2014/01/19

木島櫻谷展

泉屋博古館分館で開催中の『木島櫻谷展 -京都日本画の俊英-』に行ってきました。

昨年、先に京都の泉屋博古館で開催され、ツイッターやNHKの日曜美術館などでその評判を目にし、ぜひ拝見したいなと思っていた展覧会です。

木島櫻谷(このしま おうこく)は、明治・大正・昭和と活躍した京都画壇を代表する画家の一人で、一時は竹内栖鳳と人気を二分したともいいます(年齢的には栖鳳の一回り下にあたります)。

本展は櫻谷の作品を <青年期> <壮年期>に大きく分け、各時代の代表作を展示しているほか、泉屋博古館が住友財閥の蒐集した美術品を展示する美術館ということで、住友家ゆかりの櫻谷作品を紹介。東京では初の櫻谷展なのだそうです。


青年期

櫻谷は公家に茶道具や調度品を納める商家に生まれ、16歳の頃、京都画壇の大家で円山四条派の今尾景年のもとに弟子入りしたといいます。(余談ですが、今尾景年の作品は東京国立博物館や山種美術館で拝見していますが、前々から個人的に気になっていて、一度まとめて作品を観たいところです。)

木島櫻谷 「奔馬図」
明治時代

会場を入ってすぐのところで出迎えてくれたのが、櫻谷27~28歳の頃の作品という「奔馬図」。「奔馬図」は、円山応挙が生み出したという没骨技法で、墨の濃淡を一筆で表現する付立(つけたて)で描かれています。迷いのない筆の勢いと的確な描写力。午年ということでの展示なのでしょうが、馬の生き生きとした躍動感が伝わる逸品です。

櫻谷は円山四条派が得意とした花鳥画や山水画、動物画から、歴史画まで幅広いレパートリーを持っていたといいます。どうも歴史画は好きだったようで、「剣の舞」や、夭折した弟の草稿をもとに仕上げたという「一夜の夢」など腕の良さを感じさせる作品がありました。

木島櫻谷 「咆哮」
明治35年(1902年) 石川県立美術館蔵 (展示は1/26まで)

木島櫻谷 「和楽」
明治42年(1909年) 京都市美術館

そうした中で、櫻谷の技量、面白さが一番出ているのが動物画で、四条派の伝統的な写生力、天性の観察眼と表現力は卓越したものがあるなと感じます。「咆哮」は逃げ惑う鹿の群れと追う虎を描いた作品で、虎は素早い筆致で大胆かつ技巧的に、鹿はより写実的で丁寧に描き分けています。櫻谷のズバ抜けた巧さが良く分かり、非常に素晴らしいものがありました。こうした颯爽とした筆さばきは30代前半頃までの特徴だそうです。

一転、「和楽」の穏やかな農村の風景と、のんびりとした牛の描写も秀逸。

木島櫻谷 「寒月」
大正元年(1912年) 京都市美術館蔵 (展示は1/11~1/19、2/1~2/16)

櫻谷の代表作の一つがこの「寒月」で、夏目漱石が酷評した絵としても知られています。昨年、東京藝術大学美術館で開かれた『夏目漱石の美術世界展』でも紹介されていたのですが、後期展示だったため未見で、今回初めて目にすることができました。漱石は不愉快だと語っているようですが、竹林の黒さと雪の白さのコントラストが美しく、モノクロームの世界はモダンな様式美さえ感じさせます。竹は竹の、雪は雪の、下草は枯れ草の、狼の毛は獣の、そうした物体の質感が伝わってきます。よく見ると下草は墨に黒青色を重ねていたり、とても繊細に表現しています。

木島櫻谷 「しぐれ」
明治40年(1907年) 東京国立近代美術館蔵 (展示は1/21~2/9)

2期と3期には「寒月」に代わり、櫻谷の代表作「しぐれ」が展示されます。


壮年期

30代後半以降の作品は、西洋絵画の影響を受けているのか、顔料を厚く塗るなど油彩画のような筆致を見せ、より精緻で端正な作風に変化を遂げます。

「葡萄栗鼠」は葉を付立で描きつつも重ね塗りして質感を加え、リスは写実的に毛の一本一本まで丁寧に描くなど独自の試みがされています。「獅子」はまるで油彩画のような精緻な描写で、栖鳳の獅子の絵を思わせる力強さとリアルさがあります。

木島櫻谷 「葡萄栗鼠」
大正~昭和時代

木島櫻谷 「獅子」
大正~昭和時代 櫻谷文庫蔵

動物画ではほかに、草陰から顔を覘かせるタヌキのとぼけた顔がかわいい「月下老狸」や、毛の粗さと細密な頭部の描写が素晴らしい「野猪」が印象的。櫻谷の動物画はどれも表情に感情が出ているというか、目が何かを語っているというか、ここまで動物の内面を描き出す画家もそうはいないと思います。

木島櫻谷 「画三昧」
昭和6年(1931年) 櫻谷文庫蔵 (展示は1/26まで)

昭和に入ると櫻谷は画壇から一定の距離を取るようになり、静かに制作活動に専念する生活を送ったといいます。「画三昧」はそうした櫻谷自身を描いたものとかで、絵を描き終えたところなのでしょうか、何かの境地に達したような、どこか恍惚とした表情が印象的です。

この時期の作品で良かったのが、南画の影響を感じさせる「幽渓秋色」(参考出品)や 「峡中の秋」で、特に「峡中の秋」は晩秋の山や樹木の色彩、山肌の質感に熟達した技量が遺憾なく発揮されています。

木島櫻谷 「峡中の秋」
昭和8年(1933年) 櫻谷文庫蔵 (展示は1/26まで)


四季の金屏風

展示室2では、住友家の邸宅を飾った櫻谷の作品が展示されています。櫻谷曰く琳派風とのことですが、琳派というより応挙の「雪松図屏風」を思い起こさせる「雪中梅花」や、華麗で典雅な「柳桜図」、光琳の屏風を再現した「燕子花図」、伊年あたりの草花図屏風を彷彿させる「秋草図」など、どれもとても華やか。このあたりは大正時代の琳派ブームの影響もあるのでしょう。ここまで金屏風が集まると壮観です。

木島櫻谷 「柳桜図」
大正6年(1917年) 泉屋博古館分館蔵

個人的な好み、評価もあると思いますが、私自身は明治から大正にかけての作品は筆勢が生む息づかいと天性の表現力があって特に面白いと感じました。会場のホールに「まぼろしの優品」という写真パネルがあり、どれもみんな素晴らしい屏風ばかりで、これがまた驚きでした。震災や戦災で失われたり、海外流出だったり、行方不明だったりということなんでしょうか。櫻谷の代表作の「若葉の山」もあって、こうした作品が観られないことはつくづく残念だなと思いました。


【木島櫻谷展 -京都日本画の俊英-】
2014年2月16日まで
泉屋博古館分館(東京・六本木)にて

2014/01/15

Kawaii 日本美術

山種美術館で開催中の『Kawaii 日本美術 -若冲・栖鳳・松園から熊谷守一まで-』に行ってきました。

無邪気な仕草や表情が微笑ましい子どもや、身近な存在である犬や猫をはじめとする動物、鳥、虫などを描いた、思わず「かわいい!」と声を上げたくなるような作品を集めたといいます。

去年、府中市美術館で似たような展覧会がありましたので、なんでまた?対抗意識?とも思いましたが、府中ともまた違った、山種美術館の所蔵作品を中心とした独自のラインナップなのだろうと期待し、正月早々、開催初日に伺ってまいりました。

会場に入ってすぐのところに待ち構えていたのが、チラシにも使われている若冲の「伏見人形図」。プライス・コレクションにも同題のものがありますが、図録で写真を比べても全く一緒ですね。ほかに個人蔵の「伏見人形図」もあって、数年前の千葉市美術館の『伊藤若冲 アナザーワールド』に出てたのはこちらのようです。余程人気があっていくつも描いたのでしょう。

伊藤若冲 「伏見人形図」
1799年(寛政11年) 山種美術館蔵 

となりには芦雪と伝わる「唐子遊び図」。古くから高士たちのたしなみといわれる琴棋書画を子どもの遊びに見立てて描いた作品です。師匠・応挙の言うことを聞かない芦雪。言うことを聞かなくてもこれだけ見事な作品を描けるのだからすごいものです。

伝・長沢芦雪 「唐子遊び図」(重要美術品)
18世紀(江戸時代) 山種美術館蔵 

子どもを描いた作品の中では、伊藤小坡の「虫売り」、奥村土牛の「枇杷と少女」、松園の「折鶴」あたりが印象的でした。

上村松園 「折鶴」
1940年(昭和15年)頃 山種美術館蔵 

奥村土牛 「枇杷と少女」
1930年(昭和5年) 山種美術館蔵 

その中でとりわけ面白かったのが、川端龍子の「百子図」で、戦後インドから上野動物園に贈られた象・インディラと子どもたちを描いた作品です。戦争で動物のいなくなった上野動物園に象が欲しいという子どもたちの願いと、象が子どもたちと一緒に行進して動物園にやってきたというエピソードに触発されて描いたといいます。平和の象徴のように象を取り囲む子どもたちとは裏腹に象の目が怖い(笑)という龍子らしいインパクトのある作品です。

川端龍子 「百子図」
1949年(昭和24年) 大田区立龍子記念館 

動物を描いたものとしては、京狩野派の狩野永良の「親子犬図」が個人的にとても興味を引きました。狩野派的な動物画というより中国絵画的な写生画という趣きですが、じゃれあう仔犬たちを囲むアットホームな雰囲気の中にも仔を守らんとする親犬の緊張感もあり、永良の画技の確かさを感じさせます。

狩野永良 「親子犬図」
18世紀(江戸時代) 静岡県立美術館蔵 (展示は2/2まで)

山種美術館の展覧会だけあり、栖鳳や土牛、川合玉堂、安田靫彦、堂本印象、西山翠嶂などのお馴染みの面々の作品が並びます。山種美術館所蔵作品の中では、福田平八郎の「桐双雀」が一番好きでした。

竹内栖鳳 「みゝづく」
1933年(昭和8年)頃 山種美術館蔵 

サントリー美術館から借りてきたお伽草子の絵巻も2点。老夫婦が育てた娘が猿にさらわれてしまうという「藤袋草子絵巻」と、子どもを亡くした雀が出家するという「雀の小藤太絵巻」で、一昨年サントリー美術館で開催された『お伽草子展』にも出展されていたものです。この素朴さとユーモラスな動物の描写がたまらなくカワイイですね。

「藤袋草子絵巻」
16世紀(室町時代) サントリー美術館蔵 

ほかに、若冲の「托鉢図」は初めて観たと思うのですが、若冲らしいユニークな筆致で、なんとも楽しい。お坊さん一人一人の表情に味があって、思わず笑ってしまいます。

伊藤若冲 「托鉢図」
1793年(寛政5年)(展示は2/2まで)

第二会場では近現代の作品を中心に展示。その中でも熊谷守一と谷内六郎の作品が複数点展示されていて、そのほのぼのとしたタッチに思わずほっこりとした気持ちになります。

谷内六郎 「にっぽんのわらべうた ほ ほ ほたるこい」
1970年(昭和45年)頃 

正直、この絵のどこがカワイイの?みたいな、ちょっとビミョーな絵もなくはありませんでしたが、企画の主旨からしても難しく考えて観るような作品はなく、楽しい気分、優しい気持ちにさせてくれるような展覧会だと思います。


【Kawaii 日本美術 -若冲・栖鳳・松園から熊谷守一まで-】
2014年3月2日(日)まで
山種美術館にて


谷内六郎 昭和の想い出 (とんぼの本)谷内六郎 昭和の想い出 (とんぼの本)


熊谷守一―気ままに絵のみち (別冊太陽)熊谷守一―気ままに絵のみち (別冊太陽)


かわいい江戸絵画かわいい江戸絵画

2014/01/13

百物語 第三十一夜


岩波ホールで白石加代子の『百物語 第三十一夜』(第96話・第97話)を観てきました。

『百物語』は毎回観てるわけではありませんし、しばらくぶりなのですが、今回は成瀬巳喜男が映画化もした林芙美子原作の『晩菊』と、山田五十鈴のあたり役として知られ、歌舞伎でも中村勘三郎が復活させ話題になった『狐狸狐狸ばなし』という、映画ファンの食指も動く2本立て。岩波ホールの公演は2日だけ。しかも席数も少ないので、いつも激戦。なんとかチケットを確保し、観に行って参りました。

まずは『晩菊』。ちょうど成瀬の映画の、元芸者の杉村春子と彼女のもとを訪れる昔の恋人・上原謙との場面にあたります。舞台では白石加代子が一人二役で演じます。

容色も衰えた元芸者の女のもとに昔恋仲だった年下の男から電話が入ります。懐かしい恋人に会えるということで、急いで肌を整えたり化粧をしたりと、まるで若い娘のように嬉々とする姿がかわいい。しかし、男にかつての輝きはなく、実はお金を借りに来たことを知り、一気に気持ちが醒めてしまいます。そうした女性の恋心の機微を繊細に表現し、知らず知らず白石ワールドに引き込まれていきます。

映画では彼女が金貸しで、折角会えた男もお金のことで訪ねて来たのかと落胆しますが、原作には金貸しの件はなく、舞台はあくまでも老境を迎えた女と、事業が失敗し年齢以上に老け込んだ男の心理描写をいかに演じ分けるかにかかってます。ただ、まだ練り上げ不足だったのか、白石さんも珍しく台詞を何度か噛んだり、少し淡々としたところもあり、ラストは原作通り(映画版とは異なる)なのですが、いまひとつパッとしませんでした。幕が下りて始めて芝居が終わったことを分かった人もいたようです。まぁ、まだ公演2日目だったので、このあたりはもっと良くなることでしょう。

20分の休憩を挟んで次は『狐狸狐狸ばなし』。もとは山田五十鈴、森繁久彌、三木のり平、十七世中村勘三郎という超豪華な役者が揃い、大ヒットした舞台。当時は歌舞伎でも山田五十鈴を主演に迎え、舞台化もされてるんですね。

こちらは一人五役の大奮闘。白石加代子の“らしさ”が出て痛快です。舞台中央の座卓を前に語るだけの『晩菊』と違って、舞台を縦横無尽に動き回る忙しさ。登場人物はもちろん声色で演じ分けるのですが、着物を左右に片袖ずつ通して、誰なのか目でも分かるような工夫もされていました。演じてる本人や裏方さんは大変そうでしたが、観てる私は存分に笑わせてもらいました。

岩波ホールでの百物語の公演はこの日が最後の舞台とのことで、カーテンコールで挨拶された白石さんもとても感慨深げでした。だって第一回公演から岩波ホールなんですもんね。朗読劇を観るには岩波の大きさ(小ささ)はちょうど良かったんですけど…。

次回はいよいよ最終夜。100話すると何かが起こるんで99話でおしまいにしますって。


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2014/01/11

大浮世絵展

江戸東京博物館で開催中の『大浮世絵展』に行ってきました。

開催2日目に観てきたのですが、まだ三が日ということもあり、館内は朝から大変な人出で、とても賑わっていました。

本展は国際浮世絵学会の創立50周年を記念する展覧会で、実は東日本大震災のため開催が延期になっていた展覧会なのだそうです。

その大仰なタイトルのとおり、浮世絵の創世記から昭和に至るまで、浮世絵を代表する名作・傑作約430点(会期中入れ替えあり)が展示されるという過去最大規模の浮世絵展。国内の美術館や個人蔵の作品だけでなく、大英博物館やホノルル美術館など浮世絵コレクションで知られる海外の美術館からも作品が集められ、まさしく浮世絵の「教科書」のような展覧会でした。


1章 浮世絵前夜

まずは浮世絵の源流といわれる江戸時代初期の風俗画から観ていきます。初期風俗画の代表作である国宝「彦根屛風」や岩佐又兵衛派のものとされる作品が展示されていました。

「風俗図屏風(彦根屏風)」 (国宝)
彦根城博物館蔵 (展示は1/14まで)

今回初めて「彦根屏風」を拝見しました。よく取り上げられる屏風右手の人物のポーズや着物の柄など風俗画としての面白さはもちろんですが、左手に描かれている水墨画の屏風の精緻さや三味線を弾く男性の巧みな描写など観るべき箇所も多く、聞きしに勝る傑作でした。


2章 浮世絵のあけぼの

ここでは初期の浮世絵を展示。版画は庶民でも手に入れることのできる身近な絵画として人気を集め、急速に広まったといいます。最初は単色の墨摺絵で単純な構図だったものが、紅絵、丹絵、紅摺絵とだんだんと色数も増え、手の込んだ絵柄が編み出されて行く過程が展示品からよく分かります。

奥村政信 「羽子板をもつ八百屋お七」

最初の浮世絵師といわれる菱川師宣、鳥居派の祖・鳥居清信、立美人図で知られる宮川長春や懐月堂安度などの作品が取り上げられています。くの字型の独特の肢体が艶麗な長春の「立美人図」や奥村政信の掛物絵の「羽子板をもつ八百屋お七」、石川豊信の見応えのある大判錦絵「市川海老蔵と鳴神上人と尾上菊五郎の雲の絶間姫」など、初期浮世絵の面白さを堪能できます。


3章 錦絵の誕生

18世紀中頃になると木版多色摺技法が発達。錦絵の誕生です。多いものでは10色以上の色を重ねることも可能になったといいます。ここでは錦絵創始期の第一人者・鈴木春信、勝川春章、礒田湖龍斎などの作品が紹介されています。

鈴木春信 「雪中相合傘」

このコーナーで一番良かったのが春信の「雪中相合傘」。相合い傘の男女の愛おしさ、風情が秀逸です。春章は役者絵に交じっての肉筆美人画「遊女と燕」がひときわ印象的。着物の柄も色味も美しく、素晴らしい出来です。 賛は大田南畝とのこと。

勝川春章 「遊女と燕」
東京国立博物館蔵 (展示は2/2まで)


4章 浮世絵の黄金期

やがて浮世絵は黄金期を迎えます。鳥居清長、喜多川歌麿、歌川豊国、そして東洲斎写楽。ここでは優れた絵師が続々と輩出され、後世に残る傑作が次々と生み出された18世紀後期の作品を展示しています。

鳥居清長 「大川端夕涼」

このコーナーで最初に登場するのが清長。「大川端夕涼」の女性たちは今でいう渋谷辺りをたむろする若い女性といったところでしょうか。左三人は少しヤンキー風、右三人はオシャレ気取り。当時の風俗が垣間見れて面白いです。

鳥居清長 「駿河町越後屋正月風景図」
三井記念美術館蔵 (展示は1/20まで)

「駿河町越後屋正月風景図」は現在の三井、三越のルーツである越後屋の繁盛ぶりを描いた清長の珍しい肉筆画で、遠近法を強調した俗にいう浮絵になっています。

喜多川歌麿 「四季遊花之色香 上下」

喜多川歌麿 「錦織歌麿形新模様 白打掛」
(展示は2/2まで)

歌麿もたくさん。紗の着物の奥に女性の顔を描いたユニークな「四季遊花之色香」や黄つぶし地が美しい「錦織歌麿形新模様 白打掛」、江戸で評判の三美人を描いた「当時三美人」、うりざね顔が美しい「芸妓図」が印象的。珍しい両面摺りの「難波屋おきた」や、面白いところでは「画本虫撰」という虫や植物をスケッチした絵本もありました。

鳥文斎栄之 「略六歌仙喜撰法師」

千葉市美術館やトーハクなどで拝見するたび、いいなぁといつも感心している鳥文斎栄之の美人画も。歌麿の大首絵と拮抗する人気を博した展示の解説にありました。いやぁ、美しい。

東洲斎写楽 「市川鰕蔵の竹村定之進」
(展示は1/14まで)

そして当然、写楽も。写楽は数年前のトーハクの『写楽展』があったからか、出展は少なめ。それでも常時3~4点ほど展示されているようです。


5章 浮世絵のさらなる展開

19世紀に入ると、さらに浮世絵文化は爛熟し、風景版画や花鳥版画が登場。葛飾北斎や歌川広重、昨今人気の歌川国芳の作品を紹介しています。

渓斎英泉 「仮宅の遊女」
(展示は1/20まで)

ここ最近気になっていた渓斎英泉が観られたのも収穫でした。歌麿や栄之の美人画ともまた違う、どこか官能的でアクのある美人画で非常に面白く感じます。藍摺絵の「仮宅の遊女」は本展での一、二を争うお気に入り。

葛飾北斎 「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」
(展示は2/2まで)

葛飾北斎 「紫陽花に燕」
(展示は2/2まで)

北斎は作品が一番出ていたのではないでしょうか。自分が観たときだけでも18点ありました。「神奈川沖浪裏」や「凱風快晴」といった名の知れた傑作から、「北斎漫画」や「百物語」までいろいろ。個人的には「紫陽花に燕」と晩年の「端午の節句」が深く印象に残りました。

葛飾応為 「夜桜図」
(展示は1/20まで)

昨今注目が集まっている北斎の娘で、天才と誉れ高い応為の「夜桜図」も。灯りの照らす顔や桜、着物の明暗の美しさ、闇を表現する黒のバリエーション、非常に素晴らしい作品です。応為の作品は1/20までの展示です。

歌川広重 「阿波鳴門之風景」
(展示は1/26まで)

広重は「東海道五十三次」や「名所江戸百景」といった人気の風景画の中で、「阿波鳴門之風景」にはちょっと見入ってしまいました。大らかな海と渦の激しさのバランス、表現が秀逸です。

上方絵のことがパネルにあったので、どんなものかと楽しみにしていましたが、実際には3点ほどしかなく、ちょっと物足らない感があり残念でした。


6章 新たなステージへ

最後は幕末、そして明治以降の浮世絵版画を紹介。 血みどろ絵の芳年や河鍋暁斎、楊洲周延といった最後の浮世絵師といわれた絵師たちの作品をはじめ、新版画の伊東深水や橋口五葉、川瀬巴水などの作品が並んでいます。

月岡芳年 「奥州安達がはらひとつ家の図」
(展示は2/2まで)

川瀬巴水 「日本梅(夜明け)」
(展示は2/2まで)

ユニークなところでは、小林清親の「画布に猫」が版画というより、見た目まるで油絵のようで、こんな版画作品もあるのだと、ちょっと衝撃的でした。

小林清親 「画布に猫」
(展示は1/14まで)

浮世絵って江戸時代を代表する絵画文化ではありますが、浮世絵と言われてすぐ思い浮かべる錦絵に限ると、隆盛したのはほんの江戸後期の100年ほどなんですよね。明治に入ると浮世絵は新しい局面を迎えますし。この江戸時代の浮世絵という文化の盛り上がりとバラエティ豊かな作品群、その奥深さ、そしてそれが与えた影響(西洋へのジャポニスムも含め)、そうしたことを考えると、こんな興味をそそるものはないですし、その浮世絵を観て、学び、愉しむには絶好の展覧会ではないかと思います。


【大浮世絵展】
2014年3月2日(日)まで
江戸東京博物館にて


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