2014/02/02

人間国宝展

『クリーブランド美術館展』につづき、おなじ東京国立博物館・平成館で開催中の『人間国宝展 生み出された美、伝えゆくわざ』を観てきました。

トーハクの平成館で開催される特別展は、平成館2階が会場になりますが、今回の展覧会は2階の会場を半分に分け、階段を上がって左手の第1・2室で『クリーブランド美術館展』、右手の第3・4室で『人間国宝展』が開かれています。

本展は、陶芸、染織、漆芸、金工、木竹工、人形などの重要無形文化財保持者(人間国宝)の内、物故者104名の工芸作品に加え、いにしえの時代から連綿と伝えられてきた国宝や重要文化財を含む約40点の古典的名品を併せて展示。一階で同時開催されている『人間国宝の現在(いま)』と合わせると、人間国宝に認定されている全ての方(刀剣研磨、手漉和紙を除く)の作品が観られるというからスゴイ。

訪れた日は平日だったのですが、『クリーブランド美術館展』は比較的空いていて、ゆとりで観ることができたのに対し、こちらの『人間国宝展』はとても賑わっていて、関心の高さがうかがえました。


第一章 古典への畏敬と挑戦

まずは国宝や重要文化財などの日本工芸史に残る傑作と、そうした伝統技術の継承と伝統の創出に挑む現代の工芸作家の作品を、<古に想う> <桃山の茶の湯> <江戸工芸の豊饒> <民芸から学ぶ> <中国陶磁への憧れ> <古典の名品> にパートを分けて展示。この章だけで出品作品の約半分強が紹介されています。

「志野茶碗 銘 広沢」 (重要文化財)
安土桃山~江戸時代・16~17世紀 大阪・湯木美術館蔵

ここでは、たとえば志野茶碗なら志野茶碗、備前なら備前で、過去の名工による古典的名品と人間国宝による現代の名品を並べて展示するという構成になっています。古典的名品は美術品としての美しさ、文化財としての貴重さはもちろん、完成された素晴らしさがあるのですが、現代の名工による作品がどれも何百年、何千年も前の作品と何一つ変わらず劣らず、伝統を確かに継承し、時に復活させ、創造していることに驚きました。

「片輪車蒔絵螺鈿手箱」 (国宝)
平安時代・12世紀 東京国立博物館蔵

それにしても古(いにしえ)の工芸品のレベルの高さ。正倉院御物や奈良時代に途絶え幻になった織物などがありましたが、現代の技術をもってしても復活させることが困難だったり、やっとのことで創り出せたものが千年以上も昔に現実に存在していたわけで、それを考えるとやはり日本は古代から“ものづくり”の国なのだなと思います。一方で、復活できない技術、失われた技術もあるはずで、そうした伝統が途絶えていくことの悲しさもあらためて痛感しました。


第二章 現代を生きる工芸を目指して

備前焼や有田焼、青磁、友禅、蒔絵、彫金、木工芸、桐塑人形など日本の伝統工芸を、ただ伝統の引き継ぐだけでなく、そこに時代の表現を取り入れた作品を紹介しています。

高橋敬典 「八方面取姥口釜」
昭和61年(1986) 東京国立博物館蔵

新奇な物とか、奇を衒った物とかではなく、あくまでも伝統的な工芸品の枠から外れることなく、デザインや表現、素材といったところで現代性を出そうという現代の職人たちの努力とセンスが光ります。

平田郷陽 「抱擁」
昭和41年(1966) 個人蔵

個人的に面白いなと感じたのが高橋敬典の「八方面取姥口釜」で、なんとも形容しがたい形状の釜ですが、色合いや風合いといい、姿といい、とても日本的で、古くて新しい感じがします。平田郷陽も実家に写真集があったのでよく知ってはいましたが、こうして実物を観ると、その質感、丁寧な表現力に感心しきりです。ほかに、市橋とし子の桐塑人形や山田貢の友禅、宗廣力三の絣着物なども強く印象に残りました。


第三章 広がる伝統の可能性

ここではさらに個性や創作性など、伝統の概念を覆す造形的な作品を紹介。伝統工芸は何も古い伝統や型に縛られた物ばかりではないのです。

佐々木象堂 「三禽」
昭和35年(1960) 東京国立近代美術館

生野祥雲齋のダイナミックな竹華器、徳田八十吉の久谷の耀彩壺、佐々木象堂のプリミティブな青銅の置物など、ユニークな作品が並びます。

人間国宝たちの作品を観ていて、中村勘三郎の「型があるから“型破り”、型がないのは“カタナシ”」という言葉を思い浮かべました。伝統をしっかり受け継ぎ、基礎があり、その精神を大切にしているからこその新たな表現なのだと作品を観ていてつくづく感じます。

生野祥雲齋 「怒濤」
昭和31年(1956) 東京国立近代美術館蔵

人間国宝による伝統工芸品というと、古くさい、退屈な、というイメージがあったのですが、そうした固定観念がガラリと覆される非常に勉強になる展覧会でした。多くの作品が国立博物館などの所蔵品になっていて、将来その技術や美しさがさらに評価され、こうした作品の中から新たな国宝や重要文化財も生まれるのでしょう。

同じ平成館一階の企画展示室では『人間国宝の現在(いま)』と題した特集陳列が同時公開されています。『人間国宝展』は物故者が中心なのに対し、こちらでは現在も活躍する重要無形文化財保持者53人の作品を展示しています。

桂盛仁 「森閑」
平成10年(1998) 文化庁蔵

『人間国宝展』は伝統技術の頂点、技巧の極みの見本市といった感じで、どの作品一つとっても非の打ちどころがなく、観ていてお腹いっぱいになります。しかも、二階半分ってこんなに広かったっけ?と思うくらいの物量です。一階の現役人間国宝の企画展示と合わせ、いっそのこと二階のフロアー全てを使って開催してくれてもよかったのではないかとも思いました。写真で観るのと実物を観るのは大違い。行かなきゃ損するレベルのオススメの展覧会です。


【日本伝統工芸展60回記念 人間国宝展―生み出された美、伝えゆくわざ― 】
2014年2月23日(日)まで
東京国立博物館にて


季刊炎芸術 117号季刊炎芸術 117号


人間国宝事典 工芸技術編人間国宝事典 工芸技術編

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