2016/07/30

大妖怪展

江戸東京博物館で開催中の『大妖怪展』に行ってきました。

夏休みのこの時期にやってるし、妖怪ウォッチまであるし、どうみてもファミリー層狙いなんだけど、監修が元板橋美術館館長の安村敏信先生だし、かなりツウ好みの作品あるし、ターゲットをどこに置いているかいま一つ分かりかねるのですが、早速拝見してまいりました。

連日混雑してると聞いていたので、開館40分前に行ったら、まだ2人目。あれ、意外に空いてるなと思ったのも束の間、ぞくぞくと人が集まって来て、開館時間には長蛇の列ができていました。そして開館と同時に元気な子どもたちに一気に抜かれ・・・。早く来てもあまり意味なかったかも(笑)



第1章 江戸の妖怪大行進!

第1章はいくつかのセクションに分かれていて、妖怪の絵巻や図鑑(?)、幽霊画、浮世絵などが並びます。北斎や若冲もあるし、それなりの絵師が描いた妖怪絵や幽霊画も良いのですが、知る人ぞ知るというマニアックな妖怪絵があるのも見逃せません。

葛飾北斎 「天狗図」
個人蔵 (展示は7/31まで)

北斎のこんな肉筆画は初めて見ました。まるでスパイダーマン。若冲の「付喪神図」は何度か観ていますが、いかにも若冲らしくて楽しい。口元も緩みます。白隠が描いた妖怪図なんていうのもあるんですね。高井鴻山の妖怪絵にも興味を持ちました。文人画のような独特の水墨のタッチの妖怪というのが面白い。

茨木元行 「針聞書」
九州国立博物館蔵 (期間中頁替えあり)

きもかわ系(?)の妖怪絵といえば「針聞書」。基本的には針の打ち方など鍼灸についての本なのですが、体の中にいるとされる“虫”の絵が超ユニーク。“大酒の虫”なんていうのがあって、なるほど大酒飲みは虫の仕業なのかと(笑)。隣に展示されてた各地の妖怪目撃情報を集めた「姫国山海録」や「怪奇談絵詞」(虎にゃあにゃあ!)のヘタウマな妖怪も笑えます。

「幽霊図」
個人蔵

もちろん楽しい妖怪ばかりでなくて、震え上がりそうな幽霊画も。おなじみ谷中の全生庵の幽霊画などいくつか並んでいたのですが、その中でも個人蔵という「幽霊図」が傑作。薄墨でさーっと描いているように見えて、髪の毛の一本一本が怨念の如く丹念に描き込まれていたりします。しかも口元には血が! 暗い部屋の中で一人では絶対観たくないやつ。

月岡芳年 「百器夜行」
国際日本文化研究センター蔵 (展示は7/31まで)

もちろん浮世絵の妖怪や幽霊もあって、歌川国芳と月岡芳年を中心に国貞や北斎、暁斎などズラリ。国芳は最近ちょっと食傷気味ですが、子どもにもウケるのか、相変わらず人だかりができていました。

版本の展示では鳥山石燕が「画図百鬼夜行」をはじめ複数の妖怪本があって興味深い。書籍なので見開きでしか展示されないのが残念ですね。パラパラめくって見たい。


第2章 中世にうごめく妖怪

鎌倉時代、室町時代を中心とした絵巻物も名品揃い。何と言ってもオススメは「土蜘蛛草紙絵巻」。数年前にトーハクの常設で一巻まるまる展示されていましたが、今回はクライマックスの土蜘蛛の場面のみ。それでもあまり公開される作品でないので貴重かと。

「土蜘蛛草紙絵巻」(重要文化財)
東京国立博物館蔵 (展示は7/31まで)

ほかにも「百鬼夜行絵巻」や「付喪神絵巻」、酒呑童子の絵巻や藤原鎌足伝説を描いた「大織冠図屏風」などなかなかの見もの。

印象的だったのは圓福寺の「熊野観心十界図」。真ん中に“心”と書かれていて、その上部に虹のような半円を若い男女が上り、そして下るに連れ年を重ねていくという人の一生が描かれています。こういうのは初めて観ました。


第3章 妖怪の源流 地獄・もののけ

貴重といえば、こちらも滅多に公開されない「辟邪絵」。今回は「神虫」のみの出品ですが、こんな絵でも国宝だし、今年『国宝 信貴山縁起絵巻』で公開されたばかりなので、よく他館に貸し出してくれたなと思います。ちなみに「神虫」は邪鬼や疫鬼を食べる良い妖怪。

「辟邪絵(神虫)」(国宝)
奈良国立博物館蔵 (展示は7/31まで)

個人的に今回一番感動したのが源信と伝わる「地獄極楽図屏風」。源信といえば『往生要集』で知られますが、その地獄と極楽の様子が一つの屏風に描き込まれています。右下に現世、左下に地獄。荒海を隔てた先には極楽があって、舟で極楽へ行く様子や阿弥陀如来の来迎なども。掛軸では観ることはあっても屏風仕立てというのが珍しい。

伝・源信 「地獄極楽図屏風」(重要文化財)
金戒光明寺蔵 (展示は7/24まで)

源信の『往生要集』の影響で絵画化されたといわれる「六道絵」や「地獄草紙」も複数展示されていて、結構充実してます。新知恩院蔵の「六道絵」には緑の髪に茶色の体の鬼や赤い髪に緑色の体の鬼がいて、宗達の風神雷神を思わせます。


第4章 妖怪転生

そして最後に妖怪ウォッチ。なぜか土偶も並んでいて、土偶は妖怪ではないし、意図は分からなくはないけど、勘違いする子どももいたりするんじゃないでしょうか。確かに妖怪っぽい顔してるんですけどね。

とはいえ、とにかく妖怪絵の展覧会の決定版であることは間違いなく、これを子どもだけに見せるのはもったいない。なお館内には予想外の動きをしたり、ずかずか列に割り込んだり、ガラスケースにベタベタ張り付いたり、ときどき大きな声をあげたりする妖怪がたくさん生息してるのでご注意を。大人のよい子は妖怪もいなくなる夜間開館の方がいいかもしれません。8/2からは後期展示が始まります。


【大妖怪展 -土偶から妖怪ウォッチまで】
2016年8月28日(日)まで
江戸東京博物館にて


ARTBOX ゆるかわ妖怪絵ARTBOX ゆるかわ妖怪絵


2016/07/18

江戸絵画への視線

山種美術館で開催中の『江戸絵画への視線 -岩佐又兵衛から江戸琳派へ-』を観てきました。

山種美術館開館50周年記念として山種美術館が所蔵する江戸絵画の名品を紹介する特別展です。

サブタイトルに『岩佐又兵衛から江戸琳派へ』とありますが、又兵衛と江戸琳派という狭い範囲に的を絞ってるわけではありませんし、まして又兵衛と江戸琳派には何の繋がりもないので、ちょっと誤解されそうですね。展覧会もあってタイムリーな又兵衛と山種美の江戸絵画コレクションの中心となる江戸琳派を看板にしたということなんでしょうけど。実際には、古くは宗達にはじまり、琳派や又兵衛作品のみならず、狩野派や土佐派、文人画、円山四条派に至るまで幅広く江戸絵画を集めています。

*** *** ***

入口を入ったところに展示されているのが、人気の若冲。伏見人形はその名の通り伏見稲荷の土産物で、布袋様とのことなのですが、若冲が描くと布袋も石峰寺の五百羅漢も変わらないというか、みんなおおらかで、ほのぼのとした表情になって愛らしいですね。

伊藤若冲 「伏見人形図」
寛政11年(1799) 山種美術館蔵

まずは琳派。宗達の下絵と光悦の書のコラボの「鹿下絵新古今集和歌巻断簡」と「四季草花下絵和歌短冊帖」があって、まぁ山種で琳派というと必ず出てくるので何度も観てますが、いいものはいい。「短冊帖」は18点中17点を展示(スペースの関係?)。千羽鶴や浜松、朝顔、萩、藤など、光悦の書と宗達の琳派の図様のコラボレーションにため息が出ます。

抱一が一番多くて、6点出品されています。山種美術館の創立者・山崎種二が酒井抱一の絵を観たことがきっかけで美術品の蒐集を行うようになったとかで、山種美術館にとってはとても所縁の深い絵師なんだそうです。「飛雪白鷺図」と「菊小禽図」は現在は軸装ですが、もとは十二ヶ月花鳥図屏風だったのではないかと考えられているとか。降下する白鷺は先日出光美術館で観た能阿弥と等伯の牧谿様の白鷺を思い起こさせます。

酒井鶯蒲 「紅白蓮・白藤・夕もみぢ図」
江戸時代・19世紀 山種美術館蔵

本阿弥光甫(光悦の養子の子)の「藤・牡丹・楓図」の三幅対の図様を写したという抱一の弟子・酒井鶯蒲の「紅白蓮・白藤・夕もみぢ図」も素晴らしい。光甫の同作は先日まで東京国立博物館の常設展に並んでいたのでご覧になられた方も多いのでは。構図はほぼ同じですが、牡丹や楓の色合いを工夫し、より“抱一風”なものにしています。

伝・俵屋宗達 「槙楓図」
江戸時代・17世紀 山種美術館蔵

会場の一角に屏風が4点あるのですが、本展ではここのみ写真撮影可になってます(会場で≪写真撮影に関するお願い≫という紙がもらえますので、注意事項に従いましょう)。

初めに宗達と伝わる「槙楓図屏風」。光琳も模写した有名な屏風ですが、光琳本は重要文化財であるのに対し、こちらは指定なし。でも継承された琳派の古典として重要。左下に“対青軒”と朱文円印があり、恐らく工房作なのかもしれません。

酒井抱一 「秋草図」
江戸時代・19世紀 山種美術館蔵

鈴木其一 「四季花鳥図」
江戸時代・19世紀 山種美術館蔵

江戸琳派では、洗練された草花の表現とデザイン化された銀泥の月が印象的な抱一の「秋草図屏風」、主張の強い鮮やかな花々が絵師の強い個性を感じさせる其一の「四季花鳥図屏風」が並びます。其一では「伊勢物語図 高安の女」という作品も出品されてて、初期の作品でしょうか、其一には珍しい伊勢絵でなかなか興味深かったです。

伝・土佐光吉 「松秋草図」
江戸時代・17世紀 山種美術館蔵

やまと絵からは江戸初期の土佐派を代表する土佐光吉の「松秋草図屏風」。金屏風に堂々と描かれた永徳ばりの松の大木に、一見アンバランスな瀟洒な秋の草花。金碧障壁画の時代的流行の中、どのように土佐派らしい様式美を表現するか、苦心しているようなところも感じます。

岩佐又兵衛 「官女観菊図」(重要文化財)
江戸時代・17世紀 山種美術館蔵

又兵衛は会場の真ん中あたり。「官女観菊図」も何度か拝見していますが、今年は久しぶりに『岩佐又兵衛展』が開かれるということもあって、特別にフィー チャーしてるのでしょう。女性たちの相貌が又兵衛の特長とされる豊頬長頤で、一見白描画のように見えますが、唇には紅をさし、背景に薄く金泥を刷いていたりします。画題は『源氏物語』で、描かれているのは「賢木」の六条御息所と娘・斎王ではないかという説を紹介していました。本作は本展終了後、福井の『岩佐又兵衛展』に出品されます。

風俗画では、桃山から江戸初期にかけての風俗を思わす「輪踊り図」が興味深い。何かの絵巻の断簡でしょうか。狩野派は少ないですが、江戸狩野の常信が2点と京狩野の永岳が1点。

「竹垣紅白梅椿図」(重要美術品)
江戸時代・17世紀 山種美術館蔵

屏風では作者不詳の「竹垣紅白梅椿図」と「源平合戦図」がなかなかの傑作。「竹垣紅白梅椿図」は右隻は屏風下部に竹垣を描いてるのに対し、左隻は弧を描き宙に浮くような配置で、その大胆な構図が面白い。それ以上に興味深いのは竹垣に紅白の梅が絡む取り合わせと、竹垣や梅、その葉の写実的な描写。巧みに陰影がつけられていて立体感があります。構図は琳派をおもわせますが、筆致は異なり、幹や葉の表現に智積院の長谷川派による障壁画を思い浮かべたのですが、素人にはそれ以上は皆目見当もつかず。どういった絵師が描いているのかとても興味が湧きます。

「源平合戦図」は右隻が一ノ谷の合戦、左隻が屋島の合戦。金雲だけでなく地面も金というこだわりよう。義経八艘飛びや那須与一、敦盛最期、安徳天皇など名場面が多く描かれていて見どころの多い作品です。

岸連山 「花鳥図」
江戸時代・19世紀 山種美術館蔵

つづいて文人画。ここでは山本梅逸が文人画、花鳥画、仏画とそれぞれ趣きを異にする作品があっていい。あまり馴染みのない絵師ですが、日根対山も興味深く、「四季山水図」が春と秋は彩色、夏と冬は水墨で表現し、とりわけ冬のモノトーンの美しさが格別。

椿椿山の文人画の筆法で描かれた真景図「久能山真景図」は参道を行く2人の姿が印象的、池大雅の指頭画「指頭山水図」は長閑な山水の風景が大雅らしいおおらかなタッチで描かれています。そのほか、秋暉らしい濃厚で精緻な孔雀と中国画を思わす岩の表現が秀逸な「孔雀図」、バラが絡みつく松が面白い岸駒の弟子・岸連山の「花鳥図」など。

横山大観 「喜撰山」
大正8年(1919) 山種美術館蔵

ミュージアムショップを挟んで反対側の第2室は横山大観や上村松園など近代日本画を展示。折角なら第2室も江戸絵画にしてくれればいいのに。

山種美術館に通う人には大半はよく見る作品ですが、さすが50周年記念展ということもあって名品展といった趣きです。なかなかの見応えでした。


【江戸絵画への視線 -岩佐又兵衛から江戸琳派へ-】
2016年8月21日(日)まで
山種美術館にて


江戸絵画の不都合な真実 (筑摩選書)江戸絵画の不都合な真実 (筑摩選書)

2016/07/17

ポンピドゥー・センター傑作展

東京都美術館で開催されている『ポンピドゥー・センター傑作展』に行ってきました。(といっても1ヶ月前ですが・・・)

近現代アートではヨーロッパ最大規模を誇るフランス・パリのポンピドゥー・センター国立近代美術館の所蔵作品を通して20世紀アートを展観するという展覧会。英語題に『Timeline 1906-1977』とあるように、1906年から1977年までの作品に限定し、しかも1年1アーティスト1作品縛りという制限を設けるというユニークな試みをとっています。

フランスの美術館ということもあり、フランス中心なのは致し方ないところ。戦前はまだしも、戦後になってくると個人的には知らない人も多くいたのですが、逆に馴染みのないフランスの現代美術に触れる機会として面白いですし、フランスやヨーロッパの20世紀美術の傾向とか概略が掴めるのでよろしいのではないかと思います。

『若冲展』であれだけ混雑した東京都美術館がガラガラとか独占状態とかいうツイートを複数見てたので、どんなものかと思いましたが、訪問したのが日曜午後とあって、さすがにそこそこのお客さんが入っていました。とはいえ、まだまだストレスなく観ることができました。

ラウル・デュフィ 「旗で飾られた通り」
1906年 ポンピドゥー・センター蔵

1年に1作品。その年を代表する作品、その時代に活躍した画家を象徴する作品が選ばれてるようです。作品のそばには画家・作品についての解説とその画家の言葉が紹介されていたりもします。ポンピドゥー・センターの“傑作”に挙げられる程の画家や芸術家たちの声だけに、なかなか含蓄のある言葉が並びます。

最初はラウル・デュフィ。ちょうどマティスに出会い、フォーヴィスムに関心を寄せていた頃の作品。モネの絵に着想を得た作品とのことですが、デュフィらしい明るい色彩が印象的です。

翌1907年はジョルジュ・ブラックの、これもフォーヴィスム時代の作品。次はモーリス・ド・ヴラマンクで、これもフォーヴィスム。やがて抽象絵画の走りのような作品が現れたり、椅子の上に車輪を置いただけのマルセル・デュシャンのレディメイドがあったり、キュビズムや未来派が登場したり、シュルレアリスムを予感させる作品があったりと、時代の流行や20世紀初頭のアートシーンの流れがよく分かります。

レオナール・フジタ 「画家の肖像」
1928年 ポンピドゥー・センター蔵

第一次世界大戦あたりはやはり戦争をテーマにした作品が、1920年代にはエコール・ド・パリを感じさせる作品が並びます。やはり知っている画家や芸術家、写真家が多くいる1930年代頃までの作品は面白いですし、安心して観ていられます。

個人的に印象に残った作品としては、 マルク・シャガールと妻と娘が描かれた幸福感溢れる「ワイングラスを掲げる二人の肖像」、藤田嗣治の乳白色の自画像「画家の肖像」、色とりどりの木の葉が強烈な印象を残すセラフィーヌ・ルイの「楽園の樹」、ナチスに退廃芸術とされ非業の死を遂げたオットー・フロイントリッヒの幾何学的な抽象画「私の空は赤」、マリー=テレーズを描いたといわれるシュルレアリスム時代の作品らしいピカソの「ミューズ」、ピカソの絵を彫刻にしたようなパブロ・ガルガーリョの「預言者」などが良かったかなと。

オットー・フロイントリッヒ 「私の空は赤」
1933年 ポンピドゥー・センター蔵

パブロ・ピカソ 「ミューズ」
1935年 ポンピドゥー・センター蔵

1945年だけは絵画も彫刻もありません。そこにはピアフの「ばら色の人生」が静かに流れるだけ…。

アンリ・マティス 「大きな赤い室内」
1948年 ポンピドゥー・センター蔵

そして戦後。晩年のマティスやビュフェ、ジャコメッティやクリストなどがあったり、クリス・マルケルの前衛映画『ラ・ジュテ』が流れていたりしますが、それ以外の多くは(わたしの)知らないアーティストたち。こうして見ると、戦前のフランスの芸術運動の華々しさに比べて、戦後はヨーロッパからアメリカへ現代美術のメインストリームが移ってしまったこともあり、それぞれの作品は興味深いものなのですが、なにか取り残された感的な淋しさを感じます。

ベルナール・ビュフェ 「室内」
1950年 ポンピドゥー・センター蔵

その中でも、幾何学的な構成にコンクリートのような絵肌が印象的なニコラ・ド・スタールの「コンポジション」、3分で完成させたというジョージ・マチューのドリッピング作品、子どもが描いたジグソーパズルのようなポップさが楽しいジャン・デュビュッフェの「騒がしい風景」はかなり好み。

ニコラ・ド・スタール 「コンポジション」
1949年 ポンピドゥー・センター蔵

最後には、ユニークな外観が特徴的なポンピドゥー・センターの建設の様子や模型などもあって、ポンピドゥー・センター建設のために壊される17世紀の建物の映像なんて流れてて、なかなか興味深いものがあります。

変に縛りを設けてしまって苦心してる感じもありますが、ポンピドゥー・センターの歩みとともに20世紀の現代美術の流れを知るという点では面白かったと思います。


【ポンピドゥー・センター傑作展 -ピカソ、マティス、デュシャンからクリストまで-】
2016年9月22日(木・祝)まで
東京都美術館にて


Pen(ペン) 2016年 6/15号 [ポンピドゥー・センターと作った、アートの教科書。]Pen(ペン) 2016年 6/15号 [ポンピドゥー・センターと作った、アートの教科書。]


2016/07/15

観音の里の祈りとくらし展Ⅱ

東京藝術大学大学美術館で開催中の『観音の里の祈りとくらし展Ⅱ - びわ湖・長浜のホトケたち』の内覧会に行ってきました。

琵琶湖の東北部に位置する長浜の仏像を紹介する展覧会。2年前に同じ藝大美術館で開かれ好評だった『観音の里の祈りとくらし』の第2弾です。

前回は仏像18軀という割とこじんまりとした展覧会でしたが、今回は会場も広いし照明も明るい。出陳数も仏像41軀(一部前回展にも出品されていた仏像もあり)と大幅に増えています。内15軀は堂外初公開で、ほかに仏頭や懸仏、中世の古文書なども加わり、かなり充実した内容になってます。

滋賀県は国指定文化財の数が東京・京都・奈良に次いで多く、仏像も観音菩薩像、阿弥陀如来像、薬師如来像の指定件数はそれぞれ全国1位。県・市指定も含めると長浜だけで120を超える指定文化財の仏像(その約3割が観音像)があるといいます。前回もそうでしたが、これだけの仏像の優品が長浜という限られた地域に多く存在するということにあらためて驚きますし、もちろん地域の篤い信仰あってのことですが、“ホトケさま”を大切に守り伝える精神が今も深く根付いてることに感動します。

[写真右] 「十一面観音立像」(重要文化財)
平安時代 善隆寺蔵

会場はいくつかの章に分けられ、丁寧な解説とともに仏像が紹介されています。
第1章 己高山信仰とホトケたち
第2章 観音像と村人たち
第3章 信仰に彩られたホトケたち
第4章 竹生島とホトケたち
第5章 菅浦とホトケたち
第6章 中世とホトケたち
第7章 真宗王国への道

前回の展覧会では観音像のみ取り上げ、湖北・長浜の観音信仰にスポットがあてられていましたが、今回は広く長浜のホトケさまを紹介。さらに中世の村落共同体(惣村)や今も続く神事“オコナイ”、また山岳信仰や竹生島信仰などとも絡めた湖北特有の仏教文化を探っています。

「伝薬師如来立像」(重要文化財)
平安時代 充満寺蔵

長浜は畿内と北陸・東海を結ぶ交通の要所で、古くから仏教文化が栄えたといいます。近江国の鬼門とされる己高山には観音寺があり、また平安時代には比叡山(天台宗)の強い影響下にあったということで、十一面観音像や聖観音像、千手観音像が多く存在するのもそのあたりに理由があるようです。鎌倉時代に入ると浄土信仰の広まりから阿弥陀如来像が増えていくのですが、宗派・教義の枠を超えてホトケさまが大切に守られてきたのはこの土地の特色なのだとか。湖北地方は中世の惣村や近世の村方のような村落共同体の名残りが色濃く、村々でホトケさまを護持する慣習が今も残っているということも大きいようで、その点については前回展より掘り下げて解説されています

「十一面観音坐像」(長浜市指定文化財)
平安時代 岡本神社蔵

都に近いということもあり、都から仏像や仏師が流れてきやすかったこともあるでしょうし、技術が伝わりやすかったこともあるのでしょう。湖北地方には奈良時代末期から中世にかけて満遍なく作例が揃うといいます。工芸的にも精緻で、バランスもよく、洗練された都風の仏像が多くあるのが長浜の仏像の魅力でもあります。

充満寺の「伝薬師如来立像」は均整のとれた重量感のある体躯と整った相貌が美しい。両手は後補らしく阿弥陀様の来迎印を結んでます。岡本神社蔵の「十一面観音坐像」は定朝様のカヤ材の仏像。頭部の仏面がとても表情豊か。

「十一面観音立像」(重要文化財)
平安時代 医王寺蔵

「聖観音立像」(重要文化財)
平安時代 来現寺蔵

複数出陳されている十一面観音像の中の白眉は医王寺の「十一面観音立像」。すくっと立ったお姿も美しく、衣文も彫りも写実的で素晴らしい。写真を見るとゴージャスな宝冠を付けているのですが、展示では外されているようです。来現寺の「聖観音立像」はどこかオリエンタルな顔立ち。足を少し開いた立ち姿も特徴的。9世紀後半の古い仏像だそうです。

[写真右から] 「多聞天立像」「十一面観音立像」「持国天立像」
平安時代 石道寺蔵

これもかなり立派な多聞天と持国天。甲冑の表現が非常にリアルで重厚感があります。真ん中の「十一面観音像」はキュッとひねった腰のくびれが印象的。整ったお顔も美しい。

「金銅十一面観音不動毘沙門懸仏」
応安元年(1368) 長浜市長浜城歴史博物館蔵

そばに懸仏が展示されていたのですが、これがまた見事。中尊の十一面観音には装飾的な天蓋が施されていて、左右にはちょっとかわいい不動明王と毘沙門天。下部の波文や周囲の文様も含め非常に手が込んでいて、工芸的にも極めて優れた逸品です。

[写真左から] 「薬師如来立像」「十一面観音立像」「阿弥陀如来立像」
室町時代 浄光寺蔵

都風の洗練された仏像がある一方で、素朴で飾り気のない土俗的な仏像も多くあり、人々の暮らしと密接につながった信仰の深さを感じます。

浄光寺の「十一面観音立像」は眉や髭が墨で書きいれられ、愛嬌のある顔立ちでかわいいホトケさま。装飾品や衣の文様も極彩色で表されていて、頭部の化仏も何とも個性的。脇侍の薬師如来と阿弥陀如来もどこか朴訥とした魅力があります。

「弁才天坐像」
弘治3年(1557) 宝厳寺蔵

「弁才天坐像」は竹生島にある宝厳寺の仏像。頭には宇賀神と鳥居があります。去年のサントリー美術館の『水 - 神秘のかたち』を思い出しますね。

「伝千手観音立像」(重要文化財)
平安時代 観音寺蔵

会場の中でもひと際存在感を放っていたのが「伝千手観音立像(黒田観音)」。2mぐらいある立派なホトケさまで、肉厚で堂々としたお姿が印象的。表情はどちらかというと男性的で、大きな体で包み込むような安心感を感じさせます。広い背中も魅力的。平安時代前期の作とか。

「千手千足観音立像」
江戸時代 正妙寺蔵

「千手千足観音像」はかなり個性的なホトケさま。千の手と千の足を持つという異形の姿で、“千手”はともかく“千足”はまるでダンゴ虫のよう。あらゆる願いを受け止める千本の手に、さらにガードを固める千本の足。一目見たら忘れられないインパクトがあります。“千足”観音は全国でもこれだけだそうで、本展の一つの目玉といっていいかもしれません。

「愛染明王坐像」(重要文化財)
鎌倉時代 舎那院蔵

ほかにも、近年まで秘仏とされていたという「愛染明王坐像」や「大日如来坐像」、3点ある馬頭観音、また慶派仏師によるとされる仏像など、興味深い仏像が多くあります。

[写真右から]「 馬頭観音立像」 鎌倉時代 徳円寺蔵
「馬頭観音立像」 平安時代 横山神社蔵
「馬頭観音座像」 平安時代 長浜市西浅井町山門自治会蔵

[写真右]「大日如来坐像」(重要文化財)
平安時代 光信寺蔵

展示内容も充実していて、見どころも多く、近年の仏像展の中でも大変優れた展覧会だと思います。仏像との距離が近いのもまたいいですね。同美術館で同時開催している『平櫛田中コレクション展』も当日に限り鑑賞できます。

帰りには不忍池のそばにある“びわ湖長浜KANON HOUSE”にも寄られるといいと思いますよ。藝大美術館の展覧会の期間中、長浜・尊住院の「聖観音立像」が展示されています。比較的小さなホトケさまですが、大変美しいお姿をしています。こちらは入場無料です。


※『観音の里の祈りとくらし展Ⅱ』会場内の画像は特別に主催者の許可を得て撮影したものです。


【観音の里の祈りとくらし展Ⅱ - びわ湖・長浜のホトケたち】
2016年8月7日(日)まで
東京藝術大学大学美術館にて

びわ湖長浜KANON HOUSEの詳細はこちら


湖北の観音―信仰文化の底流をさぐる湖北の観音―信仰文化の底流をさぐる

2016/07/02

美の祝典 Ⅲ 江戸絵画の華やぎ

出光美術館で開催中の『美の祝典 Ⅲ -江戸絵画の華やぎ』を観てきました。

3回に分けて行われてきた出光美術館開館50周年記念展もいよいよ最後。今回のテーマは“江戸絵画”。活気に満ちあふれた町と人々の暮らし、鮮やかな色彩、美しい花鳥、江戸絵画らしい華やかな作品に溢れています。

*** *** ***

会場に入ると、まずはいかにも桃山時代の屏風らしい絢爛豪華な「祇園祭礼図屏風」。祇園祭を描いた屏風はいくつかありますが、これは現存最古、慶長初期のものといいます。手前に烏丸通、奥に寺町通が走り、左隻が内裏を中心に都の北側、右隻が祇園の町や都の南側という構成で、左隻には神輿御渡、右隻には山鉾巡礼が描かれているのも面白いところ。祭礼や風俗の描写も非常に丁寧で、確かな腕のある絵師による作品ということは素人目にも分かります。現在、狩野孝信の作ではないかという説があるようです。

「祇園祭礼図屏風」(重要文化財)
桃山時代 出光美術館蔵

つづいて浮世絵が3点。 ついこの前、『勝川春章と肉筆美人画』展があったばかりだからか、浮世絵は少なめ。その中で『勝川春章と肉筆美人画』にも出品されていた喜多川歌麿の「更衣美人図」が出ていました。これは肉筆浮世絵の名品として外せないのでしょう。印象的だったのは北斎の「春秋二美人図」で、右幅に春、左幅に秋の光景が描かれいて、単眼鏡がないと分かりづらいのですが、春の右幅には背景に菜の花畑と遠景に桜が描かれています。

葛飾北斎 「春秋二美人図」
江戸時代 出光美術館蔵

南蛮人の服装の文様がとても細やかでカラフルな「南蛮屏風」、左隻に二条城や北野天満宮、鞍馬寺、右隻に内裏や大仏殿、東寺、伏見城など名所図的な要素盛りだくさんの「洛中洛外図屏風」といった興味深い作品もあります。「南蛮屏風」は絵師のレベルの高さを感じますが、「洛中洛外図屏風」は建物がいびつで、人物もそんなにうまくなく、あまり高い技術のある絵師ではない感じがします。

面白かったのが「江戸名所図屏風」。右隻に浅草や上野に神田、元吉原、左隻に江戸城や日本橋に木挽町、芝増上寺と江戸の名所がぎっしり。どれだけの人が描かれてるんだろうかというぐらい江戸の庶民がびっしり描き込まれていて、これがまたすごく活気に満ちてます。人々の顔は少し大きめで目鼻立ちもはっきりとしていて少しデフォルメされています。それぞれの暮らしを感じさせる風俗描写も素晴らしく、観てて全然飽きません。

「江戸名所図屏風」(重要文化財)
江戸時代 出光美術館蔵

風俗画としては室町期の初期風俗画の成り立ちを考える上では貴重な「月次風俗画扇面」や、白描画のような細やかな線描と的確な人物描写が秀逸な「遊女歌舞伎図」と傑作揃い。軽妙洒脱で飄逸な描写が楽しい英一蝶の「四季日待図巻」もなかなか。ただ江戸狩野と呼べる作品は英一蝶(正確には狩野派を破門されてるが)しかなかったのは残念。

「伴大納言絵巻(下巻部分)」(国宝)
平安時代 出光美術館蔵

今回の展覧会の目玉である「伴大納言絵巻」は最後の下巻を展示。伴大納言が遂に検非違使に捕えられる場面が描かれています。詰問される舎人夫婦の様子や人々のひそひそ話、主が連行され泣き崩れる伴大納言の家人たち...。人々の表情もリアルで、まるで話す声や泣く声が聴こえてきそうです。

酒井抱一 「紅白梅図屏風」
江戸時代 出光美術館蔵

後半は琳派。光琳、抱一、其一とこちらも充実していますが、こちらで展示されている作品は全て数年前に開催された『琳派芸術』でも出ているので、ひと通り観ている人も多いかもしれません。いってみれば『琳派芸術』のダイジェストみたいな感じですね。

光琳は「禊図屏風」や「蹴鞠布袋図」など4点、宗達は晩年の傑作「伊勢物語図色紙」二幅をはじめ、宗達・下絵、光悦・書の「蓮下絵百人一首和歌巻断簡」が出品されています(最近、書は光悦ではないという説も出ていますが…)。

酒井抱一 「十二ヶ月花鳥図貼付屏風」
江戸時代 出光美術館蔵

中でも抱一は「風神雷神図屏風」、「八ッ橋図屏風」、「紅白梅図屏風」、「十二ヶ月花鳥図貼付屏風」と傑作揃い。抱一の代表作の筆頭に挙げられる作品をこれだけ持っているんですから、あらためて出光美術館の審美眼に驚きます。「風神雷神図屏風」と「八ッ橋図屏風」は何度か観ていますが、「紅白梅図屏風」は『琳派芸術』以来でしょうし、「十二ヶ月花鳥図屏風」は12幅全幅揃うことはあまりない気がするいので、この機会を逃す手はないですね。

其一は相変わらず高いデザインセンスで魅せる「四季花鳥図屏風」。現実の世界ではない、どこか人工的な美の世界という趣があって、これが江戸時代の作品かと思えば思うほど唸ってしまいます。其一では若描きという小品の「秋草図」も秋の草花がこれでもかと描かれていて美しい。

ほかにも尾形乾山の「色絵定家詠十二ヶ月和歌花鳥図角皿」や小川破笠の「春日野蒔絵硯箱」と「柏に木菟蒔絵料紙箱」など工芸品も展示されています。

鈴木其一 「四季花鳥図屏風」
江戸時代 出光美術館蔵

今回伺ったのが午後の早い時間ということもあったのか、これまで観た『美の祝典 Ⅰ やまと絵の四季』『美の祝典 Ⅱ 水墨の壮美』に比べ、お客さんの入りも良かったように思います。美術ファンの興味を引きそうな江戸絵画や琳派がテーマということもあるのかもしれません。出光美術館が誇る日本美術コレクションからのいいとこ取りなので、つまらないわけがありません。江戸絵画の優品に触れる絶好の機会だと思いますよ。


【開館50周年記念 美の祝典 Ⅲ -江戸絵画の華やぎ】
2016年7月18日(月・祝)


酒井抱一と江戸琳派の全貌酒井抱一と江戸琳派の全貌

出光美術館にて