戦後初めて、東京だけで5座も興行があるということで話題の歌舞伎ですが、自分は一つだけ、新橋演舞場で壽初春大歌舞伎の夜の部を観て参りました。
まずは正月の演目らしく歌舞伎十八番の曽我物『矢の根』から。曽我五郎は三津五郎が演じます。三津五郎の荒事は丁寧で卒がない分、面白みに欠ける印象が今までどこかあったのですが、今回の『矢の根』はユーモラスな狂言ということもあるのか、肩の力が抜けておおらかで楽しく豪快な五郎でした。曽我十郎に田之助、大薩摩主膳太夫に歌六、馬士畑右衛門に秀調とベテラン勢を配し、手堅くまとめらていて、安心して観られる一本でした。
次に、昨年亡くなった中村富十郎の一周忌追善狂言として、愛息・鷹之資と富十郎亡きあと鷹之資くんの後ろ盾となっている吉右衛門による『連獅子』。観劇歴の浅い自分は、富十郎の芝居をたくさん見ているわけではないですし、特に強い思い入れがあるわけではないのですが、たまたまテレビで見た天王寺屋親子による『勧進帳』のドキュメンタリーに深く感動し、その直後に見た歌舞伎座さよなら公演の親子共演の『文殊菩薩花石橋』、昨年の富十郎急死直後の『寿式三番叟』と観てきて、そしてこの『連獅子』と鷹之資くんの成長を何か蔭ながら見守ってきているような気持ちになりました。吉右衛門が舞踊ものというのも珍しいですが、『連獅子』も実に36年ぶりだそうです。吉右衛門もさすがに67歳なので、体力的なところが心配でしたが、疲れてるでしょうけれども、さすがに風格といい姿といい立派な親獅子でした。ときどき鷹之資くんの背中をポンと叩いたり、手を添えたりして、厳しい親獅子の中にも優しさを滲ませた様子に胸を打たれました。そんな鷹之資くんの子獅子も全く危なげなく、よくよく考えてみればまだ12歳というのに、やはり富十郎の子だなと思うところもしばしば。将来が楽しみに思いました。きっと天国から天王寺屋も頼もしく見ていたことでしょう。間狂言の錦之助と又五郎も相性が良いのか、とても楽しめました。
最後は、菊五郎劇団の『神明恵和合取組』、通称『め組の喧嘩』。辰五郎に菊五郎、お仲に時蔵、四ツ車大八に左團次、九竜山浪右衛門に又五郎、島崎楼女将おなみに萬次郎、焚出し喜三郎に梅玉、亀右衛門に團蔵、江戸座喜太郎に彦三郎、藤松に菊之助と正月公演らしく豪華な顔ぶれ。菊五郎の辰五郎はさすがの頭の貫録で、観ているこっちもグイグイと引き込まれてしまいます。時蔵の江戸の女らしい仇っぽさといい、左團次の関取然とした大きな出で立ちといい、ベテランの安定感に加え、菊之助、團蔵、松也、亀三郎、亀寿をはじめ、菊五郎劇団の若手が盛り上げ、チームワークの良さに全く飽きることがありません。今回は玉三郎の公演に出演して菊五郎劇団には参加していない>松緑の、長男・大河くんが辰五郎の倅又八役で出ていて、大人顔負けの芸達者ぶりを披露していました。もともとの芝居が若い者のささいな口論から始まり、親分格が話をつけるという筋もあって、ベテラン対ベテラン、若手対若手の競り合いが見どころの一本。賑やかで、鯔背で、男臭くて、江戸の華に遜色ない楽しい作品でした。
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