2011/07/17

パウル・クレー おわらないアトリエ


東京国立近代美術館で開催中の『パウル・クレー おわらないアトリエ』展に行ってきました。

20世紀初頭に活躍した抽象絵画の代表的な画家であり、日本でも人気の高いクレーですが、国立近代美術館での展覧会は、意外なことに今回初めてなのだそうです。

生涯に1万点に近い作品を残したといわれるクレー。本展覧会には、スイス・ベルンのパウル・クレー・センターの所蔵作品を中心に、国内外から約180点の作品が集められています。一部、震災の影響で出展が見合わされた作品もあり、参考として写真のみ展示されていました。

「花ひらいて」

展覧会は、大きく2つの会場に分けられています。まず入ってすぐのスペースにクレーの自画像のコーナーがあり、次の細長いアプローチには≪現在/進行形 アトリエの中の作品たち≫と題し、ミュンヘン、ヴァイマール、デッサウ、ベルンと都市ごとに小間を分け、さもアトリエに絵が飾られているかのように作品を展示しています。

ミュンヘンはクレーが画家としての人生を歩み始めた重要な街、ヴァイマールとデッサウは言わずと知れたバウハウスの街、そして第二次大戦勃発後、クレーは故郷ベルンへと戻ります。それぞえrの小間にはアトリエの室内写真も飾られ、当時の雰囲気を伝えていました。

「バルトロ:復讐だ、おお!復讐だ!」

細いアプローチを抜けると、広い会場に出ます。ここではクレーの創作過程を4つのプロセスに分け、作品を展示・解説しています。会場は三角形や三角にえぐられた四角形(変形五角形)などのアイランド状の壁が配置され、4つのプロセスとプラス・アルファの作品群を並べた空間になっています。

プロセス1: 写して/塗って/写して - 油彩転写の作品
プロセス2: 切って/回して/貼って - 切断・再構成の作品
プロセス3: 切って/分けて/貼って - 切断・分離の作品
プロセス4: おもて/うら/おもて - 両面作品
過去/進行形 - “特別クラス”の作品たち

どれもクレー独特の技法で、鉛筆やインクで描いた素描を油絵の具を塗った紙の上に転写し、水彩絵の具で着彩する技法や、仕上げた作品を切断し、新たな作品を生み出したり、上下・左右を入れ替えて作品を再構成したり、作品の裏にも絵を描いて絵画の三次元的な可能性を探ったりして、クレーは絵画の可能性に挑み続けていたようです。

「E 附近の風景(バイエルンにて)」

作品リスト(会場の入り口に置いてあります)にある会場の見取り図を見ても、かなりまごつく会場構成で、みなさんあっちへ行ったりこっちへ行ったり、ここは見たっけ?次どれ見るの?のような感じで、少々混乱気味でした。ただ、転写前の絵や切断する前の絵、また、切断されたもう一方の絵なども一緒に展示されていて、クレーの創造的な制作過程を知る上ではとても面白く、興味深い企画だと思いました。

「山のカーニバル」

国立近代美術館の常設展でもクレーの作品が10点ほど展示されています。常設展も是非お忘れなく。


【パウル・クレー おわらないアトリエ】
東京国立近代美術館にて
7/31(日)まで

もっと知りたいパウル・クレー―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)もっと知りたいパウル・クレー―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)








クレ-の絵本 (講談社ARTピース)クレ-の絵本 (講談社ARTピース)








クレーの食卓 (講談社ARTピース)クレーの食卓 (講談社ARTピース)

2011/07/10

破天荒の浮世絵師 歌川国芳

原宿の太田記念美術館で開催中の『歌川国芳』展に行ってきました。

去年も、府中美術館での『歌川国芳展』を観ていますが、今年は没後150年ということで、本展は浮世絵専門の美術館である太田記念美術館の満を持しての国芳の回顧展となっています。

ちなみに、大阪(終了しました)、静岡、六本木と巡回する『歌川国芳展』(日本経済新聞社主催)とは別の展覧会なので、ご覧になられる方はご注意を。

さて、太田記念美術館での歌川国芳展(主催は太田記念美術館 ・ NHK ・NHKプロモーション)は前期・後期に分けての開催。前期は武者絵や妖怪など奇怪なものを題材にした浮世絵が中心で、後期はこれまた国芳お得意の遊び心溢れる戯画や西洋画の影響を受けた浮世絵が展示されます。前期展示はすでに終了し、現在は後期展示が行われています。

歌川国芳「通俗水滸伝豪傑百八人之一個」(前期展示)

江戸末期に活躍した北斎や同じ歌川派の広重・国貞と比べても、非常に異色というか、特徴的かつユニークな画風が国芳の持ち味で、そこが人気の秘密。今回の展覧会は、そんな国芳の魅力を存分に堪能することができます。前期展示の豪快な武者絵や奇々怪々な作品ももちろんのこと、後期展示のユーモラスな作品は単にユニークなだけでなく、当時の文化や世相、政治的背景(役者絵の浮世絵が禁止されていた等)を知る上でも、非常に貴重な作品だと言えるでしょう。

歌川国芳「鬼若丸の鯉退治」(前期展示)

国芳の浮世絵は、まさに“破天荒”。常識が通用しないというか、常識に縛られないというか、自由で、勢いがあって、パワーがあって、そしていつまでもヤンチャらしさがあって。国芳の絵を見ていると、この人のバイタリティの凄さに圧倒され、こっちまで元気な気分になってきます。

歌川国芳「荷宝蔵壁のむだ書」(後期展示)

歌川国芳 「里すずめねぐらの仮宿」(後期展示)

原宿という、いかにも現代的な街には少し不似合いに思える浮世絵ですが、太田記念美術館は原宿駅のすぐそば、表参道からちょっと横に入っただけでこんな閑静な場所があるのかという小さな美術館です。かつて江戸時代も、こうした街の賑わいや、最新のファッションや流行りを浮世絵にしていたと思えば、そんなに違和感はないのかもしれません。


【没後150年記念 破天荒の浮世絵師 歌川国芳】
太田記念美術館にて
前期展示: 6/1~6/26まで
後期展示: 7/1~7/28まで

もっと知りたい歌川国芳―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)もっと知りたい歌川国芳―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)









歌川国芳 (新潮日本美術文庫)歌川国芳 (新潮日本美術文庫)