暢気にしてたら、前期の最終日というのに気づき慌てて訪問。神奈川県立歴史博物館は横浜の馬車道にあり、建物は元は明治30年代に建築された横浜正金銀行本店という横浜らしい洋風建築。現在は国の重要文化財に指定されています。
神奈川県の博物館ということもあり、横浜の開国に関する史料や鎌倉幕府に関する史料などが常設展では観られますが、実はここは日本美術も割と充実しているんですよね。
本展はその館蔵展とはいえ、優品も多く、ほぼ屏風尽くしなので出品数は通常の展覧会に比べ少ないですが、やはり大型の屏風が並ぶ光景は見ごたえがありました。入り口には屏風の観るポイントが解説されていたり、出品リストの裏には鑑賞の手引きがあったりと初心者にも親切。
岡本秋暉 「花鳥図屛風」 江戸時代
最初に登場するのが岡本秋暉の「花鳥図屏風」。秋暉というと南蘋派や円山四条派の影響を受けた花鳥画、とりわけ孔雀を描いた作品に定評があります。本作も秋暉らしい色彩豊かな花鳥図ですが、華美になりすぎず、すっきりと上品にまとまっています。
狩野探幽 「四季耕作図屛風」 江戸時代
「四季耕作図」は狩野派定番の画題。探幽らしい瀟洒な画面構成と墨の濃淡を活かした詩情性を感じさせる豊かな表現が素晴らしいですね。
前島宗祐 「四季耕作図屛風」 室町時代
前島宗祐(古い資料だと狩野玉楽と同一人物と紹介ているものもありますが、現在は別人とされているらしい)は狩野元信の直弟子で、室町時代後期に主に小田原を拠点に活躍した関東狩野派の絵師とされる人。作品は元信様式の謹直な耕作図で、現存するのは右隻のみですが、春から夏にかけての農耕風景と田園風俗が描かれていて、初期狩野派の数少ない現存作例として貴重です。
元信印 「四季花鳥図屛風」 室町時代
その元信印のついた「四季花鳥図屏風」もなかなかの傑作。現存は一隻のみですが、力強い線描とコントラストを効かせた墨の諧調、勢いある滝壺の表現など素晴らしいなと思います。元信印が付いているからといって元信の筆によるものとは限りませんが、元信から永徳の間の確かな腕を持つ絵師による屏風なんでしょう。永徳の聚光院方丈障壁画に繋がるものすら感じます。
「平家物語図押絵貼屛風」 室町時代
漢画系の屏風に続いて、次はやまと絵の「平家物語図押絵貼屛風」。六曲一隻の押絵貼屛風で、第六扇が一の谷の合戦になっているので、恐らくは対となる一隻に後半部が描かれていたのでしょう。室町時代の屏風ということでも貴重ですが、線描の確かさ、表現の豊かさなど、かなり腕のある絵師による作品なのだと分かります。
「源平合戦図屛風」 江戸時代(展示は3/17まで)
前期と後期で一部作品の入れ替えがあって、前期は源平合戦に関わるもの、後期は東海道に関わるものが展示されます。
「源平合戦図屏風」が2点展示されていて、とりわけ六曲一双の「源平合戦図屛風」が様々な合戦の様子が事細かに活き活きと描かれ、見ごたえたっぷり。右隻に一の谷の合戦、左隻に屋島と壇ノ浦の合戦になっていて、迫力ある合戦シーンや有名なエピソードがドラマティックに描かれています。武士の甲冑や女御たちの着物の紋様なども緻密で、構図としてのバランスも優れ、全体的にとても丁寧に描かれている印象を受けます。一説によると土佐光起の筆とも。
屏風のどこに何が描かれているのか説明パネルもありました。写真は那須与一の扇の的の場面と安徳天皇の入水の場面。
「木賊図屛風」 江戸時代
個人的にとても印象に残ったのが「木賊図屛風」。木賊(トクサ)とは細竹に似たシダ植物で、いまでも生け垣などに時々見られます。水辺に生える木賊のリズミカルな配置や、金屏風に映える緑青と濃紺の色彩は装飾性も豊かで、琳派的なものも感じます。
「誰が袖図屛風」 明治時代
面白かったのが「誰が袖図屛風」。「誰が袖図」は江戸時代初期によく制作された屏風の画題で、衣装の部分に型紙で文様を摺り出すなど工芸的な趣向が屏風ですが、本作は実際の小袖を屏風に直接貼り付けてあるのがユニーク。香炉の蓋も金糸で表現されています。昨年サントリー美術館で観た『扇の国、日本』にも同じように小袖を貼り付けた「小袖屏風」が出てましたね。
「南蛮屛風」 江戸時代
会場の最後にあったのが恐らく江戸時代初期の作と思われる「南蛮屛風」。本願寺大津別院の旧蔵品で、徳川家康から拝領したと伝わる屏風とか。かつてはなんと岩佐又兵衛の作品とされていたそうですが、どこが又兵衛かと思うぐらい又兵衛の「ま」の字もなくて笑らいます。南蛮人たちの沈んだ表情が印象的です。
なお本展は商用利用を除き、写真撮影OKです。(写真撮影は周りの鑑賞者に配慮して行いましょう)
【屛風をひらけば -神奈川県立歴史博物館所蔵の屏風絵-】
2019年3月31日(日)まで
神奈川県立歴史博物館にて
屏風をひらくとき (阪大リーブル) -どこからでも読める日本絵画史入門