2016/06/18

ルノワール展

国立新美術館で開催中の『ルノワール展』を観てまいりました。

ルノワールの展覧会は毎年どこかでやっていて、またルノワールか…と思ってしまうのですが、いやぁ~これはスゴい!

今年は京都や名古屋でも別のルノワールの展覧会があるのでちょっと混乱しますが、本展は世界有数の印象派コレクションで知られるオルセー美術館とオランジュリー美術館からルノワール作品を中心に100点を超える絵画やデッサンなどを集めた展覧会。その8割がルノワール。

ルノワール・ファンなら誰でも知っている傑作がいくつも来てるし、ここ何年かで観たルノワールの展覧会ではダントツの充実度じゃないでしょうか。初期から最晩年までルノワールの全貌に触れられます。


会場は10の章で構成されています:
Ⅰ章 印象派へ向かって
Ⅱ章 「私は人物画家だ」:肖像画の制作
Ⅲ章 「風景画家の手技(メチエ)」
Ⅳ章 “現代生活”を描く
Ⅴ章 「絵の労働者」:ルノワールのデッサン
Ⅵ章 子どもたち
Ⅶ章 「花の絵のように美しい」 
Ⅷ章 《ピアノを弾く少女たち》の周辺
Ⅸ章 身近な人たちの絵と肖像画
X章 「芸術に不可欠な形式のひとつ」

ピエール=オーギュスト・ルノワール 「陽光のなかの裸婦(エチュード、トルソ、光の効果)」
1876年頃 オルセー美術館蔵

まずはイントロダクションとしてルノワール初期の作品が2点。
「猫と少年」はルノワールには珍しい少年の裸体画。写実的な筆致や青みがかった肌はマネの影響を感じさせます。小さなお尻をこちらに向けた少年の猫に寄り添う姿が愛らしい。もうひとつはその8年後の作品で、第2回印象派展に出品されたルノワールの代表作「陽光のなかの裸婦」。さまざまな色の絵具を塗り重ねることで色彩は調和し、木漏れ日のような繊細な光が見事に表現されています。柔らかで筆触と明るく豊かな色彩からは自然の中をそよぐ風までも伝わってくるようです。

ピエール=オーギュスト・ルノワール 「ジョルジュ・アルトマン夫人」
1874年 オルセー美術館蔵

会場はおおよそジャンルごとに分けられていて、最初は肖像画(人物画)。 ルノワールは生涯に4000点以上の作品を残していますが、その多くが人物画で、ルノワール本人も人物画家と自負していたといいます。

まだ“光”を発見してない頃の作品がいくつかあって、たとえばアルフレッド・シスレーの父親を描いた「ウィリアム・シスレー」なんてかなり写実的。まだ際立った特徴もなく、ルノワールだと言われないと分からないでしょう。

やはり筆触や色彩が大きく変わってくるのは70年代中頃からで、「ジョルジュ・アルトマン夫人」は変化に富んだ黒の色彩感が見事。シックな黒いドレスに身を包んだブルジョア的雰囲気も印象的です。この絵は何年か前の『オルセー美術館展』にも来てましたね。初期印象派時代のルノワールらしい作品といえば、「読書する少女」や「ポール・ベラール夫人の肖像」もいい。

ピエール=オーギュスト・ルノワール 「クロード・モネ」
1875年 オルセー美術館蔵

昨年の『モネ展』ではルノワールが描いた新聞を読むモネの肖像画が展示されていましたが、本展に出品されているモネは絵筆とパレットを持ち、より画家らしい雰囲気が漂っています。モネとルノワールの近しさも伝わってきます。

ピエール=オーギュスト・ルノワール 「草原の坂道」
1875年頃 オルセー美術館蔵

ルノワールは風景画も多い印象があるのですが、1870年代の油彩画に限れば風景画は1/4ぐらいなのだそうです。パリ郊外の自然やセーヌ川の風景を描いた作品がいくつかある中で、個人的なお気に入りは「草原の坂道」。暖色系の色彩が溢れる緑豊かな草原を楽しそうに進む子どもたちとその後ろをパラソルをかざして優雅に歩いてくる母親。草原の爽やかな空気と家族の幸せそうな雰囲気が伝わってきます。ルノワールは「その中を散歩したくなるような絵画が好きだ」という言葉を残しているそうですが、正に散歩したくなうような風景。

ピエール=オーギュスト・ルノワール 「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」
1876年 オルセー美術館蔵

Ⅳ章の<“現代生活”を描く>は本展のメインのコーナー。もうルノワールの傑作のオンパレードという感じで、すごーく贅沢な空間になっています。

目玉はルノワールの最高傑作「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」。ルノワールの中でも恐らく1番有名な作品でしょうし、まさかこれが日本に来るとは思いませんでしたよ。“ムーラン・ド・ラ・ギャレット”は屋外のダンスホールで、庶民の遊び場として人気だった場所。割と大きな作品で、構図、人の配置、色彩が綿密に計算されているんだろうなと感じます。画面手前で談笑する若い男女はルノワール作品でお馴染みのモデルたちや画家仲間なのだとか。群像を描いたこの時代のルノワール作品はどれも開放的で、観ているだけで気分が昂揚してきます。会場には楽しげなミュゼットも流れていて雰囲気満点。

そばにはルノワールの息子ジャン・ルノワール監督の映画の中から父ルノワールの絵画のベル・エポックの世界を描いたようなシーンがダイジェストで流されています。

ピエール=オーギュスト・ルノワール 「ぶらんこ」
1876年 オルセー美術館蔵

「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」と一緒に第3回印象派展に出品された「ぶらんこ」もルノワールの傑作の一つ。たぶん「ぶらんこ」が来日しただけでも目玉になるぐらいでしょ。ルノワールのアトリエの裏庭で描いたそうで、木立の中を降り注ぐ光とくつろいだ雰囲気が平和でいいですね。みんな木漏れ日の中に溶け込んでいるかのようです。

ピエール=オーギュスト・ルノワール 「都会のダンス」「田舎のダンス」
1883年 オルセー美術館蔵

「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」の反対側にはこれもルノワールを代表する作品「都会のダンス」と「田舎のダンス」が並んで展示されています。こちらは45年ぶりの来日。シルクのロングドレスで上品に踊るシュザンヌ・ヴァラドンと木綿のオシャレ着で楽しそうに踊るルノワールの妻アリーヌ。寒色系でシックな前者と暖色系でアットホームな後者。どちらもちょっと紗がかかったような、ふわーっとしたところがあります。シュザンヌは絵画モデルとして人気で、ルノワールとも“関係”があったといわれています。ちなみにシュザンヌは後にロートレックやサティとも浮き名を流しています。

ジャン・ベロー 「夜会」
1878年 オルセー美術館蔵

ルノワールの作品を囲むように、ルノワール以外の画家による同時代のイメージを伝える作品が並んでいるのが良いですね。なかなか良い作品が揃ってます。みなさん立ち止まって凝視しているのがベローの「夜会」。とても写実的で、まるで写真のよう。

フィンセント・ヴァン・ゴッホ 「アルルのダンスホール」
1888年 オルセー美術館蔵

ゴッホが3点並べて展示されていて、ほぼ同時期に描かれた作品なんだけれど、それぞれに雰囲気が違っていてとても面白い。名前のとおりアルル滞在中に描かれた作品「アルルのダンスホール」なんて、いかにもポン=タヴェン派の影響が色濃いというか、輪郭線が強調されていて、エミール・ ベルナールの絵を彷彿とさせます。

ピエール=オーギュスト・ルノワール 「ジュリー・マネ(猫を抱く子ども)」
1887年 オルセー美術館蔵

子どもを描いた絵では有名な「ジュリー・マネ」があって感動。ジュリー・マネはマネの弟ウジェーヌと画家のベルト・モリゾの子ども。柔らかで淡い色彩と少女の穏やかな表情がとてもマッチしています。笑ったような顔でくつろいでる猫もかわいい。ちなみにこの猫のぬいぐるみが会場のグッズ売り場で販売されてます。

ピエール=オーギュスト・ルノワール 「バラを持つガブリエル」
1911年 オルセー美術館蔵

ルノワールの作品によく登場する女性といえば、ルノワールの妻の従姉妹で、子どもたちの乳母として生活も共にしていたガブリエル。ガブリエルを描いた作品も複数展示されていて、有名な「バラを持つガブリエル」や「ガブリエルとジャン」などいい作品が来ています。印象に強く残ったのがガブリエルをモデルにした「横たわる裸婦」で、となりにはほぼ同じ構図、同じサイズの、若くてきれいな女性のヌードを描いた「大きな裸婦」が並べてあります。見た目の美しさでは後者なんでしょうが、ルノワールらしさでいえば、断然前者。

ピエール=オーギュスト・ルノワール 「横たわる裸婦(ガブリエル)」
1906年 オランジュリー美術館蔵

ピエール=オーギュスト・ルノワール 「大きな裸婦(クッションにもたれる裸婦)」
1907年 オルセー美術館蔵

最後は最晩年の裸婦画を中心に紹介しています。晩年はひどいリューマチで、絵筆を握ることもままならなくなったため、手に絵筆を縛り付けて絵を描きつづけたといいます。「浴女たち」はルノワールの最後の数カ月を費やしたという大作。数年前にこの作品を題材にした映画が公開されたのも記憶に新しいところです。晩年のルノワールを特徴づけるボリューミーな造形。それでいてふわっとしている。不自由な手で描いたとは思えないルノワール的な幸福感に満ち溢れています。ルノワールは「ルーベンスだって、これには満足しただろう」と語ったそうです。

ピエール=オーギュスト・ルノワール 「浴女たち」
1918-19年 オルセー美術館蔵

金曜日の夜間開館に伺ったのですが、意外と空いてて、ゆっくりゆったりと思う存分ルノワールの世界に浸れて最高でした。ものすごーく幸せな気分になります。夏休みに入ると相当混雑すると思うので、早いうちに行った方がいいですよ。


【オルセー美術館・オランジュリー美術館所蔵 ルノワール展】
2016年8月22日(月)まで
国立新美術館にて


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