2012/01/29

平清盛展

先日といってももう数週間も前になりますが、江戸東京博物館で開催中の『平清盛展』に行ってきました。ちょうど前日がNHKの大河ドラマ「平清盛」の第一回目の放送とあって、ドラマに触発されたと思しき人々で館内は混み合っておりました。

以前も、「天地人」のときに大河ドラマ特別展と称し、サントリー美術館で関連の展覧会が開かれましたが、まぁ今回も半分は宣伝を兼ねての関連展なのでしょう。

とはいえ、そこは歴史に一時代を築いた平氏。厳島神社所蔵の国宝「平家納経」など、平家ゆかりの至宝の数々がズラリと揃っていました。

「平家物語」を読んだ方ならわかると思いますが、平清盛の周りの人物の関係は複雑を極めていて、きっと大河ドラマもいろんな人が入り乱れての大変なことになるだろうと察するのですが、この特別展では、そのあたりも考慮に入れてか、分かりやすく構成されていたのが印象的でした。

まずは第一章「>平氏隆盛の足跡」から。平家にまつわるさまざまなエピソードを取り上げ、「平治物語絵巻」や「平家物語絵巻」など関係の深い作品を展示し、その足跡を辿っています。大河ドラマが平清盛を白河法皇の落胤説を取っていることから、ここでもそのように紹介されていました。人物相関図なども掲げられていたので、清盛との関係を確認しながら、ドラマの予習をしていくのも良いのではないでしょうか。第二章では「清盛をめぐる人々」と題し、後白河院や西行法師、安徳天皇などを紹介し、その肖像画や書状、宮殿跡からの出土品などを展示しています。

「保元合戦図屏風」
17世紀(江戸時代) 馬の博物館蔵

第三章は「平氏の守り神 - 厳島神社」として、清盛が篤く信仰した厳島神社ゆかりの作品を紹介。清盛が一門の繁栄を願って奉納した国宝「平家納経」4巻(そのほか模本もあり)が公開されています。以前拝見した金剛峰寺の「金銀字一切経」もそうでしたが、この頃の装飾経は贅の限りを尽くしたものが多く、非常に豪華かつ丁寧な作りになっていて、驚きます。あれだけ世間を騒がせ、悪事の限りを尽くした感のある平家といえども、こうした信心深さが強くあったということに深い感銘を覚えます。今回は厳島神社に行ってもなかなか見られないような宝物も多く展示されていて、これだけでも十分観る価値があるでしょう。

国宝「平家納経 平清盛願文(部分)」
1164年(平安時代) 厳島神社蔵

国宝「平家納経 法華経法師功徳品第十九」
1164年(平安時代) 厳島神社蔵

国宝「金銀荘雲龍文銅製経箱(平家納経納置)」
1164年(平安時代) 厳島神社蔵

第四章は「平氏の時代と新しい文化」ということで、平家が力を入れていた中国・南宋との交易にまつわる作品や、中国文化の影響を受けた当時の先進的な作品が展示されていました。「伝平重盛所持 青磁茶碗」は後に室町時代に将軍・足利義政が所持することになり、ひび割れがあったため中国に送ってこれに代わる茶碗を求めたところ、当時の中国にはこのような優れた青磁茶碗は既になく、ひびを鎹で止めて日本に送り返してきたという逸話があるそうです。実際には平重盛の所有したものか不確かなところがあるようですが、青磁茶碗の美しさと東山御物としの貴重性から、高く評価されている逸品です。

重要文化財「伝平重盛所持 青磁茶碗 銘馬蝗絆」
13世紀(中国・南宋時代) 東京国立博物館蔵

国宝「十二天像 月天」
1127年(平安時代) 京都国立博物館蔵(※1/22まで展示)

最後の第5章は「平家物語の世界」として、『平家物語』にまつわる逸話、特に木曽義仲や源義経、那須与一らのエピソードを基にした作品、また瀬戸内海での激しい攻防の様子を描いた作品、当時の琵琶法師の琵琶、現存する諸本中、最古の態本といわれる『延慶本 平家物語』(重要文化財)などが展示されています。

狩野吉信「一の谷・屋島合戦図屏風(左隻)」
17世紀(江戸時代) 神戸市立博物館蔵

大河ドラマの宣伝を兼ねた特別展といっても、前・後期の入れ替え作品を入れると約120点もあるそうで、さすが見応えのある展覧会でした。ただ残念だったのは、後年制作された複製品や模本が少なからずあり、恐らく原品は保存状態の関係などで貸し出しが叶わなかったのでしょうが、折角の機会だったので、原品の写真を飾るとか、断り書きを入れるとか、ちょっと説明が欲しかったかなと思いました。


【NHK大河ドラマ50年特別展 平清盛】 2012年2月5日(日)まで
江戸東京博物館にて


NHK大河ドラマ「平清盛」完全読本 (NIKKO MOOK)
NHK大河ドラマ「平清盛」完全読本 (NIKKO MOOK)

国宝 平家納経―全三十三巻の美と謎
国宝 平家納経―全三十三巻の美と謎

平家物語〈1〉 (岩波文庫)
平家物語〈1〉 (岩波文庫)

2012/01/28

壽 初春大歌舞伎

戦後初めて、東京だけで5座も興行があるということで話題の歌舞伎ですが、自分は一つだけ、新橋演舞場で壽初春大歌舞伎の夜の部を観て参りました。

まずは正月の演目らしく歌舞伎十八番の曽我物『矢の根』から。曽我五郎は三津五郎が演じます。三津五郎の荒事は丁寧で卒がない分、面白みに欠ける印象が今までどこかあったのですが、今回の『矢の根』はユーモラスな狂言ということもあるのか、肩の力が抜けておおらかで楽しく豪快な五郎でした。曽我十郎に田之助、大薩摩主膳太夫に歌六、馬士畑右衛門に秀調とベテラン勢を配し、手堅くまとめらていて、安心して観られる一本でした。

次に、昨年亡くなった中村富十郎の一周忌追善狂言として、愛息・鷹之資と富十郎亡きあと鷹之資くんの後ろ盾となっている吉右衛門による『連獅子』。観劇歴の浅い自分は、富十郎の芝居をたくさん見ているわけではないですし、特に強い思い入れがあるわけではないのですが、たまたまテレビで見た天王寺屋親子による『勧進帳』のドキュメンタリーに深く感動し、その直後に見た歌舞伎座さよなら公演の親子共演の『文殊菩薩花石橋』、昨年の富十郎急死直後の『寿式三番叟』と観てきて、そしてこの『連獅子』と鷹之資くんの成長を何か蔭ながら見守ってきているような気持ちになりました。吉右衛門が舞踊ものというのも珍しいですが、『連獅子』も実に36年ぶりだそうです。吉右衛門もさすがに67歳なので、体力的なところが心配でしたが、疲れてるでしょうけれども、さすがに風格といい姿といい立派な親獅子でした。ときどき鷹之資くんの背中をポンと叩いたり、手を添えたりして、厳しい親獅子の中にも優しさを滲ませた様子に胸を打たれました。そんな鷹之資くんの子獅子も全く危なげなく、よくよく考えてみればまだ12歳というのに、やはり富十郎の子だなと思うところもしばしば。将来が楽しみに思いました。きっと天国から天王寺屋も頼もしく見ていたことでしょう。間狂言の錦之助と又五郎も相性が良いのか、とても楽しめました。

最後は、菊五郎劇団の『神明恵和合取組』、通称『め組の喧嘩』。辰五郎に菊五郎、お仲に時蔵、四ツ車大八に左團次、九竜山浪右衛門に又五郎、島崎楼女将おなみに萬次郎、焚出し喜三郎に梅玉、亀右衛門に團蔵、江戸座喜太郎に彦三郎、藤松に菊之助と正月公演らしく豪華な顔ぶれ。菊五郎の辰五郎はさすがの頭の貫録で、観ているこっちもグイグイと引き込まれてしまいます。時蔵の江戸の女らしい仇っぽさといい、左團次の関取然とした大きな出で立ちといい、ベテランの安定感に加え、菊之助、團蔵、松也、亀三郎、亀寿をはじめ、菊五郎劇団の若手が盛り上げ、チームワークの良さに全く飽きることがありません。今回は玉三郎の公演に出演して菊五郎劇団には参加していない>松緑の、長男・大河くんが辰五郎の倅又八役で出ていて、大人顔負けの芸達者ぶりを披露していました。もともとの芝居が若い者のささいな口論から始まり、親分格が話をつけるという筋もあって、ベテラン対ベテラン、若手対若手の競り合いが見どころの一本。賑やかで、鯔背で、男臭くて、江戸の華に遜色ない楽しい作品でした。

2012/01/11

北京故宮博物院200選

東京国立博物館で開催中の『北京故宮博物院200選』展に行ってきました。

毎年、お正月の3が日にはトーハクの“博物館に初もうで”に行っているのですが、今年はちょっと出遅れて4日に詣でてきました。Twitterでは『北京故宮博物院200選』の目玉の「清明上河図」を観るだけで210分待ちとか朝7時前から並んでいるとか情報が流れていて、そんな長時間並ぶのは嫌だし、「清明上河図」は諦めようかななどと気弱なことも考えていました。

「清明上河図」はまさに“神品”と呼ばれるだけあって、中国の一級文物(日本でいう国宝)の中でも中国美術史上屈指の名画といわれており、中国でも滅多にお目にかかることのできない作品。上海で特別公開されたときは夜中まで行列ができたなんて話も聞きます。やはり「清明上河図」を観ずして、『北京故宮博物院展』は語れないなと思い、その日は開門50分前にトーハクへ。この時点で、行列は50人ぐらいだったでしょうか。9時を過ぎた頃には、あれよあれよという間に行列が伸び、開門の時間には黒門の先の先の方まで行列ができていました。

お目当ての「清明上河図」は第一会場の一番最後のコーナーにあります。「清明上河図」を観ない人はそのまま第一会場の最初から観ていくわけですが、「清明上河図」を観る人はここでまた列に並ぶ必要があるようです。自分は並ぶことなくそのまま観ることができたので、ラッキーでしたが。

一級文物「清明上河図巻」(部分)
張択端筆 北宋時代・12世紀  [展示期間:2012年1月2日(月・休)~24日(火)]

「清明上河図」は北宋時代(12世紀)の作品。日本でいうと平安時代末期の頃でしょうか。作者は張択端という人で、絵は北宋の都・開封の川の流れに沿って、市民の生活が描かれています。約5メートルの絵巻の中に登場する人物は773人ともいわれ、庶民の日常の様子が克明に描写されています。

一級文物「清明上河図巻」(部分)
張択端筆 北宋時代・12世紀 [展示期間:2012年1月2日(月・休)~24日(火)]

とはいえ、実際には警備員の「立ち止まらないでください」 の連呼でおちおちとゆっくり観ていられず、それでもところどころ単眼鏡で覗き込んで観ていましたが、5分やそこらの鑑賞では「清明上河図」の全貌を堪能することは不可能でした。それでも筆の微細な線のタッチや人々の生き生きとした表情は実物を見ないと分からないものだと思います。

一級文物「魯大司徒鋪」
春秋時代・前7~前6世紀

「清明上河図」を観終わった後は再び第一会場の入り口に戻り、頭から鑑賞。第1部は「故宮博物院の至宝 ― 皇帝たちの名品 ―」。ここでは明時代の永楽帝から清時代の宣統帝溥儀までの歴代の皇帝たちの数々のコレクションが展示されています。中国ということで書跡類も多く、そのほか紀元前にまでさかのぼる青銅器や玉器、また陶磁器や漆器といった工芸品も多く陳列されています。

 一級文物「水村図巻」(部分)
趙孟 元時代・大徳6年(1302)

このコーナーに並んでいるものはそのほとんどが一級文物。書跡はもちろん、絵画も名品ぞろいで、その後の文人画に多大な影響を与えた趙孟頫(ちょうもふ)の「水村図巻」は中国山水画史上の最高傑作ともいわれるだけあり、思わず見入ってしまう素晴らしさ。長江の雄大な風景と険峻な山々を描いた趙芾(ちょうふつ)の「長江万里図巻」もその見事なまでの水墨画の世界に深い感動を覚えました。

「大威徳金剛(ヤマーンタカ)立像」
清時代・18世紀

第2部は「清朝宮廷の文化の精粋 ― 多文化のなかの共生 ―」で、ここでは「清朝の礼制文化 ― 悠久の伝統 ―」「清朝の文化事業 ― 伝統と継承の再編 ―」「清朝の宗教 ― チベット仏教がつなぐ世界 ―」「清朝の国際交流 ― 周辺国との交流 ―」とさらに4つの章に分かれています。

清朝が最も安定し、文化的にも成熟期にあったという乾隆帝(在位1735〜96)時代の美術工芸の名品を中心に、清朝の歴史的背景や文化・宗教的背景が分かるような展示内容になっています。片やチベット仏教を信仰し、片や西洋との交流にも積極的で、当時の中国文化の豊かさが伝わってくるようです。

一級文物「乾隆帝大閲像軸」
清時代・18世紀

ここでの見ものは、一級文物の「康熙帝南巡図巻」じゃないでしょうか。康熙帝(在位1661-1722)が中国南部を巡視した際の様子を描いた絵巻で、全12巻の内、11巻と12巻が来日しています。展示されている2巻だけでも合わせて20メートル強もあるという長大な絵巻で、その緻密な描写は目を見張るものがあり、先の「清明上河図巻」と勝るとも劣らない素晴らしさです。この「>康熙帝南巡図巻」は9巻が現存していて、内5巻が故宮博物院にあり、パリのギメ東洋美術館とアメリカのメトロポリタン美術館に2巻ずつ収蔵されているそうです。

一級文物「康熙帝南巡図巻 第11巻」(部分)
王翬等 清時代・康熙30年(1691)

中国の故宮博物院に行っても、なかなかお目にかかれない名品揃い。「清明上河図」を観るのはちょっと覚悟がいりますが、「清明上河図」以外にも見どころの多い展覧会だと思います。


【北京故宮博物院200選】
2012年2月19日(日)まで
東京国立博物館にて