2017/06/09

ランス美術館展

損保ジャパン日本興亜美術館で開催中の『フランス絵画の宝庫 ランス美術館展』を観てまいりました。

ここ数年、損保ジャパン日本興亜美術館は年に2回のペースでフランス絵画の展覧会をやっていて、とりわけ印象派の周辺への切り口には定評があります。

今回はフランス北東部シャンパーニュ地方の小都市ランスにあるランス美術館のコレクションを紹介。ランスは、シャルル7世の戴冠式が行われたノートルダム大聖堂もある古い街で、ジャンヌ・ダルクゆかりの地として知られます。日本人にとってはレオナール・フジタ(藤田嗣治)が晩年を過ごした地といった方が分かりやすいかもしれないですね。

そんなランス美術館は中世美術から現代美術まで幅広いコレクションを所蔵しているといいます。本展では、17世紀から20世紀までのフランス絵画を中心に約70点が出品。後半はランスと縁の深い藤田嗣治の作品を展示しています。


会場の構成は以下のとおりです。
1.国王たちの時代
2.近代の幕開けを告げる革命の中から
3.モデルニテをめぐって
4.フジタ、ランスの特別コレクション

リエ=ルイ・ぺラン=サルブルー 「ソフィー夫人(またの名を小さな王妃)の肖像」
1776年 ランス美術館蔵

フランスならではの絵画様式が確立するのは17世紀を過ぎてから。それまではカラヴァッジョやカラヴァジェスキに代表されるイタリア絵画や、レンブラント、ルーベンスといった巨匠のいるネーデルランド/フランドルの絵画の影響を強く受けていたといいます。

最初の部屋にはカラヴァジェスキの作品や、フランドル絵画などもあって、あまりフランス絵画という感じがしませんが、貴族の肖像画やユベール・ロベール風の風景画など、少しずつフランスらしさも見えてきます。ルイ15世の娘ソフィーを描いたとされるリエ=ルイ・ぺラン=サルブルーの「ソフィー夫人の肖像」はドレスの刺繍の細密な描写が秀逸。まわりの肖像画が無背景のバストアップや頭部の肖像が多い中、書斎の椅子に腰をかけた全身像で、細部に及ぶ丁寧な描き込みも素晴らしかったです。

ジャック=ルイ・ダヴィッド(および工房) 「マラーの死」
1793年7月13日以降 ランス美術館蔵

時代も19世紀になると、新古典主義やロマン主義が登場します。貴族階級の衰退とともにロココ趣味の反動として生まれたのが新古典主義といわれますが、それを物語るように展示されている作品も貴族的なものから革命や一般市民をモチーフにしたものへと移って行きます。

今回『ランス美術館展』に来た目的の一つが「マラーの死」。フランス絵画史に名を残すダヴィッドの傑作です。といってもこれは実はダヴィッド(もしくは工房)による複製作品で、オリジナルはベルギー王立美術館にあります。木箱に記された文字が異なるのと、手にする手紙の描写に違いはあるものの、ほぼほぼオリジナルに忠実な様子。何よりその劇的な構図に釘付けになります。

ウジェーヌ・ドラクロワ 「ポロニウスの亡骸を前にするハムレット」
1854-56年 ランス美術館蔵

テオドール・シャセリオー 「バンクォーの亡霊」
1854-55年 ランス美術館蔵

ロマン主義ではジェリコー(と思われると注釈つき)やシャセリオー、対する写実主義ではクールベ、バルビゾン派ではコローやミレー、印象派ではブータンやシスレー、ピサロ、さらにはゴーギャンやドニ、ヴュイヤールなど、19世紀から20世紀初頭にかけてのフランス絵画の優品が並びます。

ドラクロワの描くハムレットやシャセリオーのマクベスなんていうのもあって、フランス絵画が描くシェークスピアというチョイスも面白かったです。シャセリオーはユゴーの詩を題材にしたという「とらわれの女」も良かった。西美の『シャセリオー展』に行けなかったのが悔やまれます。

エドゥアール・デュビュッフ 「ルイ・ポメリー夫人」
1875年 ランス美術館蔵

誰でも知ってる傑作が来てるという訳ではありませんし、一地方都市の美術館ということもあってか、どちらかというと地味といったら地味なんですが、あまり有名でない画家でも優品がいくつもあって、なかなか侮れないところがあります。名前を知らなかった画家で印象的だったのはエドゥアール・デュビュッフの「ルイ・ポメリー夫人」やフランソワ・ボンヴァンの「昼食、一杯のカフェ」。アンリ・ファンタン=ラトゥールはよく見る花の静物画ではなく人物画があって、こういう絵も描くんだというのが新しい発見でした。

アンリ・ジェルヴェックス 「期待外れ」
1890年以前 ランス美術館蔵

アンリ・ジェルヴェックスの「期待外れ」も面白かった。いかにも期待外れといった感じで、感情が顔に現れています。

レオナール・フジタ 「好色」
20世紀後半 ランス美術館蔵

後半は藤田嗣治の作品が結構充実しています。フジタは平和の聖母礼拝堂の素描が中心ですが、礼拝堂内のフレスコ画やステンドグラスの写真パネルもあって、素描と実際のフレスコ画を見比べられたりするので、なかなか良かったです。素描というと下描き的なイメージがありますが、油彩とはまた異なる筆触やデッサン力、何より素描の完成度の高さには見惚れます。

フジタの油彩画も多くあって、割と初期と思われる作品や1920年代のパリ時代の作品、日本に帰国前に立ち寄った中南米の影響を受けた作品、そして晩年の作品とこんなに来てるとは思いませんでした。本展のメインヴィジュアルはフジタですが、チラシを見る限り、そんなにフジタ推しもしてないし、もっとフジタを全面に出した方がお客さんも呼べたんじゃないでしょうか。

レオナール・フジタ 「授乳の聖母」
1964年 ランス美術館蔵

今、美術館は高層ビルの42階ですが、2019年にはビルの隣に新しい美術館ができるそうで、既に敷地がフェンスで囲まれてました。どんな美術館が立つか今から楽しみですね。


『フランス絵画の宝庫 ランス美術館展』
2017年6月25日(日)まで
東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館にて


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