本展は江戸東京博物館の開館20周年の記念展。江戸東京博物館は「都市の歴史を展示することを主題のひとつ」としているということで、本展は「アジア全体のなかで江戸を観ることをテーマ」にした江戸博ならではの展覧会になっています。
タイトルを見たときは既視感というか、昨年の大蔵集古館の『描かれた都-開封・杭州・京都・江戸』やトーハクの『京都-洛中洛外図と障壁画の美』に似た内容の展覧会なのかと思っていたのですが、まーったく違いました。
会場には、洛中洛外図や都市図屏風、世界地図や日本地図などの古地図、さらには江戸城や徳川将軍家ゆかりの品々などが並び、江戸や京都がどう成立したか、アジアの都市からどのような影響を受けたか、そしてどう発展してきたかを、いろいろな角度から明らかにしていきます。
プロローグ
会場に入ると、東海道の要所の町並みの様子を描いた「東海道五十三次図屏風」と、江戸から西国の陸路や海路を描いた「道中図巻」が展示されています。「東海道五十三次図屏風」はなぜか京都の手前の大津まで。「道中図巻」は主要な城が描かれているのがユニークです。
「道中図巻」
17世紀中頃 江戸東京博物館蔵
17世紀中頃 江戸東京博物館蔵
1 世界の都市
江戸時代、世界でも有数の都市だった江戸が描かれた世界地図や、当時の日本地図を紹介しています。
写真右 「十二都市図世界図屏風」(重要文化財)
17世紀初頭 南蛮文化館蔵 (展示は4/13まで)
17世紀初頭 南蛮文化館蔵 (展示は4/13まで)
「十二都市図世界図屏風」は江戸時代初期に描かれた南蛮絵画風の世界図で、世界地図とともに世界の都市の鳥瞰図が描かれていて、なかなか面白い逸品。
写真左 「新訂万国全図」
文化7年(1810年) 江戸東京博物館蔵
文化7年(1810年) 江戸東京博物館蔵
「新訂万国全図」は日本が中央に描かれた最初の世界図で、作者はなんと亜欧堂田善。間宮林蔵の樺太探検の僅か数年後の地図にも関わらず、樺太の正しい図が描かれているといいます。びっしりと地名が書き加えられていたり、とても細かい。ほかにも、1602年に北京で刊行された世界地図「坤輿万国全図」があって、「日本海」もしっかり記されていました。
「日本図」
1595年 明治大学図書館蔵
1595年 明治大学図書館蔵
「日本図」は『オルテリウス地図帳』に描かれた日本地図で、初めて本格的に日本がヨーロッパに紹介されたもの。行基図が基になっているのではないかと言われているそうです。確かに日本でも最古の地図といわれている行基図だけあり、日本の形もいびつですが、朝鮮半島もヘン。
2 洛中への系譜 ~都市の中心と周縁~
ここでは中国をはじめとする東アジアの都市づくり、京都洛中の都市構成の成り立ちを、都市図や洛中洛外図を通して紐解いていきます。前半は中国の全土図や北京、湖北省など地方都市、また平壌などの都市図が展示され、城壁都市としての都市の様子を比較することができます。ただ、中国の地図も明・清朝以降のもので、もう少し時代を遡ったのも見たかったかなと。
写真左 「洛中洛外図屏風」
元和年間(1615-24年) 南蛮文化館蔵 (展示は4/13まで)
元和年間(1615-24年) 南蛮文化館蔵 (展示は4/13まで)
江戸時代初頭のものとされる「洛中洛外図屏風」には、京都の名刹や御所、二条城や、祇園祭や南蛮人の行列なども描かれています。保存状態もよく、なかなか丁寧に描かれていて、当時の文化・風俗を垣間見られて面白い。後期にはまた別の「洛中洛外図屏風」が展示されます。
写真右 「賢聖障子 賢聖像」
寛政年間(1789-1801年) 宮内庁京都事務所蔵
寛政年間(1789-1801年) 宮内庁京都事務所蔵
そのほか、内裏図や、江戸時代に考察された平安京の都市図、また御所の紫宸殿を飾った狩野派や住吉派による障子などが展示されています。
3 将軍の都市 ~霊廟と東照宮~
ここはさすがの本家本元。充実しているというか、いろんなものを引っ張り出してきたなという感じです。いくつかのテーマに分かれていて、まずは≪江戸と江戸城≫から観ていきます。
写真上 「旧江戸城写真ガラス原板 昌平橋」(重要文化財)
写真上 「旧江戸城写真ガラス原板 呉服橋門(外側)」(重要文化財)
明治4年(1871年) 江戸東京博物館蔵 (期間中展示替え)
写真上 「旧江戸城写真ガラス原板 呉服橋門(外側)」(重要文化財)
明治4年(1871年) 江戸東京博物館蔵 (期間中展示替え)
最初に登場するのが、明治初期に撮影された江戸城の写真のガラス原版。ネガなので白黒が反転していますが、状態も良く、とてもクリアーで、明治維新直後の貴重な江戸城や江戸の街の様子が見てとれます。
写真左 「江戸城御本丸惣地絵図」
万延元年(1860年) 江戸東京博物館蔵
万延元年(1860年) 江戸東京博物館蔵
江戸の古地図や江戸城の見取り図、海外に紹介された江戸城の様子を描いた本なども展示されています。圧巻は「江戸城御本丸惣地絵図」で、天井まで届くほどの大きさ。展示されたのが今回で3度目という貴重な地図です。万延元年に建築された江戸城最後の本丸(1863年に火事で焼失)の表および中奥の御殿の平面図ということで、細部まで正確に細かく書き記されています。
写真左 「武州豊島郡江戸庄図」
天保元年(1830年) 江戸東京博物館蔵
天保元年(1830年) 江戸東京博物館蔵
そのほか、江戸を描いた最古の都市地図といわれる「寛永図」の木版刊行のものや、測量による初めての江戸の地図、明暦の大火後の江戸を描いた市街図、江戸城天守の建築図面などが展示されています。
「武家諸法度」
寛永12年(1635年) 江戸東京博物館蔵
寛永12年(1635年) 江戸東京博物館蔵
≪徳川秀忠≫では、江戸の基礎固めを行った二代将軍・秀忠をクローズアップ。「武家諸法度」や書状、太刀や兜、秀忠筆による絵なども展示されています。
徳川秀忠筆 「猿引図」
17世紀 徳川記念財蔵(展示は4/13まで)
17世紀 徳川記念財蔵(展示は4/13まで)
つづいて、≪廟所≫と≪東照宮≫。将軍家の霊廟である寛永寺と増上寺の霊廟の図や葬列の様子、大きな銅製燈籠なんていうのも展示されていました。
「紅葉山東照宮御簾」
享保21年(1736年)以前 津山郷土博物館蔵
享保21年(1736年)以前 津山郷土博物館蔵
本展の目玉のひとつが、紅葉山東照宮の「御簾」。紅葉山東照宮はかつて江戸城内にあった家康の廟所で、本丸と西の丸の間にあったといいます。この「御簾」は昨年江戸東京博物館の調査で発見された貴重な品で、ご神体を祀る廟の観音扉の中に掛けられてたものとされます。
≪武家の都市≫では、鎧・兜など具足や、采配や幟旗などを展示。なぜか下着や下帯も。甲冑の見せ方がカッコよくて、まるで野口哲哉かモビルスーツかといったよう。個性的な立物も見もので、十一代将軍家斉の七男が所用した兜にはカマキリの前立てが。聞くところによると、カマキリには「雪が積もるであろう高さより、上に卵を産むことから、予測の力があるとされ、戦で先を読む、つまり戦に勝つ」という意味があるのだそうです。
「本小札濃勝糸威二枚胴具足」
江戸時代末期 江戸東京博物館蔵
江戸時代末期 江戸東京博物館蔵
エピローグ
最後に、江戸時代の城下町の都市図屏風が展示されています。洛中洛外図や江戸図屏風はまあ見かけますが、地方の城下図屏風をまとめて観る機会というのはそうはないのではないでしょうか。前期(4/13まで)では小田原、高松、延岡、宇和島、鹿児島が、後期(4/15から)では盛岡、仙台、小浜、津山の城下図屏風や景観図を紹介しています。
写真左 「延岡城下図屏風」
17世紀後半 個人蔵(展示は4/13まで)
17世紀後半 個人蔵(展示は4/13まで)
洛中洛外図のように人々の様子まで丁寧に描かれているものもあれば、城下町の区画が細かく描かれているものもあり、港町には船も多く、どれも地方色があって楽しめます。鹿児島の整備された港などを見ると、薩摩はやはり違うなと思います。本展でこれまで観てきた都市の成り立ちが、日本の地方都市でどう引き継がれ発展していったのか、こうした具体的な絵図を観るとよく分かります。
写真左 「高松城下図屏風」
17世紀 香川県立ミュージア蔵(展示は4/13まで)
17世紀 香川県立ミュージア蔵(展示は4/13まで)
博物館の方が今回は大きなものを集めたとおっしゃってただけあり、見応えのある展覧会でした。その中でも江戸東京博物館らしい資料性の高い展示物も多く、美術ファン歴史ファンだけでなく、都市学や古地図などが好きな人にもたまらないんじゃないでしょうか。
※会場内の写真は主催者の許可を得て撮影したものです。
【大江戸と洛中 -アジアのなかの都市景観-】
会期: 2014年3月18日(火)~5月11日(日)
会場: 江戸東京博物館 1階展示室
開館時間: 午前9時30分~午後5時30分(土曜日は午後7時30分まで) ※入館は閉館の30分前まで。
休館日: 5月7日および毎週月曜日(ただし、4月28日・5月5日は開館)
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史跡で読む日本の歴史〈9〉江戸の都市と文化