ルオーのコレクションで知られるパナソニック汐留ミュージアムでは、時折ルオーの企画展を開いていますが、今回のテーマは“サーカス”。ルオーの絵画作品の中でサーカスがテーマのものは実は全体の1/3にもなるそうです。
たまたま10月にNHK Eテレの『日曜美術館』 でルオーの特集があり、ルオーが生涯描き続けたキリストとともに、もうひとつ彼の重要なモチーフであった道化師について触れられていて、ルオーのサーカスの絵が観られる本展をとても楽しみにしていました。
本展は、パナソニック汐留ミュージアムの所蔵作品をはじめ、国内外の美術館の所蔵作品や個人蔵の作品、またルオー財団の協力も得て、充実した素晴らしい展覧会になっていました。
ルオーは子どもの頃からサーカスが大好きだったそうで、画家になってからも、旅回りのサーカス団に深い関心を持っていて、そのうら哀切さを通して人間本来の姿を表現しようとしたのだとか。ルオーは終生、社会的弱者に目を向け、娼婦や踊り子、貧しい労働者といった底辺に暮らす人々を多く描いていますが、とりわけ道化師にはキリストにも似た何か神聖なものを見ていたのかもしれません。
ジョルジュ・ルオー 「女曲馬師(人形の顔)」
1925年頃 パナソニック汐留ミュージアム
1925年頃 パナソニック汐留ミュージアム
展覧会は大きく分けて3つのパートで構成されています。
第1幕 悲哀-旅まわりのサーカス 1902-1910年代
第2幕 喝采-舞台を一巡り 1920-1930年代
第3幕 記憶-光の道化師 1940-195年代
ジョルジュ・ルオー 「タバランにて(シャユ踊り)」
1905年 パリ市立近代美術館蔵
1905年 パリ市立近代美術館蔵
30歳を過ぎた1902年頃から、ルオーの画風は大きく変わったといいます。素早く荒々しいタッチで、また水彩の作品も増えてきます。本展では早いものでは1902年頃の作品から展示されていて、まだその頃の作品は後年のルオーのような特徴的な人物描写や構図は目立たず、色の塗りも薄いものの、筆遣いや色調にルオーらしさを感じます。
「タバランにて(シャユ踊り)」はどこかロートレック的な構図で、輪郭線もまだ完成されていませんが、濃いブルーを主体とした画面にルオーらしさが宿ってます。
会場の途中に、パリのサーカスの歴史的資料を展示した小部屋があって、パリで人気のキャバレー“バル・タバラン”の解説も充実していました。
ジョルジュ・ルオー 「白い馬に乗った女曲馬師」
1925-29年頃 ポンピドーセンター国立近代美術館蔵
1925-29年頃 ポンピドーセンター国立近代美術館蔵
会場には、ところどころに≪女曲馬師≫や≪調教師≫、≪呼び込み≫、≪ピエロ≫、≪ルオーとボードレール≫など、コラム的な解説と小コーナーがあって、そのテーマに合わせた作品が展示されています。
こうしてルオーの描くサーカスを観ていくと、単なる絵のモチーフとかではなくて、ルオーが本当にサーカスとその人たちを愛していたんだなということが分かります。サーカスの表の楽しさだけではなく、その裏に隠された人間ドラマまでもが伝わってくるようです。
ジョルジュ・ルオー 「道化師」
1937年または1938年 パナソニック汐留ミュージアム
1937年または1938年 パナソニック汐留ミュージアム
≪道化師≫の小コーナーには、1930年代を中心とした道化師の絵が展示されていました。会場の入口を入ったところにも初期の道化師の絵がありましたが、この頃になると、ただ物悲しいだけの表情にも安らぎというか温かみが現れ、どこか澄み切ったものが感じられるようになります。とっても厚塗りな絵も多いのですが、絵に独特の柔らかさが出てくるから不思議です。
会場の途中には、フランスの映画監督ジャン・ピエール・メルヴィルの初期の短編映画『ある道化師の24時間』が上映されていました。
ジョルジュ・ルオー 「踊り子」
1931-32年 ジョルジュ・ルオー財団蔵
1931-32年 ジョルジュ・ルオー財団蔵
ジョルジュ・ルオー 「傷ついた道化師」
1929-39年 個人蔵
1929-39年 個人蔵
「第2幕」の会場の一番奥には、ルオーの作品で最大級の油彩画という“カルトーネ”(タピストリーのための実物大下絵)が3点揃って展示されています。「傷ついた道化師」はかなり前に『美の巨人たち』(たぶん)で取り上げられたことがあり、舞台の最中にケガをした道化師とそれを助ける仲間たちという構図がとても印象に残っていました。同じく“カルトーネ”の「踊り子」は、旅回りのサーカス団らしい垢抜けない、筋肉質の“らしくない”踊り子で、彼女の人生の悲哀が凝縮されたような一枚です。
ジョルジュ・ルオー 「貴族的なピエロ」
1941-42年 アサヒビール株式会社蔵
1941-42年 アサヒビール株式会社蔵
晩年のルオーの道化師は「愛と犠牲を体現するキリスト的な人物像と一体化」していきます。かつてのようなゴツゴツとした、荒削りの鋭さや勢い、物悲しさは消え、柔らかさや優しさが絵に溢れてきます。 「貴族的なピエロ」はどことなく微笑んでいるようにも見えます。会場にあった解説によると、道化師の服にボタンが4つついているのは特別な道化師なのだそうです。
ジョルジュ・ルオー 「青いピエロたち」
1943年 個人蔵
1943年 個人蔵
パナソニック汐留ミュージアムは決して広い美術館ではないのですが、そこにルオーの作品だけでも約90点、サーカスなどの資料等を含めると約140点がビッシリと並んでいます。会場の雰囲気もサーカス風に模していて、いろいろと凝った演出がされていました。ルオーのサーカスに絞ったということで、非常に楽しく拝見できました。お勧めの展覧会です。
【ジョルジュ・ルオー アイ・ラブ・サーカス】
2012年12月16日(日)まで
パナソニック汐留ミュージアムにて
ジョルジュ・ルオー サーカス 道化師
0 件のコメント:
コメントを投稿