2019/01/03

博物館に初もうで

新年あけましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。

さて、今年も博物館・美術館巡りはトーハク毎年恒例の『博物館に初もうで』から始動です!

年末の厳しい寒さも少し和らぎ、空も雲一つなく青空で、お正月らしい気持ちのいい晴天のもと、今年もいつものごとく初日の2日から観てきました。

今年は少し寝坊しまして、東博には開館の40分前に到着。去年は開館30分前に100人ぐらいの列になっていたので、出遅れたなと思ってたのですが、拍子抜けするぐらい列が短くて、私が着いたときで20人ぐらい、開館時も去年の半分もいなかったんじゃないでしょうか。朝から並ぶ年配層が今年は一般参賀に流れたのかなと思ったのですが、どうでしょう。

ここ数年、朝一で入って、2時間半ぐらいぐるぐる観て、お昼ぐらいに東博を出るというパターンで、去年は午前中から館内は大変な賑わいで、お昼に外に出るときもチケット売り場に長い行列という光景でしたが、今年は館内の混雑もさほどではなく、比較的ゆっくり観て回ることができました(午後は少し混んでたようですが)。

今年は亥年ということで、本館2階の特別1室・2室では≪博物館に初もうで イノシシ 勢いのある年に≫と題し、イノシシをテーマとした作品が展示されています。

[写真左から] 「玉豚」 中国・ 前漢~後漢時代・前2~後3世紀
「猪形土製品」(重要美術品) 縄文時代(後~晩期)・前2000~前400年
東京国立博物館蔵(展示は1/27まで)

[写真左から] 「埴輪 猪」(重要文化財) 古墳時代・6世紀
「埴輪 猪」 古墳時代・5~6世紀
東京国立博物館蔵(展示は1/27まで)

干支の「亥」というと日本ではもちろん「イノシシ」ですが、中国や韓国などアジア圏では「ブタ」(元はイノシシを家畜化したもの)を指して、「イノシシ」を干支にしているのは日本だけだといいます。古来日本ではブタに馴染みがなく、山国なのでイノシシを見慣れていたということもあるのでしょう。中国ではブタが繁栄の象徴であることから墓に副葬品として一緒に入れられていたそうですが、猪形の縄文土器は狩りの成功を願ったものかもしれないとありました。「玉豚」はブタっぽいし、縄文土器のイノシシはイノシシらしい。古墳時代のイノシシの埴輪の足が長いのも面白いですね。

岸連山 「猪図」
江戸時代・19世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/27まで)

望月玉泉 「萩野猪図屏風」
江戸~明治時代・19世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/27まで)

絵画では岸連山の「猪図」がすごいインパクト。岸派というと虎のイメージですが、大きな画面一杯にイノシシが勢いよく描かれていて迫力満点。正に猪突猛進という感じ。イノシシの堅い毛や重量感までも伝わってきます。となりには明治期の京都画壇を代表する望月玉泉の「萩野猪図屏風」が展示されています。玉泉は萩の草むらで眠るイノシシ。臥して眠る猪(=臥猪(ふすい))から亥年を寿ぐ意味を込めて「富寿亥(ふすい)」と表し、そこから「撫綏(ぶすい)」の語呂合わせで鎮めて安泰にするという意味の吉祥画になったのだそうです。今回は左隻のみの展示でしたが、対の右隻には熊の親子が描かれていて、これがまた可愛いんですよ。


筆者不詳 「曽我仇討図屏風(右隻)」
江戸時代・17世紀 個人蔵(展示は1/27まで)

興味深かったのが筆者不詳の「曽我仇討図屏風」。展示は右隻のみで、源頼朝が富士の裾野で催した富士の巻狩が描かれています。展示されてなかった左隻には曽我十郎五郎兄弟の仇討が描かれているのでしょう。同様の屏風を根津美術館でも観たことがあって、調べたところ、この組合せの屏風は江戸初期に流行したといいます。鹿や熊、イノシシなど動物がいろいろ描かれていますが、走る姿などその描写がとても的確で、それなりの腕のある絵師だと分かります。人物が又兵衛風で、気になって解説を読むと、岩佐又兵衛に関係する絵師による作品だろうとありました。

結城正明 「富士の巻狩」
明治30年(1897) 個人蔵(展示は1/27まで)

同じ富士の巻狩を題材にした作品がもう一つ。富士山の表現がユニークな結城正明の「富士の巻狩」では巨大なイノシシの上に新田義貞が跨り、尻尾を切ろうとしています。

歌川豊国 「浮繪忠臣蔵・五段目之圖」
江戸時代・18世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/27まで)

イノシシ狩りで思い出すのは歌舞伎の『仮名手本忠臣蔵』の五段目。勘平が射止めたと思ったのはイノシシではなく定九郎だったという有名な場面。奥行きのある構図と、手前を走り去るこれまた大きなイノシシが印象的です。

喜多川歌麿 「浮世七ツ目合・巳亥」
江戸時代・19世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/27まで)

いつの世も開運グッズやラッキーアイテムは人気があるのか、ある干支とそれから数えて七つ目の干支を組み合わせると幸運になるということで摺られた人気シリーズ。イノシシが描かれた団扇を持つ女性をヘビのおもちゃで驚かすという他愛のない絵柄が微笑ましい。

長谷川等伯 「松林図屏風」(国宝)
安土桃山時代・16世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/14まで)

国宝室では、お正月は2年ぶりの公開となる「松林図屏風」。「松林図屏風」はやはり人気なので、朝一はこの状態で屏風を観られますが、時間が経つとともに二重三重に人垣ができて写真を撮るのもままならなくなります。

「松林図屏風」はもともとは屏風を想定したものではなく、障壁画か何かの草稿を後年等伯ではない別の者が屏風に仕立てたというのが現在ではほぼ定説になっていて、実際よく見ると紙継ぎの跡も分かり、墨の線もどことなく下書きのような感じを受けるところもあります。昨年東博で開催された『名作誕生 つながる日本美術』では「松林図屏風」と並んで松林図に先行して等伯が描いたとされる大徳寺旧蔵の「山水松林架橋図襖」(樂美術館蔵)が展示されていましたが、等伯の関連書籍で読んで知っていることを実際に目で触れられることができて、とても良かったなと思います。

なお、本館特別4室(1階)では「松林図屏風」の高精細複製品がガラスケースなしで展示されていて、畳に座って屏風を間近で眺めることができます。

「伝 源頼朝坐像」(重要文化財)
鎌倉時代・13~14世紀 東京国立博物館蔵(展示は2/3まで)

本館3室(2階)に入ると「伝 源頼朝坐像」がお出迎え。「伝 源頼朝坐像」は鎌倉の鶴岡八幡宮に隣接する白旗神社伝来の彫刻。白旗神社の祭神は源頼朝なので、肖像彫刻というより神像といっていいかもしれませんね。頼朝の没後100年を過ぎて造られたとものといわれています。両脚のシンメトリックなラインが印象的です。

「古今和歌集(元永本)下帖」(国宝)
平安時代・12世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/14まで)

新春特別展示として公開されているのが国宝「元永本古今和歌集」。全20巻が完存する『古今和歌集』の写本としては現存最古の遺品。豪華な料紙装飾と流れるような筆致が美しい。


「天狗草紙(延暦寺巻)」(重要文化財)(※写真は一部)
鎌倉時代・13世紀 東京国立博物館蔵(展示は2/3まで)

絵巻では鎌倉時代の絵巻を代表する「天狗草子」。南都北嶺の寺の驕慢や、浄土宗や時宗といった新興宗教を風刺した全7巻から成る異色の絵巻で、展示は延暦寺の僧徒を描いたもの。山の陰から天狗が何かニタニタしながら話をしています。悪口でも言ってるんでしょうか。

狩野正信 「布袋図」(重要文化財)
室町時代・15世紀 文化庁蔵(展示は2/3まで)

伝・狩野元信 「囲棋観瀑図屏風」(重要美術品)
室町時代・16世紀 東京国立博物館蔵(展示は2/3まで)

「禅と水墨画」のコーナーでは狩野正信の「布袋図」(別名「崖下布袋図」)が見どころ。景徐周麟の賛から制作時期が限定されることから正信の基準作になっているといいます。肩にかけた大きな袋から右肩にかけてのラインと真ん丸のお腹の丸い構図と人の良さそうな布袋様の表情がとてもいい。謹直な衣紋線はこれぞ狩野派という感じです。元信(伝)の「囲棋観瀑図屏風 」は2年前の『狩野元信展』には出品されてなかった作品。右隻に囲碁を眺める人々、左隻に滝を眺める人々が描かれます。奥行きのある空間構成やダイナミックな瀑布など素晴らしいねですね。隅々まで丁寧に描き込まれた元信らしい屏風です。

「紅白梅図屏風」
江戸時代・17世紀 東京・高林寺蔵(展示は2/3まで)

7室「屏風と襖絵」では屏風が3点。江戸初期のやまと絵絵師による作品と思われる「富士山図屏風」と同じく筆者不詳の「紅白梅図屏風」、狩野常信の「松竹梅図屏風」といういずれも美しい吉祥画。「紅白梅図屏風」は大胆な枝ぶりの梅の木や構図が琳派を思わせ(ちょっとごちゃごちゃしている気はしますが)、どういう絵師が描いたものなのか気になるところです。左右の屏風を入れ替えても鑑賞に適うようになっていて、そうした趣向も琳派の絵師のやりそうな感じがします。

円山応挙 「龍唫起雲図」
江戸時代・寛政6年(1794) 東京国立博物館蔵(展示は2/3まで)

8室「書画の展開」では応挙の「龍唫起雲図」。亥年だけど龍。テレビの『開運!なんでも鑑定団』で番組に登場した応挙といわれる掛軸の89%は偽物だったと言ってましたが、博物館や美術館で応挙として展示されていれば応挙なんでしょうが、この龍の絵だけを観て、応挙と分かるかといえば難しく、素人には到底判断できるものではないなと思います。

狩野〈晴川院〉養信 「福禄寿・松竹梅図」
江戸時代・19世紀 個人蔵(展示は2/3まで)

伝・土方稲嶺 「寿老・牡丹に猫・芙蓉に猫図」
江戸時代・18世紀 東京国立博物館蔵(展示は2/3まで)

お正月は縁起物、吉祥画が多い(というか基本的に縁起の良い画だけ)。狩野養信は幕末の狩野派の絵師。すっきりした構図と精緻な線描、コントラストのある明確な色彩は弟子の芳崖につながっていくものを感じます。土方稲嶺は昨年の『百花繚乱列島』でも強く印象に残った鳥取画壇を代表する絵師。宋紫石に師事した人なので、養信と同じ三幅対でもやはり南蘋派の影響を色濃く感じます。

葛飾北斎 「冨嶽三十六景・凱風快晴」
江戸時代・19世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/27まで)

浮世絵のコーナーではまず縁起の良い富士山。赤富士は夏の富士山ですが、それはおいておいて、今年からデザインが刷新される日本のパスポートのデザインに「凱風快晴」が選ばれたことはニュースになりましたね。それもあって展示されていたのかな? 今年は北斎の大きな展覧会があるのでそちらも楽しみです。

歌川広重 「名所江戸百景・日本橋雪晴」
江戸時代・安政3年(1856) 東京国立博物館蔵(展示は1/27まで)

鈴木春信 「新年ひきぞめ」
江戸時代・宝暦11年(1761) 東京国立博物館蔵(展示は1/27まで)

宮川長春 「万歳図」
江戸時代・18世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/27まで)

浮世絵もお正月の風俗や景物を描いた作品が中心。新春の賑わう日本橋と晴れ晴れとした富士山を描いた広重の「名所江戸百景・日本橋雪晴」や、今でいうところの初売り?でしょうか、清長の「名所江戸百景・日本橋雪晴」、新春の飾りつけをした遊郭の様子を描いた春信の「新年ひきぞめ」、長春の肉筆浮世絵などが印象的でした。

「片輪車蒔絵螺鈿手箱」(国宝)
平安時代・12世紀 東京国立博物館蔵(展示は3/31まで)

仁清 「色絵月梅図茶壺」(重要文化財)
江戸時代・17世紀 東京国立博物館蔵(展示は3/17まで)

ひとつひとつ挙げていると切りがないので、スピードアップ(笑)
漆工では国宝の「片輪車蒔絵螺鈿手箱」、陶磁では仁清の「色絵月梅図茶壺」が見どころ。刀剣コーナーは新年から刀剣ファンでいっぱい。



14室(1階)では「大判と小判」の小特集。豊臣秀吉が作らせた当時世界最大の金貨だったという「天正長大判」や6点しか現存しない「天正菱大判」、江戸初期から幕末にかけての大判小判がざっくざっく。小判が通過として用いいられて、大判は主に贈答用だったんですね。知りませんでした。

「江戸城本丸大奥総地図 」
江戸時代・19世紀 東京国立博物館蔵(展示は2/24まで)

東博で面白かったものの一つが「江戸城本丸大奥総地図」。赤色の部分が奥女中が居住するところで、黄色の部分が儀式や対面を行ったり御台所や側室、将軍の生母などが住むところだそうです。どれだけ部屋数があるのかというぐらい広大な屋敷で、大奥の女中は最盛期で1000人とも3000人ともいわれるますが、こうして見ると規模が想像を遥かに超えてますし、ものすごく複雑。大奥で迷子になった人は絶対にいたでしょうね。

小林古径 「異端(踏絵)」
大正3年(1914) 東京国立博物館蔵(展示は1/20まで)

「近代の美術」ではまず古径の「異端(踏絵)」に惹かれました。ここまで大きな古径の作品はあまり観た記憶がありません。踏絵のキリストをじっと見つめ、これから踏まんとする女性たちという隠れキリシタンの主題と背景の仏教的な蓮の花の取り合わせが印象的です。

落合芳幾 「五節句」
明治時代・19世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/20まで)

小林永濯 「美人愛猫」
明治時代・19世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/20まで)

昨年の『落合芳幾展』が記憶に新しい、落合芳幾や小林永濯の肉筆浮世絵も良い。小林永濯はやはりどこかでまとめて観たいところです。前田青邨は、金屏風にやけにカラフルな唐獅子を描いた「唐獅子」(これは何度か観ている)と絵巻の「朝鮮之巻」が出ていたのですが、「朝鮮之巻」が青邨の軽妙さと人物表現のうまさがよく出ていて、とても良かったです。今村紫紅の「熱国の巻」に感化され、単身挑戦に渡り取材した作品だといいます。朝鮮の人々の生活風景や風俗が生き生きと描かれていてとても印象的です。

前田青邨 「朝鮮之巻」
大正4年(1915) 東京国立博物館蔵(展示は1/20まで)

ほかにも東洋館の中国絵画や墨蹟、中国や韓国の陶磁、黒田記念館などをひと通り回って、だいたい3時間弱。今年はお正月恒例の催し物のタイムスケジュールが例年と違って、獅子舞が午後だったので見られなかったのが残念ですが、朝からたっぷりトーハクを堪能しました。




【博物館に初もうで】
2018年1月3日(水)~1月27日(日)

※開館時間、休館日、作品の展示期間など詳しくは東京国立博物館のウェブサイトでご確認ください。

2018/12/31

2018年 展覧会ベスト10

今年も最後の1日となりました。
いつも今年のベスト10を早くまとめようまとめようと思いつつ、あれも入るでしょ、これを入れなきゃどうするの、と最後の最後まで一人ああだこうだ言いながら、なかなかまとまりません。正直今も少し悩んでいます。毎年のことですが。

今年の拙ブログのエントリーは展覧会の感想のみで43本。一番エントリーが多かった年のおよそ半分でした。ずいぶん減りましたね。。。今年は例年以上に仕事関係が忙しく、休日だってフルに使えるわけではないので、観に行った展覧会自体もかなり減ってしまったのですが、さらに観に行ってもブログにアップできないものもたくさん出てしまいました。

とても印象に残ってる『縄文展』も『ルーベンス展』も『京都・醍醐寺展』も『仏像の姿』も『建築の日本展』も『横山大観展』も下書きのまま残ってます。見逃がした展覧会も多くあります。評判の良かった『ビュールレ・コレクション展』も『プラド美術館展』も『暁斎・暁翠伝』も『東山魁夷展』も結局見てないんですよね。。。

日本美術を中心に興味のあるものはできるだけ観たつもりではありますが、今年は地方遠征があまりできなかったのも悔やまれるところ。時間と自由があれば、『糸のみほとけ』や『雲谷等顔展』、『土方稲嶺展』、『鈴木松年展』、『土佐光吉展』も観に行きたかったです。

今年、ベスト10(選外も含めて)に選んだ展覧会を振り返ると、企画や構成の素晴らしさに唸った展覧会が多くありました。ただ単に特定の絵師/画家/作家の作品を並べた回顧展よりも、この企画考えた人凄いなとか、これだけの作品集めてくるの大変だったろうなとか、学芸員の方たちの日ごろの研究成果といいますか、その企画力やそこにかける情熱、テーマに沿った作品のセレクション、そうしたものも含めて感銘を受けた展覧会が上位に入りました。最近いろいろ美術館/博物館の運営も大変のようですが、こうして素晴らしい展覧会を企画してくれる学芸員や関係者の方にはあらためて感謝したいと思います。


で、2018年のベスト10はこんな感じです。
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1位 『百花繚乱列島 -江戸諸国絵師巡り-』(千葉市美術館)


江戸絵画を観ていても、まだまだ知らない絵師は多くいますし、江戸や京阪だけでなく地方で活躍した優れた絵師はどれだけいるんだろうと思うことがあります。そうした地方に拠点を置き活躍した絵師にスポットを当てた展覧会がいつか開かれないものかと思っていたものですから、本展は個人的には願ってもない展覧会でした。そしてこれがまた充実していて素晴らしいのなんの。ほとんどがマイナーな絵師たちで、こんな絵師がいたのか!と驚くような個性派ぞろい。マニアック過ぎて鼻血が出ました。ぜひ第二弾を企画してほしいものです。


2位 『寛永の雅』(サントリー美術館)


サントリー美術館の展覧会の企画力には毎度頭が下がるのですが、強烈な個性を持った桃山と元禄に挟まれた寛永年間を中心とした文化を切り出し、ここまで厚く深くその時代の魅力を引き出したことに驚きと感動しかありませんでした。 土佐派の復興や住吉派の興隆、探幽様式と狩野派のやまと絵的傾向、そして遠州や仁清といった江戸初期の美術の点と点が線で繋がり、寛永文化の古典復興のもとで同時代的に発生したことも知りました。寛永の時代の空気までもが伝わる大変素晴らしい展覧会でした。


3位 『幕末狩野派展』(静岡県立美術館)


江戸狩野をテーマにした展覧会というとどうしても中心は探幽とその兄弟たちで、後期になると評価は低く、情報も少なくなります。その見逃されがちな後期江戸狩野にスポットを当てることで、様々な流派の台頭の中、命脈を保つため、もがきながら新しい時代の狩野派を創り出そうとする絵師たちの奮闘ぶりが浮かび上がるような展覧会でした。それが結果として実は日本画の近代化に繋がる重要なカギを握っていたことも感じました。粉本主義で旧態依然という固定観念が覆される充実の内容でした。


4位 『京都画壇の明治』(京都市学校歴史博物館)


江戸末期から明治初期の日本美術は近代化の流れもあって、江戸/東京ばかりがクローズアップされがちですが、そこをあえて京都画壇に絞り、画壇衰退の危機感をもった新時代の画家たちの新しい絵画表現の模索と活躍を紹介したとても意義深い展覧会でした。明治初期の京都画壇だけでここまでの数の作品が観られる機会というのもなかなかないので、ほんとは通いたかったぐらいですが、なにぶん京都という距離のため一度しか行けなかったのが残念。明治初期の京都画壇にもっと注目が集まるといいなと思います。


5位 『名作誕生 つながる日本美術』(東京国立博物館)


古典との「つながり」を解き明かす見せ方はこれまでもなかったわけではありませんが、本展はその質と量が素晴らしく、さすがトーハクといいたくなる満足度の高い展覧会でした。普賢菩薩や祖師図の展開、宗達と古典のつながりなど、それぞれに継承されたモチーフや構図、技術を日本美術史上の名立たる絵画・工芸品を通して具体的に例解していく様はまるで観る美術教科書。ここまでの規模じゃなくていいので、常設の特集展示などで、シリーズ化してもらえるとありがたいなと思います。


6位 『扇の国、日本』(サントリー美術館)


“扇”を意匠や装飾に取り入れた絵画や工芸といった面だけではなく、“扇”の神聖性や、“扇”による優雅な遊びや風俗まで、さまざまな視点から“扇”を捉えた素晴らしい展覧会でした。もとはメモ代わりだったり、涼をとる道具だったりした“扇”になぜ日本人はここまでバラエティに富んだ趣向や美の世界を繰り広げたのかを考えさせ、とても興味深いものがありました。日本人の高い美意識や豊かな感性に脱帽しました。


7位 『横山華山展』(東京ステーションギャラリー)


昨年の不染鉄につづき、またしても知られざる絵師をどーんとぶつけてくる東京SGお得意(?)の爆弾展覧会。衝撃という意味では今年一番かも。作品はこれまでも何度か拝見したことはありましたが、知名度の低さと作品を観る機会の少なさもあって、どういう絵師なのかがよく分からなかった華山の実像を明らかにしたという点でとても有意義な展覧会だったと思います。そして誰もが驚いたのが画力の高さ。特に人物表現、風俗描写の素晴らしさには舌を巻きました。正に「見れば、わかる」。


8位 『長谷川利行展 七色の東京』(府中市美術館)


ずっと興味は持っていた長谷川利行の作品をここまでまとめて観たのは初めてなので、とても感慨深く拝見しました。都会的でモダンな雰囲気と昭和初期独特の退廃的なムード。昭和初期の東京をここまで魅力的に描く画家が他にいたでしょうか。市井の女性たちを描いた作品の味わいも格別でした。絵から伝わる賑やかさとか温もりとは裏腹な寂寥感が見え隠れするところも利行の絵の魅力という気がします。


9位 『終わりのむこうへ : 廃墟の美術史』(渋谷区立松濤美術館)


年も押し迫った24日、展覧会納めのつもりで行った美術館で出会った素晴らしい展覧会。西洋の廃墟の美術史から入りつつ、日本の廃墟の美術史に流れる導線の巧みな構成、少ない作品ながらも満足度の高いセレクションの妙。期待以上の面白さでした。近代以降の日本の廃墟の美術史、特に戦前戦後のシュルレアリスムの展開はとても興味深く、現代美術家による東京の廃墟画もいつか来る文明の終焉を仄めかすようで、渋谷という街でこの展覧会が開かれたことも何か因縁めいた気がします。


10位 『池大雅展』(京都国立博物館)


割と観る機会の多い池大雅。しかし実は池大雅のことを正しく理解していなかったのだなと痛感した展覧会でした。画面の構成力や技法の引き出しの多さなど驚くことばかり。質量ともにとても充実していて満足度も高く、なかなかとっつきにくい南画がこんなにも自由で、楽しく、感動するものだということをしみじみと感じました。




ベスト10に入れられないものかと最後まで悩んだものが『狩野芳崖と四天王』。芳崖めぐる近代日本画の関係図が掘り下げられていて良かったですし、『幕末狩野派展』からつながるものもあり、とても興味深かったです。

基本的に今年は良かった展覧会しかブログに記事を書いていませんが、日本美術ではほかにも、『小村雪岱 「雪岱調」のできるまで』『リアル 最大の奇抜』『春日権現験記絵 -甦った鎌倉絵巻の名品-』『小倉遊亀展』なども素晴らしかったと思います。ブログには書けずじまいでしたが、三井記念美術館と畠山記念館で開催された松平不昧の展覧会も印象に残っています。

日本美術という意味では縄文の土器や土偶を美術的視点で評価した東博の『縄文』も素晴らしかったですね。サントリー美術館の『琉球 美の宝庫』で観た琉球の絵画も非常に興味深かったです。仏像では『運慶 鎌倉幕府と霊験伝説』も大変良い内容でした。三井記念美術館の『仏像の姿』もとても好きな展覧会でした。

今年は西洋画の展覧会をあまり取り上げられませんでしたが、『ルドン-秘密の花園』『ヌード展』『モネ それからの100年』など素晴らしい展覧会が多い一年でありました。秋から始まった『フェルメール展』『ムンク展』、『ルーベンス展』、『ピエール・ボナール展』も充実した内容で満足度が高かったです。。

ちなみに今年アップした展覧会の記事で拙サイトへのアクセス数は以下の通りです。
1位 小村雪岱 「雪岱調」のできるまで
2位 春日権現験記絵 -甦った鎌倉絵巻の名品-
3位 ルドン-秘密の花園
4位 琳派 -俵屋宗達から田中一光へ-
5位 藤田嗣治展
6位 歌仙と古筆
7位 京都画壇の明治
8位 狩野芳崖と四天王
9位 墨と金 狩野派の絵画
10位 ヌード展


今年も一年間、こんな拙いサイトにも関わらず、足をお運びいただきありがとうございました。良かった展覧会は個人的な記録のためにも書き残していきたいと思ってるので、来年も細々と続けていければと思ってますが、ブログの更新が途絶えたり、しばらく休ませてもらったりということもあるかもしれません。
そんなこんなですが、来年もどうぞよろしくお願いいたします。


【参考】
2017年 展覧会ベスト10
2016年 展覧会ベスト10
2015年 展覧会ベスト10
2014年 展覧会ベスト10
2013年 展覧会ベスト10
2012年 展覧会ベスト10


美術の窓 2019年 1月号美術の窓 2019年 1月号

2018/12/29

終わりのむこうへ : 廃墟の美術史

渋谷区立松濤美術館で開催中の『終わりのむこうへ : 廃墟の美術史』を観てきました。

西洋古典から現代日本までの廃墟・遺跡・都市をテーマとした作品を集め、「廃墟の美術史」をたどるという展覧会。開幕早々お客さんの入りも良く好評のようで、わたしも早速観てきましたが、期待以上の面白さでした。

Twitterで感想ツイートをしたところ、3日でリツイートが700、お気に入りが1800を超え、たいしたことをつぶやいていないのにビックリ。なんでみんなこんなに「廃墟」に惹かれるんでしょうか。

出品点数は約70点。それほど広い美術館ではないので、作品数は決して多くありませんが、廃墟趣味の作品で知られるロベールやピラネージからデルヴォーなどシュルレアリスム、そして日本の戦前のシュルレアリスムや現代美術まで、廃墟をテーマによくまとまっていたと思います。作品は全て国内の美術館の所蔵作品で構成されていました(一部、作家蔵の作品もあり)。


会場の構成は以下のとおりです:
Ⅰ章 絵になる廃墟:西洋美術における古典的な廃墟モティーフ
Ⅱ章 奇想の遺跡、廃墟
Ⅲ章 廃墟に出会った日本の画家たち: 近世と近代の日本の美術と廃墟主題
Ⅳ章 シュルレアリスムのなかの廃墟
Ⅴ章 幻想のなかの廃墟:昭和期の日本における廃墟的世界
Ⅵ章 遠い未来を夢見て: いつかの日を描き出す現代画家たち

ユベール・ロベール 「ローマのパンテオンのある建築的奇想画」
1763年 ヤマザキマザック美術館蔵

まずは西洋の廃墟画の歴史から。
廃墟ブームとよく言われますが、西洋美術の世界では古いものでは17世紀頃から廃墟を主題とした作品が描かれていたといいます。

廃墟を描いた作品というと、2012年に国立西洋美術館で大規模な回顧展が開催されたユベール・ロベールやロベールにも影響を与えたというピラネージが真っ先に頭に浮かびます。ロベールは水彩の作品が1点展示されていました。崩れ落ちた屋根からは青空が見えます。古代風の衣装を着た人々や彫刻の大きさを考えると、この回廊はどれだけ巨大だったのでしょうか。

ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージ 「『ローマの古代遺跡』より
「古代アッピア街道とアルデアティーナ街道の交差点」
1756年刊 町田市立国際版画美術館蔵

ピラネージは『ローマの景観』シリーズを中心に、複数の銅版画が展示されていました。ピラネージの銅版画は何度か観ていますが、やはりローマの古代遺跡を描いた作品は素晴らしいですね。建築家でもあるだけあって、その再現性の高さと精緻な表現はどれも見事です。描きこまれた情報量も半端じゃありません。ただ単にローマの景観を再現したというよりも、想像の域を超え、新たな古代都市を造り出しているといった方が近いかもしれません。

アンリ・ルソー 「廃墟のある風景」
1906年頃 ポーラ美術館蔵

コローの師というアシル=エトナ・ミシャロンの「廃墟となった墓を見つめる羊飼い」は廃墟趣味が西洋のアルカディアに対する憧れと深く繋がっていることを感じられて興味深かったです。18世紀から19世紀にかけて、廃墟はピクチャレスクなものとして人気を集めたといいます。いまでいう廃墟ブームでしょうね。

ルソーの「廃墟のある風景」も印象的な作品。一般的なルソーのイメージとは少し異なりますが、崩れかけた城壁と洗濯籠をもって道をゆく女性が幻想的です。

ポーリ・デルヴォー 「海は近い」
1965年 姫路市立美術館蔵

シュルレアリスムはデルヴォーが多めで、あとはキリコとマグリット。廃墟や遺跡はシュルレアリスムでよく描かれるモチーフの一つですが、どこの時代の物でもない、どこの国でもない、不思議な風景にマッチします。

伝・歌川豊春 「阿蘭陀フランスカノ伽藍之図」
文化期(1804-18)頃 町田市立国際版画美術館蔵

日本美術にもかなり場所が割かれていて、古くは亜欧堂田善や歌川豊春がヨーロッパから輸入された廃墟画を参考にして描いたと思われる作品なども展示されています。歌川豊春というと江戸末期の浮世を席巻した歌川派の祖で、浮絵も描いていたそうですが、模写絵とはいえ、こんな作品も残していたんですね。

藤島武二 「ポンペイの廃墟」
1908(明治41)年頃 茨城県近代美術館蔵

興味深かったのが近代以降の日本の廃墟の美術史で、明治初期に日本の洋画界に大きな影響を与えたアントニオ・フォンタネージの遺跡を描いた作品や彼の弟子が描いた模写、また日本画では小野竹喬、洋画では百武兼行や藤島武二など、ヨーロッパに留学したことで触れた廃墟や遺跡を描いた作品も展示され、日本に廃墟画がどのように日本に入ってきたかという点で勉強になります。

ほかにも、中世の古城の廃墟を幾何学的な線で描いた岡鹿之助の「廃墟」、ローマのコロセウムを背にうねる人々の異様な姿を描いた難波田龍起「廃墟(最後の審判より)」、また昨年の回顧展が記憶に新しい不染鉄の「廃船」など印象的な作品がありました。

北脇昇 「章表」
1937(昭和12)年 京都市美術館蔵

とりわけ印象に強く残ったのが戦前戦後の日本のシュルレアリスム。西洋のシュルレアリスム自体が第一次世界大戦と密接に繋がっているという点はありますが、日本のシュルレアリスムの展開も戦争の足音や不穏な時代の空気、そして荒廃した戦後の焼け野原の風景と重なり、幻想と現実が交錯します。頭部と腕が欠けた彫刻と枝を切られた木にピン止めされた蝶が何か時代の閉塞感を伝える北脇昇の「章表」、まるで古代ギリシャの神殿遺跡のように瓦礫と化した街に生きる少年の逞しさと優しさが印象的な大沢昌助の「真昼」、聳え立つバベルの塔が現代都市は幻想であることを示唆しているような今井憲一の「バベルの幻想」など、少ない点数ながらもセレクションの妙に唸ります。

元田久治 「Indication Shibuya Center Town」
2005(平成17)年

現代美術では、大岩オスカールや元田久治、野又穫、麻田浩の作品が展示されています。特に元田久治の廃墟と化した渋谷駅前の風景や、ジャングルと化した国会議事堂や東京駅など、東京の廃墟画もいつか来る文明の終焉を仄めかしているようで、渋谷という街でこの展覧会が開かれたことも何か因縁めいた気がします。


一年の最後の最後にこんな素晴らしい展覧会に出会うなんて。廃墟というキーワードに惹かれる人にはオススメの展覧会です。


【終わりのむこうへ : 廃墟の美術史】
2019年1月31日(木)まで
渋谷区立松涛美術館


廃墟の美学 (集英社新書)廃墟の美学 (集英社新書)


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