2013/02/17

歌舞伎 -江戸の芝居小屋-

サントリー美術館で開催中の 『歌舞伎 -江戸の芝居小屋-』に行ってきました。3年の立て直し工事を終え、ようやく“新”歌舞伎座が開場するのを記念しての展覧会です。

しかし、この3年の間には、とてもとても悲しいことがありました。「歌舞伎座さよなら公演」のとき、新しい歌舞伎座がこのような試練を前にしているとは誰が想像したでしょうか。

中村富十郎、中村芝翫、中村雀右衛門という人間国宝で歌舞伎界の重鎮の三人の相次ぐ死。そして中村勘三郎、市川團十郎という歌舞伎の将来を担う二大看板の突然の訃報。これからの歌舞伎のことを考えると、暗澹たる気持ちになります。

しかし、歌舞伎400年の歴史の中では、こうした看板役者の死が人々を落胆させても、新しい役者が生まれ、新しい芝居が生まれ、歌舞伎が脈々と受け継がれてきたわけです。江戸時代には歌舞伎は幾度となく取締りの対象となり、それでも勢いが衰えるどころか、ますます隆盛を極めたのです。今回の展覧会は、新しく始まる歌舞伎に立ち会うにあたり、歌舞伎の歴史を振り返り、歌舞伎がその時代時代に密接に関わってきた文化や精神、空気を知るという意味で、格好の展覧会なのかもしれません。

「阿国歌舞伎図屏風」 (重要文化財)
桃山時代・17世紀 京都国立博物館蔵 (展示は2/27~3/11)

会場は、
第1章 劇場空間の成立
第2章 歌舞伎の名優たち
第3章 芝居を支える人々
で構成されています。

入口を入ると、“出雲の阿国”を描いた草紙や屏風、また初期の歌舞伎興行の様子を描いた洛中洛外図屏風などが展示されています。

“出雲の阿国”がどうのとか、女郎歌舞伎や若衆歌舞伎はなんたらとか、そういう説明はほとんどなく、割とあっさりした展示内容なので、歌舞伎の歴史にあまり詳しくない人は、歌舞伎の成り立ちなどちょっとは知っておいた方が楽しめるかも。

「歌舞伎図巻」(部分) (重要文化財)
江戸時代・17世紀 徳川美術館蔵 (展示は2/6~2/25)

自分は歌舞伎歴も浅く、まして歌舞伎の歴史になるとあまり詳しくありませんので、“出雲の阿国”が登場した当時は能舞台で演じられたとか、鳴り物(楽器)は能を踏襲していて、初期はまだ三味線を入れてなかったとか今回初めて知りました。

「歌舞伎図巻」は初期の女歌舞伎を描いたもので、舞台裏の様子にも焦点を当てていたりします。お客さんは老客男女、貴賤を問わず、南蛮人もいたり、また役者の胸にはロザリオがあったりと、当時の文化・流行の様子もうかがえて、非常に面白かったです。

伝菱川師宣 「上野花見歌舞伎図屏風」(左隻)
元禄6年(1693)頃 サントリー美術館蔵 (展示は2/27~3/31)

江戸初期の中村座など芝居小屋の内部の様子を描いた作品も多くありました。歌舞伎が江戸で上演されるようになった初期も舞台はまだ能舞台に近く、それでも花道や桟敷席など、だんだんと芝居小屋らしくなってきているのが分かります。芝居そっちのけで喧嘩をしている人がいたり、煙管を吸ったり、鍋(?)や舟盛りを食べながら芝居見物してたり、昔の土間席には屋根がなかったとか、江戸の賑やかな芝居小屋の雰囲気が伝わってきます。

猿若町の屋敷地図「呼子鳥和歌町三町全図」というユニークなものも展示されていました(展示は2/18まで)。江戸三座や人形浄瑠璃の芝居小屋が集まり一番賑やかだった頃の猿若町の地図で、猿若町のどこに役者が住んでいたかも分かる珍品。芝居小屋の並びや町の様子、團十郎や菊五郎、幸四郎などの屋敷の広さや役者の暮らす長屋と思しい通り…いろいろ面白いです。 

歌川国貞 「役者はんじ物 市川團十郎」
文化9年(1812) 千葉市美術館蔵 (展示は2/6~2/25)

浮世絵の役者絵も多く展示されていましたが、こちらはただ無作為に並んでいるという感じで、点数も少なく、ちょっと拍子抜け。おととし渋谷のたばこと塩の博物館で開催された『役者に首ったけ!』展に比べると、物足らなさが残ります。

歌舞伎界の名優が描いた絵なども展示されていましたが、こちらもおととし山種美術館で開催された『知られざる歌舞伎座の名画』でも同様のものが展示されていたので、ちょっと新鮮味に欠けました。もう一工夫欲しかったところ。それでも、九代目團十郎の直筆の俳句と絵による「俳句かるた」は一見の価値あり(展示は2/18まで)。どこぞやの日本画家の手になるものといわれても納得するレベルで、最早玄人の域でした。昔の歌舞伎役者は俳句を詠んだり絵を嗜んだり、どれだけ風流だったことか。そのセンスが役にも活かされたんでしょうね。

最後のコーナーには『助六』で六代目中村歌右衛門が実際に着用した豪華な墨絵白地の打掛が展示されていました。『助六』で揚巻は何度か衣装を替えますが、二度目に登場するときは七夕をモチーフにした短冊柄の帯で登場することになっていて、その時に着る打掛に歌右衛門は絵を描かせたそうです。いずれも日本画壇の重鎮の手によるものばかりで、自分が観に行ったときは山口蓬春と堅山南風の作品が展示されていました。ほかにも前田青邨や東山魁夷作の打掛も展示されます。(雀右衛門は片岡球子に描いてもらったのだそうな。それも観たかった。)

今回の展覧会は出展数だけ見ると、約240点と非常に多いのですが、展示替えが非常に多く、わずか2ヶ月足らずの会期中に7回の展示替えがあります。4回ぐらい来れば全作品観られるようですが、さすがにそうそう何度も足を運ぶことは難しいので、せめて前期・後期で出展作品を網羅できるような構成にしてもらえると、満足感も上がり、有り難かったかなと思います。


『歌舞伎座新開場記念展 歌舞伎 -江戸の芝居小屋-』
2013年3月31日(日)まで
サントリー美術館にて


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