2018/12/31

2018年 展覧会ベスト10

今年も最後の1日となりました。
いつも今年のベスト10を早くまとめようまとめようと思いつつ、あれも入るでしょ、これを入れなきゃどうするの、と最後の最後まで一人ああだこうだ言いながら、なかなかまとまりません。正直今も少し悩んでいます。毎年のことですが。

今年の拙ブログのエントリーは展覧会の感想のみで43本。一番エントリーが多かった年のおよそ半分でした。ずいぶん減りましたね。。。今年は例年以上に仕事関係が忙しく、休日だってフルに使えるわけではないので、観に行った展覧会自体もかなり減ってしまったのですが、さらに観に行ってもブログにアップできないものもたくさん出てしまいました。

とても印象に残ってる『縄文展』も『ルーベンス展』も『京都・醍醐寺展』も『仏像の姿』も『建築の日本展』も『横山大観展』も下書きのまま残ってます。見逃がした展覧会も多くあります。評判の良かった『ビュールレ・コレクション展』も『プラド美術館展』も『暁斎・暁翠伝』も『東山魁夷展』も結局見てないんですよね。。。

日本美術を中心に興味のあるものはできるだけ観たつもりではありますが、今年は地方遠征があまりできなかったのも悔やまれるところ。時間と自由があれば、『糸のみほとけ』や『雲谷等顔展』、『土方稲嶺展』、『鈴木松年展』、『土佐光吉展』も観に行きたかったです。

今年、ベスト10(選外も含めて)に選んだ展覧会を振り返ると、企画や構成の素晴らしさに唸った展覧会が多くありました。ただ単に特定の絵師/画家/作家の作品を並べた回顧展よりも、この企画考えた人凄いなとか、これだけの作品集めてくるの大変だったろうなとか、学芸員の方たちの日ごろの研究成果といいますか、その企画力やそこにかける情熱、テーマに沿った作品のセレクション、そうしたものも含めて感銘を受けた展覧会が上位に入りました。最近いろいろ美術館/博物館の運営も大変のようですが、こうして素晴らしい展覧会を企画してくれる学芸員や関係者の方にはあらためて感謝したいと思います。


で、2018年のベスト10はこんな感じです。
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1位 『百花繚乱列島 -江戸諸国絵師巡り-』(千葉市美術館)


江戸絵画を観ていても、まだまだ知らない絵師は多くいますし、江戸や京阪だけでなく地方で活躍した優れた絵師はどれだけいるんだろうと思うことがあります。そうした地方に拠点を置き活躍した絵師にスポットを当てた展覧会がいつか開かれないものかと思っていたものですから、本展は個人的には願ってもない展覧会でした。そしてこれがまた充実していて素晴らしいのなんの。ほとんどがマイナーな絵師たちで、こんな絵師がいたのか!と驚くような個性派ぞろい。マニアック過ぎて鼻血が出ました。ぜひ第二弾を企画してほしいものです。


2位 『寛永の雅』(サントリー美術館)


サントリー美術館の展覧会の企画力には毎度頭が下がるのですが、強烈な個性を持った桃山と元禄に挟まれた寛永年間を中心とした文化を切り出し、ここまで厚く深くその時代の魅力を引き出したことに驚きと感動しかありませんでした。 土佐派の復興や住吉派の興隆、探幽様式と狩野派のやまと絵的傾向、そして遠州や仁清といった江戸初期の美術の点と点が線で繋がり、寛永文化の古典復興のもとで同時代的に発生したことも知りました。寛永の時代の空気までもが伝わる大変素晴らしい展覧会でした。


3位 『幕末狩野派展』(静岡県立美術館)


江戸狩野をテーマにした展覧会というとどうしても中心は探幽とその兄弟たちで、後期になると評価は低く、情報も少なくなります。その見逃されがちな後期江戸狩野にスポットを当てることで、様々な流派の台頭の中、命脈を保つため、もがきながら新しい時代の狩野派を創り出そうとする絵師たちの奮闘ぶりが浮かび上がるような展覧会でした。それが結果として実は日本画の近代化に繋がる重要なカギを握っていたことも感じました。粉本主義で旧態依然という固定観念が覆される充実の内容でした。


4位 『京都画壇の明治』(京都市学校歴史博物館)


江戸末期から明治初期の日本美術は近代化の流れもあって、江戸/東京ばかりがクローズアップされがちですが、そこをあえて京都画壇に絞り、画壇衰退の危機感をもった新時代の画家たちの新しい絵画表現の模索と活躍を紹介したとても意義深い展覧会でした。明治初期の京都画壇だけでここまでの数の作品が観られる機会というのもなかなかないので、ほんとは通いたかったぐらいですが、なにぶん京都という距離のため一度しか行けなかったのが残念。明治初期の京都画壇にもっと注目が集まるといいなと思います。


5位 『名作誕生 つながる日本美術』(東京国立博物館)


古典との「つながり」を解き明かす見せ方はこれまでもなかったわけではありませんが、本展はその質と量が素晴らしく、さすがトーハクといいたくなる満足度の高い展覧会でした。普賢菩薩や祖師図の展開、宗達と古典のつながりなど、それぞれに継承されたモチーフや構図、技術を日本美術史上の名立たる絵画・工芸品を通して具体的に例解していく様はまるで観る美術教科書。ここまでの規模じゃなくていいので、常設の特集展示などで、シリーズ化してもらえるとありがたいなと思います。


6位 『扇の国、日本』(サントリー美術館)


“扇”を意匠や装飾に取り入れた絵画や工芸といった面だけではなく、“扇”の神聖性や、“扇”による優雅な遊びや風俗まで、さまざまな視点から“扇”を捉えた素晴らしい展覧会でした。もとはメモ代わりだったり、涼をとる道具だったりした“扇”になぜ日本人はここまでバラエティに富んだ趣向や美の世界を繰り広げたのかを考えさせ、とても興味深いものがありました。日本人の高い美意識や豊かな感性に脱帽しました。


7位 『横山華山展』(東京ステーションギャラリー)


昨年の不染鉄につづき、またしても知られざる絵師をどーんとぶつけてくる東京SGお得意(?)の爆弾展覧会。衝撃という意味では今年一番かも。作品はこれまでも何度か拝見したことはありましたが、知名度の低さと作品を観る機会の少なさもあって、どういう絵師なのかがよく分からなかった華山の実像を明らかにしたという点でとても有意義な展覧会だったと思います。そして誰もが驚いたのが画力の高さ。特に人物表現、風俗描写の素晴らしさには舌を巻きました。正に「見れば、わかる」。


8位 『長谷川利行展 七色の東京』(府中市美術館)


ずっと興味は持っていた長谷川利行の作品をここまでまとめて観たのは初めてなので、とても感慨深く拝見しました。都会的でモダンな雰囲気と昭和初期独特の退廃的なムード。昭和初期の東京をここまで魅力的に描く画家が他にいたでしょうか。市井の女性たちを描いた作品の味わいも格別でした。絵から伝わる賑やかさとか温もりとは裏腹な寂寥感が見え隠れするところも利行の絵の魅力という気がします。


9位 『終わりのむこうへ : 廃墟の美術史』(渋谷区立松濤美術館)


年も押し迫った24日、展覧会納めのつもりで行った美術館で出会った素晴らしい展覧会。西洋の廃墟の美術史から入りつつ、日本の廃墟の美術史に流れる導線の巧みな構成、少ない作品ながらも満足度の高いセレクションの妙。期待以上の面白さでした。近代以降の日本の廃墟の美術史、特に戦前戦後のシュルレアリスムの展開はとても興味深く、現代美術家による東京の廃墟画もいつか来る文明の終焉を仄めかすようで、渋谷という街でこの展覧会が開かれたことも何か因縁めいた気がします。


10位 『池大雅展』(京都国立博物館)


割と観る機会の多い池大雅。しかし実は池大雅のことを正しく理解していなかったのだなと痛感した展覧会でした。画面の構成力や技法の引き出しの多さなど驚くことばかり。質量ともにとても充実していて満足度も高く、なかなかとっつきにくい南画がこんなにも自由で、楽しく、感動するものだということをしみじみと感じました。




ベスト10に入れられないものかと最後まで悩んだものが『狩野芳崖と四天王』。芳崖めぐる近代日本画の関係図が掘り下げられていて良かったですし、『幕末狩野派展』からつながるものもあり、とても興味深かったです。

基本的に今年は良かった展覧会しかブログに記事を書いていませんが、日本美術ではほかにも、『小村雪岱 「雪岱調」のできるまで』『リアル 最大の奇抜』『春日権現験記絵 -甦った鎌倉絵巻の名品-』『小倉遊亀展』なども素晴らしかったと思います。ブログには書けずじまいでしたが、三井記念美術館と畠山記念館で開催された松平不昧の展覧会も印象に残っています。

日本美術という意味では縄文の土器や土偶を美術的視点で評価した東博の『縄文』も素晴らしかったですね。サントリー美術館の『琉球 美の宝庫』で観た琉球の絵画も非常に興味深かったです。仏像では『運慶 鎌倉幕府と霊験伝説』も大変良い内容でした。三井記念美術館の『仏像の姿』もとても好きな展覧会でした。

今年は西洋画の展覧会をあまり取り上げられませんでしたが、『ルドン-秘密の花園』『ヌード展』『モネ それからの100年』など素晴らしい展覧会が多い一年でありました。秋から始まった『フェルメール展』『ムンク展』、『ルーベンス展』、『ピエール・ボナール展』も充実した内容で満足度が高かったです。。

ちなみに今年アップした展覧会の記事で拙サイトへのアクセス数は以下の通りです。
1位 小村雪岱 「雪岱調」のできるまで
2位 春日権現験記絵 -甦った鎌倉絵巻の名品-
3位 ルドン-秘密の花園
4位 琳派 -俵屋宗達から田中一光へ-
5位 藤田嗣治展
6位 歌仙と古筆
7位 京都画壇の明治
8位 狩野芳崖と四天王
9位 墨と金 狩野派の絵画
10位 ヌード展


今年も一年間、こんな拙いサイトにも関わらず、足をお運びいただきありがとうございました。良かった展覧会は個人的な記録のためにも書き残していきたいと思ってるので、来年も細々と続けていければと思ってますが、ブログの更新が途絶えたり、しばらく休ませてもらったりということもあるかもしれません。
そんなこんなですが、来年もどうぞよろしくお願いいたします。


【参考】
2017年 展覧会ベスト10
2016年 展覧会ベスト10
2015年 展覧会ベスト10
2014年 展覧会ベスト10
2013年 展覧会ベスト10
2012年 展覧会ベスト10


美術の窓 2019年 1月号美術の窓 2019年 1月号

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