ブリヂストン美術館で開催中の「青木繁展 - よみがえる神話と芸術」に行ってきました。
青木繁といえば、明治の浪漫主義を色濃く反映した傑作を数多く残しながらも、後年は病と貧しさと闘い、わずか28歳で亡くなった早世の画家。生前は高い評価は得ていなかったものの、没後その評価はだんだんと高まり、現在では「海の幸」と「わだつみのいろこの宮」が重要文化財に指定されるなど、日本を代表する洋画家の一人です。
本展は、没後100年を記念しているということで、油彩画約70点、水彩・素描画約170点、さらに手紙などの資料約60点と、かなりまとまった回顧展となっています。
「大穴牟知命」(1905年)
会場は、年代を追って紹介されていて、
第1章 画壇への登場─丹青によって男子たらん 1903年まで
第2章 豊饒の海─《海の幸》を中心に 1904年
第3章 描かれた神話─《わだつみのいろこの宮》まで 1904-07年
第4章 九州放浪、そして死 1907-11年
第5章 没後、伝説の形成から今日まで
の5部構成になっています。
若くして亡くなったため、作品数が決して多くないからなのか、デッサンとまでいえないようなメモ書き程度のラフな素描などもいくつか展示されていました。
「海の幸」(1904年) 重要文化財
第2章の部屋の一番奥には、青木繁の最高傑作「海の幸」が展示されていました。これまで知らなかったのですが、意外なことに「海の幸」は未完成の作品なのだそうで、確かによく観ると、下書きの線や書きなおされた跡、よく描きこまれたところもあれば荒いところもありました。それでも、この荒々しくも漲る生命力はなんなのでしょうか。この作品が未完成であるのに、傑作と呼ばれる理由が分るような気がしました。
「わだつみのいろこの宮」(1907年) 重要文化財
古事記を題材にした「わだつみのいろこの宮」はイギリスのヴィクトリア朝の画家エドワード・バーン=ジョーンズの影響を受けた作品として有名ですが、そのためか、古事記という日本的な物語なのにどこかヨーロッパの古代神話を思わせる不思議な絵です。青木繁の作品には、日本やヨーロッパの神話を題材にした作品が多くありますが、和洋折衷のような独特の世界からは急激な西洋化の流れを受けた明治のロマンティシズムの香りが漂ってくるようです。
「朝日(絶筆)」(1910年)
青木繁はたびたび房総に写生旅行に出かけており、海の絵が大変多くあります。その多くは岩場にぶつかり砕ける波の荒々しさが描写されていましたが、絶筆となる「朝日」の海は打って変わって穏やかな表情を見せています。まるで自分の死期を悟り、これまでの短い人生を振り返りながら見つめているかのような平穏な海。28歳の生涯を駆け抜けた彼の勢いとは裏腹の静かで美しい海の情景に言葉を失いました。
【没後100年 青木繁展 - よみがえる神話と芸術】
ブリヂストン美術館にて
2011年9月4日まで(日)
青木繁 (新潮日本美術文庫)
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