2013/01/26

円空展

ちょっと個人的な事情で、展覧会に足を運ぶ時間が全然作れなくて、行ったら行ったでブログも更新できてなくてすいません。しばらくこんな状態が続くかもしれませんが…。

さて、先日東京に数年ぶりの大雪が降った日に、東京国立博物館で開催中の『飛騨の円空―千光寺とその周辺の足跡―』に行ってきました。

本展は、平成館の特別展示室ではなく本館の特別5室(本館入口を入って正面の小部屋)を使っての展覧会のため部屋も小さいのですが、狭い空間に約100体(作品数でいうと46点)の円空仏が所狭しと展示されており、とても密度の濃い展覧会でした。

東京国立博物館では過去にも、『仏像 一木にこめられた祈り』(2006年)や『対決-巨匠たちの日本美術』(2008年)で円空の仏像が取り上げられていました。そのときは円空と同じ江戸時代の僧侶で各地を行脚し、素朴な仏像を数多く残した木喰の仏像とともにの展示でしたが、今回は円空の仏像だけにスポットを当てています。

円空は、土地々々の木を素材にして、荒削りで手作り感のある、素朴で、いかにも庶民信仰的な風合いが特徴的です。

円空作 「不動明王および二童子立像」
江戸時代・17世紀 千光寺蔵

円空は西は奈良から北は北海道まで、生涯で12万点にも及ぶ仏像を彫ったといわれていますが、本展では岐阜・千光寺所蔵の円空仏61体を中心に、岐阜県高山市所在の100体を展示しています。粗彫りの円空仏が静かに居並ぶ空間は、かすかに針葉樹の香りがして、飛騨の森の中にいるような気分になりました。

円空作 「両面宿儺坐像」
江戸時代・17世紀 千光寺蔵

本展の目玉の一つが、ポスターにも取り上げられている「両面宿儺坐像」。宿儺(すくな)は一つの体に二つの顔があって、日本書紀では仁徳天皇の敵とされているそうですが、もとは飛騨の豪族ともいわれ、飛騨では悪龍を退治したという伝承も残り、救世観音の化身ともいわれているのだそうです。入念に刻み込まれた彫と円空仏にはあまり見られない光背を配し、丁寧に作られた様子がうかがわれます。

円空作 「金剛力士(仁王)立像 吽形」
江戸時代・17世紀 千光寺蔵

円空作 「千手観音菩薩立像」
江戸時代・17世紀 清峰寺蔵

円空仏は鉈一本で彫られたなんて話もありますが、こうしていろいろと円空の仏像を観ていると、荒削りではありますが、実はノミや彫刻刀などで丁寧に彫られていて、とても心のこもったものであることがよく分かります。立ち木にそのまま彫ったという「金剛力士(仁王)立像」のような、いかにも鉈彫り的な作品もありましたが、そんな大胆で、野性的な仏像ばかりでははなく、中には時間をかけて作ったのだろうと思うようなものも多くありました。

円空作 「三十三観音立像」
江戸時代・17世紀 千光寺蔵

円空の仏像は寺院や神社に納められるだけでなく、祠や民家にも祀られ、庶民の信仰の対象となっていたそうで、病気で苦しむ人がいれば薬師如来像を彫って与えたというエピソードが紹介されていました。この「三十三観音立像」も、近隣の人々が病気になると借り出しては回復を祈ったといいます。かつては50体以上あったのではないかといわれているそうですが、現存するのは31体だけで、あとは持ち出されたまま戻ってこないのだとか。恐らくはまだどこかの民家に眠っているのかもしれませんね。

円空作 「柿本人麿坐像」
江戸時代・17世紀 東山神明神社蔵

仏像だけではなく、「柿本人麿坐像」なんていうのもありました。神社に納められているということは何かの神様的なものなのでしょうか? ほかにも、とぐろを巻いた蛇に人の頭がついた宇賀神や迦楼羅(烏天狗)などあまり見かけない仏像(神像)もありました。宇賀神は雨乞いや招福を祈る神様で、烏天狗は火難除けの神様とされていて、いずれも庶民信仰の求めに応じて造られたものなのでしょう。いかにも円空的なユニークな狛犬も展示されていました。

円空作 「如意輪観音菩薩坐像」
江戸時代・17世紀 東山白山神社蔵

個人的にお気に入りのひとつが、この「如意輪観音菩薩坐像」。にっこりと微笑む優しげな面差しで、頬に添えた大きな手が何もかも包み込んでくれるような暖かさがあります。「十一面観音菩薩坐像および両脇侍立像」の観音様も大きな手が印象的でした。

狭い展示室なので、混むとかなり窮屈に感じるかもしれません。会期末で混む前にご覧になられることをお勧めします。


【飛騨の円空―千光寺とその周辺の足跡―】
2013年4月7日(日)まで
東京国立博物館特別5室にて

美術手帖 2013年 02月号 [雑誌]美術手帖 2013年 02月号 [雑誌]


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