NODA・MAPの最新作『MIWA』を観てきました。
美輪明宏の半生を野田秀樹が劇化し、宮沢りえがそれを演じるという話題の舞台。昨年の紅白歌合戦を挙げるまでもなく、いまだ圧倒的なパワーと影響力を持つ美輪明宏をどう調理するのか、観る前からこれほど楽しみだった舞台も久しぶりです。
気になっていたのは、美少年としての丸山明宏か、怪物としての美輪明宏か、はたまた新たな創造物か、宮沢りえが主演なのだから恐らくは美少年・丸山明宏がキーになるのか、などといろいろ想像しながら、劇場に向かいました。
ネタバレになってしまいますが、丸山臣吾(美輪明宏(丸山明宏)の改名前の本名)がこの世に生まれいずるところから舞台は始まります。彼が男性なのか、女性なのか、それとも両性を併せ持った存在なのか。プロローグでは彼のアイデンティティをめぐる問答が繰り広げられます。このときに彼のもう一つの“声”として登場するのが両性具有の安藤牛乳ことアンドロギュヌス(古田新太)。アンドロギュヌスは臣悟の声として、分身として、守り神として、付きつ離れつ彼を導きます。
ストーリーはもちろんフィクションの形を取っていますが、基本的に美輪明宏の複雑な家庭環境や幾つもの出会いと別れ、戦争(原爆)など、実際のエピソードを取り入れて展開していきます。
臣吾を生んですぐ亡くなる実母や育ての母を井上真央が、初恋の相手や恋人・赤紘繋一郎を瑛太が、臣吾を見守る丸山家のお手伝いさんや銀巴里での仲間を浦井健治と青木さやかが、臣吾の父やゲイバー、銀巴里の支配人を池田成志が、といったように役者はそれぞれ役目を担わされ、まるで輪廻転生のように彼の前に現れては消えていきます。
もちろん野田秀樹の芝居らしくスピード感と笑いと言葉遊びに溢れています。美輪明宏の前世・天草四郎をスライドさせるところなど上手いなと思います。ただ、やはり今も生きる有名人の、そして本人公認(?)の芝居ですから、批判的なところ、否定的なところはなく、美輪明宏の波瀾万丈の人生と歌と美貌をなぞりつつ、美輪明宏を賛美して終わります。思い切った冒険があるわけでもなく、美輪明宏を題材にした芝居の想定の範囲内という印象でした。
ここ最近の野田秀樹の、現代社会に潜む歪みや問題を投げかけるといったこともありません。強いていえば、美輪明宏や同性愛者たちが受けた侮蔑的な差別や偏見、容赦ない人格否定といったホモフォビアが取り上げられてはいますが、テーマはあくまでも美輪明宏の人生であり、ホモフォビアはテーマとして提起されるほどのものではなかったように思います。
芝居は期待を裏切らない面白さがあり、野田ファン、美輪明宏ファンにも十分受け入れられる内容だと思います。ただ、物足らなさがあるとすれば、毒気のない優等生的な芝居、そういったところにあるような気もします。ひたすら美輪明宏を美化する内容に気持ち悪さを感じる向きもあるかもしれません。
最近の野田秀樹の舞台はあまり観てませんので、たいしたことは言えませんが、化け物や両性具有、また「もうそうするしかない=妄想するしかない」といった言葉遊びなどは昔の、たとえば『小指の思い出』や『半身』あたりを思い起こさせます。そういった意味では夢の遊眠社時代の作品に近いような感じも受けました。
最後に、やはり特筆すべきは宮沢りえの驚異的なパワーと存在感、そして古田新太や井上真央、瑛太、浦井健治、池田成志らの的確な演技とチームワークで、こうした役者の才能の引き出し方の抜群の上手さは野田秀樹の芝居の面白さだなと感じます。
野田秀樹 (文藝別冊/KAWADE夢ムック)
20世紀最後の戯曲集
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