2017/12/31

2017年 展覧会ベスト10

今年も早いもので最後の一日となりました。
ここのところ、今年一番良かった展覧会は何だったか、自分のブログを読み直したり、図録を読み返したり、早くもベスト10をツイートしている人のランキングを眺めたりしていたのですが、これも毎度のことで、まーぁ決まらない決まらない。これは入れたい、これは外せない、の繰り返しで全然10本に収まりません。無理矢理なんとか10本に絞ったというところです。

今年は拙ブログで63の展覧会を紹介することができました。観に行った展覧会自体も例年に比べて減ったのですが、折角観たのにブログに公開できていないものも多く、いまだ10数本が下書きのまま。さすがに観てから1ヶ月以上経つとひとつひとつの作品の細部もおぼろげになり、観たときの感動も薄れてしまうとブログを書くのもままならなくなり・・・。

時間を作るのもなかなか苦労し、観られる展覧会の本数にも限りがあるので、わたしの場合、日本美術を中心に、興味ある西洋美術、現代美術を観るというパターンがだんだん強くなってるというか、敢えてそちらにシフトしてるところがあります。選んで観てるというのもありますが、今年もたくさんの良質な展覧会に出会うことができました。

もともと仏像が好きで日本美術に興味を持つようになった経緯があるので、今年は念願の運慶・快慶の展覧会を観ることができたのが個人的には最大のトピックでしょうか。ここ数年関心を持っていた中国絵画、高麗仏画も拝見することもできました。これまでなかなか一堂に観ることの叶わなかった絵師の展覧会、全く知らなかった画家の発見、いろいろと勉強になることの多い一年でした。


で、2017年のベスト10はこんな感じです。
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1位 『快慶展』(奈良国立博物館)


やはり仏像好きとしては今年はなんといっても運慶・快慶。もちろん『運慶展』も十分に素晴らしかったのですが、これは好みの問題もあるかもしれませんが、わたしは敢えて『快慶展』。割とざっくりとした構成だった『運慶展』とは対照的に、『快慶展』は構成も細かに大変良く練られていて、多角的な視点で快慶仏を取り上げ、その魅力をぐっと引き出してくれました。絵画的ともいわれる快慶仏の洗練された造形、繊細さ、美しさにはただただ見惚れるばかり。至福のひとときでした。


2位 『高麗仏画』(根津美術館)


昨年秋の泉屋博古館(京都)で開催されたときに観に行けなかったのが悔やまれるのですが、念願叶って観ることのできた高麗仏画。その素晴らしさは想像以上。特に大徳寺の「水月観音像」の崇高な美しさには言葉を失いました。見慣れた日本の仏画とはずいぶん異なるというか、日本とは異なる美意識をもったユニークな仏画が多く、仏教図像学の面から見ても興味深く感じました。出品数こそ多くはありませんが、現存数の少ない高麗仏画がこれだけ集まるというのも大変貴重だったと思います。


3位 『絵巻マニア列伝』(サントリー美術館)


ちょうど昨年、高岸輝氏の『室町絵巻の魔力-再生と創造の中世』という本を読んでいて、室町絵巻を観たい熱がふつふつと湧いていたときにタイミングよく観ることができたこともあって感激もひとしお。本を通して知った絵巻の現物をあれもこれも目の当たりにすることができ、ワクワクしながら観てました。“絵巻マニア”という視点で構成したところもミソというかツボというか。テーマの選び方や見せ方にサントリー美術館らしさが良く出ていたと思います。絵巻マニアならずとも興奮する楽しい展覧会でした。


4位 『海北友松展』(京都国立博物館)


海北友松の素晴らしさ、こんなに凄い絵師だったのかという衝撃もあるのですが、何よりも日本美術に余程関心がないと知らないような絵師に光を当て、ここまで深く掘り下げていることにとても感動しました。人生の大半を狩野派に捧げ、隠居するような年齢になってから疾風の如く活躍したわけですが、晩年にこれだけの作品を残したことは奇跡だと思いますし、老いてますます冴えわたる墨技と老練な筆から滲み出る枯淡の趣は驚くばかり。「雲龍図」を照明を落とした部屋で見せたり、「月下渓流図屏風」を最後に持ってきたりという空間構成も良かったです。友松に正統な評価を与える意義深い展覧会だったと思います。


5位 『長沢芦雪展』(愛知県美術館)


個人的に芦雪は好きでも嫌いでもなく、芦雪の良さをいまひとつ分かりかねていたのですが、今回の展覧会で印象が変わったというか、わたしの中の評価がガラリと変わりました。芦雪の代表作が揃いに揃ったという点もありますし、無量寺の障壁画の再現展示や全体の構成も素晴らしく、大変満足度の高い展覧会でした。奇想の絵師というけれど、人を楽しませるウィットや、動物や子供に向けた眼差しからは何となく芦雪の優しい人柄も伝わってくるようでした。円山派の枠に縛られない芦雪の破天荒な魅力にゾッコンになりました。


6位 『狩野元信展』(サントリー美術館)


狩野派好きとしては待ちに待った展覧会。国内外に現存する元信筆・工房作とされる作品が一堂に揃っただけでなく、途中に中国絵画を持ってきて、真・行・草を展観し、やまと絵にも触れるという構成もよく整理され、かつ大変興味深い内容になっていました。サントリー美術館はいつものことですが、会期中展示替えが細かく、結局5回足を運びました。元信クラスの規模の展覧会は、できれば京博(トーハクはやらないだろうから)のような大きなハコでやってもらいたかったなと思います。


7位 『不染鉄展』(東京ステーションギャラリー)


どうしてここまで優れた技術を持つ画家が評価されることもなく長く忘れられていたのか。とても不思議に思うほど、大変素晴らしい展覧会でした。繊細な筆致で描かれた郷愁いざなう農村や漁村の風景や、絵と一緒にこまごまと綴られた思い出もとても感動的だったのですが、晩年の絶壁の孤島や孤高の海を描いた一連のモノトーンの作品群に完全にやられました。衝撃という意味では今年一番だったかもしれません。


8位 『オルセーのナビ派展』(三菱一号館美術館)


西洋美術からは一つだけ、『オルセーのナビ派展』。ナビ派が好きというのもありますが、ナビ派に絞って単独でしっかり取り上げてくれたことと、パリでもここまでの展覧会は開かれたことがないというぐらいの充実した内容に感動しました。ナビ派と一言でいっても、実は幅があり、ゴーギャン影響下での誕生から、象徴主義、アンティミスム、神秘主義に至るまで、分かっているようで分かっていなかったナビ派をより深く知ることができました。


9位 『典雅と奇想』(泉屋博古館分館)


静嘉堂文庫美術館の『あこがれの明清絵画』とセットで取り上げたいところでもあるのですが、泉屋博古館分館の『典雅と奇想』にはちょっと度肝を抜かれたというか、中国絵画をなめたらいけないと痛感しました。奇想派をこれだけまとめて観たのも初めてですし、奇想派の山の造形もさることながら、こんなにも筆法がバラエティに富んでるとは思いませんでした。本場の文人画は奥行きが違うというか、墨技やその味わい一つとってもさまざまな表情があるし、脱俗的な日本の南画とは違ってガツンと来ました。前期展示を観に行けなかったのが返す返すも残念。


10位 『日本におけるキュビスム - ピカソ・インパクト』(埼玉県立近代美術館)


キュビズムが与えた影響とその受容を多様な作品を通して知ることができ、大変興味深い展覧会でした。萬鐵五郎や大正新興美術運動としてのキュビズムは少し見ていたつもりですが、ここまで徹底してると、これまで表面的にしか見ていなかったことに気づかされました。キュビズムといっても戦前と戦後では様相は異なり、バラエティに富んでいた戦前に対し、戦後はまさしく“ピカソ・インパクト”一色で、どれだけピカソの与えた衝撃が大きかったのかも実感でき、とても面白く感じました。




泣く泣く圏外となったものでは、やはり今年を代表する展覧会の一つ『運慶展』、これも充実した内容で良かった『雪村 奇想の誕生』、企画された方々の意気込みにも惚れた『蘇る!孤高の神絵師 渡辺省亭』があります。今もどこかに入れられないかと思うほど。

今年は何度か関西にも足を運び、東京には巡回のない展覧会も観てきましたが、ただただ圧倒された『国宝展』と裏国宝展的な面白さのあった『末法展』も良かったですし、50年ぶりという『柳沢淇園展』は観に行かなかったら物凄く後悔したでしょうし、話題にはなりませんでしたが『勝部如春斎展』も意外と面白かったです。京都の『木島櫻谷 近代動物画の冒険』『木島櫻谷の世界』も素晴らしかったのですが、主だった作品は過去の展覧会で観ていたので今回は選外としました。

そのほか印象に残った展覧会としては、日本美術・洋画・工芸では、『岩佐又兵衛と源氏絵』『並河靖之七宝展』『川端龍子展』『萬鐵五郎展』『鈴木春信展』『北野恒富展』、西洋美術では、『ミュシャ展』『ソール・ライター展』『ジャコメッティ展』『アルチンボルド展』(以上観た順)といったところでしょうか。茶の湯ブーム(?)にのって、『茶の湯展』『茶碗の中の宇宙』で観た茶碗・茶道具も眼福でした。企画ものとしては、『長崎版画と異国の面影』『ガラス絵 幻惑の200年史』も非常に興味深い内容だったと思います。

やはりいいなぁと思う展覧会はどれも、学芸員やキュレーターの方々の努力や苦労が偲ばれるものばかりで、そうした思い入れの深さは展覧会の素晴らしさにちゃんと反映されるのだと思います。


ちなみに今年アップした展覧会の記事で拙サイトへのアクセス数は以下の通りです。
1位 『オルセーのナビ派展』
2位 『岩佐又兵衛と源氏絵』
3位 『快慶展』
4位 『蘇る!孤高の神絵師 渡辺省亭』
5位 『アルチンボルド展』
6位 『加山又造展 生命の煌めき』
7位 『日本におけるキュビスム - ピカソ・インパクト』
8位 『奇想の絵師 岩佐又兵衛 山中常盤物語絵巻』
9位 『これぞ暁斎!』
10位 『川端龍子展』


今年も一年間、こんな拙いサイトにも関わらず、足をお運びいただきありがとうございました。来年は個人的にやりたいこともあって、展覧会を観に行けてもブログを書く時間が取れないのではないかとちょっと危惧してます。しばらく更新が滞ることがあるかもしれませんが、ときどき覗いてやってください。
来年もどうぞよろしくお願いいたします。


【参考】
2016年 展覧会ベスト10
2015年 展覧会ベスト10
2014年 展覧会ベスト10
2013年 展覧会ベスト10
2012年 展覧会ベスト10


美術展ぴあ2018 (ぴあMOOK)美術展ぴあ2018 (ぴあMOOK)

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