2012/05/09

毛利家の至宝 大名文化の精粋

サントリー美術館で開催中の『毛利家の至宝 大名文化の精粋』を観てきました。

サントリー美術館のある六本木ミッドタウンの5周年記念を兼ねた展覧会なのですが、なんで毛利家?と思ったら、六本木ミッドタウンって、もともと江戸時代は長州藩毛利家の下屋敷があった場所なんだそうですね。なるほど。

ちなみに、六本木ヒルズにも毛利庭園ってあるよね、と思い調べたら、あちらは毛利家の上屋敷があったのだそうな。毛利家が六本木を独占していたなんて、森ビルもビックリの大地主です。

さて、本展は山口県・毛利博物館の所蔵品を中心に、毛利家ゆかりの絵画・工芸の名品や貴重な史料などを展示。戦国時代の名将・毛利元就や豊臣五大老・毛利輝元ら毛利家の歴史を辿りつつ、そのゆかりの美術品を通して、戦国・江戸時代の文化の精粋に触れるというものです。

展覧会の構成は以下の通りです。
1. 戦国武将の雄 毛利元就から輝元まで
2. 「山水長巻」の世界 雪舟と水墨画
3. 受け継がれた美意識 毛利家の典籍と絵画
4. 暮らしにみる大名文化 婚礼調度と雛飾り
5. 能楽と茶の湯の世界 毛利家ゆかりの道具類
6. 毛利家と江戸麻布屋敷 近世から現代へ

 「毛利元就公画像」(重要文化財)
桃山時代 毛利博物館蔵

最初のコーナーでは、毛利元就生前の姿を描いた「毛利元就公画像」や国宝「菊造腰刀」の刀身と豪華な拵(こしらえ)、甲冑武具などが展示されていますが、ここでの見ものは書状の数々。元就といえば、三人の息子に命じた“三本の矢”の逸話が有名ですが、その話の基になっているともいわれる「三子教訓状」や関ヶ原の戦いで毛利軍が石田三成側に就かないことを誓った「徳川家康誓紙(徳川家康起請文)」といった戦国時代の第一級の歴史的資料から、織田軍と戦をしたら隅々まで物資などが届けられるか、宇喜多は最後まで毛利氏に味方するかなど問題点を洗い出した「毛利氏織田信長和戦対策書」、織田の水軍を撃破したときの戦果報告書など毛利家の几帳面さを表す史料まで様々な文書が展示されています。普段、書状の類はあまり熱心に見ない自分ですが、どれも非常に面白く、興味深く拝見しました。

雪舟等楊  「四季山水図(山水長巻)[部分]」(国宝)
文明18年(1486) 毛利博物館蔵

本展の目玉は、なんといっても室町時代の水墨画の巨匠・雪舟の「四季山水図(山水長巻)」の全長展示。東京での公開は10年前の東京国立博物館の『雪舟展』以来とのこと。『雪舟展』は大変な混雑でしたが、こちらはGWにも関わらず、もったいないぐらい空いてました。その分、張り付いてじっくり観られたのでよいのですが…。

「四季山水図(山水長巻)」は長さ約16メートル。雪舟67歳のときの作品だそうです。雪舟らしい力強い筆致の中にも墨の濃淡を巧みに使い分け、岩や樹の質感、河の流れの緩急、そして空気遠近法を利用した奥行き感を見事に表現しています。次々に変化する水辺や深山の景色、そこで暮らす人々の情景が実に丁寧に描きこまれています。ところどころに赤や青や緑がごく薄く塗られ、それがまた効果的に自然の美しさを引き立たせています。四季山水図なので春夏秋冬があるはずなのですが、自分の見る目のなさか、秋と冬は紅葉や雪山があることで分かるのですが、春と夏が判然としませんでした。もっと観察眼を養わなければと反省。それにしても、山水図の最高峰たる技術の高さに唸りっぱなしでした。

「四季山水図(山水長巻)」の模本も二点展示されていて、その内、毛利家の御用絵師・雲谷等顔の筆とされる模本は国宝に指定されています。ただ、人の顔の目や鼻はほとんど描かず簡素で、また岩肌や木々の描写も若干自己流な気がします。それに対し、狩野古信による「四季山水図」は雪舟の筆致を細かく再現していて、素人目には狩野古信の方が模本としては忠実に思えました。

「古今和歌集 巻八(高野切)[部分]」(国宝)
平安時代 毛利博物館蔵

第一展示室の最後のコーナーには、毛利家が所蔵する典籍と絵画が展示されています。「高野切」は「古今和歌集」の現存最古の写本で、全20巻の内、巻物として完存するのは3巻のみ。その一つ「巻八」が毛利家に伝わっています。仮名書道の最高峰といわれているそうで、字は読めませんが、流麗な筆跡が印象的でした。

丸山応挙 「鯉魚図」
江戸時代中期 毛利美術館蔵

そのほか、俵屋宗達の「西行物語絵巻」(重要文化財)(※ 展示は5/14まで)、頼山陽の「山水図」(※ 展示は5/7まで)、狩野芳崖の「福禄寿図」が特に印象に残りました。その中でも応挙の「鯉魚図」が白眉で、写実性の高さ、構図の素晴らしさといい、応挙の作品の中でもかなりの傑作の部類に入るのではと思います。真ん中は鯉が急流を登らんとする図ですが、ここを登りきった鯉は龍になるといわれ、「登竜門」という言葉の由来になっているそうです。

谷文二 「江戸麻布邸遠望図」
江戸時代後期 毛利博物館蔵

階段を降りて三階の第二展示室は、美術工芸品が中心。雛飾りや化粧道具などの調度品や豪華な着物、また能の面や香道具、茶道具なども多く展示されています。毛利輝元は千利休から茶の湯を習ったそうで、千利休が輝元に送った「一松」という茶杓もありました。

コーナーの最後には毛利家・江戸麻布屋敷の図面があり、現ミッドタウンとの位置関係も比較が歴史ファンには興味をそそるのではないでしょうか。ちなみにサントリー美術館のあるあたりには、女中が暮らす長局があったとのことです。「江戸麻布邸遠望図」は谷文晁の弟子・谷文二による作品で、現ミッドタウンから江戸城方面(左奥)や東京湾(右奥)を望んだ図。東京が起伏に富んだ地形だったことがよく分かります。

雪舟の「四季山水図」や戦国時代ファン必見の作品などが並んでいるにも関わらず、あまり混んでいないのが意外なのですが、サントリー美術館らしいクオリティの高さが光る展覧会でした。


【サントリー美術館・東京ミッドタウン5周年記念 -
 毛利家の至宝 大名文化の精粋 国宝・雪舟筆「山水長巻」特別公開】
2012年5月27日まで
サントリー美術館にて


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