2018/03/21

リアル 最大の奇抜

府中市美術館で開催中の『リアル 最大の奇抜』を観てきました。

毎年恒例、府中市美術館の“春の江戸絵画まつり”。今年のテーマはリアル絵画。昨年平塚市美術館などで開催された『リアルのゆくえ』展が話題になったり、スーパーリアリズムがちょっとしたブームになったり、写実絵画が注目を集めていますが、はたして江戸絵画のリアルとは?

写真もまだなく限られた人しか西洋画を観ることのできなかった江戸時代に、人々にはどのような絵がリアルに映り、斬新だと感じたのか、という観点で作品が集められています。

“春の江戸絵画まつり”らしく、江戸絵画を代表する絵師から無名の絵師までさまざまな絵師の作品が並んでいて、よくこんな作品探して来たなというセレクションが楽しい。それにしても近代日本画の写実とは異なる非近代的な表現・創作の豊かなことよ。


展覧会の構成は以下のとおりです:
1章 「リアル」の力
2章 「リアル」から生まれる思わぬ表現
3章 ところで、「これもリアル?」
4章 従来の「描き方」や「美意識」との対立と調和

森狙仙 「群獣図巻」(※写真は一部)
個人蔵

会場に入ったところにあった森狙仙の「群獣図巻」がまず面白い。森狙仙というと猿画の名手として知られ、本展にも十八番の猿や鹿を描いた作品が展示されていましたが、この「群獣図巻」はあまり見ない狙仙タッチで、ちょっと異色という感じが強くします。鼠や栗鼠、山羊、虎、猫、犬などさまざまな動物が描かれてるのですが、どちらかというと中国画や南蘋派のニュアンスに近いように思いました。何か手本にした作品があったのでしょうか。

江戸絵画の写実というと真っ先に浮かぶのが、森狙仙を祖とする森派や、円山応挙を祖とする円山派、そして沈南蘋にはじまる南蘋派。会場も最初のうちは、森派や円山四条派、南蘋派の絵師やその系統の絵師の作品が順当に登場するのですが、だんだんとよく知らない絵師もちらほら。

土方稲嶺、墨江武禅、織田瑟々、沖一峨、安田雷洲あたりは府中市美術館で名前を覚えたので、詳しく知らなくてもとりあえず知ってる。村松以弘?誰やねん。司馬長瑛子?葛陂古馮?もはや名前の読み方すら分からない。。。会場入口に置いてある画家解説を見ながら作品を観るのも毎年のことです。

村松以弘 「白糸瀑図」(静岡県指定文化財)
掛川市二の丸美術館蔵(展示は4/8まで)

富士山麓の白糸の滝を描いた村松以弘の「白糸瀑図」は横170cmもある大作。一見、真景図風なのですが、こういう景色が眺められる場所はないのだとか。白糸の滝というよりナイアガラの滝みたい。ちょっと南画風。

原在中 「天橋立図」
敦賀市立博物館蔵(展示は4/8まで)

真景図といえば、応挙の弟子とされる原在中の「天橋立図」が遠近法を意識した構図で面白い。俯瞰で遠景まで描くところは雪舟の「天橋立図」を思わせますが、在中の作品は遠くを小さく薄く描いていて、真景図というより風景画といっていいぐらい。

大好きな鶴亭が一点。「芭蕉太湖石図」は『我が名は鶴亭』でも観ていますが、太湖石や芭蕉の葉の平面的な色面の描き方が気になり、じっくり観てました。芭蕉の葉の葉脈が塗り残したよう描かれていて、解説には若冲の筋目描きに似ていると。墨の滲みを利用した筋目描きというより中国画に見られる芭蕉や蓮の葉の描き方に近い気もしますが、ちょっと素人にはよく分かりません。

沖一峨 「芙蓉に群鴨図」
鳥取県立博物館(展示は4/8まで)

鳥取藩の御用絵師として仕えた沖一峨の「芙蓉に群鴨図」もいい。芙蓉や鴨が対幅に左右対称で描かれてるのが印象的。沖探容の「浪兎図」は波の上を兎が駆けるという斬新な作品。“因幡の白兎”を題材にしてるのでしょう。沖家の6代が探容で、7代が一峨。一峨は探容の養子だという。

鳥取の絵師、いわゆる因幡画壇といえば、土方稲嶺と弟子の黒田稲皐に印象的な作品が結構ありました。土方稲嶺は宋紫石に学んだとされ、「群鶴図」は一見南蘋派風なのですが、南蘋派の鶴よりもリアル。薄墨でざざざっと描いたような「雪景山水図」も雰囲気があっていい。

ネガポジを反転させたような黒田稲皐の「遊鯉図」も独特の色合いでとても面白い。鱗がまた精緻に描かれていてビックリ。竹を墨一色で描きながらも背景を淡彩で青空にした「竹図」もかなり異色。後期には同じ因幡画壇の片山楊谷と島田元旦も登場します。鳥取の絵師、とても気になります。

鯉図では『前賢故実』で知られる菊池容斎の「鯉遊之図」がとても良い。容斎というと歴史人物画のイメージしかないのですが、こういう作品も描いていたのですね。薄墨であっさりと描いていてるのだけれど、川を群れて泳ぐ鯉の動きをリアルに捉えていて実に巧い。

墨江武禅 「月下山水図」
府中市美術館蔵(展示は4/8まで)

墨江武禅の「月下山水図」は月光のあたる部分を白くハイライトで描いた不思議なムードの作品。月岡雪鼎の門人で、宋元画を研究したというユニークな経歴の持ち主。この発想はどこから来たのか。

人物画では、画家解説に詳細不明とある葛陂古馮(かっぱこひょう)の「関羽図」も個性的。真っ黒の画面に浮かび上がるような関羽はインパクト大。応挙に学んだとされるようですが、この絵からはそういう様子は感じられず。なぜか落款の下にアルファベットのサインが。

上方の浮世絵でもちょっと異色な祇園井特の美人画も。デロリの先を行く独特のリアルな描き方で面白いんだけれど、こういう非浮世絵的な美人画が江戸時代にどこまで人気があったのかも気になるところです。

矢野良勝 「肥後瀑布図」
熊本県立美術館蔵(展示は4/8まで)

雪舟の画法を継承したという熊本の矢野良勝の「肥後瀑布図」もとてもいい。雪舟の「山水長巻」を意識したような絵巻物で、肥後の滝の名所がいくつも描かれています。滝の水しぶきは胡粉ですかね。

熊本藩の家老だという米田松洞が熊本の風景を描いた「北山秋景」も印象的。一見南画風なのですが、山や木の描き方は朴訥としていて、ところどころ小さく描かれる人物がまたなんとも味わいがあります。熊本の絵師も気になります。

司馬江漢 「生花図」
府中市美術館蔵

後半は生涯をかけてリアルと向き合った画家ということで司馬江漢と円山応挙の特集。まずは司馬江漢の「生花図」が良い。吊るし花生けという構図が面白いのですが、よく見ると壺がガラス製で透けています。どこか西洋的で(というより日本的でない)華やかな生け方は谷文晁も模写したファン・ロイエンの花鳥図を思い起こさせますし、泉屋博古館分館で以前観た椿椿山の「玉堂富貴・遊蝶・藻魚図」の中幅の構図にも似ています。

洋画風の紙本や絹本の油彩画もあれば、鈴木春信風の「西王母図」があったり、洋画風に描いた日本の風景もあれば、西洋画の模写のような作品もあったり、唐画風があったり、江漢の幅広い画技が見られてとても興味深い。油彩画は恐らく顔料の問題もあるのでしょうが、茶色く変色しているものがあって残念。

司馬江漢 「七里ヶ浜図」
府中市美術館蔵

江漢の風景画はまさにピクチャレスクな作品が多いのですが、解説に「江漢は空の画家」とあり、なるほどと感じました。確かに青空や雲って、それまでの日本の絵画に描かれることは稀(霞雲は別として)だったと思いますし、江漢の洋風画はそういう意味ではかなりリアルだったのでしょう。

円山応挙 「大石良雄図」
一般財団法人武井報效会百耕資料館蔵(展示は4/8まで)

応挙もリアルを感じさせる作品というテーマに絞られていますが、20代後半の頃の狩野派風の作品や応挙と名乗る前の作品もあったり、等身大の人物画や応挙が得意とした動物画など、応挙の幅広い画業を垣間見れます。虎や犬、兎、鷹など動物を描いた作品は写生に基づく応挙ならではのリアルさを感じ取れますし、虎の絵を描くのに中国から虎の毛皮を取り寄せたというエピソードも凄い。「鯉魚図」は池の氷の裂け目から鯉が飛び出すという正に奇抜な作品なのですが、鯉の忠実さに比べ、氷の表現には苦心の跡が窺えます。

円山応挙 「鯉魚図」

この絵、前にも観たよなという作品もちらほらあって、そろそろネタ切れかという感想もなくはなく、いつもの“春の江戸絵画まつり”に比べると少々地味な感じは拭えません。そのなかでも今回は特に、土方稲嶺や黒田稲皐、矢野良勝、米田松洞など地方の絵師に印象的な作品が多く、いつか地方の絵師に絞った展覧会とかして欲しいなと思いました。知られざる絵師はまだまだいるはずです。


会場の外には来年の春の江戸絵画まつり『へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで』の予告がすでに。チラシには若冲に蕪村に山雪に徳川家光!?なんだか面白そうで今から楽しみです。鬼に笑われませんように。


【春の江戸絵画まつり  リアル 最大の奇抜】
前期:2018年3月10日(土)から4月8日(日)
後期:2018年4月10日(火)から5月6日(日)
*全作品ではありませんが、大幅な展示替えがあります。
府中市美術館にて



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