去年の11月から始まっていて、Twitterなどを見てると結構評判が良くてずっと気になっていたのですが、年末は時間が取れず結局行けずじまい。年明け初日の1/4に早速伺ってきました。一部で展示替えがあり、後期展示が始まっています。
本展は日本のキュビズムの流行と受容を捉えた展覧会で、会場は1910年代~1920年代を中心に戦前の日本のキュビズの動向を展観する第1部と、戦後から1960年代までにスポットを当てた第2部という2部構成になっています。サブタイトルにも名前のあるピカソをはじめ、キュビスムに影響を受けた日本人画家や彫刻家約90人の作品約160点が展示されています。
第1部 日本におけるキュビズム
日本のキュビズムの先駆的な画家といえば、萬鉄五郎と東郷青児。“我が国最初のキュビズム”と取り上げられたという東郷青児の「コントラバスを弾く」は線の組み合わせが面白いものの、ちょっとステンドガラスぽくて、まだ分析解体された感じを受けませんが、数年後の「帽子をかむった男」や萬鉄五郎の「もたれて立つ人」はその点よく研究されています。
同じ時代では色面だけで構成された田中保の「キュビスト」やちょっとセザンヌを思わせる森田恒友の「城址」が印象的。 カマキンの『鎌倉からはじまった。』でも拝見した久米民十郎の「Off England」にも再会。一見するとキュビズムとも違う気もするのですが、ヴォーティシズム(渦巻派)自体がキュビズムの影響の下で興ったものなのだそうです。
萬鉄五郎 「もたれて立つ人」
大正6年(1917) 東京国立近代美術館蔵
大正6年(1917) 東京国立近代美術館蔵
東郷青児 「帽子をかむった男(歩く女)」
大正11年(1922) 名古屋市美術館蔵
大正11年(1922) 名古屋市美術館蔵
黒田重太郎の「一修道僧の像」は都美の『伝説の洋画家たち 二科100年展』で強く印象に残った作品。古典主義的キュビズムと解説されていましたが、ごりごりのキュビズムとは違う、抑えたトーンと独特の造形が厳かでドラマティックな雰囲気を創り上げています。
今回は他の黒田の作品も観ることができ、また同じアンドレ・ロートに師事した矢部友衛や川口軌外といった画家たちの作品も観られ、個人的にとても興味を惹きました。中でも川口軌外の「裸婦群像」はロートらしさを強く感じます。アンドレ・ロートというと今では決して有名ではありませんが、当時の日本人画家にはかなり親近感を持って見られていたんでしょうね。いわゆる厳格なキュビズムほどハードルが高くなかったのか、日本人の感性に合っていたのでしょう。
黒田重太郎 「一修道僧の像」
大正11年(1922) 個人蔵
大正11年(1922) 個人蔵
川口軌外 「裸婦群像」
大正14年(1925)頃 和歌山県立近代美術館蔵
大正14年(1925)頃 和歌山県立近代美術館蔵
古賀春江もロートから影響を受けた一人だったのですね。実際には1924~25年あたりの作品にその傾向が見られるようですが、展示されていた作品は1921年制作なのでキュビズムに影響される少し前の様子。それでも古賀春江の初期の作品としてとても興味をそそりました。
古賀春江 「観音」
大正10年(1921) 東京国立近代美術館蔵
大正10年(1921) 東京国立近代美術館蔵
古賀春江もそうですが、三岸好太郎や前田寛治といったあまりキュビズムというイメージがない画家のキュビズム的な作品もあって、多くの画家に一時的とはいえキュビズムは魅力的に映り、また通過点だったことが分かります。村山知義やその周辺の画家の作品を観ていると、キュビズムに限らず、ドイツの表現主義やロシアの未来派などヨーロッパの芸術運動を貪欲に吸収していることも強く感じます。
坂田一男 「浴室の二人の女」
昭和3年(1928) 目黒区美術館蔵
昭和3年(1928) 目黒区美術館蔵
ここではほかに、終生キュビズムを追求したという坂田一男や、中間色を多用し、リズミカルな線が楽しい尾形亀之助の「化粧」が印象に残りました。着物の半襟や帯、浴衣や小物の柄などにキュビズムのパターンを応用した図柄帖も面白かったです。
尾形亀之助 「化粧」
大正11年(1922) 個人蔵
大正11年(1922) 個人蔵
第2部 ピカソ・インパクト
同じ日本におけるキュビズムといっても、戦前と戦後ではその様相は異なります。戦前は、たとえば印象派やアカデミズム絵画といった洋画の流れの反動として、キュビズムが極めて先進的な芸術運動として捉えられ、新しい芸術を模索する画家たちの刺激となったように思います。影響を与えた画家もピカソに限らず、ブラックやロート、またセザンヌやカンディンスキーから表現主義や未来派に至るまで、さまざまな要素を取り込んでいるのも分かります。
一方戦後は、ピカソの「ゲルニカ」 が与えた衝撃、そして1951年に国内4ヶ所を巡回したピカソ展の反響に因るところが大きく、まさしく“ピカソ・インパクト”一色。
鶴岡政男 「夜の群像」
昭和24年(1949) 群馬県立近代美術館蔵
昭和24年(1949) 群馬県立近代美術館蔵
山本敬輔 「ヒロシマ」
昭和23年(1948) 兵庫県立美術館蔵
昭和23年(1948) 兵庫県立美術館蔵
「ゲルニカ」風キュビズムというのはとても多く、戦前にも佐藤敬の「水災に就いて」のように「ゲルニカ」に触発されたような作品もあったのですが、あれもこれも「ゲルニカ」となるのは戦後になってからで、そこには戦前から続く研究対象としてのキュビズムだけでなく、戦後の反戦運動の流れが大きく関係しているようです。鶴岡政男の「夜の群像」のように「ゲルニカ」を意識した作品もあれば、山本敬輔の「ヒロシマ」のように「ゲルニカ」そのものという作品もあったりします。
岡本太郎 「まひるの顔」
昭和23年(1948) 川崎市岡本太郎記念美術館蔵
昭和23年(1948) 川崎市岡本太郎記念美術館蔵
戦後にも、この人もキュビズム的な作品を残していたんだという発見がいろいろあります。もちろん多くの画家にとってそれは一時的な流行で、ピカソに触発された意欲的な作品を残していても、そこから独自の表現方法を獲得していくわけです。後年抽象画に発展していく堂本尚郎や難波田龍起などの初期の作品からもそうした展開の過程が見え、いろいろと興味深いものがありました。難波田龍起の「湖」はキュビズムというよりパウル・クレー的な感じを受けますが、写実的な描写から徐々に抽象化させていくスケッチも一緒に数点あって、制作過程を知る上でとても面白いです。
堂本尚郎 「魚の店」
昭和29年(1954) 京都国立近代美術館蔵
昭和29年(1954) 京都国立近代美術館蔵
戦後では、ピカソのオマージュ的な今井俊満の「女と牛」、米軍基地の反対闘争を描いたという村上善男の「区分(内灘にて)」、デ・クーニングのような吉原治良の「暗い日曜日」あたりが特に印象に残りました。山田正亮の「Still Life no.62」も具象から抽象へと移る過程の作品として興味深いものがあります。戦後の日本画の革新としてキュビズムを取り入れた例として、下村良之助や佐藤多持の作品も良かった。
難波田龍起 「湖」
昭和29年(1954) 北海道立近代美術館蔵
昭和29年(1954) 北海道立近代美術館蔵
萬鐵五郎や大正新興美術運動としてのキュビズムは少し見ていたつもりですが、ここまで徹底してると、これまで表面的にしか見ていなかったことに気づきます。戦前と戦後ではその潮流は違うとはいえ、キュビズムが与えた影響を多様な作品を通して実感できます。質量ともに素晴らしく見応えのある展覧会でした。
【日本におけるキュビスム - ピカソ・インパクト】
2017年1月29日(日)まで
埼玉県立近代美術館にて
青春ピカソ (新潮文庫)












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