展示替えが多く、また非常に貴重な作品が多いためか、1週間ぐらいしか展示されないものもあるため、まずは第一週目を押さえておかねばと、会社を少し早めに離脱し、いそいそと出かけて参りました。
“東山御物”は足利将軍家が蒐集した唐物(主に宋、元、明時代の美術品)コレクションで、当時の幕府や宮廷の憧憬の的であり、室町文化、延いては日本的なものの基礎となり、その後につづく桃山・江戸時代の美の規範として高く評価されてきました。
本展では、鑑蔵印や史料により、足利将軍家が所有していた“東山御物”と伝わる絵画や美術工芸品を中心に紹介したもので、国宝12件、重要文化財28件を含む106件が出品されています(作品により展示期間があります)。
会場は、青磁や漆器など工芸品と絵画が半々ぐらいでしょうか。展示室1・2では、茶器や青磁、蒔絵の硯箱や香箱などを展示。重文の「春日山蒔絵硯箱」や「物かは蒔絵伽羅箱」が見事。東京国立博物館所蔵で、先日まで根津美術館の『名画を切る、名器を継ぐ』にも出品されていた青磁の「馬蝗絆」もこちらに移動しています。
ここでの見ものは国宝の油滴天目茶碗で、漆黒に輝く金の斑紋がまるで小宇宙のよう。
「油滴天目」(国宝)
南宋時代・12~13世紀 大阪市立東洋陶磁美術館
南宋時代・12~13世紀 大阪市立東洋陶磁美術館
茶室「如庵」の展示ケースでは、東山御物の品々による書院造りを再現しています。
つづく展示室4は中国絵画。
白眉は李迪の「雪中帰牧図」と「紅白芙蓉図」。李迪は南宋時代前期の画院画家。描写の巧みさは南宋画院画家で随一といいます。「雪中帰牧図」は一つ一つの筆づかいがとても丁寧で、また凍てつく雪景の中にも人間と牛の温かな関係が伝わってきます。左幅は弟子筋が描いたという説がありますが、素人にはその違いは分かりません。「紅白芙蓉図」は花全体は裏彩色で象られ、花弁の先などを表から色を付けているとのこと。その微妙な色の諧調の繊細な表現には釘付けになります。
李迪 「雪中帰牧図」(国宝)
南宋時代・12~13世紀 大和文華館蔵 (展示は10/26まで)
南宋時代・12~13世紀 大和文華館蔵 (展示は10/26まで)
李迪 「紅白芙蓉図」(国宝)
南宋時代・慶元3年(1197)款 東京国立博物館蔵 (展示は10/13まで)
南宋時代・慶元3年(1197)款 東京国立博物館蔵 (展示は10/13まで)
男装の官女を描いた「官女図」はその抒情的な佇まいがまた印象的。馬麟と伝わる対幅の「梅花双雀図」と「梅花小禽図」も趣きがあり良い。ともに現在は所蔵先が異なり、並べて観ることのできるまたとない機会です。
(伝)銭選 「官女図」(国宝)
元時代・13~14世紀 (展示は10/19まで)
元時代・13~14世紀 (展示は10/19まで)
梁楷の「六祖截竹図」と「六祖破経図」も二幅対が揃って観られます(2週目から)。梁楷は国宝の「出山釈迦・雪景山水図」も出ていますが、個人的には減筆体の「六祖破経図」や表情豊かな「布袋図」や「寒山拾得図」、「豊干図」が好きですね。
ほかにも夏珪と伝わる「松下眺望図」が秀逸。典型的な山水人物画ですが、遠山を眺める高士の物語が見えるようです。南宋院体画を観ていると、こうした東山御物なくして室町水墨画は興りえなかったと痛感するし、梁楷や夏珪の山水画なんて狩野派にどれだけの影響を与えたのかがよーく分かります。
左:梁楷 「六祖截竹図」(重要文化財)
南宋時代・13世紀 東京国立博物館蔵(展示は10/14~)
右:(伝)梁楷 「六祖破経図」
南宋時代・13世紀 三井記念美術館蔵
南宋時代・13世紀 東京国立博物館蔵(展示は10/14~)
右:(伝)梁楷 「六祖破経図」
南宋時代・13世紀 三井記念美術館蔵
つづく展示室5では青磁の花瓶や香炉、また漆器の香箱や盆など。見事な二段彫りの「牡丹文堆朱盆」や深彫で立体的に掘り出した「独釣文堆黒輪花盆」が特に目を惹きました。
最後の展示室7は再び絵画。
牧谿が多くて、私が観に行った第一週目だけでも4点。別名「鼻毛の老子」という「老子像」がインパクト大。後半には代表作の「瀟湘八景図」が出品されます。「漁村夕照」は根津美術館の『名画を切る、名器を継ぐ』に出品されていたもの、「遠浦帰帆図」も京博の『京へのいざない』に出品されたいたものが、それぞれ本展に場所を移し再展示されます。
牧谿 「瀟湘八景図 漁村夕照」(国宝)
南宋時代・13世紀 根津美術館蔵(展示は11/18~)
南宋時代・13世紀 根津美術館蔵(展示は11/18~)
牧谿 「瀟湘八景図 遠浦帰帆図」(重要文化財)
南宋時代・13世紀 京都国立博物館蔵(展示は11/4~11/16)
南宋時代・13世紀 京都国立博物館蔵(展示は11/4~11/16)
ほかに、陸信忠という南宋の画家の「十六羅漢図」が色鮮やかかつ濃厚で、なかなか面白い逸品。高麗仏画の「水月観音図」のクオリティの高さにも舌を巻きました。実は今回の展覧会で一番感動したのはこの作品だったりします。
狩野元信(実際には元信周辺の狩野派らしい)と伝わる新出の「養蚕機織図屏風」も素晴らしい。梁楷の画巻を相阿弥が模写し、それを元信が模写した作品とのこと。今は所在不明という梁楷の作品がどんなものだったのか気になります。
徽宗 「桃鳩図」 (国宝)
北宋時代・大観元年(1107)款 (展示は11/18~)
北宋時代・大観元年(1107)款 (展示は11/18~)
この時代の中国絵画は展覧会などでまま観るが、ここまでまとまって、しかも良質の作品を観られる機会はそうはありません。会期最終週には徽宗の傑作「桃鳩図」も特別出品されます。
【東山御物の美 -足利将軍家の至宝-】
2014年11月24日まで
三井記念美術館にて
聚美 vol.13(2014 AUTUMN 特集:東山御物の魅力
中国絵画入門 (岩波新書)
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