺や松、「竹鶴図屏風」の鶴や竹など、こちらも牧谿に倣っていて、いかに牧谿が日本の水墨画に大きな影響を与えているかに気づきます。その中で等伯は日本にはいない叭々鳥を身近な鴉に変えたり独自のアレンジを加えていて、より日本的な情緒を感じさせます。

長谷川等伯 「松に鴉・柳に白鷺図屏風」
桃山時代 出光美術館蔵

長谷川等伯 「竹鶴図屏風」
桃山時代 出光美術館蔵 (※展示は6/25まで)

牧谿の「叭々鳥図」も展示されていて、これなんかを観ると、能阿弥にしても狩野探幽(「叭々鳥・小禽図屏風」が展示されてる)にしても、牧谿の叭々鳥を踏襲していることが分かります。濃い墨から薄い墨へと変わる羽根の表現が素晴らしいですね。

牧谿 「叭々鳥図」
南宋時代 出光美術館蔵


第3章 室町水墨の広がり

あらためて室町時代の水墨画を展観。水墨山水の一つのスタイルを確立したのが周文ですが、扱いがちょっと小さくてかわいそう。周文は2点あって、一つは詩画軸、一つは山水図。「待花軒図」は遠くに岩山を望む山荘で童子が箒で庭を掃く風雅な一幅。「山水図」は左下の近景から遠景へジグザグにモチーフを描く典型的な構図で、垂直に屹立した山や松が細い墨線で実に丁寧に描かれています。並んで展示されている相阿弥や曽我蛇足の山水図も周文様式といっていいんでしょうが、それぞれに阿弥派、曽我派の特徴があって面白い。

伝・周文 「待花軒図」
室町時代 出光美術館蔵

興味深かったのが一之の仏画。一之もちょっと前まで東博に「白衣観音図」が出ていて気になっていたので、個人的に嬉しかったです。一之は明兆の弟子とも、関東画壇に近い画僧ともいわれ、まだ謎が多く残る絵師。現存作の多くが観音図だそうで、本展にも白衣観音を思わす「観音図」と左右に梅図を配した「観音・梅図」が出品されています。個性的な表現と地方色を感じる雰囲気が独特で、「観音図」は後の白隠の観音図を思い起こさせます。「観音・梅図」は左右幅の梅が、並んで展示されていた揚補之(伝)の「梅図」に似ていて、いわゆる王冕の梅図の様式を学習していたことが窺われます。

伝・一之 「観音図」
室町時代 出光美術館蔵


第4章 近世水墨 -狩野派、そして文人画へ

元信印の「花鳥図屏風」は以前にも何度か出光美術館で観ているのですが、狩野派の作品をここ数年いろいろ観てきたせいか、これは元信の時代の作品じゃないだろうという感じが私でもします。隣に展示されていた伝・狩野松栄の「花鳥図屏風」は確かに聚光院方丈壁画を彷彿とさせるものがあって、桃山時代前半の雰囲気がありますが、元信印の「花鳥図屏風」はやはりもう少し時代が下るようですね。解説には光信周辺という指摘がありますが、左隻の滝の様式的な表現なんかを見ると、はたして狩野派なんだろうかという気がしなくもありませんでした。

元信・印 「花鳥図屏風」(右隻)
桃山時代 出光美術館蔵

狩野派でいえば、探幽が雪舟からの学習を通し、画風を変えていったともいわれますが、展示されていた作品は残念ながら雪舟の影響を感じさせるものではありませんでした。尚信の「酔舞・猿曳図屏風」では猿回しや歌舞音曲のイメージソースとして雪舟画が指摘されていましたが、探幽にしても尚信にしても雪舟に限らず広く古画の学習結果として狩野派の水墨画スタイルを再構築したことは興味深いところです。

狩野尚信 「酔舞・猿曳図屏風 (左隻)
江戸時代 出光美術館蔵

そのほか文人画では浦上玉堂や池大雅、田能村竹田など、色紙大の小品が並びます。このあたりは何度か拝見してますし、ここまでかなりの時間を要してしまったので軽く。

又兵衛の「瀟湘八景図巻」は晩年の作品で、福井時代の作品と異なり落ち着いた感じがしますが、相変わらず筆が丁寧で、細緻な表現が見事です(Twitterで『岩佐又兵衛と源氏絵』に出てなかったと発言しましたが、しっかり出品されてましたね。失礼いたしました)。全体に金泥の霞が引かれ、ところどころに漢詩が書かれ、それなりのところに納められたのだろうなという感じがします。これまであまり気にしなかったのですが、雪舟からの流れで観ると、又兵衛の曲がりくねった樹木の表現は雪舟の影響なんだろうかと思ったりしました。


【水墨の風 -長谷川等伯と雪舟】
2017年7月17日(月・祝)まで
出光美術館にて


水墨画にあそぶ―禅僧たちの風雅 (歴史文化ライブラリー)水墨画にあそぶ―禅僧たちの風雅 (歴史文化ライブラリー)