2015/08/17

国宝 曜変天目茶碗と日本の美

サントリー美術館で開催中の『国宝 曜変天目茶碗と日本の美』を観てまいりました。

陶磁器や茶器に疎いわたしでも「曜変天目茶碗」のウワサはいろいろと耳にしていて、一度は観てみたいとずっと思っていました。藤田美術館でも数年に1度しか公開されないそうで、館外へはまず貸し出さないとも聞いていました。それが東京にいて観られるなんて、これはまたとないチャンスです。

大阪の藤田美術館は、関西を代表する明治の実業家・藤田傳三郎と長男の平太郎・次男の徳次郎の2代3人が蒐集した美術品を紹介するために作られた美術館。傳三郎は、廃仏毀釈により廃棄や海外流出の危機にあった仏像や仏画など文化財の保護に尽力したといいます。

その藤田美術館は国内でも有数の東洋・日本美術のコレクションを誇り、2,111件の収蔵品のうち、国宝が9件、重要文化財が52件もあるのだそうです。本展(東京会場)ではその中から、8点の国宝と22点の重文を含む約130点の貴重なコレクションが出品されています。


会場は4つの章で構成されています。
第1章 傳三郎と廃仏毀釈
第2章 国風文化へのまなざし
第3章 傳三郎と数寄文化
第4章 茶道具収集への情熱

快慶 「地蔵菩薩立像」(重要文化財)
鎌倉時代・13世紀 藤田美術館蔵

会場に入るとまず「千体聖観音菩薩立像」がお出迎え。興福寺から売りに出されていたという仏像で、もとは藤原氏が奉納したと伝えられているといいます。小振りの木彫仏ですが、一体々々雰囲気が異なり、表現の豊かさと風雅な佇まいに見とれます。

彩色が美しい「地蔵菩薩立像」は快慶後半期の傑作。穏やかな表情といい、バランスのいいプロポーションといい、美しく整えられた衣文の表現といい、見事な光背といい、何れをとっても非の打ちどころのない素晴らしさ。玉眼は快慶の弟子・行快が担当したと墨書銘に記されているそうです。

それにしても解説などを見てると、どこそこのお寺伝来のものとか、何某家の旧蔵のものとかあって、明治維新の社会の混乱と仏教美術品の悲運はいかばかりのものだったのかと思います。

藤原宗弘 「両部大経感得図」(国宝)
保延2年(1136) 藤田美術館蔵(展示は8/31まで)

仏画では、インドの僧が経典を手に入れる物語を描いたという国宝「両部大経感得図」がいい。一見中国画を思わせますが、右幅には桜や鴛鴦、鵜が、左幅には秋草や紅葉が描かれ、風情を感じます。平安時代の初期やまと絵としても貴重だといいます。「薬師三尊十二神将像」は鎌倉仏画らしい力強い筆致と彩色が印象的。

「深窓秘抄」(国宝)
平安時代・11世紀 藤田美術館蔵

和様の書も充実していて、中でも「後拾遺和歌集」序文から藤原公任が撰んだという和歌集を書写した「深窓秘抄」が白眉。藍や紫の繊維を漉き込んだ飛雲を散らした料紙と、お手本のような流麗な仮名文字が何より美しい。本品は切断されてない完本としても貴重なものだそうです。

元は冊子本の「古今和歌集」を帖仕立てにした「古今和歌集断簡 筋切 通切」の豪華さも目を惹きます。仮名文字の優美さもさることながら、料紙には銀泥の“筋切”といわれる線があり、また青地に金で描かれた絵も美しい。

絵画では、三蔵法師の一生を描いた色鮮やかな「玄奘三蔵絵」、信仰と功徳のことを分かりやすい絵で説く「阿字義」、最も古い歌仙絵の一つという「上畳本三十六歌仙切」が印象的。ほかにも、周文や中国絵画の馬遠、梁楷といった錚々たる絵師の作品や、狩野正信や永徳、円山応挙なども見事。

竹内栖鳳 「大獅子図」
明治35年(1902)頃 藤田美術館蔵(展示は8/31まで)

ひとつ階段を下りた3階では栖鳳の代表作「大獅子図」にまず驚きます。数年前の『竹内栖鳳展』では京都会場にしか貸し出されなかった傑作。東京会場は横向きのライオンでしたが、正面を向いた本作はさすが百獣の王といった威圧感たっぷりの堂々たる顔つきで素晴らしい。

「曜変天目茶碗」(国宝)
中国南宋時代・12~13世紀 藤田美術館蔵

そして「曜変天目茶碗」。現存する曜変天目は世界で3碗(藤田美術館所蔵、静嘉堂文庫美術館所蔵、大徳寺龍光院所蔵)しかなく、その中でも外側まで曜変があるのは本品のみ。薄暗い館内で照明の当て具合も絶妙で、漆黒の碗の中に浮かび上がる瑠璃色の斑紋はまるで小宇宙のよう。いまだ製法が不明で再現できないというだけあり、まさに奇跡の産物です。藤田美術館で観たことのある方も皆さん、藤田美術館で見るより綺麗に見えるとおっしゃってますね。

「砧青磁袴腰香炉香雪」
中国南宋時代・13世紀 藤田美術館蔵

ほかにも、翡翠の青磁と梅花紋の蓋が美しい「砧青磁袴腰香炉 銘 香雪」や、見込みの双魚が風情のある「砧青磁双魚小鉢」、まんまるでかわいい「鴨形香合」と逸品揃い。「交趾大亀香合」は形物香合で最も大きく、幕末の“形物香合相撲”で最上位の東の大関に番付されたもの。死の床に臥していた傳三郎はこの香合の落札に執念を燃やし、当時としては破格の9万円(現在の9億円)で手に入れたといいます。亀の甲羅の三彩の配色がまたいいですね。

「交趾大亀香合」
中国・明~清時代・17世紀 藤田美術館蔵

藤田傳三郎のように私財を投じて美術品の保護と蒐集に努めた人がいなかったら、もしかしたら海外に散逸したり、廃棄や所在不明の憂き目にあっていたかもしれないわけで、こうして今も観られることはとても有難いことです。藤田美術館のお宝お目白押しで、誠に眼福でした。


【国宝 曜変天目茶碗と日本の美 -藤田美術館の至宝】
2015年9月27日(日)まで
サントリー美術館にて


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