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2017/08/22

地獄絵ワンダーランド

三井記念美術館で『地獄絵ワンダーランド』を観てまいりました。

どうせ子どもも楽しめます的な夏休み向けの企画だろ、と最初はあまり興味を持ってなかったというか、高をくくっていたのですが、これが思いのほか面白かったのです。

くだけたタイトルから察せられるように、小難しところがなくて、もちろん子どもも楽しめるでしょうけど、仏画、地獄絵に興味がある人なら誰でも十分楽しめるのではないでしょうか。

毎年この時期は、妖怪だの怪談だのにまつわる作品を集めた展覧会がありますが、今年は源信の1000回忌ということもあってか、奈良国立博物館の『源信展』よろしく、出光美術館の『祈りのかたち 仏教美術入門』でも地獄絵が特集されていたりして、奈良に『源信展』を観に行けなかった身としてはとてもありがたいことです。


第1章 ようこそ地獄の世界へ

会場入ってすぐのアプローチには、肩慣らしというべきか、水木しげるの『水木少年とのんのんばあの地獄めぐり』の原画13点が展示されていて、地獄と極楽浄土の情景が分かりやすく紹介されています。あくまでも絵は水木ワールドなのですが、源信の『往生要集』の世界に意外なほど忠実なのに驚きました。

完本としては現存最古という鎌倉時代の版本の『往生要集』も展示されています。墨も黒々としていて状態は良さそう。日本人の死後世界観に絶大な影響を与えた“あの世のガイドブック”と解説されていて、うまいこと言うなと感心してしまいました。

「六道絵」(重要文化財)
中国・南宋~元時代 新知恩院蔵 (※写真は一部)

「六道絵」の最高傑作といわれる聖衆来迎寺の国宝「六道絵」の模写(文政本)や地獄草紙の模写もあったりしますが、興味深かったのが新知恩院蔵の「六道絵」(6幅)。中国伝来の六道絵としては他に違例がないとかで、日本のよく見る六道絵とは確かに雰囲気が異なります。大変精緻に描かれていて、青い髪や赤い髪をなびかせる鬼は風神や雷神の図様の原形を見る思いがしました。


第2章 地獄の構成メンバー

上品蓮台寺の「六地蔵像」も印象的。飛雲に乗って六地蔵が六道に向かう様子を描いたもので、云わば“六地蔵来迎図”。しかもみんな色白美男子。「地蔵十王図」というのもあって、地蔵菩薩が閻魔大王含め十王を従えている様子が描かれています。

「地蔵十王図」
室町時代 龍谷ミュージアム蔵

當麻寺の6曲1双の「十王図」は十王図10幅と地蔵菩薩図と阿弥陀三尊来迎図各1幅を表具ごと屏風仕立てにしたもの。片隻のみ展示されていましたが、十王図と並んで最後に阿弥陀来迎があるというのが面白い。地獄の顛末を見せつつ救済についてもフォローしているんでしょうね。地獄の様子はいかにも恐ろしげで、血の池かと思ったら、罪人の伸ばされた赤い舌で、舌の上で鬼が牛を使って耕す耕舌地獄という場面なんだそう。出光美術館で観た「六道・十王図」にも同じ場面がありました。


第3章 ひろがる地獄のイメージ

ここでは「立山曼荼羅」と「熊野観心十界曼荼羅」。「立山曼荼羅」は立山信仰に基づくものだと想像はつきましたが、立山の山中には地獄があると考えられていたそうで、血の池地獄に女の顔が浮かんでたり、人面牛馬がいたり、曼荼羅というより地獄絵のよう。鬼も大津絵風で、民間信仰の曼荼羅という感じです

「熊野観心十界曼荼羅」
江戸時代 日本民藝館蔵

「熊野観心十界曼荼羅」は柳宗悦の収集品。地獄極楽の絵解きをしながら諸国を廻ったという熊野比丘尼が絵解き布教に用いたものといいます。これも素朴絵風のところがあって、楽しんで学ぶという感じ。上部の円相に心の字が書かれていて、半円に人生の歩みを描く“老いの坂”も描かれています。


第4章 地獄絵ワンダーランド

江戸時代に入ると、地獄絵もバラエティに富み、世間の人が賢くなって地獄を怖がらなくなったなんてことが解説されていました。最早怖いんだか楽しんだか分からないような地獄絵のパロディ「地獄図巻」や人気歌舞伎役者・八代目市川團十郎の死絵の浮世絵、河鍋暁斎の絵でも知られる地獄太夫の一休宗純との出会いからその後の往生までを綴った絵伝、サイコロ振って最後は極楽浄土を目指す浄土双六なんかもありました。

「地蔵十王図」
江戸時代 東覚寺蔵(※写真は一部)

民間信仰的な地獄絵がいくつかあって、どれもユニーク。「観心十法界図」は「心」の字を中心に放射状に十界図が描かれていて、地獄に堕ちるも極楽浄土に行くのも心次第と諭します。葛飾・東覚寺の「地蔵・十王図」はヘタウマな素朴さに強く惹かれます。十王も漫画的に描かれていて面白い。並びにあった「十王図」は日本民藝館の『つきしまかるかや展』でも拝見した作品。まるで子どものイタズラ書きで、いくら民間信仰とはいえ、どんな用途でどんな人が描いたのかとても気になります。白隠の「地獄極楽変相図」も楽しい。お釈迦様や閻魔様は白隠の仏画風、地獄の様子は戯画風に描かれています。

「十王図屏風」
江戸時代 日本民藝館蔵(※写真は一部)


第5章 あこがれの極楽

最後にあった「山越阿弥陀図」は体は山に隠れ、顔しか見えないという珍しいタイプの作品。体が見えないので、阿弥陀如来なのかさえ本当は分からないとか。「当麻曼荼羅」は出光美術館でも観ましたが、こちらは當麻寺の曼荼羅の1/6の縮小版。



出光美術館の『祈りのかたち 仏教美術入門』は仏教美術史の流れで地獄絵が観られますが、こちらはさまざまなタイプ別の地獄絵を観ることができ、二つ併せて観ると、奈良に行かなくても大丈夫という気分になります。(行ければ行きたかったけど)


【特別展 地獄絵ワンダーランド】
2017年9月3日(日)まで
三井記念美術館にて


太陽の地図帖 地獄絵を旅する (別冊太陽 太陽の地図帖 20)太陽の地図帖 地獄絵を旅する (別冊太陽 太陽の地図帖 20)

2015/09/27

蔵王権現と修験の秘宝

三井記念美術館で開催中の『蔵王権現と修験の秘宝』を観てまいりました。

東京でも御岳山に行くと、法螺貝を吹き、修業をする山伏に今も出会うことがありますが、彼ら修験者が信仰する修験道の本尊が蔵王権現(金剛蔵王権現)。日本古来の山岳信仰に仏教や神道、陰陽道が結びついて成立した日本独自の宗教だといいます。

本展は、修験道の聖地である吉野・金峯山寺をはじめ、如意輪寺、櫻本坊、また鳥取の三徳山三佛寺などから、蔵王権現像などゆかりの宗教美術品約70点が集められ、修験道が生み出した山岳宗教の美に触れることができます。


会場に入ってすぐの<展示室1>には、金峯山寺と大峯山寺ゆかりのものを中心に、比較的小さめな蔵王権現像や懸仏などが展示されています。蔵王権現像は決まった形があって、振り上げた右手に三鈷杵を持ち、左手は腰の位置で剣印を結び、右脚を高く上げて左脚だけで立ち、忿怒の相で睨みをきかせるというのが典型的な姿だといいます。片脚だけで体を支えるのですから、バランス的にも造形表現的にも難しいんでしょうね。

「藤原道長経筒」(国宝)
平安時代・寛弘4年(1007) 金峯神社蔵(展示は10/4まで)

ここではお経を納めた経箱と経筒があって、2点とも国宝。藤原道長の曾孫・師通が奉納したという経箱は文様や文字など判別がつかないのですが、それより古い藤原道長が奉納したとされる経筒は筒身に陰刻された願文や蓋に刻まれた梵字は割とはっきり分かります。

源慶 「蔵王権現像」(重要文化財)
鎌倉時代・嘉禄2年(1226) 如意輪寺蔵(展示は9/23まで)

中央の<展示室4>は金峯山寺、如意輪寺、櫻本坊のそれぞれゆかりの仏像が並びます。金峯山寺では、修験道の開祖とされる役行者(えんのぎょうしゃ)の坐像に随従する「前鬼像・後鬼像」がまず目に留まります。前鬼・後鬼は役行者の脇侍なのだそうで、金剛力士や狛犬のように阿形・吽形になっています。

平安時代の作という「釈迦如来坐像」は一材から彫りだされたものとかで、かすかに微笑んだような表情が印象的です。若い僧と老僧が対になっている「阿難立像・迦葉立像」は阿難の若々しさもいいけれど、険しい表情とあばらの浮いた細い体をした「迦葉立像」の写実的な表現が秀逸。「聖徳太子像」もなかなか立派な造りだと感じましたが、なぜに修験道に聖徳太子?

如意輪寺では慶派仏師・源慶による「蔵王権現像」が見事。均整のとれた体躯、立体的な火焔光背や着衣の造形の素晴らしさ。いかにも鎌倉時代の仏像らしい躍動感にあふれた傑作です。

「聖徳太子像」(重要文化財)
鎌倉時代 金峯山寺蔵

櫻本坊では吉野で現存最古の彫像という白鳳仏「釈迦如来坐像」がいい。先日『白鳳展』を観てきた後だけに白鳳仏の姿に惹かれます。8躯の「大峯八大童子立像」は小像ながらもいずれも丸顔で愛嬌のある顔をしていて、楽しげないい仏像。

ここでは二幅の「吉野曼荼羅図」があって、室町時代のものは不明瞭な部分も多いのですが、南北朝時代のものはまだはっきりと色も残っていて、金峯山の宗教空間を曼荼羅化した吉野曼荼羅のおおよその構図がつかめます。

「吉野曼荼羅図」
南北朝時代 金峯山寺蔵

蔵王権現像を線刻した鏡像や立体的に表現した懸仏、また神像なども多く展示されています。鏡像が懸仏に発展し、両方を含めて“御正体”とするとされているそうで。

最後に三佛寺の蔵王権現像。三佛寺には7躯の蔵王権現像がありますが、さすがに正本尊は来ていませんが、残りの6躯が展示されています。いずれも正本尊より古い10~11世紀のものとされ、腕が欠損したものや、造形的にも未熟なところもありますが、修験道成立初期の蔵王権現像の作例として貴重です。中には右腕でなく左腕を上げているものや、両脚で立っているものもあり、 蔵王権現の造像の成立過程を知る上でも興味深いものがあります。

「蔵王権現像」(重要文化財)
平安時代 三佛寺蔵

会場には三佛寺の有名な投入堂の写真が展示されていたり、写真家六田知弘氏による『大峯奥駈』の写真展示や修行の様子がビデオで上映されていたりして、修験道のことを知る手掛かりにもなります。

個人的には見せ方としてももう一工夫できなかったものだろうかと思うところもありますが、蔵王権現像がこれだけ一堂に集まるという展覧会も稀なので、その点では大変興味深い展覧会でした。


【蔵王権現と修験の秘宝】
2015年11月3日(火・祝)まで
三井記念美術館にて


月刊目の眼 2015年10月号 (特集 山の神仏)月刊目の眼 2015年10月号 (特集 山の神仏)

2015/01/17

雪と月と花 -国宝「雪松図」と四季の草花-

三井記念美術館で『雪と月と花 -国宝「雪松図」と四季の草花-』を観てきました。

三井記念美術館のお正月といえば、円山応挙唯一の国宝「雪松図屏風」の公開。今年はその「雪松図」に合わせ、“雪月花”をテーマに作品を選び集めています。

会場の作品にはそれぞれに、雪をテーマにした作品だったら“雪”のマーク、月だったら“月”のマーク、松だったら“松”のマークが付けれていたりします。

<展示室1>から<展示室3>までは茶道具。
国宝の「志野茶碗 卯花墻」や茶道具の取り合わせ、また“雪月花”と関係の深い茶道具が並びます。

茶碗や竹花入といった茶道具には“銘”が付けられていますが、ここでも「雨後の月」や「淡雪」といった風情のある“銘”を付けられた茶道具が多くありました。

「残雪」と名付けられた平茶碗があって、平茶碗は夏の茶碗だそうですが、残雪を感じさせる白の平茶碗を使うことで暑い夏に涼しさを演出しようとしたのでしょうか。夏に残雪を愛でるとは、なんとも風流ですね。

「粉引茶碗 銘残雪」
朝鮮時代・16世紀 三井記念美術館蔵

<展示室4>は絵画。
広い展示室の正面中央には応挙の「雪松図屏風」。何度か拝見している作品ですが、こうして正面にドーンと置かれるとやはり見応えあるし素晴らしい。数ある応挙の作品の中でこれが最高傑作かというと異論があるのも事実ですが、国宝という名にふさわしい日本を代表する美しさと格調をそなえた作品であることは誰もが認めるところでしょう。

円山応挙 「雪松図屏風」(国宝)
江戸時代・18世紀 三井記念美術館蔵

面白かったのは抱一の「秋草に兎図襖」。風になびく秋の草花と真っ白な兎、そして右上にはうっすらとした朧月という取り合わせで、へぎ板の地を秋風に見立てていて秀逸。相変わらず洒落ています。

展示室入ってすぐのところにあった応挙の門人・山口素絢の「雪中松に鹿図屏風」や、同じく円山派の川端玉章の「東閣観梅・雪山楼閣図」もいい。玉章はほかにもいくつか出ていたのですが、玉章が10歳で三井家に年季奉公にきてたとは知りませんでした。そうした縁もあって、作品を多く所蔵しているのですね。

個人的には大好きな沈南蘋の「花鳥動物図」(11幅之内5幅展示)が出ていたのが嬉しい。それぞれ季節の花や実と鳥や猫といった動物の組み合わせで、さすが超絶技巧の描写力と鮮やかな色彩が素晴らしい。解説で赤い実をスモモとしていたのがありましたが、あれはライチじゃないでしょうか。ライチと白い鸚鵡の組み合わせは恐らく楊貴妃のつながりじゃないかと思いました。若冲もライチやランブータンなどを描いているので、沈南蘋が描いて何の不思議もありませんし。

酒井抱一 「秋草に兎図襖」
江戸時代・19世紀 三井記念美術館蔵

つづく<展示室5>、<展示室7>には、土佐光起の「四季草花図色紙」や、同じく光起の「水辺白菊図」、応挙の「富士山図」をはじめ、蒔絵の硯箱や茶箱、文台、また襖絵や能装束、さらには何とも素敵な「唐物竹組大茶籠」など、“雪月花”を材に取った作品が並びます。

“雪月花”といえば日本の伝統的な美の象徴。絵画や浮世絵、工芸品や茶道具までさまざまなところで“雪月花”をあしらうことで、季節を感じ、自然を思い、そこに美を見出していたのだなと感じるお正月らしい展覧会でした。


【雪と月と花 -国宝「雪松図」と四季の草花-】
2015年1月24日まで
三井記念美術館にて


もっと知りたい円山応挙―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)もっと知りたい円山応挙―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)

2014/10/19

東山御物の美

三井記念美術館で開催中の『東山御物の美 -足利将軍家の至宝-』を観てまいりました。

展示替えが多く、また非常に貴重な作品が多いためか、1週間ぐらいしか展示されないものもあるため、まずは第一週目を押さえておかねばと、会社を少し早めに離脱し、いそいそと出かけて参りました。

“東山御物”は足利将軍家が蒐集した唐物(主に宋、元、明時代の美術品)コレクションで、当時の幕府や宮廷の憧憬の的であり、室町文化、延いては日本的なものの基礎となり、その後につづく桃山・江戸時代の美の規範として高く評価されてきました。

本展では、鑑蔵印や史料により、足利将軍家が所有していた“東山御物”と伝わる絵画や美術工芸品を中心に紹介したもので、国宝12件、重要文化財28件を含む106件が出品されています(作品により展示期間があります)。


会場は、青磁や漆器など工芸品と絵画が半々ぐらいでしょうか。展示室1・2では、茶器や青磁、蒔絵の硯箱や香箱などを展示。重文の「春日山蒔絵硯箱」や「物かは蒔絵伽羅箱」が見事。東京国立博物館所蔵で、先日まで根津美術館の『名画を切る、名器を継ぐ』にも出品されていた青磁の「馬蝗絆」もこちらに移動しています。

ここでの見ものは国宝の油滴天目茶碗で、漆黒に輝く金の斑紋がまるで小宇宙のよう。

「油滴天目」(国宝)
南宋時代・12~13世紀 大阪市立東洋陶磁美術館

茶室「如庵」の展示ケースでは、東山御物の品々による書院造りを再現しています。

つづく展示室4は中国絵画。
白眉は李迪の「雪中帰牧図」と「紅白芙蓉図」。李迪は南宋時代前期の画院画家。描写の巧みさは南宋画院画家で随一といいます。「雪中帰牧図」は一つ一つの筆づかいがとても丁寧で、また凍てつく雪景の中にも人間と牛の温かな関係が伝わってきます。左幅は弟子筋が描いたという説がありますが、素人にはその違いは分かりません。「紅白芙蓉図」は花全体は裏彩色で象られ、花弁の先などを表から色を付けているとのこと。その微妙な色の諧調の繊細な表現には釘付けになります。

李迪 「雪中帰牧図」(国宝)
南宋時代・12~13世紀 大和文華館蔵 (展示は10/26まで)

李迪 「紅白芙蓉図」(国宝)
南宋時代・慶元3年(1197)款 東京国立博物館蔵 (展示は10/13まで)

男装の官女を描いた「官女図」はその抒情的な佇まいがまた印象的。馬麟と伝わる対幅の「梅花双雀図」と「梅花小禽図」も趣きがあり良い。ともに現在は所蔵先が異なり、並べて観ることのできるまたとない機会です。

(伝)銭選 「官女図」(国宝)
元時代・13~14世紀 (展示は10/19まで)

梁楷の「六祖截竹図」と「六祖破経図」も二幅対が揃って観られます(2週目から)。梁楷は国宝の「出山釈迦・雪景山水図」も出ていますが、個人的には減筆体の「六祖破経図」や表情豊かな「布袋図」や「寒山拾得図」、「豊干図」が好きですね。

ほかにも夏珪と伝わる「松下眺望図」が秀逸。典型的な山水人物画ですが、遠山を眺める高士の物語が見えるようです。南宋院体画を観ていると、こうした東山御物なくして室町水墨画は興りえなかったと痛感するし、梁楷や夏珪の山水画なんて狩野派にどれだけの影響を与えたのかがよーく分かります。

左:梁楷 「六祖截竹図」(重要文化財)
南宋時代・13世紀 東京国立博物館蔵(展示は10/14~)
右:(伝)梁楷 「六祖破経図」
南宋時代・13世紀 三井記念美術館蔵

つづく展示室5では青磁の花瓶や香炉、また漆器の香箱や盆など。見事な二段彫りの「牡丹文堆朱盆」や深彫で立体的に掘り出した「独釣文堆黒輪花盆」が特に目を惹きました。

最後の展示室7は再び絵画。
牧谿が多くて、私が観に行った第一週目だけでも4点。別名「鼻毛の老子」という「老子像」がインパクト大。後半には代表作の「瀟湘八景図」が出品されます。「漁村夕照」は根津美術館の『名画を切る、名器を継ぐ』に出品されていたもの、「遠浦帰帆図」も京博の『京へのいざない』に出品されたいたものが、それぞれ本展に場所を移し再展示されます。

牧谿 「瀟湘八景図 漁村夕照」(国宝)
南宋時代・13世紀 根津美術館蔵(展示は11/18~)

牧谿 「瀟湘八景図 遠浦帰帆図」(重要文化財)
南宋時代・13世紀 京都国立博物館蔵(展示は11/4~11/16)

ほかに、陸信忠という南宋の画家の「十六羅漢図」が色鮮やかかつ濃厚で、なかなか面白い逸品。高麗仏画の「水月観音図」のクオリティの高さにも舌を巻きました。実は今回の展覧会で一番感動したのはこの作品だったりします。

狩野元信(実際には元信周辺の狩野派らしい)と伝わる新出の「養蚕機織図屏風」も素晴らしい。梁楷の画巻を相阿弥が模写し、それを元信が模写した作品とのこと。今は所在不明という梁楷の作品がどんなものだったのか気になります。

徽宗 「桃鳩図」 (国宝)
北宋時代・大観元年(1107)款 (展示は11/18~)

この時代の中国絵画は展覧会などでまま観るが、ここまでまとまって、しかも良質の作品を観られる機会はそうはありません。会期最終週には徽宗の傑作「桃鳩図」も特別出品されます。


【東山御物の美 -足利将軍家の至宝-】
2014年11月24日まで
三井記念美術館にて


聚美 vol.13(2014 AUTUMN 特集:東山御物の魅力聚美 vol.13(2014 AUTUMN 特集:東山御物の魅力


中国絵画入門 (岩波新書)中国絵画入門 (岩波新書)

2013/05/18

河鍋暁斎の能・狂言画

日本橋の三井記念美術館で開催中の『河鍋暁斎の能・狂言画』展に行ってきました。

河鍋暁斎というと、6歳で歌川国芳に入門したとか、生首を拾って写生して周りの大人を気味悪がらせたとか、“らしい”エピソードに富み、またその画風も奇抜だったり、グロテスクだったり、どちらかというとアクの強いものが多い印象があります。

そんな暁斎ですが、実は狂言(大蔵流)を幼少の頃から嗜んでいたとかで、素人ながら舞台に立ったこともあるという意外な一面を持っていて、浮世絵や狂画、幽霊画など以外にも能や狂言を題材にした作品も多く残しているのだそうです。本展は、そうした暁斎の隠れた一面にスポットを当てた展覧会になっています。

さて、館内に入ってすぐの、回廊のような<展示室1>には、河鍋暁斎の能・狂言の関わりが伝わってくる画帖や錦絵、能の免状などが展示されています。

暁斎は藩士の家に生まれたからか、能や狂言など武家の文化や教養を幼くして躾けられていたそうです。暁斎が片や国芳からの影響を受けながらも、狩野派の技法も身につけていることは割と知られたことですが、暁斎の能・狂言画はさらに異なる領域というか、新たな魅力を再発見した気持ちにさせられます。

河鍋暁斎 「猿楽図式 船弁慶」
河鍋暁斎記念美術館蔵

河鍋暁斎 「猩々図扇面」
太田記念美術館蔵(展示は5/19まで)

真ん中の一番広い<展示室4>には、≪舞台を描く≫と題し、能・狂言を描いた掛け軸や屏風などが展示されています。個人的に好きだったのは、双幅の「十二ヶ月年中行事図」(展示は5/19まで)で、各月の動植物や風俗を1月から6月までを暁斎が、7月から12月を娘で絵師の暁翠が描いています。暁斎と娘・暁翠の画風はやはり似ているのですが、暁斎の絵にはどこか遊び心が潜ませてあったりして、余裕だなと感じます。そのほか、狂言の瓜盗人を即席で描いた席画が展示されていて、即妙な筆から瓜盗人のおかしみがじわじわと伝わってきます。

河鍋暁斎 「猩々図屏風」
千代田区立日比谷図書文化館蔵 (展示は5/19まで)

「能・狂言扇面貼交屏風」(展示は5/19まで)や「能・狂言画聚」など、能や狂言の一場面を描いた作品も印象的でした。やはり狂言を習っていただけあり、絵から動きが伝わってくるというか、その動きに説得力があります。ただの抜き書きではない物語が感じられるという点では、並みの能・狂言画とは異なると強く感します。

河鍋暁斎 「山姥図]
東京国立博物館蔵 (展示は5/12まで)

本展での白眉は東博所蔵の「山姥図」で、暁斎らしい濃厚な色遣いと細密な表現が非常に冴えた一枚です。山姥という一般的に妖怪とも鬼ともされる題材を、敢えて子を守る母親として描き、母性を前面に出しているという点でも印象的でした。

河鍋暁斎 「道成寺図(鐘の中)下絵」
河鍋暁斎記念美術館蔵

<展示室5>には≪迫真の下絵≫と題し、暁斎の下絵や素描が多く展示されています。「道成寺図(鐘の中)下絵」は、実際の完成作がどんな絵に仕上がっているのか分かりませんでしたが、道成寺の鐘の中でシテが装束替えを行うところを描いた下絵。鐘の中に灯り(蝋燭)や道具入れ(?)があったり、鬼の面を鏡で覗いたりという、普段見られないところを描いているというのがとても面白かったです。

河鍋暁斎 「狂斎漫画辻文板 狂言末広狩」
河鍋暁斎記念美術館蔵

最後の<展示室7>には、版本や版画になった能・狂言画が展示されています。歌川芳虎との合作「東海道名所之内」で能の舞台を描いた作品や「狂斎漫画」などが展示されていました。

暁斎の毒々しい感じはほとんどなく、そうした向きや、能や狂言にあまり興味のない方にはもしかしたら面白みに欠けるかもしれませんが、暁斎の確かな腕とレンジの広さを思い知ること必至の展覧会です。これまで暁斎に抱いてたイメージが覆されました。


【河鍋暁斎の能・狂言画】
2013年6月16日(日)まで
三井記念美術館にて


もっと知りたい河鍋暁斎―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)もっと知りたい河鍋暁斎―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)


河鍋暁斎―奇想の天才絵師 (別冊太陽)河鍋暁斎―奇想の天才絵師 (別冊太陽)

2012/09/29

近江路の神と仏 名宝展

三井記念美術館で開催中の『近江路の神と仏 名宝展』に行ってきました。

隣の京都や奈良に比べて、じみ~な印象のある近江ですが、かつて天智天皇により近江宮(大津宮)として都が置かれたように、古くから開け、宗教を基盤とした文化が根付いた土地でした。

近江の古社寺に伝えられた秘仏や名宝がここまで一堂に会した展覧会は、東京では初めてだそうです。延暦寺、園城寺(三井寺)、石山寺など42の社寺から、仏像、神像、仏画、垂迹画、絵巻物、経巻、工芸品など、国宝6点、重要文化財56点、滋賀県指定文化財21点を含む約100点の名宝が出品されています。

会場に入ると、まずは奈良時代の仏像がお出迎え。

近江で最も古い仏像は飛鳥時代のもので、石山寺の本尊如意輪観音像の体内に厨子に納められていた小金銅仏の内の一体の如来立像だそうです。その次の時代にあたる白鳳・天平時代のもので現存するものは数例を数えるに過ぎないとのことですが、本展にはその白鳳・天平の貴重な仏像の内、3体が展示されています。

「誕生釈迦仏立像」(重要文化財)
奈良時代 善水寺蔵

善水寺の「誕生釈迦仏立像」は8世紀後半の作とされ、奇跡的にも鍍金がきれいに残っています。同じコーナーに展示されていた報恩寺の「観世音菩薩立像」はさらに古く、7世紀の作と考えられ、トーハクの法隆寺宝物館に展示されている金銅仏のような神秘的な仏像でした。

<展示室1>には、ほかに平安・鎌倉時代の華鬘や梵音具、密教法具などの仏教金工品が展示されています。

「金銅経箱」(国宝)
平安時代 長元4年(1031年) 延暦寺蔵

<展示室2>には、延暦寺に伝わる国宝「金銅経箱」が展示されていました。藤原道長の娘・藤原彰子(上東門院)が書写した法華経を入れた経箱といわれ、大正時代に発掘されたものだそうです。平安時代の金工品の最高傑作といわれているだけあり、1000年以上前のものとは思えないほど細緻で美しい作品でした。

「如意輪観音半跏像」(重要文化財)
平安時代 石山寺蔵

三井記念美術館で一番広いスペースの<展示室4>は仏像のコーナー。ずらりと並ぶ21体(展示期間によって異なります)の仏像はまさに圧巻。ちょっと窮屈そうなぐらいです。仏さま、わざわざ東京にまで来ていただいたのに、狭い思いをさせてすいません。

展示室はコの字型になっていて、まず石山寺の焼失した旧本尊の御前立尊と伝えられる「如意輪観音半跏像」や、インドのシヴァ神の化身である戦闘神のイメージを反映した“武装大黒天”の最古の作例とされる明寿院の「大黒天半跏像」(展示は10/28まで)などが並びます。

「十一面観音立像」(重要文化財)
平安時代 飯道寺蔵

「千手観音立像」(重要文化財)
平安時代 葛川明王院蔵

近江の仏像といえば、白洲正子や井上靖らの著作でも紹介された近江の観音信仰による十一面観音菩薩像が有名ですが、本展ではそうした仏像の中から4体の十一面観音立像が展示されています。いずれも一本造りの素朴な雰囲気の仏像で、ふっくらとした柔和な顔立ちが印象的です。やはりこうした地元に根付いた仏像は現地で観ることができれば最高でしょうね。

その隣には、葛川明王院の「千手観音立像」が。面差しは穏やかで、体躯は量感豊か。都風の洗練された千手観音像とは少し違って、優美さの中にも親しみやすさを感じる仏像でした。

栄快 「地蔵菩薩立像」(重要文化財)
鎌倉時代 延長6年(1254年) 長命寺蔵

本展での一番の(個人的な)オススメがこの栄快の「地蔵菩薩立像」。表情は厳しいながらも凛としていて、また衣文も柔らかく写実的で、全体的にスマートで美しい地蔵菩薩です。放射光背や左手にのせた水晶の宝珠も造像当時のものとのこと。栄快の詳細は不明ですが、快慶の弟子筋にあたる慶派仏師の一人と考えられていて、東大寺でも地蔵菩薩立像を造像していることが記録から分かっていますが、現存するものは本像のみということでした。

「薬師如来坐像」(重要文化財)
鎌倉時代 西教寺 (展示は10/28まで)

大津・西教寺の秘仏とされる「薬師如来坐像」も本展の見ものの一つ。もともとは白河天皇が建立した京都の法勝寺に祀られていたものと伝えられているそうで、鎌倉時代初期の慶派仏師の手になる作品と考えられていて、運慶あるいはその周辺で造られた可能性が指摘されています。安定感のあるしっかりとした体躯の坐像に、厳かな面差しと流麗な衣文線。静かで落ち着いた中にも深みを感じさせる仏像です。

快慶 「大日如来坐像」(重要文化財)
鎌倉時代 石山寺蔵

石山寺の多宝塔の本尊として安置されている「大日如来坐像」は快慶初期の作例とのこと。均整のとれた美しいプロポーション、細部まで行き届いた造形美、高く結い上げた印象的な宝髻と肩にかかった髪。さすが快慶と思わずにはいられない見事な仏像です。

「女神坐像」(重要文化財)
平安時代 建部大社蔵

<展示室5>には、男神像と女神像が展示されています。神像は神道における“神”をかたどったもの。「女神坐像」は古代の神というより、まるで貴族の女性の姿のようで、着物の袖で口を隠す様子に女性らしい上品さが感じられます。

土佐光茂 「桑実寺縁起」(重要文化財)
室町時代 桑実寺像

同じスペースには、天智天皇の第四皇女・阿閇姫(のちの元明天皇)の病気平癒を祈願して建立したと伝えられる桑実寺の起源や霊験を表した絵巻「桑実寺縁起」と、県指定文化財の「紺神金字妙法蓮華経」も展示されています。

「如意輪観音像」(重要文化財)
鎌倉時代 法蔵寺蔵 (展示は9/30まで)

<展示室7>は、仏教画や垂迹画など全39幅が三期に分けて展示されます。ということは1回観に行っただけでは13幅しか観られないんですね…。自分が伺った前期展示(9/30まで)の中では、聖衆来迎寺の「六道絵」(畜生道図)や法蔵寺の「如意輪観音像」、園城寺の「多聞天像」、浄厳院の「阿弥陀聖衆来迎図」が特に印象に残りました。

とりわけ国宝「六道絵」の内の「畜生道図」には、こき使われる牛馬や鵜飼、闘鶏など畜生たちの苦しみが描かれていて、猟師が猪を追い、猪は蛇を捕え、蛇は蛙を押さえ、猟師の背後に鬼が忍び寄るといった描写には、人間も償いや感謝の気持ちを忘れると畜生に落ちるぞと戒めているようです。「六道絵」は全15幅からなり、本展ではその内の「畜生道図」「譬喩経説話図」「等活地獄図」の3幅が三期に分けて展示されます。これだけでもかなりの見ものです。

地味とはいえ、近江仏や仏教絵画の優品が揃っており、展示替えのことを考えると、一回だけでは観たりない感があり、また足を運びたいと思います。


【琵琶湖をめぐる近江路の神と仏 名宝展】
2012年11月25日(日)まで
三井記念美術館にて


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