2016/08/14

宇宙と芸術展

六本木ヒルズの森美術館で開催中の『宇宙と芸術展』を観てきました。

SF映画で未来とされていた時代をどんどん通り過ぎ、金星のことも火星のことも木星のことも想像の世界ではなくなり、宇宙ステーションも地球の上をフツーに飛んでいる現代。宇宙はいまでも未知なる神秘に包まれている一方で、子どもの頃に思い描いていた宇宙のイメージには何か懐かしさも感じます。

本展は、“宇宙”にまつわる古今東西の歴史的史料や絵画、現代アーティストによる芸術作品から、宇宙開発に関する資料や写真に至るまで、幅広く集めた展覧会。正直出品物は多種多様で混沌としていますが、人類は古代から宇宙をずっと夢見てきたんだという、それらがすべて一本の線に繋がって見えてきて、時代時代の宇宙観もよく分かるし、とても興味を掻き立てる展覧会でした。


Section 1 人は宇宙をどう見てきたか?

まずは、いにしえの人々が思い描いた宇宙観を紹介。
曼荼羅が充実していて、最初からいきなり目が釘付けになります。曼荼羅とは仏教における仏の悟りと宇宙観を視覚化したもの。ここでは密教の理想世界を象徴的に表した「両界曼荼羅」や北斗七星など天の諸星と仏様を結びつけた「星曼荼羅」、人の一生と死後の世界を描いた「熊野観心十界曼荼羅」、またチベットの曼荼羅図やインドの立体曼荼羅など、興味深いものが並びます。

「両界曼荼羅」
鎌倉時代・14世紀 三室戸寺蔵
(※写真の作品は9/7~10/18に展示)

「星曼荼羅(北斗曼荼羅)」
南北朝時代・14世紀 大坂歴史博物館蔵
(※写真の作品は7/30~9/6に展示)

曼荼羅を立体的に表現したインドの「立体曼荼羅」も面白かったのですが、須弥山を立体化した「須弥山儀」というのもありました。真ん中に時計(?)のようなものがあって、実際には動くのでしょうか。江戸時代にからくり細工師が作ったものだとか。こちらは9/6までの展示。

ほかにも、南北朝時代の「十二天像」の掛幅や「竹取物語絵巻」、司馬江漢の描いた「天球図」、隕鉄から造った「流星刀」、さらにはキトラ古墳に描かれていた世界最古ともいわれる「天文図」(複製)もあれば、江戸時代の太陽の黒点や月面の観測図なんていうのもあったりします。古代中国の神話に登場する男女神という人首蛇体の「伏義女媧図」も驚いたし、日本を代表するシュルレアリスム画家の北脇昇が石庭の秘密に挑んだ「竜安寺石庭ベクトル構造」も面白かった。

国吉国宗 「流星刀」
1898年 東京農業大学図書館蔵

西洋のものでは、目玉はやはりレオナルド・ダ・ヴィンチとガリレオ・ガリレイの天文学に関する手稿。とくにダ・ヴィンチの「アトランティコ手稿」なんて、現物は滅多に観られないし、ダ・ヴィンチの展覧会なんかで公開されたら凄い人だかりでしょう。ここではさりげなく展示されてるし、人だかりもない(笑)


Section 2 宇宙という時空間

Section 2以降は現代アートや写真、映像などが中心ですが、この先がまた面白い。
ビョーン・ダーレムの「ブラックホール(M-領域)」は巨大なブラックホールの中にある銀河系と多元宇宙の在り方を再解釈したものとか(よく分からん…)。そばに展示されていたダーレムの「プラネタリー・ツリー」はある種の“生命の樹”を表したものらしいのですが、パッと見、春日曼荼羅の神鹿の背にある榊みたいで、なるほど通じるものがあるなと感じます。

ビョーン・ダーレム 「ブラックホール(M-領域)」 2008年

森万里子「エキピロティック ストリングⅡ」  2014年

素粒子は点ではなく“ひも”とする超弦理論からインスピレーションを得たという森万里子の作品や、アンドレアス・グルスキーの有名なスーパーカミオカンデの写真なんかも展示されています。

コンラッド・ショウクロス 「タイムピース」 2013年 

白い空間の中でぐるぐると形を変え、恐らく法則に則っるんでしょうけど不規則な動きをする巨大なオブジェ。コンラッド・ショウクロスの「タイムピース」は日時計をアート的に表現したものとか(よく分からん…)。太陽のプロミネンスを間近で体験できるインスタレーション「ブリリアント・ノイズ」も面白い。なんかSF映画の中にいるような感覚がして、こういうの好き。

ヴォルフガング・ティルマンス 「名づけられた銀河と名付けられていない銀河、ESO」
2004~2012年

ティルマンスが本展のために制作したという8枚の写真からなるインスタレーション作品。チリにある超大型望遠鏡で写し出した世界やコンピューターによる解析画面など、目に見えるものと視覚を超えた世界を表しているといいます。

ジア・アイリ 「星屑からの隠遁者」 2015年

ほかにも、中国の現代アーティスト、ジア・アイリの巨大な作品や琥珀の中を撮影したピエール・ユイグの映像から国立極地研究所の隕石コレクションまで。杉本博司の写真もある。

杉本博司 「石炭紀」 1992年


Section 3 新しい生命観-宇宙人はいるのか?

わたしは幽霊の存在は全く信じていないのですが、宇宙人は必ずいると思ってて、どこか遠い惑星にも未知の生命体があり、その星の環境に適合するように独自の進化を遂げているのだろうと信じてます。最初に展示されているのが、正にダーウィンの『種の起源』。しかも初版本。ここでは嘘か真か、いろんな宇宙人像を紹介しています。

チャールズ・ロバート・ダーウィン 「種の起源」 1859年

荒俣先生所蔵のSF雑誌コレクションも展示されています。H・G・ウェルズの『宇宙戦争』もあれば、水星人とか火星人とか土星人の想像図もあるし、異星人の教授へのインタビュー(?)なんていうのもあり。


そして、知る人ぞ知る“うつろ舟”。江戸時代の常陸国に漂着したUFO説もある謎の物体で、正直なところ、わたしはこれが観たくてここに来たわけです。“うつろ舟”には謎の文字が書かれていて、美しい女性が乗っていたといわれますが、江戸時代の人々の頭にはUFOも宇宙人もなかったでしょうから、これは一体なんだったのかと、いま考えても興味が尽きません。

[写真上左から] 万寿堂編 「小笠原越中守知行所着舟」(「漂流記集」より) 江戸時代後期・19世紀
「常陸国鹿島郡京舎ヶ濱漂流船のかわら版ずり」 江戸時代・1844年
滝沢興継 「うつろ舟の蛮女」(『弘賢随筆』より) 江戸時代・1825年

“仮面の女神”と呼ばれる縄文土偶からインスピレーションを受けたという「縄文時代の司祭」は正に宇宙人。ここのスペースだけ照明が少し暗くて、となりに並んで展示されている赤いネオンの光が怪しく光り、なんだか矢追純一のUFOスペシャルのテーマ曲でも流れてきそうな雰囲気。

ローラン・グラッソ 「縄文時代の司祭」 2015年


Section 4 宇宙旅行と人間の未来

そして現代。米ソの宇宙開発競争に始まった宇宙への人類進出の歴史を振り返りつつ、未来の宇宙開発を探ります。宇宙飛行士の記録写真やアポロ11号の月着陸の更新記録、月面の3D写真、国際宇宙ステーション内の映像、スペースシャトル“チャレンジャー号”の模型などが並びます。

空山基 「セクシーロボット」 2016年

メタリックなイラストレーションそのままにエロティックでかっこいい空山基の「セクシーロボット」。SF映画の一場面のようなフルニエの「スペース・プロジェクト」はNASAのケネディ宇宙センターや中国の中華人民革命軍事博物館などで撮影したもの。

ヴァンサン・フルニエ 「スペース・プロジェクト」 2008年

コンスタンチン・ツィオルコフスキー 「手稿」(『宇宙旅行アルバム』より) 1933年

宇宙開発の父・ツィオルコフスキーのドローイングも興味深い。科学アドバイザーを務めたソ連のSF映画『宇宙飛行』(1935)のための研究資料だそうですが、今から80年前のものだというのに、宇宙船の船外活動や無重力空間の様子など、とても予言的で的確なのに驚きます。

トム・サックス 「ザ・クローラー」 2003年

チームラボの映像インスタレーションも凄かった。カラフルな光や花、そして不思議な八咫烏が飛び、立ったまま観ているとフラフラ倒れそうになります。みんな座って映像を見つめていますが、それでもまるで宇宙を遊泳しているような浮遊感に襲われます。面白いけど、ちょっと宇宙酔いしそう(笑)

チームラボ 「追われるカラス、追うカラスも追われるカラス、
そして衝突して咲いていく - Light in Space」 2016年

2時間近くいたのですが、もっと観ていたいなという気分になりました。もう1回行きたいなと思ってます。約5ヶ月間というロングランの展覧会。夜遅くまでやってるのも有り難いですね。


  本展会場内の作品写真は「クリエイティブ・コモンズ表示・非営利 - 改変禁止 2.1 日本」ライセンスでライセンスされています。


『宇宙と芸術展 かぐや姫、ダ・ヴィンチ、チームラボ』
2017年1月9日(月・祝)まで
森美術館にて


宇宙と芸術: かぐや姫、ダ・ヴィンチ、チームラボ宇宙と芸術: かぐや姫、ダ・ヴィンチ、チームラボ

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