伺うのがすっかり遅くなってしまい、気づけば最終日。危うく見逃すところでした。
近年、稚拙な画ながらも、ユーモラスで愛らしい絵巻や説話画、いわゆる“素朴絵”が注目されているそうで、本展はその代表作品として知られる「かるかや」と「つきしま(築島物語絵巻)」を中心に、“素朴絵”の世界を紹介した展覧会です。
実のところ、日本民藝館には初めて足を運んだのですが、無名の職人による生活工芸品にある“美”を評価し、民芸運動を行っていた柳宗悦が建てたところだというのは初めて知りました。大学の頃、民俗学の授業でこの方の本を読まされたのを覚えてます。
そのため館内には、日本の陶器や、中国・朝鮮の陶磁器、柳宗悦と交流のあったバーナード・リーチや濱田庄司、棟方志功らの作品、また江戸時代の工芸品などが多く展示されています。
今回の特別展である『つきしま かるかや -素朴表現の絵巻と説話画』の展示作品は、建物自体が登録有形文化財という本館2階の大展示室(といってもたいして広くない)を中心に展示されていました。
「つきしま (築島物語絵巻)」 (一部)
室町時代・16世紀 日本民藝館蔵
室町時代・16世紀 日本民藝館蔵
ウワサの「つきしま」は初めて拝見しましたが、“ヘタウマ”(というよりヘタクソですが…)といいましょうか、脱力系といいましょうか、その素朴さ、おおらかさに思わず笑みがこぼれてしまいます。こういう絵巻を作れるのはある程度の階層の人なのでしょうが、それにしても絵のひどさは小学生レベル。色も多彩なので一応職業絵師かそれに近い人による作品なのかなとも思うのですが、一説によると、当時は書は能書家に依頼しても、絵は素人が描くこともあったともいいます。何とも憎めない“ゆるさ”に笑ってしまいますが、この「つきしま」は平清盛による福原遷都で港を作るための人柱伝説が話のもとになっていて、実はとても悲しい物語なのです。
「絵入本 かるかや」 (一部)
室町時代・16世紀 サントリー美術館蔵
室町時代・16世紀 サントリー美術館蔵
「かるかや」は昨年サントリー美術館で開催された『お伽草紙展』でも拝見し、個人的にもその絵のユニークさにすっかり魅了されました。落書きのような絵ですが、これも真面目なお話。でも、こうした“ヘタ”な絵が添えられていると、そこに揮毫されている書も“ヘタ”に見えてしまうから不思議なものです。
「浦島絵巻 [甲本]」 (一部)
室町時代・16世紀 日本民藝館蔵
室町時代・16世紀 日本民藝館蔵
同じく『お伽草紙展』に出展されていた「浦島絵巻」も展示されていました。
会場には、お伽草紙や説話を題材にした肉筆の彩色絵本である“奈良絵本”や簡易な彩色による墨摺り絵本の“丹緑本”なども多く展示されていました。“奈良絵本”は素朴絵とはいっても中にはかなりしっかりとした描写のものもあり、依頼者(購入者)や絵師のレベルの幅は広かったように思えます。
「曽我物語屏風」
江戸時代・17世紀 日本民藝館蔵
江戸時代・17世紀 日本民藝館蔵
大展示室の一番奥に展示されていた6曲一隻の「曽我物語屏風」は一見それなりの屏風に見えるのですが、描写の甘さもさることながら、たなびく雲は後から描き足したような粗雑さだったり、左上の鶴もあまり綺麗とも言えず、かなりツッコミどころのある屏風でした。これも庶民向け(?)の屏風だったのでしょうか。気になるところです。
個人的には他に、「十王図屏風」(8曲一隻)や「大江山図屏風」(6曲一隻)、「藍染川絵巻」、「熊野比丘尼図」などに強い興味を覚えました。
「藍染川絵巻」 (一部)
室町時代・16世紀 日本民藝館蔵
室町時代・16世紀 日本民藝館蔵
美術館や博物館で観る絵巻や屏風などは、それなりに名のある絵師によるものだったり、美術史的に評価の高いものばかりですが、こうした庶民に伝わる“素朴絵”ももっと注目されても良いのにと感じます。美術史だけでなく、民俗学的にもいろいろと興味を掻きたてる展覧会でした。
【つきしま かるかや -素朴表現の絵巻と説話画】
日本民藝館にて
(会期終了)
日本の素朴絵
柳宗悦民藝の旅―“手仕事の日本”を歩く (別冊太陽 太陽の地図帖 7)
民藝とは何か (講談社学術文庫)
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