第一部では、琳派の始祖と呼ばれる俵屋宗達や本阿弥光悦、そして宗達らの画風を引き継ぎ、琳派たるものものとして造り出していった尾形光琳らの作品を中心に、煌びやかで美麗な琳派の世界を紹介していました。
そして第二部では、今回の展覧会の冠にもつけられている生誕250年の酒井抱一やその高弟・鈴木其一の作品をメインに、さらに宗達や光琳らも加わり、継承されていった琳派の流れ・カタチを追っています。
第一部は、まだ安土桃山の絢爛たる華やかな文化を色濃く残す宗達らの作品が中心ということもあり、華麗かつ豪奢な中にも京の優雅さや美意識を強く感じさせるものになっていましたが、第二部は、江戸文化のなかで磨かれていったモダンで洗練された江戸琳派の新たな創造性というものが伝わってくるような内容だったと思います。琳派の「祖」と「後継」、「京」と「江戸」、「金」と「銀」。第一部と第二部はいろんな意味で対照的な展示になっています。
伝 俵屋宗達「月に秋草図屏風」 (※第一部に展示)
俗に“宗達の作品”と言われるものは、有名な「風神雷神図屏風」しかり、はっきりと“宗達の作品”と断言されるものは少なく、だいたいが“宗達の作品ではないか”と推測されているものなので、恐らく多くの人が「『伝』はたぶん宗達自身の手によるもの、『伊年』は宗達工房のものなのだろう」という理解で観ていると思います。逆に言えば、宗達という人の作品はそんな少々あやふやな定義の上にあるので、「伊年」の印があっても「どこかしらは宗達が筆を取っているのかもしれない」と想像を働かせてしまったりします。それが宗達、あるいは「伊年」印の作品のユニークなところ、面白いところなのかもしれません。
「伊年」印 「四季草花図屏風」(右隻) (※第一部に展示)
第一部には「伊年」印の「四季草花図屏風」が三点あって、いずれも見事なものではあるのですが、出光美術館所蔵の「四季草花図屏風」は隙間なく四季の草花が描きこまれ、濃密なものであるのに対し、根津美術館所蔵の「四季草花図屏風」(上の写真)は非常に繊細なタッチで、まるでボタニカルアートを観ているようなリアルさがありました。同じ「四季草花図屏風」でも三者三様。絵師の個性やセンスが出ているように思います。もしかしたら、このどれかは宗達が描いたものかもしれません。
伝 尾形光琳 「紅白梅図屏風」(右隻) (※第一部に展示)
琳派というものを今回の展覧会は敢えて二回に分けたわけですが、こうして第一部・第二部と観てみると、同じ琳派的な美意識や感覚だけでも光琳と抱一は違うと感じますし、光琳はやはり“江戸より京”、抱一は“江戸の人”なのだなと思います。どこがと言われると難しいのですが、光琳は宗達の影響が色濃い分、桃山的な華美さやデザインセンスに都人のプライドを垣間見れるし、一方の抱一は光琳の影響を受けていても自分らしさがあって、都会人的な柔軟性が感じられます。“宗達の影響の下にある光琳”、“光琳の影響の下にある抱一”という視点で見せることで、それぞれの“らしさ”が伝わってくる気がしました。
酒井抱一 「紅白梅図屏風」
今回の展覧会では鈴木其一の作品も、宗達や光琳、抱一という琳派ビック3に劣らず、大きく取り上げられています。其一好きの自分としてもとても楽しみにしていました。しかし、抱一の清冽な「紅白梅図屏風」を観たあと、其一の黒変した銀屏風を前にし、少々ショックを覚えました。銀地絵の保存の難しさを改めて痛感するとともに、これは抱一と其一の(かつての)評価の違いというものも関係したのだろうかと感じずにいられませんでした。当時から評価の高い抱一の作品は変色しないよう丁寧に扱われ、近年まで決して評価が高いとは言えなかった其一の作品は蔵の奥に仕舞われたまま、そんなことでもあったのでしょうか。いずれにしても美しい銀屏風を観られるというのは幸せなことなんだと思います。
鈴木其一 「四季花木図屏風」
会期後半は混雑必至ですので、どうぞお早めに。
【酒井抱一生誕250年 琳派芸術】
出光美術館にて
3/21(月)まで
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