2011/09/23

知られざる歌舞伎座の名画

山種美術館で開催中の『知られざる歌舞伎座の名画』展に行ってきました。

ご存知のように歌舞伎座は建て替えのため、昨年閉館となりましたが、その間倉庫にしまわれてしまう歌舞伎座所蔵の絵画がこのたび山種美術館で一般公開されることになりました。

歌舞伎座に足を運んだことのある方ならご存知でしょうが、歌舞伎座には近代日本画を代表する錚々たる画家の作品が展示されていて、贅沢な空間を作り出していました。閉館の間にどこかで公開してくれないものだろうかと、自分も歌舞伎座に問い合わせてみたことがあったのですが(そのときは未定という回答でした)、このような形で公開されるということはうれしい限りです。しかも、歌舞伎座所蔵の作品のカラーを考えると、日本画専門の山種美術館というのはベストの会場ではないでしょうか。

こうしてあらためて美術館で鑑賞すると、どれもなかなかの逸品揃い。もちろん劇場内に飾られていた作品以外にも、一般公開されていなかった貴重な作品も多く、それらの作品に触れられるというのも今回の目玉でしょう。これだけの絵が集まった歌舞伎座という劇場の素晴らしさ、格式の高さも再認識しました。

高橋由一「墨堤櫻花」(1876-1877年頃)

会場は、「洋画」「日本画」「役者と演目」「史料」に分けて構成されています。洋画のコーナーにある高橋由一の「墨堤櫻花」は歌舞伎座にも飾られていたので見覚えのある方も多いでしょう。これまで一般公開されなかったという亀井至一の「山茶花の局(美人弾琴図)」は皇室お買い上げになった「美人弾琴図」を画家自ら書きなおした作品ということで、「陳列場中人をして絶叫せしむ」と評された当時の評判振りが思い起こされる素晴らしい作品でした。

速水御舟「花ノ傍」(1932年)

日本画のコーナーには竹内栖鳳、横山大観、川合玉堂、鏑木清方、伊東深水、小林古径、奥村土牛等々と明治から昭和にかけての日本画の大家の作品がずらりと並んでいて圧巻です。大観の絵は、貴賓室に飾られることを条件に描いたという逸品。大観得意の富士の絵ですが、黄金の雲から顔を出す荘厳で見事な富士の絵でした。

上村松園「円窓美人」(1943年頃)

「役者と演目」では、歌舞伎の演目や歌舞伎俳優を描いた作品、また歌舞伎俳優自らが絵筆を取った小品や書画が並び、昔の役者の趣味人ぶりも堪能できます。六代目歌右衛門が楽屋の欄間に描いた「紅白梅図」などは見事なものでした。「史料」のコーナーには時の連合国最高司令官ダグラス・マッカーサー元帥からの手紙や占領下での検閲台本など貴重な史料も展示されています。

岡田三郎助「道成寺(五世中村芝翫[五世中村歌右衛門])」(1908年)

歌舞伎座に飾られていた絵画というと、やはり西階段の1階から2階へ上る踊り場に飾られていた川端龍子の「青獅子」を思い浮かべる方も多いのではないで しょうか。いつもは階段から見上げていた絵も、こうして見るとその大きさと獅子の迫力に圧倒されます。ただ、同じく東階段の1階から2階へ上がる踊り場に飾られていたベルナール・ビュフェの作品が出展されていないのが残念でした。山種美術館の天井高の問題でしょうか。

川端龍子「青獅子」(1950年)
(※写真は歌舞伎座内で撮影したものです)

とはいえ、歌舞伎座で何気なく目にしていた作品とは懐かしい再会。劇場内でついぞお目にかかれなかった松園や御舟、大観などもいろいろ観られて、さすが知られざる名画という趣でした。歌舞伎座でまた会える日が待ち遠しいです。

ありし日の歌舞伎座内で撮影した名画の数々はこちら→
【さよなら歌舞伎座 (2)】


【歌舞伎座建替記念特別展 - 知られざる歌舞伎座の名画】
山種美術館にて
2011年11月6日まで

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大雅・蕪村・玉堂と仙厓 -「笑(わらい)」のこころ


出光美術館で開催中の「大雅・蕪村・玉堂と仙厓 -「笑(わらい)」のこころ」展に行ってきました。

池大雅・与謝蕪村・浦上玉堂といった江戸時代の文人画を代表する絵師に、禅の教えをユーモアをもって描いた仙厓和尚の作品を加え、日本の文人画家たちの自由な創造力の源泉のひとつ「笑(わらい)」を知的に表現した4人の個性に光をあてています。

池大雅「瓢念図」

文人画というと、どうしても唐様趣味的な南画や堅苦しい書画を思い浮かべてしまうのですが、今回の展覧会のテーマが「笑」ということで、自由で軽妙洒脱で、機知に富んだ作品が多く、非常に楽しませてもらいました。

池大雅「十二ヵ月離合山水図屏風(右隻)」(重要文化財)

会場は、それぞれ4人にスポットを当てたコーナーに加え、計6つのパートで構成されています。
    第Ⅰ章 笑いの古典 ―瓢箪ころころ、鯰くねくね
    第Ⅱ章 無邪気な咲(わら)い ―大雅のおおらかさ
    第Ⅲ章 呵呵大笑(かかたいしょう) ―幸せを招く笑い型
    第Ⅳ章 達観した笑い ―玉堂の極み
    第Ⅴ章 知的な嗤(わら)い ―蕪村の余韻
    第Ⅵ章 笑わせてちくり ―仙厓さんの茶目っ気
絵画の傍らには、唐様趣味の皿や茶碗、人形などの焼き物も展示されています。

与謝蕪村「山水図屏風(左隻)」(重要文化財)

大らかで明るい大雅、文学的な詩情漂う蕪村、放浪する人生を選んだ自分を達観するような玉堂、ユーモアたっぷりの仙厓。俗っぽく笑いをとるような作品が並べられているわけではありませんが、なんとも憎めない人々、ユーモラスな光景、洒落、センス、頓知。自由な表現力に魅力は尽きません。それぞれの「笑」の個性に作品を眺めながら自然と笑みがこぼれてしまいます。

浦上玉堂「隻峯挿雲図」(重要文化財)

これまで何度も池大雅や与謝蕪村、また仙厓の展覧会を開き、文人画の特集も組んできた出光美術館ですが、今回は「笑」というくくりで自らの所蔵作品の中から選りすぐりの作品を特集陳列しています。決して目新しい作品があるわけではありませんが、ユニークな視点は新鮮でした。あらためて出光美術館のコレクションのレベルの高さというか、奥の深さに感心します。

仙厓「鬼笑画賛」

最後のコーナーは、ひねりが効き過ぎた文人画の巨匠たちの後には、茶目っ気たっぷりな仙厓で大いに笑ってもらいましょうとばかりに、仙厓の楽しい作品が並べられています。書き損じの失敗作も堂々と一枚の絵にしてしまう仙厓の洒落っ気に思わず笑いそうになってしまいました。出光さんの作戦勝ちです。

仙厓「鯛釣恵比須画賛」

細かく描きこんだ作品も多いので、単眼鏡をお持ちの方は持参されると、より一層楽しめると思います。


【日本の美・発見Ⅴ 大雅・蕪村・玉堂と仙厓 -「笑(わらい)」のこころ】
山種美術館にて


2011年10月23日(日)まで 池大雅 (新潮日本美術文庫)池大雅 (新潮日本美術文庫)









与謝蕪村 (新潮日本美術文庫)与謝蕪村 (新潮日本美術文庫)









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