新年あけましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
さて、今年も博物館・美術館巡りはトーハク毎年恒例の『博物館に初もうで』から始動です!
年末の厳しい寒さも少し和らぎ、空も雲一つなく青空で、お正月らしい気持ちのいい晴天のもと、今年もいつものごとく初日の2日から観てきました。
今年は少し寝坊しまして、東博には開館の40分前に到着。去年は開館30分前に100人ぐらいの列になっていたので、出遅れたなと思ってたのですが、拍子抜けするぐらい列が短くて、私が着いたときで20人ぐらい、開館時も去年の半分もいなかったんじゃないでしょうか。朝から並ぶ年配層が今年は一般参賀に流れたのかなと思ったのですが、どうでしょう。
ここ数年、朝一で入って、2時間半ぐらいぐるぐる観て、お昼ぐらいに東博を出るというパターンで、去年は午前中から館内は大変な賑わいで、お昼に外に出るときもチケット売り場に長い行列という光景でしたが、今年は館内の混雑もさほどではなく、比較的ゆっくり観て回ることができました(午後は少し混んでたようですが)。
今年は亥年ということで、本館2階の特別1室・2室では≪博物館に初もうで イノシシ 勢いのある年に≫と題し、イノシシをテーマとした作品が展示されています。
[写真左から] 「玉豚」 中国・ 前漢~後漢時代・前2~後3世紀
「猪形土製品」(重要美術品) 縄文時代(後~晩期)・前2000~前400年
東京国立博物館蔵(展示は1/27まで)
[写真左から] 「埴輪 猪」(重要文化財) 古墳時代・6世紀
「埴輪 猪」 古墳時代・5~6世紀
東京国立博物館蔵(展示は1/27まで)
干支の「亥」というと日本ではもちろん「イノシシ」ですが、中国や韓国などアジア圏では「ブタ」(元はイノシシを家畜化したもの)を指して、「イノシシ」を干支にしているのは日本だけだといいます。古来日本ではブタに馴染みがなく、山国なのでイノシシを見慣れていたということもあるのでしょう。中国ではブタが繁栄の象徴であることから墓に副葬品として一緒に入れられていたそうですが、猪形の縄文土器は狩りの成功を願ったものかもしれないとありました。「玉豚」はブタっぽいし、縄文土器のイノシシはイノシシらしい。古墳時代のイノシシの埴輪の足が長いのも面白いですね。
岸連山 「猪図」
江戸時代・19世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/27まで)
望月玉泉 「萩野猪図屏風」
江戸~明治時代・19世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/27まで)
絵画では岸連山の「猪図」がすごいインパクト。岸派というと虎のイメージですが、大きな画面一杯にイノシシが勢いよく描かれていて迫力満点。正に猪突猛進という感じ。イノシシの堅い毛や重量感までも伝わってきます。となりには明治期の京都画壇を代表する望月玉泉の「萩野猪図屏風」が展示されています。玉泉は萩の草むらで眠るイノシシ。臥して眠る猪(=臥猪(ふすい))から亥年を寿ぐ意味を込めて「富寿亥(ふすい)」と表し、そこから「撫綏(ぶすい)」の語呂合わせで鎮めて安泰にするという意味の吉祥画になったのだそうです。今回は左隻のみの展示でしたが、対の右隻には熊の親子が描かれていて、これがまた可愛いんですよ。
筆者不詳 「曽我仇討図屏風(右隻)」
江戸時代・17世紀 個人蔵(展示は1/27まで)
興味深かったのが筆者不詳の「曽我仇討図屏風」。展示は右隻のみで、源頼朝が富士の裾野で催した富士の巻狩が描かれています。展示されてなかった左隻には曽我十郎五郎兄弟の仇討が描かれているのでしょう。同様の屏風を根津美術館でも観たことがあって、調べたところ、この組合せの屏風は江戸初期に流行したといいます。鹿や熊、イノシシなど動物がいろいろ描かれていますが、走る姿などその描写がとても的確で、それなりの腕のある絵師だと分かります。人物が又兵衛風で、気になって解説を読むと、岩佐又兵衛に関係する絵師による作品だろうとありました。
結城正明 「富士の巻狩」
明治30年(1897) 個人蔵(展示は1/27まで)
同じ富士の巻狩を題材にした作品がもう一つ。富士山の表現がユニークな結城正明の「富士の巻狩」では巨大なイノシシの上に新田義貞が跨り、尻尾を切ろうとしています。
歌川豊国 「浮繪忠臣蔵・五段目之圖」
江戸時代・18世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/27まで)
イノシシ狩りで思い出すのは歌舞伎の『仮名手本忠臣蔵』の五段目。勘平が射止めたと思ったのはイノシシではなく定九郎だったという有名な場面。奥行きのある構図と、手前を走り去るこれまた大きなイノシシが印象的です。
喜多川歌麿 「浮世七ツ目合・巳亥」
江戸時代・19世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/27まで)
いつの世も開運グッズやラッキーアイテムは人気があるのか、ある干支とそれから数えて七つ目の干支を組み合わせると幸運になるということで摺られた人気シリーズ。イノシシが描かれた団扇を持つ女性をヘビのおもちゃで驚かすという他愛のない絵柄が微笑ましい。
長谷川等伯 「松林図屏風」(国宝)
安土桃山時代・16世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/14まで)
国宝室では、お正月は2年ぶりの公開となる「松林図屏風」。「松林図屏風」はやはり人気なので、朝一はこの状態で屏風を観られますが、時間が経つとともに二重三重に人垣ができて写真を撮るのもままならなくなります。
「松林図屏風」はもともとは屏風を想定したものではなく、障壁画か何かの草稿を後年等伯ではない別の者が屏風に仕立てたというのが現在ではほぼ定説になっていて、実際よく見ると紙継ぎの跡も分かり、墨の線もどことなく下書きのような感じを受けるところもあります。昨年東博で開催された
『名作誕生 つながる日本美術』では「松林図屏風」と並んで松林図に先行して等伯が描いたとされる大徳寺旧蔵の「山水松林架橋図襖」(樂美術館蔵)が展示されていましたが、等伯の関連書籍で読んで知っていることを実際に目で触れられることができて、とても良かったなと思います。
なお、本館特別4室(1階)では「松林図屏風」の高精細複製品がガラスケースなしで展示されていて、畳に座って屏風を間近で眺めることができます。
「伝 源頼朝坐像」(重要文化財)
鎌倉時代・13~14世紀 東京国立博物館蔵(展示は2/3まで)
本館3室(2階)に入ると「伝 源頼朝坐像」がお出迎え。「伝 源頼朝坐像」は鎌倉の鶴岡八幡宮に隣接する白旗神社伝来の彫刻。白旗神社の祭神は源頼朝なので、肖像彫刻というより神像といっていいかもしれませんね。頼朝の没後100年を過ぎて造られたとものといわれています。両脚のシンメトリックなラインが印象的です。
「古今和歌集(元永本)下帖」(国宝)
平安時代・12世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/14まで)
新春特別展示として公開されているのが国宝「元永本古今和歌集」。全20巻が完存する『古今和歌集』の写本としては現存最古の遺品。豪華な料紙装飾と流れるような筆致が美しい。
「天狗草紙(延暦寺巻)」(重要文化財)(※写真は一部)
鎌倉時代・13世紀 東京国立博物館蔵(展示は2/3まで)
絵巻では鎌倉時代の絵巻を代表する「天狗草子」。南都北嶺の寺の驕慢や、浄土宗や時宗といった新興宗教を風刺した全7巻から成る異色の絵巻で、展示は延暦寺の僧徒を描いたもの。山の陰から天狗が何かニタニタしながら話をしています。悪口でも言ってるんでしょうか。
狩野正信 「布袋図」(重要文化財)
室町時代・15世紀 文化庁蔵(展示は2/3まで)
伝・狩野元信 「囲棋観瀑図屏風」(重要美術品)
室町時代・16世紀 東京国立博物館蔵(展示は2/3まで)
「禅と水墨画」のコーナーでは狩野正信の「布袋図」(別名「崖下布袋図」)が見どころ。景徐周麟の賛から制作時期が限定されることから正信の基準作になっているといいます。肩にかけた大きな袋から右肩にかけてのラインと真ん丸のお腹の丸い構図と人の良さそうな布袋様の表情がとてもいい。謹直な衣紋線はこれぞ狩野派という感じです。元信(伝)の「囲棋観瀑図屏風 」は2年前の
『狩野元信展』には出品されてなかった作品。右隻に囲碁を眺める人々、左隻に滝を眺める人々が描かれます。奥行きのある空間構成やダイナミックな瀑布など素晴らしいねですね。隅々まで丁寧に描き込まれた元信らしい屏風です。
「紅白梅図屏風」
江戸時代・17世紀 東京・高林寺蔵(展示は2/3まで)
7室「屏風と襖絵」では屏風が3点。江戸初期のやまと絵絵師による作品と思われる「富士山図屏風」と同じく筆者不詳の「紅白梅図屏風」、狩野常信の「松竹梅図屏風」といういずれも美しい吉祥画。「紅白梅図屏風」は大胆な枝ぶりの梅の木や構図が琳派を思わせ(ちょっとごちゃごちゃしている気はしますが)、どういう絵師が描いたものなのか気になるところです。左右の屏風を入れ替えても鑑賞に適うようになっていて、そうした趣向も琳派の絵師のやりそうな感じがします。
円山応挙 「龍唫起雲図」
江戸時代・寛政6年(1794) 東京国立博物館蔵(展示は2/3まで)
8室「書画の展開」では応挙の「龍唫起雲図」。亥年だけど龍。テレビの『開運!なんでも鑑定団』で番組に登場した応挙といわれる掛軸の89%は偽物だったと言ってましたが、博物館や美術館で応挙として展示されていれば応挙なんでしょうが、この龍の絵だけを観て、応挙と分かるかといえば難しく、素人には到底判断できるものではないなと思います。
狩野〈晴川院〉養信 「福禄寿・松竹梅図」
江戸時代・19世紀 個人蔵(展示は2/3まで)
伝・土方稲嶺 「寿老・牡丹に猫・芙蓉に猫図」
江戸時代・18世紀 東京国立博物館蔵(展示は2/3まで)
お正月は縁起物、吉祥画が多い(というか基本的に縁起の良い画だけ)。狩野養信は幕末の狩野派の絵師。すっきりした構図と精緻な線描、コントラストのある明確な色彩は弟子の芳崖につながっていくものを感じます。土方稲嶺は昨年の
『百花繚乱列島』でも強く印象に残った鳥取画壇を代表する絵師。宋紫石に師事した人なので、養信と同じ三幅対でもやはり南蘋派の影響を色濃く感じます。
葛飾北斎 「冨嶽三十六景・凱風快晴」
江戸時代・19世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/27まで)
浮世絵のコーナーではまず縁起の良い富士山。赤富士は夏の富士山ですが、それはおいておいて、今年からデザインが刷新される日本のパスポートのデザインに「凱風快晴」が選ばれたことはニュースになりましたね。それもあって展示されていたのかな? 今年は北斎の大きな展覧会があるのでそちらも楽しみです。
歌川広重 「名所江戸百景・日本橋雪晴」
江戸時代・安政3年(1856) 東京国立博物館蔵(展示は1/27まで)
鈴木春信 「新年ひきぞめ」
江戸時代・宝暦11年(1761) 東京国立博物館蔵(展示は1/27まで)
宮川長春 「万歳図」
江戸時代・18世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/27まで)
浮世絵もお正月の風俗や景物を描いた作品が中心。新春の賑わう日本橋と晴れ晴れとした富士山を描いた広重の「名所江戸百景・日本橋雪晴」や、今でいうところの初売り?でしょうか、清長の「名所江戸百景・日本橋雪晴」、新春の飾りつけをした遊郭の様子を描いた春信の「新年ひきぞめ」、長春の肉筆浮世絵などが印象的でした。
「片輪車蒔絵螺鈿手箱」(国宝)
平安時代・12世紀 東京国立博物館蔵(展示は3/31まで)
仁清 「色絵月梅図茶壺」(重要文化財)
江戸時代・17世紀 東京国立博物館蔵(展示は3/17まで)
ひとつひとつ挙げていると切りがないので、スピードアップ(笑)
漆工では国宝の「片輪車蒔絵螺鈿手箱」、陶磁では仁清の「色絵月梅図茶壺」が見どころ。刀剣コーナーは新年から刀剣ファンでいっぱい。
14室(1階)では「大判と小判」の小特集。豊臣秀吉が作らせた当時世界最大の金貨だったという「天正長大判」や6点しか現存しない「天正菱大判」、江戸初期から幕末にかけての大判小判がざっくざっく。小判が通過として用いいられて、大判は主に贈答用だったんですね。知りませんでした。
「江戸城本丸大奥総地図 」
江戸時代・19世紀 東京国立博物館蔵(展示は2/24まで)
東博で面白かったものの一つが「江戸城本丸大奥総地図」。赤色の部分が奥女中が居住するところで、黄色の部分が儀式や対面を行ったり御台所や側室、将軍の生母などが住むところだそうです。どれだけ部屋数があるのかというぐらい広大な屋敷で、大奥の女中は最盛期で1000人とも3000人ともいわれるますが、こうして見ると規模が想像を遥かに超えてますし、ものすごく複雑。大奥で迷子になった人は絶対にいたでしょうね。
小林古径 「異端(踏絵)」
大正3年(1914) 東京国立博物館蔵(展示は1/20まで)
「近代の美術」ではまず古径の「異端(踏絵)」に惹かれました。ここまで大きな古径の作品はあまり観た記憶がありません。踏絵のキリストをじっと見つめ、これから踏まんとする女性たちという隠れキリシタンの主題と背景の仏教的な蓮の花の取り合わせが印象的です。
落合芳幾 「五節句」
明治時代・19世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/20まで)
小林永濯 「美人愛猫」
明治時代・19世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/20まで)
昨年の
『落合芳幾展』が記憶に新しい、落合芳幾や小林永濯の肉筆浮世絵も良い。小林永濯はやはりどこかでまとめて観たいところです。前田青邨は、金屏風にやけにカラフルな唐獅子を描いた「唐獅子」(これは何度か観ている)と絵巻の「朝鮮之巻」が出ていたのですが、「朝鮮之巻」が青邨の軽妙さと人物表現のうまさがよく出ていて、とても良かったです。今村紫紅の「熱国の巻」に感化され、単身挑戦に渡り取材した作品だといいます。朝鮮の人々の生活風景や風俗が生き生きと描かれていてとても印象的です。
前田青邨 「朝鮮之巻」
大正4年(1915) 東京国立博物館蔵(展示は1/20まで)
ほかにも東洋館の中国絵画や墨蹟、中国や韓国の陶磁、黒田記念館などをひと通り回って、だいたい3時間弱。今年はお正月恒例の催し物のタイムスケジュールが例年と違って、獅子舞が午後だったので見られなかったのが残念ですが、朝からたっぷりトーハクを堪能しました。
【博物館に初もうで】
2018年1月3日(水)~1月27日(日)
※開館時間、休館日、作品の展示期間など詳しくは東京国立博物館のウェブサイトでご確認ください。