「人麿影供(ひとまろえいぐ)」という言葉をよく知らなかったのですが、歌会の儀礼として“歌聖”柿本人麻呂(人麿)の肖像を掲げることを「人麿影供」というそうで、今年は歌人・藤原顕季が歌会の繁栄を念じて人麿像を床に懸けてから900年になるんだそうです。
本展はその人麿の図像を中心に、歌仙の図像がどう受け継がれたのかをとても丁寧に追っています。
まずは「佐竹本三十六歌仙絵」をはじめ、土佐光起や狩野永納などの人麿を描いた歌仙絵がいくつか並んでるのですが、いわれてみて気づいたのですが、そういえば歌仙絵に描かれる人麿って、みんな同じなんですね。句を考えているのか筆と紙を手にちょっと上を見つめ、傍らには硯箱があって。人麿の絵姿をパターン化することで、これ人麿ね、と誰にでも認識されるということがあったのでしょうか。和歌の神とされた住吉明神、玉津島明神とともに、神格化された人麿が描かれた三幅対の「和歌三神像」というのも興味深かったです。
「佐竹本三十六歌仙絵 柿本人麿」(重要文化財)
鎌倉時代 出光美術館蔵
鎌倉時代 出光美術館蔵
土佐光起 「人麿図」
江戸時代 個人蔵
江戸時代 個人蔵
面白かったのが、「佐竹本三十六歌仙絵」の「山邊赤人」。わたしは知らなかったのですが、人麿と同一人物説というのがあるんですね。だからなのか、人麿と赤人は図像が左右を反転したみたいになっています。
「佐竹本三十六歌仙絵」は元は鎌倉時代に制作された絵巻で、大正時代に37枚(36人の歌仙と住吉明神)に分割され、今に至ります。そのほとんどが重要文化財で、上巻の頭を飾る「柿本人麿」を出光美術館が持ってるというのは流石です。本展では出光美所蔵の「柿本人麿」と「僧正遍照」、加えて前期(7/1まで)には「山邊赤人」(個人蔵)、後期(7/3~)には「住吉大明神」が展示されます。
岩佐又兵衛_三十六歌仙図柿本人麿
歌仙絵では岩佐又兵衛の「三十六歌仙図」が6点、さらに「三十六歌仙・和漢故事説話図屏風」と「三十六歌仙図屏風」が出ているのが嬉しいところ。又兵衛の「三十六歌仙図」は複数の絵師の手が認められるとのことでしたが、第一章に展示されていた4点(人麿、赤人、高光、宗于)は又兵衛らしい豊頬長頤も見られます。屏風2点はともに伝又兵衛。「三十六歌仙・和漢故事説話図屏風」は『岩佐又兵衛と源氏絵』のときにも出品されていたもの。もうひとつの「三十六歌仙図屏風」は初めて観ました。前者は上部に三十六歌仙、下部に和漢故事説話図という凝った作りで、表現も又兵衛風。工房の手によるものと解説にありましたが、又兵衛作品に見られる「勝以」印と「道蘊」印があるので又兵衛も何らか関与してるのだろうなと想像します。後者は歌仙の表情が判を押したように単調で面白味がなく、あまり又兵衛らしさも感じられず、ちょっとどうなのかなという気もします。
俵屋宗達 「西行物語絵巻」(重要文化財)
寛永7年(1630) 出光美術館蔵
寛永7年(1630) 出光美術館蔵
宗達の「西行物語絵巻」が出光美術館所蔵の三巻の内、最初の一巻がまるまる展示されてます。宗達の「西行物語絵巻」は室町時代の海田采女佑源相保が描いたとされる絵巻の模写本ですが、そこには同じコーナーに展示されていた「中殿御会図」や「時代不同歌合絵」といった歌仙絵のパターンが継承されているのが分かります。こうして歌仙絵と比較してみると、観る視点ががらりと変わってきて面白い。
鈴木其一 「三十六歌仙図」
弘化2年(1845) 出光美術館蔵
弘化2年(1845) 出光美術館蔵
後半には、国宝の古筆手鑑「見努世友」や伝・紀貫之の「高野切 第一種」、伝・藤原公任の「石山切 伊勢集」などの名筆がずらり。ちょうど直前に東京国立博物館で「高野切」の特集展示を観ていたので、とても興味深く観ることができました。
最後には近世の歌仙絵として又兵衛と鈴木其一が並びます。其一の「三十六歌仙図」は何度か観ていますが、表装の模様まで描きこんでいるのがいかにも其一らしいというか、面白いですね。
【人麿影供900年 歌仙と古筆】
2018年7月22日(日)まで
出光美術館蔵
古今和歌集 (岩波文庫)
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