2011/03/21

岡本太郎展

このたびの東日本大地震により被害を受けられた皆さまに心よりお見舞い申し上げます。皆さまの安全と一日も早い復旧をお祈り申し上げます。

さて、今年、生誕100年を迎えた岡本太郎の回顧展に行ってきました。テレビのニュースなどを見ていると、のんびり映画を観たり、 本を読んだりという気分でもなく、また集中力もなく、 かといって、家でテレビを見ているのもいたたまれず、 とりあえず外に出ようと思いました。

いま、若い人たちの間では岡本太郎が“ブーム”なのだと、展覧会を紹介する雑誌記事で読んだのですが、その真偽はともかく、確かに館内は年輩の方の姿より、圧倒的に若い人たちが多かったようです。

幼い頃、大阪万博へ行った父親がお土産に買って来た“太陽の塔”のミニチュアが家にあって、「芸術は爆発だ!」のCMもよく覚えてる自分なんかは岡本太郎を知る最後のリアル世代だと思うのですが、それでもバラエティ番組に出てたイメージが邪魔をして、岡本太郎を“ちょっと変わった芸術家”ぐらいにしか思ってなかった気がします。でも、この展覧会は、そんな偏見を一瞬で払拭してしまうパワーに溢れていました。岡本太郎が亡くなって15年。彼の芸術家としての姿を再評価する波が本当に来ているんだなと実感します。

さて、会場に入ると、いきなりの岡本太郎ワールドにちょっと面食らいます。生きものとも精霊とも区別のつかない異形の不思議なオブジェ(彫刻)が左右に並び、見学者を出迎えてくれます。

「ノン」

この“プロローグ”の最後に登場するオブジェが両手を前に突き出し、「ノン!(ダメ!)」と拒否しています。このオブジェが象徴するように、この展覧会はさまざまなものを拒否し、対決してきた岡本太郎の芸術家としての生き様を7つの章に分けて紹介しています。

「傷ましき手」

パリでピカソの絵に出会い、大きな衝撃を受け、抽象画でもない、シュールレアリスムでもない、抽象かつ具象という独特の世界を造りだした岡本太郎。戦後、日本の“キレイ”な美術界に反発し、沖縄や東北の民俗に刺激を受け、さらに新しいステージへ上がっていきます。こうして観ていくと、岡本太郎って、常に反発と爆発を繰り返し、それをエネルギーへと換えていくというものすごいパワーを持った人だったんだなと痛感します。

「重工業」

なんで長ネギがあるんだろうかと、絵から意味を見つけようと考えることすら、岡本太郎は拒否します。そんなのはただの野暮。「何だこれは!」でいいんです。

「森の掟」

戦争の恐ろしさを伝え、人を愛し、愛を語る。 岡本太郎がもし生きていたら、この大震災をどう描いただろうかと、ふと思いました。

「燃える人」

「クリマ」

この規模での回顧展は没後初めてなのだそうですが、岡本太郎という芸術家のことを知るためにはこの2倍、3倍の場所が必要だったかもしれません。それほどまでに「もっと観たい」と思わせるものがありました。あらためて岡本太郎のスケールの大きさに圧倒された展覧会でした。

「エピローグ」には岡本太郎のメッセージが壁一面に飾られています。力強いメッセージ、前向きなメッセージ、とても力をもらえます。出口ではもれなく“太郎のことば”がもらえますので、お忘れなく。


【生誕100年 岡本太郎展】
国立近代美術館にて
5/8(日)まで

今日の芸術―時代を創造するものは誰か (光文社知恵の森文庫)今日の芸術―時代を創造するものは誰か (光文社知恵の森文庫)









岡本太郎新世紀 (別冊太陽 日本のこころ)岡本太郎新世紀 (別冊太陽 日本のこころ)


2011/03/06

南へ

NODA・MAPの舞台『南へ』を観てきました。

歌舞伎を観るようになってから、歌舞伎での野田秀樹というのは何度か経験しましたが、いわゆる本来のというか、演劇としての野田秀樹の芝居をナマで観たのは実に「夢の遊民社」以来。『小指の思い出』とか『野獣降臨』とか『半神』とか、懐かしい思い出です。

さて、今回の『南へ』は、昨年の『ザ・キャラクター』『表に出ろいっ!』に続き、“信じる”ことをテーマに掲げた三部作の最終章。妻夫木聡と蒼井優という人気俳優を主役にし、しかも2ヶ月公演という長丁場で、すごい力の入れようです。

前のニ作品を観ていませんから、三部作がどうのという話ができませんし、野田秀樹の芝居自体、約20年ぶりぐらいですから(汗)、たいそうなことを書けないのですが、久しぶりに観た野田秀樹の芝居は、“言葉遊び”が鳴りを潜めたようですが、スピード感と台詞量は相変わらず半端ないなと思いました。それにテーマの選び方も野田秀樹“らしい”というか、「この国の歴史は天皇を利用した天皇詐欺の歴史だ」とストレートに言ってしまう批判精神や歴史観の面白さ、納得感は、「野田秀樹の芝居を観て面白かった、満足した」ということと今もセットになっているなと感じました。

肝心の出演陣ですが、蒼井優の巧さが抜きん出ていて、野田秀樹の芝居と相性がいいのか、既に野田秀樹の色に染まっていて、ベテランの舞台俳優・女優と比べても全く遜色なく、素晴らしかったと思います。妻夫木聡は無難に野田秀樹の芝居をこなしていて、まずまず及第点。舞台の上でも爽やかな好青年という感じでした。ほかにも渡辺いっけい、高田聖子、銀粉蝶、藤木孝など、個性ある役者さんが揃ってましたが、その中でも観測員役のチョウソンハという役者さん、恥ずかしながら初めて名前を知りましたが、勢いがあって、とても印象に残りました。

2011/03/02

琳派芸術

出光美術館で開催中の『琳派芸術』に行ってきました。『琳派芸術』は会期を第一部、第二部と分けて開催されており、第一部<煌めく金の世界>は既に終了(1月8日から2月6日まで)、2月11日からは第二部として<転生する美の世界>が始まっています。

第一部では、琳派の始祖と呼ばれる俵屋宗達や本阿弥光悦、そして宗達らの画風を引き継ぎ、琳派たるものものとして造り出していった尾形光琳らの作品を中心に、煌びやかで美麗な琳派の世界を紹介していました。

そして第二部では、今回の展覧会の冠にもつけられている生誕250年の酒井抱一やその高弟・鈴木其一の作品をメインに、さらに宗達や光琳らも加わり、継承されていった琳派の流れ・カタチを追っています。

第一部は、まだ安土桃山の絢爛たる華やかな文化を色濃く残す宗達らの作品が中心ということもあり、華麗かつ豪奢な中にも京の優雅さや美意識を強く感じさせるものになっていましたが、第二部は、江戸文化のなかで磨かれていったモダンで洗練された江戸琳派の新たな創造性というものが伝わってくるような内容だったと思います。琳派の「祖」と「後継」、「京」と「江戸」、「金」と「銀」。第一部と第二部はいろんな意味で対照的な展示になっています。

伝 俵屋宗達「月に秋草図屏風」 (※第一部に展示)

俗に“宗達の作品”と言われるものは、有名な「風神雷神図屏風」しかり、はっきりと“宗達の作品”と断言されるものは少なく、だいたいが“宗達の作品ではないか”と推測されているものなので、恐らく多くの人が「『伝』はたぶん宗達自身の手によるもの、『伊年』は宗達工房のものなのだろう」という理解で観ていると思います。逆に言えば、宗達という人の作品はそんな少々あやふやな定義の上にあるので、「伊年」の印があっても「どこかしらは宗達が筆を取っているのかもしれない」と想像を働かせてしまったりします。それが宗達、あるいは「伊年」印の作品のユニークなところ、面白いところなのかもしれません。

「伊年」印 「四季草花図屏風」(右隻) (※第一部に展示)

第一部には「伊年」印の「四季草花図屏風」が三点あって、いずれも見事なものではあるのですが、出光美術館所蔵の「四季草花図屏風」は隙間なく四季の草花が描きこまれ、濃密なものであるのに対し、根津美術館所蔵の「四季草花図屏風」(上の写真)は非常に繊細なタッチで、まるでボタニカルアートを観ているようなリアルさがありました。同じ「四季草花図屏風」でも三者三様。絵師の個性やセンスが出ているように思います。もしかしたら、このどれかは宗達が描いたものかもしれません。

伝 尾形光琳 「紅白梅図屏風」(右隻) (※第一部に展示)

琳派というものを今回の展覧会は敢えて二回に分けたわけですが、こうして第一部・第二部と観てみると、同じ琳派的な美意識や感覚だけでも光琳と抱一は違うと感じますし、光琳はやはり“江戸より京”、抱一は“江戸の人”なのだなと思います。どこがと言われると難しいのですが、光琳は宗達の影響が色濃い分、桃山的な華美さやデザインセンスに都人のプライドを垣間見れるし、一方の抱一は光琳の影響を受けていても自分らしさがあって、都会人的な柔軟性が感じられます。“宗達の影響の下にある光琳”、“光琳の影響の下にある抱一”という視点で見せることで、それぞれの“らしさ”が伝わってくる気がしました。


酒井抱一 「紅白梅図屏風」

今回の展覧会では鈴木其一の作品も、宗達や光琳、抱一という琳派ビック3に劣らず、大きく取り上げられています。其一好きの自分としてもとても楽しみにしていました。しかし、抱一の清冽な「紅白梅図屏風」を観たあと、其一の黒変した銀屏風を前にし、少々ショックを覚えました。銀地絵の保存の難しさを改めて痛感するとともに、これは抱一と其一の(かつての)評価の違いというものも関係したのだろうかと感じずにいられませんでした。当時から評価の高い抱一の作品は変色しないよう丁寧に扱われ、近年まで決して評価が高いとは言えなかった其一の作品は蔵の奥に仕舞われたまま、そんなことでもあったのでしょうか。いずれにしても美しい銀屏風を観られるというのは幸せなことなんだと思います。

鈴木其一 「四季花木図屏風」

会期後半は混雑必至ですので、どうぞお早めに。


【酒井抱一生誕250年 琳派芸術】
出光美術館にて
3/21(月)まで