2018/10/05

横山華山展

東京ステーションギャラリーで開催中の『横山華山展』を観てきました。

江戸時代後期に活躍した絵師でありながら、なかなか作品を観る機会の少ない横山華山の初の本格的な回顧展です。

横山華山を紹介するのに「知られざる絵師」とするのは少々疑問があって、東博や千葉市美術館、國學院大学博物館でも立派な屏風を観たことがありますし、府中市美術館の毎年恒例の江戸絵画展でも何度か目にしてますし、江戸絵画をよく観る人なら、横山華山の名前ぐらいは聞いたことはあるのではないでしょうか。

ただ、どのような作品を描いているのかとなると、そのイメージがなかなか浮かばないのも事実。知名度の低さと作品を観る機会の少なさもあって、名前は聞いたことはあるけど、どういう絵師なのかがよく分からないというのが実際のところではないでしょうか。そういう意味で、本展は華山の実像を明らかにする大変有意義な展覧会だと思います。


会場の構成は以下のとおりです:
蕭白を学ぶ-華山の出発点
人物-ユーモラスな表現
花鳥-多彩なアニマルランド
山水-華山と旅する名所
風俗-人々の共感
描かれた祇園祭-

会場の一番最初に展示されていた「牛若弁慶図」は僅か9歳のときの作品。華山の早熟さにまず驚きます。華山は福井の生まれとされますが、養子に入った京都の家は江戸時代中期に活躍したの奇想の絵師・曾我蕭白のパトロンだったようで、華山は幼い頃から蕭白の画に親しんでいたといいます。蕭白が亡くなった年に華山が生まれた(異説あり)というのも何か因果めいたものを感じます。

横山華山 「四季山水図」
個人蔵 (展示は10/14まで)

蕭白作品に倣った複数の「四季山水図」や「蝦蟇仙人図」、「寒山拾得図」が展示されているのですが、蕭白ばりの濃厚かつ緻密な表現を再現しつつ、蕭白とはまた違う味わいがあるのが面白いところ。蕭白ほど狂気じみてないというか、ギチギチしてないといか、観てて疲れないのがいいですね(笑)。“毒気のない蕭白”と表現された方がいましたが、まさにそのとおりだと思います。

蕭白の「蝦蟇仙人図」と華山が模写した「蝦蟇仙人図」が並べて展示されていて、仙人の不自然な姿態を修正したり、蝦蟇に動きを与えたり、華山なりのアレンジが施されていて、2人の違いが分かって興味深かったです。

[写真右] 曽我蕭白 「蝦蟇仙人図」 ボストン美術館蔵
[写真左] 横山華山 「蝦蟇仙人図」 個人蔵

蕭白自体が独自の特異な画風ですが、華山もどの流派にも属さない自由さが光ります。華山は円山四条派の呉春にも影響を受けているそうで、人物表現、特に唐子や唐美人は円山派の流れを強く感じます。

「唐子図屏風」は華山青年期の代表作。金地に木や岩を墨で描き、さまざまに遊ぶ子どもたちは鮮やかに彩色し、顔には西洋風の陰影表現が見られます。唐子は応挙風なのに犬が応挙のモフモフした犬と全然違うのも面白いし、鶏はどこか若冲風。並んで展示されていた「唐子遊戯図屏風」は肥痩のある衣文線とのびやかな筆致が印象的です。

横山華山 「唐子図屏風」
個人蔵

今回こうして華山をまとめて観てみて、人物画や風俗画、花鳥画などとても多彩で、また何を描かせても巧いとういか、手慣れているというか、想像以上に高い技量を持っていることに驚きました。とりわけ軽妙洒脱な風俗描写、豊かな人物表現は特筆すべきものがあります。

横山華山 「夕顔棚納涼図」
大英博物館蔵

「夕顔棚納涼図」は久隅守景の「夕顔棚納涼図屏風」に似て夕顔棚を見ながら夫婦2人が涼む図で、月も描かれず子どももいず、褌・腰巻き姿の夫婦ののんびりした光景にほっこりします。

「紅花屏風」がまた素晴らしい。祇園祭の屏風祭のため京都の紅花問屋が制作を依頼したという作品で、華山は6年の歳月をかけたという力作。紅花の種まきから収穫、紅餅作り、荷造りや出荷までが描れていて、紅花の紅色が映えて綺麗なのもさることながら、総勢200人という人々の表情や動き、村の様子がとても楽しくて、賑やかな話し声まで聞こえてきそう。いつまでも観ていられる感じがします。

横山華山 「紅花屏風」
山形美術館・長谷川コレクション蔵 (展示は10/14まで)

そして「祇園祭礼図巻」が実に良い。割とぎっしり作品が展示されていた上の階に対し、下の階はスペースを広く取っていて、そこに30mにもおよぶ長大な「祇園祭礼図巻」が上下巻全て展示されています。祇園祭の前祭や後祭の山鉾、稚児社参、八坂神社の還幸祭など祇園祭の全貌が事細かに描かれているのですが、そこに描かれる一人一人の表情の豊かさ、躍動感が素晴らしく、今にも動き出しそうなぐらい生き生きとしています。もう見事としか言い様がありません。特に四条河原の納涼の賑わいは岩佐又兵衛の「洛中洛外図屏風」に匹敵する面白さ。夜の場面だけモノクロームの世界になっているのもユニークですね(四条河原の納涼の場面は若干の彩色あり)。絵巻には現在は行われていない行事や200年近く休み山になっている山鉾なども描かれており、また綿密な取材に基づく下絵の展示もあって、資料性も高いと思います。

横山華山 「祇園祭礼図巻」
個人蔵

展示品にはボストン美術館や大英博物館など海外の美術館所蔵の作品も多く、明治・大正期に海外に作品が多く流出したことが分かります。ビグローやフェノロサが収集した作品というのもあり、明治時代にはそれなりに評価されていたことも伺えます。江戸後期の江戸絵画の中でも近代性という点で興味深いものがありました。

ここ数年、東京ステーションギャラリーの展覧会によって発掘・評価されたという画家が続けて出ています、本展を契機に横山華山の再評価が進むことは必至でしょう。期待以上に面白い展覧会でした。


【横山華山】
2018年11月11日
東京ステーションギャラリーにて


もっと知りたい曾我蕭白―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)もっと知りたい曾我蕭白―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)

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