歌舞伎座も残すところ、あと1ヶ月。三月からは“大歌舞伎”の前に“御名残”という冠もつき、いよいよ名残を惜しむ最後のカウントダウンといった感じになってきました。四月の大歌舞伎はチケット発売早々に完売となり、チケットが取れなかった人たちなのか、あまり人気のなかった三月大歌舞伎も後半は売れ残っていたチケットがかなり捌けたようです。
さて、三月・四月は三部制で、今月は第一部と第三部を観て来ました。
まず第一部は、「加茂堤」「楼門五三桐」「女暫」の三本。
「加茂堤」は、歌舞伎の三大狂言の一つで、人気の演目「菅原伝授手習鑑」の事件の発端を描く一幕。帝の弟・斎世親王が菅丞相(菅原道真)の娘・苅屋姫が、桜丸と妻・八重の手助けで逢引をするというお話です。しかし、これが菅丞相を陥れようとする藤原時平に見つかり、後々菅丞相は九州へ流罪となってしまいます。
去年も二月の歌舞伎座でこの「加茂堤」は観ていて、そのときはたいして強い印象は残らなかったのですが、今回は、桜丸・八重の若夫婦の瑞々しさと、斎世親王・苅屋姫の初々しさ、そして両者のほんわかした雰囲気が伝わってきて、とても良かったと思います。去年の役者が悪かったというのではないのですが、役者が違うとこうも印象が違うものかと思いました。桜丸役の梅玉は柔らかく時に飄々とした物腰で、八重役の時蔵は可愛い娘をサラッと演じていて、やはりベテランの役者は味わい深いなと感じました。
「楼門五三桐(さんもんごさんのきり)」は、15分の短い出し物。京都・南禅寺の山門の上で石川五右衛門が「絶景かな、絶景かな」と言うアレがコレです。吉右衛門の五右衛門は貫禄充分で、まさに適役。いかにも天下の大泥棒という圧倒的な雰囲気がムンムンしました。真柴久吉(豊臣秀吉)の菊五郎もキリリとして、颯爽としていて良かったです。これもベテランならではの味わいという感じでした。
「女暫」は、歌舞伎十八番「暫」の主役・鎌倉権五郎を女形が巴御前として演じるというパロディー的な演目。豪快な「暫」を女形が演じるという洒落を楽しむ作品です。話の筋は「暫」と同じですが、所々に笑いどころもあって、歌舞伎らしいエンターテイメント満載という感じでした。この巴御前は、木曽義仲の愛妾の女武将で、「平家物語」の義仲と巴御前の別れのくだりはぼくも非常に好きな場面。「女暫」では女武将の猛々しさを見せる一方で、女らしさ・か弱さがチラチラ現れ、それがおおらかさや軽妙さ、洒落っ気を生んでいました。
最後の引っ込みが面白いという話は聞いていたのですが、なるほど、こうなるのかという楽しさ。幕が引くと巴御前役の玉三郎が花道でへたり込み、「刀が重たくて持てない」だの「早く楽屋に戻りたい」だの駄々をこねるのですが、番頭役の吉右衛門との掛け合いは玉三郎のコメディエンヌぶりも手伝い、また歌舞伎らしいおかしみもあって、とっても面白かったです。
さて、第三部。
最初の演目は、「加茂堤」と同じ「菅原伝授手習鑑」から「道明寺」。九州・大宰府へ流罪となった菅丞相が、途中、伯母・覚寿を訪れます。覚寿のもとには苅屋姫(覚寿の実の娘)が匿われていて、覚寿は苅屋姫を養父・菅丞相に一目合わせ、名残を惜しむという涙涙のお話です。覚寿は歌舞伎の老女の大役「三婆」の一つだそうで、今回は玉三郎がその覚寿を演じるというのが話題でした。いつもなら苅屋姫の方を演じる玉三郎ですが、今回は白髪の老け化粧で、玉三郎とは一瞬分からないぐらい。ファンとしては美しいお姫様姿を見たい気持ちはありますが、この老け役がなかなか合っていて正直ビックリしました。菅丞相の流罪のきっかけを作った娘を折檻する一方で、一目娘を養父を会わせようとする親心を持つという難しい役どころなのですが、さすが巧いですね。菅丞相は、当たり役の仁左衛門が演じ、非常に深みのある演技で、ジワジワきました。決して台詞の多い役ではないのですが、立居振舞いで感情を伝えるということがここまでできる役者はそうはいないと思います。名演というのはこういうことを言うのだなと実感した芝居でした。
ああ~あと一ヶ月。。。
「御名残三月大歌舞伎」
歌舞伎座にて
第一部 3/27鑑賞
第三部 3/24鑑賞
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