2017/05/12

木×仏像展

大阪市立美術館で開催中の『木×仏像 - 飛鳥仏から円空へ 日本の木彫仏1000年』を観てまいりました。

仏像の素材の「木」に着目し、日本の仏像史を展観するという企画展。時代ごとに、どういう種類の樹木が使われたのか、またそこから読み取れる仏像の傾向や特徴を紹介しています。

過去に東博で開催された『仏像 一木にこめられた祈り』と重なる部分もあって、内容に目新しさはありませんが、関東人にはなかなか観られない関西の仏像が多く、その充実ぶりに驚きました。やはり京都・奈良といった都の圏内だけのことはあるなと思います。関東で、関東の仏像だけで同じ企画を立てても、これだけの仏像は集まらないでしょう。

ガラスケースなしの露出展示も多く、ほとんどの仏像で360度ぐるりと観られるという展示方法も良かったです。



飛鳥時代はクスノキ、奈良時代後半になると主にカヤ材、平安時代初期には唐の白檀の檀像を手本に日本産出のカヤ材やヒノキ材などで代用した檀像が流行したといいます。東博所蔵の「木像 菩薩立像」は飛鳥時代に遡るという日本最古の木彫仏のひとつ。木材はクスノキで、仏教伝来期特有の大陸の影響を残す一方、どことなくプリミティブな素朴さを感じます。

「木造 菩薩立像」
飛鳥時代・7世紀 東京国立博物館蔵

2015年に国宝に指定されたばかりの「弥勒如来坐像」は東大寺の大仏を造るにあたっての試作と伝わることから“試みの大仏”とも呼ばれます。数年前に東大寺ミュージアムでも拝見しましたが、50cmにも満たないこじんまりとした仏像なのに、見た目からくる印象は非常にどっしりと大きなものがあります。ちょっと前のめりで話しかけるような面差しもとても優しそうで、見てるだけで心の奥が温かくなる気がします。こちらはカヤ材。

「木像 弥勒如来坐像 《試みの大仏》」 (国宝)
奈良時代・8世紀 東大寺蔵

美術館の目と鼻の先にある四天王寺からは複数の仏像が出品されています。「阿弥陀三尊像」は中尊はカヤ材の一木造、脇侍はヒノキ材で、それぞれ時代が異なるとのこと。カヤ材は匂いがいいという話を聞きますが、ケースに入っていないからといって、鼻を近づけても匂いは分からないですね(笑)。唐招提寺の「伝獅子吼菩薩立像」もカヤ材。両腕は欠損し、鼻も欠けてしまっていますが、鑑真とともに来朝した中国の仏師によって造られたのではないかともされ、どことなく異国的な雰囲気が漂います。

胸も厚くどっしりとした体躯が印象的な奈良・宮古薬師堂の「薬師如来坐像」はいい色に黒光りして、一体どんな木材なんだろうと思ったのですが、ヒノキの一木造で、実は後世に漆塗りされたのだそうです。薬師寺の「地蔵菩薩立像」は温和なお姿が印象的。ヒノキと見られる針葉樹材とのこと。大阪・蓮花寺の「地蔵菩薩立像」は木目もはっきりとし、力強さを感じる地蔵菩薩像。こちらは広葉樹材。

「木像 宝誌和尚立像」 (重要文化財)
平安時代・11世紀 西往寺蔵

本展の目玉の一つが「宝誌和尚立像」。宝誌が観音菩薩の変化身であったという説話に基づくもので、僧の顔が二つに裂け内側から観音の顔が現れるというその姿は日本の仏像の中でも奇怪なものとして有名ですね。しばらく京博の常設に展示されていたこともあり、何度か拝見していますが、鉈彫りであるとか、背中に大きな穴があるとか製法に注目したことがなかったので、その点でも興味深かったです。背中は正面のような鑿跡はなくて、腰上あたりから下半身にかけてふっくらとした丸みがあって、そんなことに気付けるのも360度展示の良さ。

昨年、東博で開催され話題になった『平安の秘仏-滋賀・櫟野寺の大観音とみほとけたち』に出品された櫟野寺の仏像も3躯出品されていました。“甲賀様式”と呼ばれるすらりとした長身細身の仏像。腕が欠損しているものもありますが、地方仏らしい親しみがあります。

印象的だった仏像の一つが、玄海という鎌倉時代の仏師の手による「釈迦如来立像」。見た目は清凉寺式の釈迦如来像ですが、頭が少し大きいのと、顔も原像とはかなり違って独特。今回の京阪の仏旅(?)では奈良博のなら仏像館と大津の三井寺でも清凉寺式釈迦如来像の模刻像を拝見しましたが、基本的な図像形式は同じでも、時代の好みも反映するのか、顔の感じもそれぞれ少しずつ違ったりするのが新しい発見でした。

玄海 「木像 釈迦如来立像」 (重要文化財)
鎌倉時代・文永10年(1273) 奈良国立博物館蔵

本展では、仏像の素材だけでなく、木彫りの製法についても紹介しています。平安時代までは1本の木材から像を丸彫する“一木造”ですが、その後、干割れを防ぐため一木造の像の前後を割り、内刳りを施したあとに再び矧ぎ合わせる“割矧造”という技法が生まれ、それが鎌倉時代以降主流となる“寄木造”に発展します。内刳りがどんな風になっているのか、寄木造がどのように製作されるのか、塑像の芯木はどういうものか、そういった点もちゃんとフォローされていて、実際の作品で観ることができます。

第二会場はバラエティに富み、四天王像から円空仏までさまざま。大阪・大門寺の「蔵王権現立像」は片足立ちの仏像で、よく立つことができるなと驚くような絶妙なバランス。 ちょっとでも揺れたら倒れそう。

圧倒されたのは新薬師寺の「四天王立像」。新薬師寺というと十二神将像が有名で、数年前に訪れたときもあまりのカッコよさに見惚れた覚えがありますが、この「四天王立像」の肉体表現も抜群にカッコいい。東大寺が平家により焼き討ちされた後、運慶・快慶ら慶派仏師により再興された四天王立像を模したとされ、その精緻な文様や彩色も大変素晴らしく、見応えがありました。

円空 「木造 秋葉権現三尊像」
江戸時代・17世紀 個人蔵

ちょうど『快慶展』を観るため関西に行く人も多いと思いますが、ちょっと大阪まで足を伸ばしてこちらも観れば、より充実した仏像の旅を堪能できますよ。


【木×仏像 - 飛鳥仏から円空へ 日本の木彫仏1000年】
平成29年6月4日(日)まで
大阪市立美術館にて


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