2022/12/31

2022年 展覧会ベスト10

今年もギリギリの公開となりましたが、1年間に観た展覧会の中からベスト10を選んでみました。

2019年の投稿を最後に、年末に1年間の展覧会ベスト10だけをアップするようにして早3年。期せずしてそのタイミングで新型コロナウイルスの蔓延により美術館・博物館も大きな影響を受け、一時は観る本数もかなり減ってしまいましたが、ようやく今年になって開催される展覧会も、観る本数もコロナ禍以前の水準に戻ってきたような気がします。いまだ新型コロナウイルスが収束しない様子を見ていると、しばらく数年はこんな状態なんだろうなと思いますし、一方でこんな状態でも何とかやっていけるんだろうなという気もしてきました。

自分でも今年はずいぶん展覧会を観たなぁと思いますが、一方で仕事の忙しさもあって、観る展覧会をかなり絞っている(自分の興味的なところですね)ので、スルーしていて評判の良かった展覧会を見逃していたことも結構ありました。地方には春に大阪・京都・滋賀、秋に大阪・神戸に行った以外はなかなか行けず、評判を聞いても指を加えているということがしばしばありました。

というわけで、2022年のベスト10はこんな感じです。
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1位 『サロン!雅と俗-京の大家と知られざる大坂画壇』(京都国立近代美術館)


これは文句なし。ダントツの面白さでした。京都画壇もまだまだ知りたい観たいといったところなのに、次は大阪画壇。これは危険な扉を開けてしまったかもしれない(笑)。京は大家と銘打つだけあり、蕪村や呉春、応挙、大雅といった絵師が中心でしたが、そこから京坂のネットワーク、そして大坂画壇の全容を明らかにするという流れはとてもワクワクしました。大阪画壇は文人画や近代ではそれなりに知っている画家もいますが、初めて名を聞く未知の画家も多く、その作品がまた実に興味深いのです。文人画に限らず円山四条派や南蘋派、さらに琳派や戯画など大坂画壇の幅は非常に広く様々な系統が存在し、流派を超えた繋がりがあるのも魅力的。質・量ともに素晴らしい展覧会でした。今年は六本木と京都の泉屋博古館の展覧会でも大阪画壇が取り上げらていたり、来年は大阪の中之島美術館でも大阪画壇の特別展があるようなので、これから注目ですね。


2位 『奇想のモード 装うことへの狂気、またはシュルレアリスム』(東京都庭園美術館)


シュルレアリスムがモードに与えた影響を探るという内容の展覧会でしたが、アーティストやデザイナーたちの自由な創造力やユニークな発想力といったら、もう想像の域を超えていました。民族衣装やシュルレアリスム作品から現代ファッションまで、そのエキセントリックでシュールで奇妙奇天烈なデザインは正しく奇想。それ、オシャレか?と絶句することたびたび。時代や国は違えど際限なく美を求める人々の美意識の狂いっぷりが凄まじかったです。私自身がシュルレアリスムが好きというのもありますが、展覧会に漂うムードが庭園美術館の内装や佇まいともマッチしていて、とても楽しめました。


3位 『ゲルハルト・リヒター展』(東京国立近代美術館)


日本では16年ぶり、東京では初という回顧展。初期のフォトペインティングからリヒターの集大成的な「ビルケナウ」、そして最新のドローイングまでリヒターの長い活動を表すかのように多彩な作品が集まっていて大変見応えがありました。リヒターの世界に存分に浸れた一方、リヒターの複雑さ、背景にある歴史やその意味に打ちのめされました。東近美のリヒター展に先立ってエスパス ルイ・ヴィトン大阪で開催された『ゲルハルト・リヒターによる「Abstrakt」展』を観に行ったり、リヒターのインタビューや映画を観たり、書籍を読んだり、90を過ぎて今なお絶大な存在感を放つ現代アートの巨人に大きな刺激を受けた一年でした。


4位 『よみがえる川崎美術館-川崎正蔵が守り伝えた美への招待』(神戸市立博物館)


いまの川崎重工業の創業者で川崎財閥を築いた川崎正蔵が建てた幻の川崎美術館の旧所蔵品を集めた展覧会。川崎正蔵の蒐集にかける情熱と審美眼もさることながら、川重ゆかりの神戸で行うという意義と、散逸した美術品が100年ぶりに再会するという奇跡に胸熱でした。見どころは旧南禅寺帰雲院の応挙の障壁画32面+1幅による川崎美術館の再現展示で、一部は東博でも観たことのある作品でしたが、やはり見え方が違うし、揃って観ることで応挙の素晴らしさも分かるし、往時の川崎美術館のこだわりも伝わってきます。狩野孝信や雲谷派の煌びやかな金屏風も見事でした。


5位 『西行-語り継がれる漂泊の歌詠み』(五島美術館)


様々な史料から遁世者・西行の姿を紐解き、後世どのように語り継がれたかを探るという展覧会で、西行の真筆含む古筆の優品が充実してるだけでも素晴らしいのに、細長い展示室の片側全てが「西行物語絵巻」というのがまた凄かった。旅先で詠む花鳥風月の歌には、悟りを求め遁世の道を選んだけれど、どこか現世に執着している西行の心の葛藤が読み取れて、しみじみと感じ入るものがあり、なぜ時代を越えて人々を魅了するのかが少し分かった気がしました。江戸時代に尾ひれが付いて語られる西行のエピソードも面白かった。


6位 『春日神霊の旅-杉本博司 常陸から大和へ』(神奈川県立金沢文庫)


春日大社や所縁の社寺の所蔵品や称名寺の史料、また杉本の蒐集品を通して、春日信仰や東国との関係を紐解くという内容でしたが、春日大社の宝物もさることながら、春日曼荼羅と能面や花器を組み合わせたり、いつもながらに杉本博司のこだわりが随所に見られ、とても良かったと思います。室町時代の神鹿像の上に杉本博司制作のガラスの五輪塔(中に杉本の「海景」が嵌め込まれてる)が乗っていたり、神鹿像の失われた角や鞍や榊を須田悦弘が補作していたり、竹製の油注に須田悦弘の花が生けられていたり、中世の美術品と現代美術家の創作という組み合わせが斬新で面白かったです。


7位 『ヴァロットン-黒と白』(三菱一号館美術館)


2014年に同じ三菱一号館美術館で開催された『ヴァロットン展』で一気に日本でもファンが増えた感のあるヴァロットン。その後もナビ派の展覧会などでたびたび紹介されてきましたが、今回はヴァロットンの版画にだけスポットを当てていて、これがとにかく良かった。黒と白のモノクロームの世界の魅力や卓越した線描の豊かな表現力、構図のユニークさも去ることながら、ちょっとした毒気やペーソス、いろいろと想像させる物語性があって、ほんと面白い。ほとんど黒く塗られていても伝わる黒の雄弁さがまた素晴らしい。ヴァロットンのことがより一層好きになってしまいました。


8位 『生誕110年 香月泰男展』(練馬区立美術館)


代表作シベリアシリーズ全点を含む初期から晩年までの画業を辿る回顧展。香月泰男はこれまでも観ていますし、シベリアシリーズも初めてではないのですが、全点を通しで観るとズシリと来るというか、心に深く突き刺さるというか、とても印象に残りました。シベリアシリーズ以外でも特に戦後の作品は暗く重いトーンの作品が多くありましたが、やはりシベリア・シリーズに描かれる過酷なシベリア抑留の記憶や心象風景は、方解末と炭を多用した重厚なマチエールとともに強烈なインパクトがありました。少年を描いた初期の作品群も印象的でした。


9位 『建部凌岱展 その生涯、酔たるか醒たるか』(板橋区立美術館)


たまに見かけるけど詳しくは知らない絵師というのはたくさんいて、恐らく展覧会なんてないだろうなと思っていた一人が建部凌岱。展覧会を観るまでは芭蕉に憧れた文人画家という点で蕪村に近いのかなと思っていましたが、実はアプローチが全然違って、長崎で熊斐に南蘋派の画法を学び、南画にも腕を上げ、兼葭堂のサロンにも出入りしてたというからビックリ。花鳥画といっても南蘋派のような濃厚細密という程でなく、どちらかというと自由闊達なところが魅力で、ゆるい俳画も楽しい。経歴も面白く、弘前藩の家老の息子で、兄の嫁に手を出し駆け落ち寸前で見つかり家を追い出され、全国を遊歴し俳諧・絵画・小説・随筆で名を成したといい、そんなユニークな経歴と多才さを物語るとても興味深い展覧会でした。


10位 『没後50年 鏑木清方展』(東京国立近代美術館)


西の松園、東の清方といいますが、清方の描く美人画は松園ほど好みでなく、自分の中でもそれほど上位ではなかったのですが、ここ数年観てきた作品で清方への個人的な評価も変わり、今回の回顧展はとても楽しみにしていました。美人画といっても様々なタイプのものがあり、時代や街の風俗が反映されていて、とりわけ東京をテーマにした章では清方の生まれ育った東京への深い愛着が感じられて興味深かったです。歌舞伎の章も名品が多く、清方は歌舞伎雑誌で舞台スケッチや劇評に携わっていただけあり、歌舞伎好きということが良く伝わってきてとても良かったです。





毎年のことですが、10本の選出にいつも頭を悩ませるのですが、今年は特に悩みました。トップの3本を除き、『西行展』『よみがえる川崎美術館』『春日神霊の旅』はほぼ同列、同じく『ヴァロットン展』以下はほぼ同列といった感じです。

選外となりましたが、12月に始まったばかりの『諏訪敦「眼窩裏の火事」』(府中市美術館)はよく知る諏訪の写実画とはまた違った作品を集めていて、見応えがあるというか、時間をかけて絵画に取り組む姿勢に感動すら覚えました。評判を聞き観に行った『芸術作品に見る首都高展』(O美術館)はベスト10に入れるかどうか最後まで悩むほど、そのこだわりが素晴らしかったですし、衝撃というかカオスぶりという意味では今年一番だったかも。他にも、サントリー美術館の『歌枕 あなたの知らない心の風景』、根津美術館の『燕子花図屏風の茶会』は企画内容がとても素晴らしく、これもほんと悩みました。サントリー美術館では『京都・智積院の名宝』、根津美術館では『遊びの美』も良かったですね。やはりこの二館はいつも満足度が高い。

日本美術では、関西で観た『来迎展』(中之島香雪美術館)は内容がとても素晴らしく、初めてまとめて観ることができた『山元春挙展』(滋賀県立美術館)も非常に良く、はるばる関西まで行った甲斐がありました。宮内庁三の丸尚蔵館収蔵の皇室の名品を集めた『日本美術をひも解く―皇室、美の玉手箱』(東京藝術大学大学美術館)も見応えがありました。東博の『国宝 東京国立博物館のすべて』はチケットが取れず、1回しか観に行けなかったのが残念でした。

今年は蒔絵や図案をピックアップした展覧会も良かったですね。『大蒔絵展』(三井記念美術館)、『蔵出し蒔絵コレクション』(根津美術館)、『神坂雪佳展』(パナソニック汐留美術館)、『津田青楓 図案と、時代と、』(渋谷区立松濤美術館)が印象に残りました。陶芸では『鍋島焼 200年の軌跡』(戸栗美術館)、『茶の湯の陶磁器』(三井記念美術館)で良いものを観ることができ幸せでした。書では『篠田桃紅展』(東京オペラシティアートギャラリー)、『篠田桃紅 夢の浮橋』(菊池寛実記念 智美術館)で篠田桃紅の作品にたくさん出会えたことも良かったです。

西洋美術では『メトロポリタン美術館展』(国立新美術館)の名画尽くしには圧倒されました。『ルートヴィヒ美術館展』(国立新美術館)では、そもそもコレクションがナチスに弾圧された退廃芸術を戦時下に収集していたことから始まっただけあり、ドイツ表現主義やロシアアヴァンギャルドの作品を多く観ることができました。年末に観た『ピカソとその時代 ベルリン国立ベルクグリューン美術館展』(国立西洋美術館)もピカソやクレーが充実していて良かったです。

現代美術では『大竹伸朗展』(東京国立近代美術館)が圧倒的でした。あっと驚いたといえば、『日本の中のマネ』(練馬区立美術館)の最後の福田美蘭の作品は今年イチの傑作ではないでしょうか。他にも、『李禹煥展』(国立新美術館)、『カラーフィールド 色の海を泳ぐ』(川村記念美術館)、『浜田知明 アイロニーとユーモア』(茅ヶ崎美術館)、『ソール・スタインバーグ展』(ギンザ・グラフィック・ギャラリー)も印象に強く残ってます。35年前のセゾン美術館の展覧会で衝撃を受けて以来大好きなボテロの展覧会(『ボテロ展』Bunkamura ザ・ミュージアム)も楽しかったです。

写真では『写真と絵画−セザンヌより 柴田敏雄と鈴木理策』(アーティゾン美術館)は素晴らしかったですね。東京都写真美術館で観た『アヴァンガルド勃興』と『メメント・モリと写真』も印象深かったです。

年明け早々には、出光美術館がプライスコレクションより購入し、お披露目の場として大きな注目を集めつつも、新型コロナウイルスの影響で3年間延期になっていた『江戸絵画の華』展がようやく開催されます。コロナは一向に収束する気配がありませんが、展覧会はようやくコロナ禍以前の状態に戻った気がしますし、来年は今年以上に楽しみな展覧会も多くあります。来年の年末にはどんな10本が選ばれるでしょうか。

今年も一年お付き合いいただきありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願いいたします。


【参考】
2021年 展覧会ベスト10
2020年 展覧会ベスト10
2019年 展覧会ベスト10
2018年 展覧会ベスト10
2017年 展覧会ベスト10
2016年 展覧会ベスト10
2015年 展覧会ベスト10
2014年 展覧会ベスト10
2013年 展覧会ベスト10
2012年 展覧会ベスト10