ご存知のように現代アートには疎く、塩田千春のことも決して良く知っている訳ではないのですが、過去に横浜のKAATやグッチ銀座のコラボ展を観ていたり、最近だとGINZA SIXのインスタレーションも観に行ったりして、割と興味を持っていたこともあり、混む前にと思って開幕早々に行ってきました。
本展は、新作18点を含む、100点以上の作品で構成され、20年にわたる活動を回顧する展覧会になっています。過去のインスタレーションなどはパネルや映像でも紹介されていて、最近の活動しか知らない自分にはとても興味深かったです。
いきなり驚くのが会場に上がるエスカレーターのエントランスホールの天井から無数の糸で吊るされたいくつもの舟。何か暗示めいたものを感じながら会場に入ります。
塩田千春 「どこへ向かって」 2017/2019年
塩田千春 「不確かな旅」 2016年
会場に入ってすぐのスペースには、黒い骨組みだけの舟からまるで血が噴き出すかのように空へ伸びるこれまた無数の赤い糸、糸、糸。血液を想起させる生々しさや息苦しさ、心の奥の深い叫びのようなどこか精神的なものに圧倒されます。いきなりなんだか凄いものを観た感がハンパありません。
塩田千春 「外在化された身体」 2019年
この展覧会のための新作のひとつ 「外在化された身体」のだらんとぶら下がった赤い網状の牛皮はどこか身体の臓器を思わせます。床にはバラバラになったブロンズの手足が落ちています。塩田千春はガンと闘いながら制作活動を続けてきましたが、この森美術館の展覧会が決まった翌日ガンの再発を知らされたそうです。正に死と寄り添いながら、魂も肉体もばらばらになるのを感じながら、制作に打ち込んできたのだろうことが強く伝わってきます。
塩田千春 「小さな記憶をつなげて」 2019年
広いフロアーの一角に無造作に置かれたミニチュアの家具や小物。それぞれを繋ぐ赤い糸は記憶をたぐり寄せる糸でもあり、ぐるぐる縛られた椅子やベッドは過去の苦しさや辛さを表しているようにも感じます。何かトラウマのような悲しい過去を抉り出したかみたいに。
塩田千春 「静けさの中で」 2008年
まるで火事で焼け、黒煙が立ちこめる音楽室かホールのようにピアノと椅子から黒い糸が天井に伸びる「静けさの中で」。幼い頃に塩田の隣家が火事で燃えた記憶が基になったいるのだそうです。この絶望的なほどの重苦しさがズシリときます。
塩田千春 「時空の反射」 2018年
「時空の反射」はウェディングドレスが2着あると見せかけ、実は鏡に映っているだけで、1着しか展示されていないというトリックが。これも何か暗示しているように感じてしまいます。。。
塩田千春 「集積-目的地を求めて」 2016年
森美の広い空間を使ったインスタレーションがいろいろ圧巻なのですが、スーツケースのインスタレーションにも驚きました。糸で吊るされた動くスーツケース。階段状になっているのは旅=人生を意味しているのでしょうか。
同じ日に国立新美術館で『ボルタンスキー展』も観たのですが、塩田千春が命を削って表現したものなら、ボルタンスキーは失われた命というようにも感じました。塩田の魂に対しボルタンスキーは霊魂。どちらもドーンと来た。
注)写真・動画はいずれも「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスでライセンスされています。
【塩田千春展:魂がふるえる】
2019年10月27日(日)まで
森美術館にて
塩田千春展:魂がふるえる