2016/08/07

はじめての古美術鑑賞

根津美術館で開催中の『はじめての古美術鑑賞 -絵画の技法と表現-』を観てまいりました。

昔はブロックバスターな展覧会というと、だいたい西洋美術と相場が決まっていましたが、ここ数年は琳派しかり、若冲しかり、鳥獣戯画しかり、日本美術の展覧会も西洋美術に劣らず人の集まるものが多くなってきたように思います。

長時間の行列ができるような展覧会はごく一部とはいえ、それでも日本美術に興味を持つ人が広がっているのは事実。本展は、なんとなく敷居が高いと思われがちな日本美術、とくに古美術でよく登場する技法や表現を取り上げ、実際の作品を観ながら、ビギナーの人でも分かるように丁寧に解説をした展覧会です。

同じような試みとしては、三井記念美術館の『日本美術デザイン大辞展』や山種美術館の『輝ける金と銀』などが記憶に新しいところ。本展は古美術によりフォーカスしてるのと、根津美術館の充実した所蔵作品の中から、参考となるちょうど良い作品が紹介されてるので、日本美術ビギナーだけでなく、美術好きのお子さんには夏休みの自由研究にもいいんじゃないでしょうか。

《たらしこみ》
・・・滲みの効果を利用して表現する技法。墨や絵の具が乾かないうちに、水を多く含んだ墨や絵の具を加えて複雑な滲みを生じさせる。

喜多川相説 「四季草花図屏風」(右隻)
江戸時代・17世紀 根津美術館蔵

“たらしこみ”というと琳派のお家芸。ここでは“たらしこみ”を創案したとされる宗達(伝)の「老子図」をはじめ、琳派作品が並びます。立林何帠(伝)の「木蓮棕櫚芭蕉図屏風」は白い木蓮の花以外は全て“たらしこみ”を用いた逸品。わずかな彩色がまた画面を引き立てています。宗達工房を継いだ相説の「四季草花図屏風」は葉の“たらしこみ”が見事。滲みは偶然とはいえ、そこには経験や技術、意図的な狙いもあり、“たらしこみ”が生み出す表現は見れば見るほど味があります。


《潑墨》
・・・筆に墨をたっぷりと含ませ、はね散らかすような筆さばきで大胆に形状を表現する技法。

雲溪永怡 「潑墨山水図」
室町時代・16世紀 根津美術館蔵

“潑墨”といえば雪舟。雪舟の作品は展示されていませんが、雪舟の筆法を継いだ絵師(画僧)の作品が並びます。雲溪永怡は周防の画僧。右下の岩山は先日同じ根津美術館の『若き日の雪舟』で観た「山水図」を彷彿とさせます。周徳は雪舟亡きあと雪舟の雲谷庵を継承したという画僧。こちらは縦長の構図で、“潑墨”で描いた岩山の下を漂う2艘の小舟が風情を誘います。ほかにも狩野常信の「瀟湘八景図巻」があって、これがなかなかの傑作。狩野派の古画研究の成果を感じさせます。


《外暈》
・・・明るい色のものを描くときに、その外側を墨や暗色のぼかしで暈取り、形が浮き上がるように表す技法。

仲安真康 「富嶽図」
室町時代・15世紀 根津美術館蔵

これも水墨画の基本技法。狩野派も四条派も若冲も、いろんなところで使っているのを見かけます。よく見るのが富士山で、敢えて色を塗らず“外暈”を用いることで雪をいただいた富士を表現します。ほかにも観音の光背や滝などに“外暈”を使った「白衣観音図」と、“外暈”で白鷺の白さを表現した「楊柳白鷺図」を展示。あまりにくっきりと白いので、白い絵具を使ってんじゃないの?と思うけど、“外暈”を利用した目の錯覚でもあるんですね。


《付立て》
・・・輪郭線を用いずに筆の穂の側面を利用して、直に対象を描き、陰影や立体感を表す技法。

いわゆる没骨法のひとつで、円山応挙が応用したといわれる技法。応挙の手ごろな作品がなかったのか、展示は円山四条派から長沢蘆雪と松村景文。蘆雪の「竹狗児図」は細い竹を茶色の絵具を含ませた筆を使い“付立て”で描き、ところどころ濃墨で変化をつけています。


《金雲》
・・・雲や霞を金箔を貼ってかたどったもの。金砂子(金箔を細かくしたもの)や金泥(金粉を膠で溶いたもの)を用いることもある。

「洛中洛外図屏風」(※写真は左隻)
江戸時代・17世紀 根津美術館蔵

作者不明の「洛中洛外図屏風」があって、“金雲”は胡粉で文様を付けた上に金箔を貼っていて、装飾性の高い贅沢な仕上がり。名所図としても素晴らしく、寺社や祇園祭の鉾などにも名称が書き加えられていたりします。町や人々の様子も丹念に描かれていて、確かな腕のある絵師の手によるものだと分かります。恐らく狩野派によるものなんでしょうね。


《白描》
・・・墨の線のみで描いた絵。

「毘沙門天図像」(重要美術品)
 平安時代・12世紀 根津美術館蔵

白描画というと、よく見るのは仏画で、密教の図像で多く用いられたといいます。“白描”といってもすべて墨の線のみで描いたものばかりでなく、「毘沙門天図像」のように顔にわずかな彩色を施したものもあります。有名な「鳥獣人物戯画」も正しく白描画。ここではその断簡(模本)が展示されていました。


《截金》
・・・金箔や銀箔を細い線や、三角・四角・菱型などに切って、線画や彫刻に貼りつける技法。

「大威徳明王像」(重要文化財)
鎌倉時代・13~14世紀 根津美術館蔵

これも仏画や仏像ではよく見る技法。絵師ではなく截金師のような専門の職人が行ってるんでしょうが、その細かさは最早超絶技巧。「大威徳明王像」は少し傷みもあって見づらいのですが、単眼鏡で覗くと、装身具をはじめ、緩くウェーブした髪が極細の“截金”で表現されていて驚きます。


《裏箔》
・・・絵絹の裏側から金箔や銀箔を貼りつけ、絹目を通すことで金銀の強い輝きを抑える技法。

これも古くから仏画で使われた技法ですが、日本画でも実は裏箔が使われてるという作品に時々出会います。柔らかで上品な光の加減を表現するのに効果的。参考に展示されていた「藤原鎌足像」は背景の松や藤に“裏箔”を使っているとのこと。“裏箔”は表から見ただけではなかなか分かりませんが、色味だけでなく、実は絵具が落ちにくいという効果があるということを初めて知りました。


《繧繝彩色》
・・・色の濃淡の変化を、明るい色から次第に同系の暗い色へ帯状に並べることで表現する技法。

いわゆる“段ぼかし”といわれる方法。よく見るのは仏画に描かれる蓮の花のグラデーションで、参考作品はいずれも蓮台の蓮弁に“繧繝彩色”が使われていました。仏画では光背に使われているのも良く見かけますね。

*** *** ***

重要文化財・重要美術品クラスの作品もあって、ビギナーだけでなくバリバリの日本美術ファンが観ても楽しめる内容になっているとは思います。ただ、根津美術館が誇るといった類の第一級の作品がなかったのは残念な気もします。作品選びが真面目だなと。ビギナー向けだからこそもっとワクワクさせる作品があっても良かったかもしれません。

本展を観た足で、近くの山種美術館に行ったり、表参道から銀座線で上野まで出て東京国立博物館に行ったりするのもいいかもしれませんね。きっと充実した美術体験になると思いますよ。


【はじめての古美術鑑賞 -絵画の技法と表現-】
2016年9月4日(日)まで
根津美術館にて


図像学入門 疑問符で読む日本美術図像学入門 疑問符で読む日本美術

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