2014/05/03

江戸絵画の19世紀

府中市美術館で開催中の『江戸絵画の19世紀』(後期展示)に行ってきました。

毎年春に行われている<春の江戸絵画まつり>ももう何回になるんでしょうか。春になると今年の府中市美術館はどんな江戸絵画を見せてくれるのだろうと楽しみになってきます。

今年のテーマは“19世紀の江戸絵画”。応挙、若冲、蘆雪、蕭白といった江戸絵画を代表する人気絵師を輩出した18世紀につづく時代。江戸文化が爛熟し、西洋の文化や技術も少しずつ入り、やがて美術を取り巻く環境が激変す明治を迎える時代。浮世絵、文人画、洋風画とさまざまな作品が登場する19世紀の江戸絵画がどんな特色があり、どんな魅力があるのかを探っていきます。



1. 19世紀の造形感覚

江戸中期の奔放で、画期的な江戸絵画の傾向をさらに発展させた、斬新で、分かりやすく、そして古臭さを感じさせない独特の造形感覚をもった作品をいくつかのテーマに分けて紹介しています。

≪精密さと迫真≫では、得意の猿図の筆致が活かされている森狙仙の「狸図」、枯れかけた蓮の葉を太い線で力強く描いた岸駒の「白蓮翡翠図」、華麗な彩色が美しい岡本秋暉の「花鳥図」が秀逸。大久保一丘の西洋画のような肖像画、亜欧堂田善の銅版画も新しい時代を強く感じさせます。

狩野一信 「七福神図」
個人蔵

≪うねりと凄み≫では、「五百羅漢図」で有名な狩野一信の「七福神図」が◎。作りとしては山水画ですが、真ん中に太く大きく伸びた松、左上には日輪と鶴、そして画面のあちらこちらに七福神が集うという縁起のいい作品。狩野芳崖の「月夜山水図」も素晴らしい。室町の水墨画に倣った典型的な構図でありながら、遠くの山を薄くぼかして遠近感を出し、後年の作風を感じさせるところがあります。

狩野芳崖 「月夜山水図
山口県立美術館蔵

≪ひねる深み≫では狩野一信の「布袋唐子図」、≪構図の新感覚≫では松村呉春の弟子・小田海僊の「少年行之図」、酒井抱一の弟子・池田孤村の「春秋花鳥図」が印象的。面白かったのが古市金峨の「瀑布図」で、縦に長い掛軸のほぼ全面に滝だけを描き、大胆というか、インパクトがあるというか。流れ落ちる滝の大音量が聞こえてきそうです。

古市金峨 「瀑布図」
個人蔵


2. 心のかたちを極める

技巧に走るのではなく、むしろ自由で非技巧的な描き方を尊び、愉しむ、そんな肩の力を抜いた作品を紹介。面白いのは上田公長の「狐の嫁入り図屏風」で、よくある擬人ものなのですが、姿は狐の顔した人間そのもので、脚がリアルに太かったりしてユニーク。

葛飾北斎 「諸国滝廻り 相州大山ろうべんの滝」
中外産業株式会社蔵

ほかに北斎の「諸国滝廻りシリーズ」や浦上玉堂の「山間訪隠図」が印象的。


3. 19世紀の人々の「世界」

≪世界について考える≫では、西洋画の影響かリアルに描こうとするも顔のバランスがちょっと変な山口素絢の「洋美人図」、お百姓さんがまるで西洋人の「水辺村童図」などユニークな作品も。亜欧堂田善の「新訂万国全図」は江戸東京博物館の『大江戸と洛中』で展示されてる同題図と一緒かなと思ったのですが、発行年が府中市美術館所蔵品の方が若干新しいみたい。

≪日本を知ってわくわくする≫では、国芳、広重の浮世絵に交じって展示されてた小泉斐の富士登山の記録画「富岳写真」という珍しい作品も。

菊池容斎 「蒙古襲来之図」
静岡県立美術館蔵

≪歴史を思う≫には復古大和絵の冷泉為恭のほか、明治の歴史画に大きな影響を与えた『前賢故実』で知られる菊池容斎の「蒙古襲来之図」が秀逸。激しい風に煽られる松林や旗や不穏な雲の表現が素晴らしい。


4. 西洋画法をどう使うか

たとえば和洋折衷の秋田蘭画のように既に18世紀から西洋風の作品はありますが、より本格的な西洋画が描かれるようになるのも19世紀の特徴。ここでは≪油絵の斬新さ≫、≪光と陰影 ものの見え方≫、≪遠近法を使って面白い構図を作る≫、≪立体表現の変形≫に分けて作品を紹介しています。

面白かったのが銅版画で知られる亜欧堂田善の油彩画で、なんとエゴマの油などを自製の材料で描いたとありました。国芳や広重、北斎の浮世絵の展示が多かったのですが、小林清親の木版画もあり。桜の枝を大胆に配した高橋由一も印象的でした。

高橋由一 「墨水桜花輝耀の景」
府中市美術館蔵


おわりに 19世紀の絵に遊ぶ

梅逸らしい華麗な花鳥画「花卉草虫図」がまず見事。色鮮やかな美しい花に目がいきがちですが、よく見るとチョウやトンボ、バッタ、カブトムシ、カニまでいて結構賑やかだったりします。金屏風に獅子を岸駒が、虎を長子・岸岱(共に岸岱という説も)が描いた「獅子・虎図屏風」の異様さもインパクト大。墨と金泥だけで描いた其一の珍しい仏画、井伊直弼の御前で即興的に描いたという狩野永岳の「富士山登竜図」も素晴らしい。

山本梅逸 「花卉草虫図」
名古屋市博物館蔵

鈴木其一 「毘沙門天像」
個人蔵

切り口の面白さで飽きさせず、興味深い作品や優品も多いのですが、これスゴッ!という作品は少なく、またあまり知られていない絵師も多くて、全体的にちょっと地味かもしれません。ただ、19世紀の絵師たちの、18世紀の絵師を越えようという意気込みや新しい時代の文化や技術を取り入れる探求心がすごくて、さぞかし面白い時代だったんだろうなということは伝わってきます。19世紀という時代性を知る上で日本画ファンとしてはとても勉強にもなり、楽しい展覧会でした。


【春の江戸絵画まつり 江戸絵画の19世紀】
2014年5月6日(火)まで
府中市美術館にて


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