2019/02/10

河鍋暁斎 その手に描けぬものなし

サントリー美術館で開催中の『河鍋暁斎 その手に描けぬものなし』に行ってきました。

最近、毎年のようにある河鍋暁斎の展覧会。2013年には三井記念美術館の『河鍋暁斎の能・狂言画』、2015年には三菱一号館美術館の『画鬼暁斎』、2017年にはBunkamuraザ・ミュージアムの『これぞ暁斎!』、2018年には東京富士美術館の『暁斎・暁翠伝』(未見)などとあって、さすがにまたかと思わなくもないのですが、それだけ人気が高いということなのでしょう。

今年は暁斎の没後130年ということで、どこかしらでまた展覧会をやるんだろうなと思ってましたが、今度はサントリー美術館。サントリー美術館でやるからには他とちょっと切り口が違うんだろうなと期待も高くなります。

その本展は、前半は狩野派絵師としての活動と古画学習を軸にした構成になっていて、これまでにない見せ方になっているのがユニークなところ。ちょっとツウ好みというか、美術史的な観点になってるので、初心者には分かりづらいかなと思うところもありますが、後半は戯画や人物画。あまり難しいことは言われてもという人にも十分楽しめる内容で、いろいろ考えたなと感じます。

ちなみに没後120年のときの展覧会が京都国立博物館の『暁斎 Kyosai -近代へ架ける橋-』。暁斎の人気は京博の暁斎展から急に高まってきたので、あれから10年、暁斎をあらためて再評価するという意味で、とても興味深く、そして期待通りの内容の展覧会になっていました。

会場の構成は以下のとおりです:
第1章 暁斎、ここにあり!
第2章 狩野派絵師として
第3章 古画に学ぶ
第4章 戯れを描く、戯れに描く
第5章 聖俗/美醜の境界線
第6章 珠玉の名品
第7章 暁斎をめぐるネットワーク

河鍋暁斎 「枯木寒鴉図」
 明治14年(1881) 榮太樓總本鋪蔵 (展示は3/4まで)

会場入口のアプローチには暁斎の代表作のパネル写真が並べられているのですが、「枯木寒鴉図」の枝にとまっていた鴉が飛んでいったり、「幽霊図」の幽霊はボーッと浮かび上がったり、一部の作品がモーションピクチャーになっていて、ワクワク感を盛り上げてくれます。

最初のコーナーでは、暁斎の卓越した画技と幅広い画業を示す好例として、第二回内国勧業博覧会で最高賞を受賞し、当時としては破格の百円で売りに出され話題になった「枯木寒鴉図」と、同じく第二回内国勧業博覧会に出品された「花鳥図」が並べて展示されています。「枯木寒鴉図」は水墨の筆技の妙を味わえ、「花鳥図」は鮮やかな色彩という鮮やかな色彩と緻密な描写を愉しめ、それぞれに暁斎という絵師は只者ではないという印象を強く与えてくれます。「花鳥図」は昨年東博でも展示されていましたが、蛇が雉に絡まるという異様な光景がまた暁斎らしい。

河鍋暁斎 「花鳥図」
明治14年(1881) 東京国立博物館蔵 (展示は2/18まで)

その隣に展示されていた「観世音菩薩像」がなかなか素晴らしい傑作。図様は伝統的な楊柳観音ですが、球体の童子や近代日本画的な濃厚な色彩は狩野芳崖の「悲母観音」を彷彿とさせます。透けて見えるベールの表現や細部まで手の込んだ緻密な描写はさすがです。晩年の暁斎は観音像や天神像を描くことを日課にしていたといい、本展でも暁斎の仏画がいくつか展示されていますが、本作は暁斎の数ある仏画の中でも白眉だと思います。

河鍋暁斎 「観世音菩薩像」
明治12年(1879)または18年(1885)以降
日本浮世絵博物館蔵 (展示は3/4まで)

これまでも暁斎の展覧会では、暁斎が狩野派で学び、狩野派の絵師であることを晩年まで自負していた点については触れられていましたが、暁斎が6歳で入門した歌川国芳からの影響は語られることはあっても、狩野派絵師としての観点で暁斎が語られてきたことはほとんどなかったように思います。本展では逆に国芳のことには多く触れず、晩年まで続く狩野派との深いつながりに重点が置かれています。

狩野派の特徴的な力強い筆線や粉本学習で身に着けた安定した構図などが実際の作品とともに解説されていて、どこが狩野派的なのかということも分かりやすいのではないでしょうか。狩野探幽など狩野派絵師に倣った作品や、古画学習の成果をまとめた「暁斎縮図」など資料の展示もあり、狩野派絵師としての暁斎の活動が今までになくクリアーになった気がします。売りに出されていた駿河台狩野派絵師の作品を大量に買い集めたり、探幽が膨大な古画を写した「探幽縮図」を所持していたり、暁斎は晩年になっても研究熱心で、実は思ってた以上に狩野派の伝統を受け継ぐしっかりしたベースを持っていたことも分かります。

河鍋暁斎 「鷹に追われる風神図」
明治19年(1886) ゴールドマン・コレクション蔵

これまで国芳の影響で語られがちだった戯画も狩野派と関連づけていて、とても興味深いものがありました。狩野派ぽくない「鷹に追われる風神図」が探幽の戯画が着想源になっていたり、近年は探幽周辺でも戯画が制作されていたことが明らかになっているそうです。

中国・元代の絵師・顔輝の作品とそれを模写した暁斎の「鐘呂伝道図」が展示されていたり、室町時代の「放屁合戦絵巻」と暁斎の「放屁合戦絵巻」が並べてあったり、円山応挙の仔犬や鯉を模したとされる「鯉魚遊泳図」や「竹と仔犬」があったり、土佐派の祖・藤原行光が描いたとされる百鬼夜行図をもとにしたという「百鬼夜行図」があったり、「鳥獣戯画」や「九相図」を模写した作品があったり、暁斎が狩野派に限らず、非常に多くの古画学習を熱心に行っていたことも知ることができます。

河鍋暁斎 「百怪図」
明治四年(1871)頃 大英博物館蔵

今回の暁斎展の特徴の一つに、これまで目にする機会のあった河鍋暁斎記念美術館やゴールドマン・コレクション(旧福富太郎コレクションを含む)だけでなく、サントリー美術館や東京国立博物館、大英博物館など国内外から暁斎を代表する作品が集まってきている点があります。ここまで作品が一堂に揃った暁斎展は関東圏では初めてではないでしょうか。大英博物館所蔵の「百怪図」や「幽霊図」、表を暁斎、裏を子の暁雲・暁翠が描いた湯島天満宮所蔵の大きな絵馬など、こういう機会でないと滅多に観られないものも多くありました。

[左] 河鍋暁斎 「幽霊図」
明治元年~3年(1868-70) ゴールドマン・コレクション蔵
[右] 河鍋暁斎 「幽霊図」 明治4年(1871)以降 大英博物館蔵

暁斎の「幽霊図」というと、藝大美術館の『うらめしや~、冥途のみやげ展』にも出品されていた妻の臨終の姿をもとに描いた「幽霊図」が有名ですが、本展では死首を持った「幽霊図」が並んで展示されていて、これがまた嫌になるぐらい恐ろしげ。

今回の出品作で一番驚いたのは、羽織の背に残酷な処刑の場面や九相図のような死体を描いた「処刑場跡描絵羽織」。全身血まみれで磔にされた死体や首吊りの死体、鴉が群がる朽ちた死体など、どれもひたすら不気味。図録を見ると表の袖や裏地にも処刑の様子を描かれていて、いったい誰が着るんやという感じです。過去に京博の暁斎展に出品されていたようですが、関東では初公開でしょうか。

[写真左] 河鍋暁斎 「地獄太夫と一休」
明治4年(1871)以降 ゴールドマン・コレクション蔵(※本展出品作)
[写真中・右」 参考:ウェストン・コレクション蔵(※未出品)、
ボストン美術館蔵(※未出品)

[写真左] 河鍋暁斎 「閻魔と地獄太夫」
明治前半 河鍋暁斎記念美術館蔵(※本展出品作。展示は3/4まで)
[写真右] 参考:プライス・コレクション蔵(※未出品)

地獄太夫も暁斎が好んだモチーフ。一休禅師との組み合わせや閻魔大王との組み合わせが知られていて、これまでも何度かお目にかかっています。一見同じ構図でも、地獄太夫の背後の屏風の絵が異なっていたり、打掛の絵柄が異なっていたり、落款の位置が異なっていたり、さまざま。人気があり依頼も多かったのだと思いますが、一体どれだけ描いてるのでしょうか。

ほかにも国芳譲りの錦絵や暁斎が得意とした席画なども多く展示されています。暁斎は‟狂斎‟時代に席画で描いた作品がもとで投獄され、以後名を暁斎に改めたという話は有名ですが、席画を描く暁斎自身をセルフパロディー化した「百書画会」なる楽しい作品もありました。後半には、何度読んでも面白い「暁斎絵日記」や、息子・暁雲、娘・暁翠の作品なども展示されています。

何度も暁斎の展覧会に足を運んでいる人にはお馴染みの作品も多く正直新鮮味は薄いのですが、それでも初めて観る作品もあり、見応えがありました。


【河鍋暁斎 その手に描けぬものなし】
2019年3月31日(日)まで
サントリー美術館にて

「画鬼」河鍋暁斎 (TJMOOK)「画鬼」河鍋暁斎 (TJMOOK)

2019/02/02

岡上淑子 沈黙の奇蹟

東京都庭園美術館で開催中の『岡上淑子 フォトコラージュ 沈黙の奇蹟』に行ってきました。

昨年、高知県立美術館で大々的な回顧展が開かれたとき、すごく観に行きたかったものの、さすがに高知までは行けず涙を呑んだのですが、今度は東京で回顧展が開かれるとあり、早速拝見してきました。

かれこれ10年ぐらい前でしょうか、東京都写真美術館の展覧会(調べたら『シュルレアリスムと写真』という企画展でした)で初めて岡上淑子のことを知り、幻想的でエレガントでどこか退廃的な作品の虜になりました。最近は日本美術中心に観てますが、もともとアートの入り口はシュルレアリスムだったので、この手の作品は大変好みなのです。

本展は、高知県立美術館の『岡上淑子コラージュ展-はるかな旅』とはまた別の企画だそうで、岡上淑子作品を多く所有する高知県立美術館のコレクションをはじめ、東京国立近代美術館や東京都写真美術館、アメリカのヒューストン美術館など国内外の所蔵作品、作家蔵の作品など、コラージュ作品93点、写真作品17点、そのほか日本画作品や資料、瀧口修造の書簡など、とても充実した内容になっています。岡上淑子のフォトコラージュ作品は約100点といわれているので、ほとんどの作品が出品されているようです。

岡上淑子 「幻想」
1954年 個人蔵

岡上淑子(おかのうえ としこ)は1950年代に活躍したフォトコラージュ作家。『LIFE』など海外のグラフ誌や『VOGUE』や『Harper's BAZAAR』といったファッション誌をハサミで切り抜いて貼り合わせたフォトコラージュ作品で注目を集めますが、活動したのは20代のわずか7年間だけで、結婚を機に創作活動から遠ざかります。正式な美術教育を受けたわけでなく、文化学院デザイン科の授業の課題で出された「ちぎり絵」から独特の世界観を持ったフォトコラージュが生まれたということに驚きます。

入口を入ってすぐの広間に展示されていたのが「幻想」。豪華な屋敷の室内に立ちすくんだ3頭の馬と床に寝そべった馬の頭をした女性。このシュールで洗練された不思議な世界に目を奪われるというか、旧朝香宮邸のクラシカルな空間も相まって、岡上淑子の魅惑的な夢物語の舞台に迷い込んだような気分になります。

作品と並んで、岡上淑子のイメージの源泉となったクリスチャン・ディオールやバレンシアガのイヴニングドレスやカクテルドレスなども展示されていて、岡上淑子的な世界観を演出しています。

岡上淑子 「沈黙の奇蹟」
1952年 東京都写真美術館蔵

本館はマチネ、新館はソワレというタイトルが付けられているのも面白い。本館は代表的なフォトコラージュ作品とともに、初期の作品や詩篇、フォトコラージュ以降の写真作品やドローイング、日本画のほか、瀧口修造にまつわる関連資料やマックス・エルンストのコラージュ作品、岡上淑子が使った雑誌のなどが展示されていて、新館は4幕仕立ての舞台に見立て、作品の傾向に沿ったテーマで分類されて展示されています。

岡上淑子 「招待」
1955年 高知県立美術館蔵

岡上淑子は溢れるように湧いてくる空想や夢やストーリーを何か形にしようとしてフォトコラージュに辿り着いたといいますが、こうしたコラージュ作品が生まれた背景として、戦後の復興期の特に女性の洋装化や欧米の最先端のモードへの強い興味、上流階級の生活やヨーロッパ文化への憧憬といったものがあっただろうことが作品の端々から見えてきます。新館に展示されていた作品には、焼け野原になった街と風景にそぐわない女性が貼り合わされた作品や、戦闘機や戦艦など戦争をイメージさせるものが貼られた作品もあり、岡上淑子の戦争体験が大きく影響していることも分かります。

岡上淑子 「予感」
1953年 高知県立美術館蔵

岡上淑子 「懺悔室の展望」
1952年 ヒューストン美術館蔵

初期の作品は単色の羅紗紙に雑誌から切り取った写真を無造作に貼り付けた比較的シンプルなものでした。 基本的にモノクロームの作品で占められているのですが、マレーネ・ディートリッヒのような女性と赤いトマトが貼り合わされた「トマト」のようにカラーの写真を使ったものもあったりします。全面に写真が貼り合わされ、よりストーリー性があったり、幻想性が強調されるようになるのは、瀧口修造を介して知ったシュルレアリスムの画家マックス・エルンストのコラージュ作品に感化されて以降のこと。制作初期は自身をシュルレアリスム作家という意識がなかったというのが興味深いところです。

岡上淑子 「はるかな旅」
1953年 高知県立美術館蔵

2000年代に入り、長く忘れられていたフォトコラージュ作品が発掘され、こうして再評価されたわけですが、いま観ても斬新だし、50年代のテイストが逆に際立ち、強い魅力を放っている気がします。女性がメインの作品も多く、とてもファッショナブルでエレガントで良い意味でクラシカルで、超現実的でありながらも、どこか女性の空想や願望がイメージ化されたようなところが広く共感を生んでいるのかもしれません。

岡上淑子 「彷徨」
1955年 個人蔵


【岡上淑子 フォトコラージュ 沈黙の奇蹟】
2019年4月7日まで
東京庭園美術館にて


岡上淑子 フォトコラージュ -沈黙の奇蹟-岡上淑子 フォトコラージュ -沈黙の奇蹟-

2019/01/25

奈良絵本を見る!

神保町の八木書店古書部で開催中の『奈良絵本を見る!』を観てきました。

八木書店は神保町の古書街にある古書店の老舗。近代日本文学や古文書などの取り扱いに定評があります。3階にある催事用のスペースに個人コレクションを中心とした奈良絵本や絵巻が30点ほど展示されていました。

奈良絵本とは、室町時代後期から江戸時代中期にかけて作られた絵入りの冊子本のこと。御伽草子を題材にした素朴なタッチの作品は庶民に広く普及したといいますが、中には嫁入り本として金銀泥を用いた極彩色の豪華な作品もあります。

これまでも『お伽草子展』(サントリー美術館)や『つきしま かるかや』(日本民藝館)、『神仏・異類・人』(國學院大學博物館 )など奈良絵本が取り上げられた展覧会を何度か観ていますが、一度にこれだけの数を観たのは初めてかも。8畳ぐらいの狭いスペースなので、美術館のようにはもちろんいきませんが、書店のショーケースに奈良絵本がびっしりと並んだ様はマニア心をくすぐります。

「一寸法師(断簡)」 寛文頃

「浦島太郎(断簡)」 元禄頃

お伽草子といったら、定番の「一寸法師」に「浦島太郎」。素朴な絵がじわじわきます。でも、よくある稚拙な絵というのがないんですよね。みんなそれなりに線や表現がしっかりしていて、素朴なりにも巧い。これはコレクターの方の好みなのでしょうか。

「七夕の本地」 寛文頃

「猫の草紙(断簡)」 寛文頃

「磯崎」 寛文頃

中にはいまの昔話ではあまり馴染みのない作品もありますが、会場では解説の書かれたミニ冊子がもらえるので、物語をよく知らないお伽草子もミニ冊子を読みながら鑑賞できます。「猫の草子」がかわいい。

「玉水」 元禄頃

今年のセンター試験の古文の問題に取り上げられたことで話題になった『玉水物語』もありましたよ。狐さん。

「山中常盤」 寛文頃

岩佐又兵衛の「山中常盤物語絵巻」も元は御伽草子と聞いてますが、奈良絵本の「山中常盤」は初めて観ました。あんな描写やこんな描写は奈良絵本ではどう描かれているのでしょうか。。。

[写真上] 「八幡縁起絵巻(断簡)」 天正期以前
[写真下] 「堀江物語(断簡)」 寛永頃

「堀江物語」も岩佐又兵衛の絵巻以外で観たのは初めてかも。

「木曽御嶽の本地」 元禄頃

金泥や銀泥で装飾されたり、割と豪華なものもあります。「木曽御嶽の本地」は銀が黒変してますが、障壁画が金泥と銀泥を使い、とても丁寧に描かれています。こうしたものは大人向けだったんでしょうね。

「瓜子姫(断簡)」 元禄頃

近年は奈良絵本の研究も進み、作り手の特定もできるものもあるそうです。その中でも「居初つな」は日本で最初の女性絵本作家だったのではないかといわれているとか。会場には、居初つなが描いたとされる「瓜子姫」や「烏帽子折」、「鉢かづき」といった奈良絵本や歌仙絵があって、比べてみると、顔の表情(特に目鼻や口)や身体の形態の描き方に特徴があって、とても個性的です。

[写真左] 「瓜子姫」/[写真右] 「烏帽子折」

「鉢かづき」 元禄頃

居初つなについてはこちらのブログで詳しく取り上げられています。
http://yagiken.cocolog-nifty.com/yagiken_web_site/2013/03/post-a5a5.html

「酒呑童子」 寛文頃

もう一人、解説に名前があったのが「浅井了意」。仮名草子作家として活躍した人だそうで、会場には「酒呑童子」と「子易物語」の絵巻が2点展示されていました。こちらも比べてみると、人物の描き方に特徴がありますね。鬼なんて全く一緒。

[写真左] 「酒呑童子」/[写真右] 「子易物語」

[写真左] 「酒呑童子」/[写真右] 「子易物語」

会場にいた書店の方に伺ったところ、この「蓬莱山」も浅井了意の作といわれているとのことでした。

「蓬莱山」 寛文頃

観に行った同じ日に、日比谷で奈良絵本に関する講演会があったそうで、気が付いた時には既に満員で話を聞けなかったのがとても残念。もうちょっと早く知っていたら。。。

会場内はこんな感じです。


【奈良絵本を見る!】
2019年1月26日(土)まで
八木書店古書部3階にて


奈良絵本集〈1〉 (新天理図書館善本叢書)奈良絵本集〈1〉 (新天理図書館善本叢書)

2019/01/20

酒呑童子絵巻

根津美術館で開催中の『酒呑童子絵巻 -鬼退治のものがたり-』を観てきました。

「酒呑童子絵巻」というと、一昨年サントリー美術館で開催された『狩野元信展』に出品された元信筆の「酒呑童子絵巻」が記憶に新しいところですが、本展は根津美術館が所蔵する3種類の「酒呑童子絵巻」を紹介する展覧会です。

酒呑童子は、都から次々と姫君たちを誘拐していく酒呑童子を帝の命を受けた源頼光と四天王らが鬼の居城に乗り込み成敗をするという物語。「酒呑童子絵巻」は鬼の棲み処によって、大江山系と伊吹山系に分かれているそうで、今回展示されているのは何れも伊吹山系の絵巻になります。

ちなみに伊吹山系の基準となる作品が元信の「酒呑童子絵巻」。大江山系の代表作は、『大妖怪展』にも出品されていた逸翁美術館所蔵の「大江山絵詞」になります。

会場に入ってすぐのところに展示されていたのは室町時代の作とされる「酒呑童子絵巻」。筆致は凡庸ですが、お伽草子のようなおおらかさがあって、その素朴なタッチが逆に味わい深い絵巻です。逸翁美術館の現存最古の「大江山絵詞」は南北朝時代の作とされるので、本作もかなり古い部類に入る絵巻だと思いますが、赤鬼が寝そべる光景など、その図様は元信系列の絵巻とはまた違うものがあり、興味深く感じました。

住吉弘尚 「酒呑童子絵巻」
江戸時代・19世紀 根津美術館蔵

本展のメインは江戸末期の住吉派の絵師・住吉弘尚の「酒呑童子絵巻」で、全8巻が展示されています(全場面展示ではない)。弘尚の「酒呑童子絵巻」は前半4巻が異本の伊吹童子の物語をもとに構成されていて、後半4巻が元信本の内容を対応しているという特徴があります。

前半は素戔嗚尊の八岐大蛇退治に始まる伊吹明神の縁起と、伊吹明神と山麓の村の娘・玉姫との間に生まれた伊吹童子の出生譚が中心。3歳の頃には既に酒の味を覚え、比叡山に預けられた童子がやがて狂気の片鱗を見せ、伝教大師最澄の怒りを買い、山から追い出されるという様はもはや怪奇小説のようです。

弘尚の「酒呑童子絵巻」は展示室1と2を使うほどのかなり長大な絵巻ですが、物語性が豊かでストーリーにどんどん引き込まれます。さすが住吉派のやまと絵なので、景観描写や風俗表現は緻密かつ色彩も鮮やかでとても美しい。後半はよく見る酒呑童子の物語で、基本的に元信本に準じているようですが、酒呑童子の屋敷で饗応を受けた源頼光が鬼たちを騙すため人肉を食べたり血の酒を飲んだりして鬼たちを白けさせたとか、みんなで手伝いながら鎧兜に着替えるシーンがあったりとか、斬り落とされた酒呑童子の頭が頼光の兜に噛みついたとか、なかなか生々しく、いろいろつっこみどころもあって楽しめます。

伝・狩野山楽 「酒呑童子絵巻」
江戸時代・17世紀 根津美術館蔵

京狩野の山楽の筆と伝わる「酒呑童子絵巻」も元信本をもとにした作品。探幽にしろ孝信にしろ狩野派は元信本を踏襲した絵巻を代々描いていますが、伝山楽の作品は四方四季の庭の場面が延々と続き、桜や藤、椿、紅葉、鹿や鴛鴦、雁など花鳥の表現がとても手が込んでいます。本作は山楽と特定する確たる証拠がなく、「狩野派に属すしかるべき絵師」というだけなのですが、四季の描写のこだわりというか、ねちっこさが京狩野的な感じがします。


【酒呑童子絵巻 鬼退治のものがたり】
 2月17日(日)まで
根津美術館にて


御伽草子 下 (岩波文庫 黄 126-2)御伽草子 下 (岩波文庫 黄 126-2)

2019/01/18

マイケル・ケンナ写真展

東京都写真美術館で『マイケル・ケンナ写真展 MICHAEL KENNA A 45 Year Odyssey 1973-2018』を観てきました。

20代の頃は写真が好きで、ずいぶんいろいろ写真集を買い集めていたのですが、最近はすっかり疎くなり、すいません、マイケル・ケンナのことも全然知りませんでした。

Twitterでの評判の良さが目に留まって、観に行ったのですが、とても素晴らしかったです。久しぶりにというか、今の自分にもグッとくる写真に出逢えたという気がします。

マイケル・ケンナは風景写真家として知られ、ギャラリーでの個展は日本でも過去に何度かあったようですが、レトロスペクティブという形では日本初なんだそうです。写真家としてのキャリアも45年、写真集も70タイトルに上るということなので、世界的にも有名な方ということです。(全然知らなかった自分が恥ずかしい…)

午後の割と遅い時間に行ったにもかかわらず、会場は若い層を中心に人が結構入っていました。そろそろ会期も終盤ですし、口コミで評判が広まったというのもあるかもしれませんね。ちなみに一部のコーナーの作品を除き、会場内は撮影可能です。


どの写真もモノクロームの風景で、トーンは統一され、静謐とも、孤独とも、詩的とも、神秘的とも、幻想的とも取れる、独特の世界観にとても惹かれます。



自然の写真も、都会の写真も、ピクチャレスクな写真も、コンセプチャルな写真も、社会的な写真も、どこか心象風景のように心に静かに沁みこんでいきます。



 

日本や中国の風景を写した写真も多くあって、そのモノクロームの深遠な世界は時に水墨画のような幽玄の美さえ感じさせます。最近は日本美術ばかり観てるので、そんな自分にもとても親近感が持てる絵作りでした。


会場の一角には、マイケル・ケンナが1988年からは約12年の歳月をかけて取り組んできたというナチスドイツの強制収容所を撮影した写真の連作があります。第二次世界大戦が終わって何十年も経つにもかかわらず今なお残る死の痕跡には言葉を失います。(ナチス強制収容所の写真は撮影不可)



【マイケル・ケンナ写真展 MICHAEL KENNA A 45 Year Odyssey 1973-2018】
2019年1月27日(日)まで
東京都写真美術館にて


マイケル・ケンナ写真集 (アンビエント・フォト)マイケル・ケンナ写真集 (アンビエント・フォト)