室町時代から江戸時代にかけての日本美術、とりわけ水墨画や花鳥画、さらには狩野派や南蘋派、南画といった作品を知るには避けては通れない中国絵画。日本美術を観れば観るほど、中国絵画を知らずして日本美術は語れないと思うようになり、ここ数年機会があれば積極的に観るようにしているのですが、ちょうど静嘉堂文庫美術館と泉屋博古館・分館で明清絵画にスポットをあてた展覧会がありましたので行ってきました。
まずは静嘉堂文庫美術館から。
こちらは静嘉堂文庫の明清絵画コレクション約70点で構成。明・清代の絵画をただ紹介するだけでなく、サブタイトルにあるように江戸絵画の絵師たちがいかに憧れ、受容していったか、明清絵画が日本美術に与えた影響を交え、丁寧に紹介しています。それにしても自館の所蔵作品でこれだけレベルの高い作品が揃うのですから。恐ろしい美術館です。
会場の構成は以下のとおりです:
はじめに~静嘉堂の明清絵画コレクション
明清の花鳥画
明清の道釈人物・山水画
文人の楽しみと明清の書跡
沈南蘋 「老圃秋容図」
中国 清・雍正9年(1731) 静嘉堂文庫美術館蔵
中国 清・雍正9年(1731) 静嘉堂文庫美術館蔵
明清絵画と聞いて、やはり最初に浮かぶのは花鳥画で、本展にも色彩鮮やかで華麗な花鳥画がいくつも並びます。明清の花鳥画をみんな一緒くたにしてしまいがちですが、大きな流れとして、呉派文人画による水墨花卉図の系譜と宮廷画院を中心にした浙派による着色花鳥画の系譜があるといいます。ちなみに浙派は杭州を、呉派は蘇州を拠点にした画派ですね。
会場入ってすぐのところに展示されていた呉派の李日華(りじっか)の「牡丹図巻」は墨の濃淡だけで描かれた牡丹が秀逸。陸治(りくち)の「荷花図」は紅白の蓮の花が主題なのでしょうが、水墨というよりまるで鉛筆画のように繊細なタッチの太胡石に目が行ってしまいます。
余崧 「百花図巻」
中国 清・乾隆60年(1795) 静嘉堂文庫美術館蔵
宮廷画院系では筆者不明の「花鳥図」が印象的。白梅や緋色の椿、つがいの雉やシロガシラなど華麗な花鳥画で、呂紀を彷彿とさせます。余崧(よすう)の「百花図巻」は写実的な折枝画で、色とりどり鮮やかな花がさまざまに咲き誇る様が見事。山種美術館で観た田能村直入の「百花」を思い起こさせます。田能村直入もこうした花卉図巻を手本としたのでしょう。
清代では日本の画家に大きな影響を与えた沈南蘋(しんなんぴん)。展覧会のポスターにも使われている「老圃秋容図」の猫は墨と胡粉で丁寧に毛描きされていて、猫の視線の先にはカミキリ虫がいます。よく見る沈南蘋の作品に比べると、全体的にちょっとあっさりした感じがします。そばには、谷文晁派による模本も展示されていて、文晁周辺でも沈南蘋を学んでいたことが分かります。
李士達 「秋景山水図」(重要文化財)
中国 明・万暦46年(1618) 静嘉堂文庫美術館蔵
中国 明・万暦46年(1618) 静嘉堂文庫美術館蔵
山水がまた凄くて、ほとんどが重要文化財。李士達(りしたつ)や張瑞図(ちょうずいと)、趙左(ちょうさ)などの由緒正しい作品が並びます。李士達の「秋景山水図」はこれでもか!というぐらいの屹立した重厚な岩山と山間を漂う柔らかなタッチの雲霧が印象的。よく見ると四阿で語らう2人の人物がいて、そうした人が描かれているといないとではずいぶん印象も違って見える気がします。
谷文晁 「藍瑛筆 秋景山水図模本」(重要文化財)
江戸時代・18~19世紀 静嘉堂文庫美術館蔵
江戸時代・18~19世紀 静嘉堂文庫美術館蔵
印象的だったのは藍瑛(らんえい)の「秋景山水図」と、並んで展示されていた谷文晁が模写した「藍瑛筆 秋景山水図模本」。藍瑛は昨年トーハクの東洋館でも特集展示されていましたが、江戸の文人画家に人気があった明代後期を代表する画家。藍瑛の作品に比べて文晁は構図を少しトリミングしたり、色のコントラストや奥行きを工夫したりして、作品としてより完成された感じがあります。
張瑞図は明末の奇想派を代表する画家。書家としても有名で、張瑞図の書跡も展示されていました。「松山図」は近景・中景・遠景という山水図の典型的な描き方ではなく、縦に山を積み重ねた感じが不思議な印象を与えます。張瑞図はこの後に観に行った『典雅と奇想』にも複数の作品が展示されていました。
張瑞図 「松山図」(重要文化財)
中国 明・崇禎4年(1631) 静嘉堂文庫美術館蔵
中国 明・崇禎4年(1631) 静嘉堂文庫美術館蔵
会場の入口には狩野探幽が模写した山水図と中国画の原本の展示や、パネルでの紹介でしたが、伊藤若冲の「釈迦三尊像」と若冲が原本とした張思恭(ちょうしきょう)の「釈迦文殊普賢像」の関係などが解説されています。
展覧会を通じて、谷文晁や池大雅、浦上春琴ら主に南画の画家たちへの影響がよく分かり、江戸時代の花鳥画や南画のソースとして、とても興味深く感じられました。
【あこがれの明清絵画 ~日本が愛した中国絵画の名品たち~】
2017年12月17日(日)まで
静嘉堂文庫美術館蔵
中国絵画入門 (岩波新書)
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