2014/12/26

伊賀越道中双六


国立劇場の12月歌舞伎公演『通し狂言 伊賀越道中双六』を観てきました。

『伊賀越道中双六』は歌舞伎では「沼津」しか観たことがありませんが、今回は通し狂言なのに「沼津」はなし。その代わり、44年ぶりに「岡崎」を上演するというのが話題です。

先に観た方の感想や劇評もすこぶる高評価でしたが、その評判どおり非の打ち所のない芝居でした。役者が適材適所で、かつ最善の演技をしています。構成もよく練られていて、ここ最近になく充実した舞台だったと思います。

序幕「和田行家屋敷の場」は橘三郎・京妙の行家夫婦が出色。家老という家の格と、娘と息子を勘当したという厳格さが二人のやりとりから伝わってきます。やはり役者がうまいと芝居が引き締まりますね。錦之助はニンではありませんが、狡猾な股五郎を好演。志津馬は菊之助。結婚後、吉右衛門との共演が増えましたが、菊之助が入るだけで芝居に華が出ます。

二幕目は「誉田家城中」。又五郎の城主の前で行われる吉右衛門の政右衛門と桂三の林左衛門による御前試合と、そのあとの顛末への流れがいい。仇討ちの旅に出るためにわざと負けた政右衛門とそれを見抜いていた城主。城主の政右衛門への深い思いが滲み出ています。

三幕目は「藤川新関」。ここは米吉のお袖がいい。菊之助の志津馬に一目惚れする娘ののぼせ具合といじらしさ、それでいて積極的なところがよく出ていました。一方の志津馬はお袖を利用して関を越えようとするわけですが、それが芝居としてちょっと分かりづらかった感じもします。

そして四幕目「山田幸兵衛住家」。通称「岡崎」。志津馬はお袖を騙し、また股五郎と偽り匿われることで仇討ちを遂げようとし、十数年ぶりの師弟の再会した政右衛門は雪の中倒れる妻を追い返し、我が子を手に掛けてまでも素性を隠し通そうとします。何も赤子もまで…と思わずにいられませんが、そのことで芝居のピークを大詰の敵討にもっていくようにしてるのでしょう。ここはやはり終始一貫堅固な老人を演じる歌六の素晴らしさに尽きます。歌六あっての「岡崎」、そんな芝居でした。そして難しい芝居を吉右衛門と芝雀、菊之助がきちっとまとめていきます。岡崎の重さは滅多にかからないだけのことはあるなと思いましたが、岡崎を中心に構成したことで仇討ちという目的がくっきり浮かび上がった気がします。

今年の歌舞伎はこれで最後となりましたが、とても良い歌舞伎納めになりました。


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