2014/12/27

フェルディナント・ホドラー展

国立西洋美術館で開催中の『ホドラー展』に行ってきました。

本展は日本とスイスの国交樹立150周年を記念した展覧会。日本では約40年前に同じ国立西洋美術館で開かれて以来の回顧展とのこと。

ホドラーはスイスでは今も人気が高く国民画家として愛されてるといいます。生涯を通じて活動の拠点をスイス国内に置いていたこともあり、国外での知名度はそれほど高くないようですが、近年は欧米でも相次いで展覧会が開かれるなど、改めて国際的な注目が集まっているそうです。

実はこの展覧会までホドラーのことを全然知りませんでした。いつものことながら、ほんと勉強不足ですいません。この10月、11月は展覧会が多く、優先順位が下がってしまっていたのですが、漏れ聞こえる評判の声に後押しされ、先日ようやく観てまいりました。


PART 1 光のほうへ-初期の風景画

ホドラーは母親の再婚相手(実父は病死)が装飾画家で、その手伝いをするうちに画家という仕事に興味を持つようになったようです。この装飾美術という、いわば出発点が後年大きな意味を持ってくるのですが、これも運命だったんでしょうね。

ホドラー 「マロニエの木々」
1889年 ジュネーヴ美術・歴史博物館蔵

最初は風景画家として、というよりも工房で主に観光客の土産用の絵を描いていたとか。しかし、工房では師匠の手本を真似て描くだけで署名を入れることさえ許されなかったといいます。やがて、そこから逃げ出すように自分の描きたい絵を模索し始めます。あまり個性が感じられなかった絵も、1880年前後から陽光のとらえ方に特色が出てくるなど徐々に変わっていくのが分かります。


PART 2 暗鬱な世紀末?-象徴主義者の自覚

この頃、遅ればせながらクールベを強く意識したといいます。「怒れる人(自画像)」や「死した農民」、「ベルン州での祈り」あたりからはクールベを経て生まれた作品なのだろうなと感じます。そして時代は19世紀末。象徴主義と出会うことで、ホドラーは内面に目を向けた作品を描くようになります。

ホドラー 「傷ついた若者」
1886年 ベルン美術館蔵

「傷ついた若者」は新約聖書の「善きサマリア人」のたとえ話から生まれた作品とのこと。頭に傷を負い身体をよじらせ苦しみ横たわる肌の白さと緑の木々が色の対比が印象的です。


PART 3 リズムの絵画へ-踊る身体、動く感情

「オイリュトミー」を発表して以降、躍動的な身体や感情を表現した作品を手がけるホドラー。この時代の作品を紐解くのに、<良きリズム>という意味の“オイリュトミー”と、“パラレリズム”(平行主義)というキーワードが登場します。このあたりからホドラーの絵は途端に面白くなります。そこはもうホドラーだけの世界。

ホドラー 「オイリュトミー」
1895年 ベルン美術館蔵

ホドラー 「感情Ⅲ」
1894年 ベルン州美術コレクション蔵

うつむいた老人が並ぶ「オイリュトミー」と首を横に向いた女性が並ぶ「感情Ⅲ」は対を成す作品。ほかにもプリミティブなダンスを感じさせる作品やピナ・バウシュの舞踊を思わせるものなど、どれもリズムというか鼓動というか、音楽が流れてくるようです。

ホドラー 「昼Ⅲ」
1900年 ルツェルン美術館蔵


PART 4 変貌するアルプス-風景の抽象化

後年の風景画のコーナーは部屋の片側にアルプスを描いた絵が、片側には湖を描いた絵が並べられています。同じモチーフがパターン化(反復)され、一枚一枚がそのヴァリエーションのよう。作品はカチッとした簡潔な線描とコントラストの強い色面で構成され、これまでとまた違う面白さがあります。

ホドラー 「ミューレンから見たユングフラウ山」
1911年 ベルン美術館蔵


PART 5 リズムの空間化-壁画装飾プロジェクト
PART 6 無限へのまなざし-終わらないリズムの夢

ここではホドラーの代表的な装飾プロジェクトを紹介。イエナ大学やハノーファー市庁舎の会議室、チューリヒ美術館に飾るために制作された壁画装飾、スイス国立博物館のフレスコ画などの習作やパネルなどで構成されています。ある意味、壁画装飾はホドラーの完成形なのでしょう。どこかスイスのナショナリズムを感じさせるところもあり、そのあたりが国民画家とされるところと関係してるのかもしれません。


PART 7 終わりのとき-晩年の作品群

最後は晩年の作品。最愛の恋人の朽ちていく死骸を描いた「バラの中の死したヴァランティーヌ・ゴデ=ダレルの遺骸」と一連の習作、より抽象化・形式化が進んだ「白鳥のいるレマン湖とモンブラン」が強く印象に残ります。

ホドラー 「白鳥のいるレマン湖とモンブラン」
1918年 ジュネーヴ美術・歴史博物館蔵



【フェルディナント・ホドラー展】
2015年1月12日まで
国立西洋美術館にて


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