本展は2つの展示構成になっていて、8Fの展示室では<今昔三部作>、7Fの展示室では<趣味と芸術-味占郷>と分かれています。2つの展示で趣きが異なるのが面白いところです。
<今昔三部作>では、杉本博司の写真作品の代表作である《海景》シリーズ、《劇場》シリーズ、《ジオラマ》シリーズが大判プリントで展示されています。
照明が抑えられた暗い空間に、展示されている作品だけが何か浮き上がってくるよう。スペースも広く取られていて、幸い人も少ないので、杉本博司の世界に没頭できます。
《劇場》シリーズには最新作の「テアトロ・デイ・ロッツィ、シエナ」(2014)が、《ジオラマ》シリーズには幅4mを超える大画面の新作「オリンピック雨林」(2012)がそれぞれ本邦初公開とのこと。《海景》のミニマムさ、静謐さも好きなのですが、今回初めて大判で観た《劇場》に強く惹かれました。映画一本分の露光時間で撮影したというその写真からはかつての劇場の賑わいのようなものが感じられ、ノスタルジーと幻想がないまぜになったような感覚を味わいました。
<趣味と芸術>では、『婦人画報』で連載している「謎の割烹 味占郷」の中で、各界の著名人をもてなすために杉本博司がそのゲストにふさわしい掛軸と置物を選んで構成した床飾りを再現しています。古美術もあれば、西洋伝来の遺物や近現代の工芸品もあって、その意表をつく組み合わせが楽しいし、センスを感じます。
杉本博司 「華厳滝図」 2005年 小田原文化財団蔵
たとえば、レンブラントの版画を軸装したものに織部の燭台を置物としてあわせたり、平安時代の法華経の断簡に享保雛をあわせたり、ジャック・ゴーティエ・ダゴティの解剖図に古瀬戸の水注をあわせたり、利休消息に経筒と須田悦弘の朝顔をあわせたり、果ては硫黄島の地図やキリストの木像もあったりとかなり自由。その設いが奇を衒ったり、嫌味な感じを与えたりせず、どれも絶妙で、しっくりいくから面白いし、古美術への愛情や慈しみさえ伝わってきます。
[左] レンブラント・ファン・レイン 「羊飼たちへの告知」 1634年 小田原文化財団蔵
「織部燭台」 江戸時代初期 小田原文化財団蔵
[右] 「エジプト『死者の書』断片」 紀元前1400年頃 小田原文化財団蔵
「青銅製猫の棺」 紀元前664年~紀元前342年 小田原文化財団蔵
「織部燭台」 江戸時代初期 小田原文化財団蔵
[右] 「エジプト『死者の書』断片」 紀元前1400年頃 小田原文化財団蔵
「青銅製猫の棺」 紀元前664年~紀元前342年 小田原文化財団蔵
飾られている品々がまた超がつく一級品ばかりで、仏像や仏画の多くは平安時代や鎌倉時代のものですし、一休宗純や小野道風の書、白隠の禅画、さらには尾形乾山からルーシー・リーの陶磁器まで、その目利きの良さというか、趣味の良さに驚きます。多くは杉本博司が蒐集したものというのですから、またすごい。
「十一面観音立像」 平安時代 小田原文化財団蔵
『杉本文楽 曾根崎心中』で観音廻りの場面に登場(初演のみ)した「十一面観音立像」も展示されています。たぶんそうじゃないかなと思って、家に帰ってDVDを見直したら、やはり同じものでした。白洲正子の旧蔵品なんだそうです。
杉本博司 「月下紅白梅図」 2014年 個人蔵
今回観たかった作品のひとつが、尾形光琳の「紅白梅図屏風」をデジタル撮影し、原寸大で再現した「月下紅白梅図」。MOA美術館での公開時に観に行けなったので、ようやくお目にかかることができました。漆黒の闇に輝くプラチナの川面はまるで月夜に照らされたように幻想的で、梅の木の暗い影に反して明るく光る梅の花と相俟って、どこか妖艶な雰囲気さえあります。 屏風の手前には梅の花びらが散らしてあって、一瞬造花かな?と思ったら、須田悦弘の木彫という洒落た演出。その想像力というか創造力というか、数寄者らしいセンスと取り合わせの妙にいちいち感心してしまいます。
会場には「謎の割烹 味占郷」で取り上げられた対談の内容や料理もパネルで紹介されています。こんな割烹があるのなら、大枚はたいてでも一度は行ってみたいものです。
【杉本博司 趣味と芸術-味占郷/今昔三部作】
2015年12月23日(水・祝)まで
千葉市美術館にて
趣味と芸術謎の割烹 味占郷
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