本展は高島屋史料館のコレクション展なのですが、高島屋と近代日本画が共に歩んだ歴史が見えて大変素晴らしい内容でした。
京都で創業した高島屋はもともとは呉服屋ですが、明治になると貿易業にも手を染め、海外向けの商品開発にも力を入れたといいます。輸出用に制作された美術染織は、現物は売られてしまってるので、残念ながら多くの作品が原画しか残っていないのですが、京都画壇を中心とした錚々たる画家が腕を奮っていたことに驚きます。
当時の高島屋には画工室というのがあり、職人や画家たちが美術工芸品の製作に腕を振るっていたそうなのですが、中には若き日の竹内栖鳳もいて、会場にはその出勤簿なども展示されていました。
明治の美術工芸品の技術レベルの高さはこれまでもいろんな展覧会で目の当たりにしてきましたが、美術染織においても、たとえば今尾景年が下絵を手掛けた唐織物「秋草に鶉」の精緻な表現は現在では再現不可能だといいます。幸野楳嶺が下絵の「厳島紅葉渓図」なんて、下絵と完成品の友禅が並んで展示されていましたが、単眼鏡で覗いても染織と分からないぐらい忠実に再現されていてビックリします。
大正期の琳派画家として知られる神坂雪佳の「光琳風草花」は下絵とはいえ完成度は高く、実物の写真も展示されていましたが、かなりの傑作と感じました。川端龍子の4曲1隻の大きな屏風「潮騒」があって、これがまた見事。この原画をもとに綴織が制作されたものの、戦争の影響で発表する機会を逸し、最終的には壁掛けに仕立てられ、ヒトラーのもとに渡ったのだそうです。
竹内栖鳳 「ベニスの月(原画)」
明治37年(1904) 高島屋史料館蔵
明治37年(1904) 高島屋史料館蔵
都路華香 「吉野の桜(原画)」
明治36年(1903) 高島屋史料館蔵
明治36年(1903) 高島屋史料館蔵
ほかにビロード友禅もあり、『竹内栖鳳展』にも出品されていたビロード友禅の「ベニスの月」の原画をはじめ、山元春挙や都路華香による原画も展示されていました。フランスの大女優サラ・ベルナールが竹内栖鳳原画のビロード友禅を購入したというエピソードが紹介されていましたが、時のジャポニズムもあって日本的情緒を感じさせる作品は人気が高かったのでしょうね。
冨田渓仙 「風神雷神」
大正6年(1917) 高島屋史料館蔵
大正6年(1917) 高島屋史料館蔵
西の栖鳳があれば東の大観もあり。高島屋は日本美術院再興にも協力的で、大観が高島屋の別荘に滞在し作品制作を行ったり、院展の関西展が高島屋で行われるなど、その関係は深かったようです。大観のほかにも、下村観山や奥村土牛、小倉遊亀、小杉放庵、冨田渓仙など、日本美術院の面々の優品が並びます。
富岡鉄斎 「碧桃寿鳥図」
大正5年(1916) 高島屋史料館蔵
大正5年(1916) 高島屋史料館蔵
最後の一角には、高島屋創業家の飯田家と飯田家と姻戚関係にあるトヨタ自動車創業家の豊田家から髙島屋史料館に寄贈された作品が特別展示されています。ここがまた富岡鉄斎や川合玉堂、西村五雲、木島桜谷、野口小蘋、都路華香など、なかなかの趣味の良さ。絵画以外にも、当時の婚礼衣装などもあったり、雛人形(なんと平櫛田中!)があったり、さすがの品々です。
原画・北野恒富 「キモノ大阪春季大展覧会」
昭和4年(1929) 高島屋史料館蔵
昭和4年(1929) 高島屋史料館蔵
日曜日の午後ともなれば、デパートの美術館はさぞや混んでるだろうなと思ったら、とても空いていてあっけにとられました。これだけ観られて入場無料というのがすごいですね。
【日本美術と髙島屋】
2016年10月24日(月)まで
日本橋高島屋にて
竹内栖鳳: 京都画壇の大家 (別冊太陽 日本のこころ 211)
0 件のコメント:
コメントを投稿