江戸時代後期を代表する文人画家・田能村竹田の没後180年を記念しての展覧会。竹田の有数のコレクションを誇る出光美術館でも実に18年ぶりの大規模展だそうです。
田能村竹田の作品はこれまでも出光美術館で開かれた文人画家の展覧会で何度か目にすることがあり、少々敷居の高い感じのする文人画の中でも、竹田の作品は柔和な感じで見やすいなという印象を持っていました。
出光美術館は竹田の作品を約200点所蔵していそうで、本展ではその中から厳選された詩書画や画帖など54点を公開しています。そのほか、竹田が憧れた中国絵画や同時代の文人画家の作品も紹介。文人画の世界をたっぷり堪能できます。
会場は5つの章に分かれています。
Ⅰ 精妙無窮 - 竹田画の魅力と特質
Ⅱ 山水に憩う - 自娯適意の諸相
Ⅲ 微細な色彩と薫り - 生命あるものへ
Ⅳ 眼差しの記憶 - 「旅」と確かな実感
V 幕末文人、それぞれの理想
回顧展というと、割と若描き作品から紹介されることが多いと思うんですが、いきなり晩年の、最も充実した作品群が最初からどーんと並んでいます。
田能村竹田 「梅花書屋図」
天保3年(1832) 出光美術館蔵
天保3年(1832) 出光美術館蔵
前景から遠景にかけての水辺のジグザグや樹木の配置といった構図が絶妙な「梅花書屋図」や、早朝の風情と空気感を感じる「村居暁起図」、親交のあった大塩平八郎に贈ったという「春隄夜月図」など、中国の文人画を手本としつつ、その理解と研鑽が結実した結果というんでしょうか、晩年の作品はどれも江戸時代の文人画の一つの到達点を観る思いがします。
竹田の画は文人画にありがちな奔放な感じはなく、清らかで穏やかな趣きがあります。恐らくとても真面目な方だったのでしょう、どの作品も丁寧かつ繊細な筆致で、品のいい文人趣味を感じることができます。中国の文人画や先人の作品を相当研究したらしく、ある意味お手本的な行儀の良さもありますが、濃淡自在な筆調と豊かな表現は傑出しています。
田能村竹田 「山陰訪戴図」
文政末期 出光美術館蔵
文政末期 出光美術館蔵
「山陰訪戴図」は王羲之が友人を訪ねるも興が尽きて引き返すという故事を描いたもの。雪を表すのに素地の白を残すという表現が秀逸。門前の一行の描写もうまい。人物にしても点景にしても細かなところも手を抜かず、山水の景観から物語が伝わってきます。「考盤図」や「蘭亭曲水図」、「高客吹笛図」の高士の豊かな表情や風雅な画作りもとても印象的です。
竹田は藩医の家に生まれますが、家督は継がず、儒者としての道を選びます。文人趣味に憧れ、中国の古典や漢詩に親しみ、書画を嗜みますが、画業に専念するのは隠居(37歳!)したあとのようですね。「青緑山水図」は竹田が画家として本格的に活動を始める時期に描かれた作品とか。青緑山水というと山を群青や緑青で彩色した中国山水画の画題の一つですが、適度な濃彩の色合いが竹田の品の良さを感じさせます。
田能村竹田 「青緑山水図」
文政末期 出光美術館蔵
文政末期 出光美術館蔵
会場の途中に紹介されている中国絵画がまた見もの。日本の漢画に大きな影響を与えた浙派の始祖とされる戴文進の「夏景山水図」、院体画を代表する絵師・夏珪(伝)の双幅の「山水図」などどれも素晴らしい。
後半には竹田の花卉画があるのですが、これがまたいい。華麗な「春園富貴図」や瑞々しい筆触を味わえる「蘭図」、精緻な「梅菊図」など、山水画とはまた違う格別の魅力があります。
田能村竹田 「蘭図」
文化11年(1814) 出光美術館蔵
文化11年(1814) 出光美術館蔵
蔬菜や虫を描いた作品も面白く、カマキリとインゲン豆を描いた略画風の「豆花蟷螂図」や水彩画のような趣きのある「果蔬草虫図巻」、鳩や雁、鵞鳥や猫などを描いた最晩年の「書画貼交屏風」がいい。「書画貼交屏風」の蟹は出色。
最後の一角には、池大雅や与謝蕪村、浦上玉堂といった江戸後期から幕末にかけての文人画家の作品が少しだけ並んでいて、日本の文人画を知るのに役立ちます。
池大雅 「蜀桟道図」
江戸時代 出光美術館蔵
江戸時代 出光美術館蔵
文人画というと詩や賛が揮毫されていたりしますが、読めなくても意味が分からなくても、現代語訳がついていたり、解説が丁寧なので問題ありません。竹田は詩文が得意だったというだけあり、ついつい読んでしまう味わいもあります。文人画はちょっと分からないな、という人にこそオススメの展覧会です。
【没後180年 田能村竹田】
2015年8月2日(日)まで
出光美術館にて
田能村竹田 (新潮日本美術文庫)
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