2019/01/25

奈良絵本を見る!

神保町の八木書店古書部で開催中の『奈良絵本を見る!』を観てきました。

八木書店は神保町の古書街にある古書店の老舗。近代日本文学や古文書などの取り扱いに定評があります。3階にある催事用のスペースに個人コレクションを中心とした奈良絵本や絵巻が30点ほど展示されていました。

奈良絵本とは、室町時代後期から江戸時代中期にかけて作られた絵入りの冊子本のこと。御伽草子を題材にした素朴なタッチの作品は庶民に広く普及したといいますが、中には嫁入り本として金銀泥を用いた極彩色の豪華な作品もあります。

これまでも『お伽草子展』(サントリー美術館)や『つきしま かるかや』(日本民藝館)、『神仏・異類・人』(國學院大學博物館 )など奈良絵本が取り上げられた展覧会を何度か観ていますが、一度にこれだけの数を観たのは初めてかも。8畳ぐらいの狭いスペースなので、美術館のようにはもちろんいきませんが、書店のショーケースに奈良絵本がびっしりと並んだ様はマニア心をくすぐります。

「一寸法師(断簡)」 寛文頃

「浦島太郎(断簡)」 元禄頃

お伽草子といったら、定番の「一寸法師」に「浦島太郎」。素朴な絵がじわじわきます。でも、よくある稚拙な絵というのがないんですよね。みんなそれなりに線や表現がしっかりしていて、素朴なりにも巧い。これはコレクターの方の好みなのでしょうか。

「七夕の本地」 寛文頃

「猫の草紙(断簡)」 寛文頃

「磯崎」 寛文頃

中にはいまの昔話ではあまり馴染みのない作品もありますが、会場では解説の書かれたミニ冊子がもらえるので、物語をよく知らないお伽草子もミニ冊子を読みながら鑑賞できます。「猫の草子」がかわいい。

「玉水」 元禄頃

今年のセンター試験の古文の問題に取り上げられたことで話題になった『玉水物語』もありましたよ。狐さん。

「山中常盤」 寛文頃

岩佐又兵衛の「山中常盤物語絵巻」も元は御伽草子と聞いてますが、奈良絵本の「山中常盤」は初めて観ました。あんな描写やこんな描写は奈良絵本ではどう描かれているのでしょうか。。。

[写真上] 「八幡縁起絵巻(断簡)」 天正期以前
[写真下] 「堀江物語(断簡)」 寛永頃

「堀江物語」も岩佐又兵衛の絵巻以外で観たのは初めてかも。

「木曽御嶽の本地」 元禄頃

金泥や銀泥で装飾されたり、割と豪華なものもあります。「木曽御嶽の本地」は銀が黒変してますが、障壁画が金泥と銀泥を使い、とても丁寧に描かれています。こうしたものは大人向けだったんでしょうね。

「瓜子姫(断簡)」 元禄頃

近年は奈良絵本の研究も進み、作り手の特定もできるものもあるそうです。その中でも「居初つな」は日本で最初の女性絵本作家だったのではないかといわれているとか。会場には、居初つなが描いたとされる「瓜子姫」や「烏帽子折」、「鉢かづき」といった奈良絵本や歌仙絵があって、比べてみると、顔の表情(特に目鼻や口)や身体の形態の描き方に特徴があって、とても個性的です。

[写真左] 「瓜子姫」/[写真右] 「烏帽子折」

「鉢かづき」 元禄頃

居初つなについてはこちらのブログで詳しく取り上げられています。
http://yagiken.cocolog-nifty.com/yagiken_web_site/2013/03/post-a5a5.html

「酒呑童子」 寛文頃

もう一人、解説に名前があったのが「浅井了意」。仮名草子作家として活躍した人だそうで、会場には「酒呑童子」と「子易物語」の絵巻が2点展示されていました。こちらも比べてみると、人物の描き方に特徴がありますね。鬼なんて全く一緒。

[写真左] 「酒呑童子」/[写真右] 「子易物語」

[写真左] 「酒呑童子」/[写真右] 「子易物語」

会場にいた書店の方に伺ったところ、この「蓬莱山」も浅井了意の作といわれているとのことでした。

「蓬莱山」 寛文頃

観に行った同じ日に、日比谷で奈良絵本に関する講演会があったそうで、気が付いた時には既に満員で話を聞けなかったのがとても残念。もうちょっと早く知っていたら。。。

会場内はこんな感じです。


【奈良絵本を見る!】
2019年1月26日(土)まで
八木書店古書部3階にて


奈良絵本集〈1〉 (新天理図書館善本叢書)奈良絵本集〈1〉 (新天理図書館善本叢書)

2019/01/20

酒呑童子絵巻

根津美術館で開催中の『酒呑童子絵巻 -鬼退治のものがたり-』を観てきました。

「酒呑童子絵巻」というと、一昨年サントリー美術館で開催された『狩野元信展』に出品された元信筆の「酒呑童子絵巻」が記憶に新しいところですが、本展は根津美術館が所蔵する3種類の「酒呑童子絵巻」を紹介する展覧会です。

酒呑童子は、都から次々と姫君たちを誘拐していく酒呑童子を帝の命を受けた源頼光と四天王らが鬼の居城に乗り込み成敗をするという物語。「酒呑童子絵巻」は鬼の棲み処によって、大江山系と伊吹山系に分かれているそうで、今回展示されているのは何れも伊吹山系の絵巻になります。

ちなみに伊吹山系の基準となる作品が元信の「酒呑童子絵巻」。大江山系の代表作は、『大妖怪展』にも出品されていた逸翁美術館所蔵の「大江山絵詞」になります。

会場に入ってすぐのところに展示されていたのは室町時代の作とされる「酒呑童子絵巻」。筆致は凡庸ですが、お伽草子のようなおおらかさがあって、その素朴なタッチが逆に味わい深い絵巻です。逸翁美術館の現存最古の「大江山絵詞」は南北朝時代の作とされるので、本作もかなり古い部類に入る絵巻だと思いますが、赤鬼が寝そべる光景など、その図様は元信系列の絵巻とはまた違うものがあり、興味深く感じました。

住吉弘尚 「酒呑童子絵巻」
江戸時代・19世紀 根津美術館蔵

本展のメインは江戸末期の住吉派の絵師・住吉弘尚の「酒呑童子絵巻」で、全8巻が展示されています(全場面展示ではない)。弘尚の「酒呑童子絵巻」は前半4巻が異本の伊吹童子の物語をもとに構成されていて、後半4巻が元信本の内容を対応しているという特徴があります。

前半は素戔嗚尊の八岐大蛇退治に始まる伊吹明神の縁起と、伊吹明神と山麓の村の娘・玉姫との間に生まれた伊吹童子の出生譚が中心。3歳の頃には既に酒の味を覚え、比叡山に預けられた童子がやがて狂気の片鱗を見せ、伝教大師最澄の怒りを買い、山から追い出されるという様はもはや怪奇小説のようです。

弘尚の「酒呑童子絵巻」は展示室1と2を使うほどのかなり長大な絵巻ですが、物語性が豊かでストーリーにどんどん引き込まれます。さすが住吉派のやまと絵なので、景観描写や風俗表現は緻密かつ色彩も鮮やかでとても美しい。後半はよく見る酒呑童子の物語で、基本的に元信本に準じているようですが、酒呑童子の屋敷で饗応を受けた源頼光が鬼たちを騙すため人肉を食べたり血の酒を飲んだりして鬼たちを白けさせたとか、みんなで手伝いながら鎧兜に着替えるシーンがあったりとか、斬り落とされた酒呑童子の頭が頼光の兜に噛みついたとか、なかなか生々しく、いろいろつっこみどころもあって楽しめます。

伝・狩野山楽 「酒呑童子絵巻」
江戸時代・17世紀 根津美術館蔵

京狩野の山楽の筆と伝わる「酒呑童子絵巻」も元信本をもとにした作品。探幽にしろ孝信にしろ狩野派は元信本を踏襲した絵巻を代々描いていますが、伝山楽の作品は四方四季の庭の場面が延々と続き、桜や藤、椿、紅葉、鹿や鴛鴦、雁など花鳥の表現がとても手が込んでいます。本作は山楽と特定する確たる証拠がなく、「狩野派に属すしかるべき絵師」というだけなのですが(山楽というよりむしろ山雪という気がするがどうでしょう)、四季の描写のこだわりというか、ねちっこさが京狩野的な感じがします。


【酒呑童子絵巻 鬼退治のものがたり】
 2月17日(日)まで
根津美術館にて


御伽草子 下 (岩波文庫 黄 126-2)御伽草子 下 (岩波文庫 黄 126-2)

2019/01/18

マイケル・ケンナ写真展

東京都写真美術館で『マイケル・ケンナ写真展 MICHAEL KENNA A 45 Year Odyssey 1973-2018』を観てきました。

20代の頃は写真が好きで、ずいぶんいろいろ写真集を買い集めていたのですが、最近はすっかり疎くなり、すいません、マイケル・ケンナのことも全然知りませんでした。

Twitterでの評判の良さが目に留まって、観に行ったのですが、とても素晴らしかったです。久しぶりにというか、今の自分にもグッとくる写真に出逢えたという気がします。

マイケル・ケンナは風景写真家として知られ、ギャラリーでの個展は日本でも過去に何度かあったようですが、レトロスペクティブという形では日本初なんだそうです。写真家としてのキャリアも45年、写真集も70タイトルに上るということなので、世界的にも有名な方ということです。(全然知らなかった自分が恥ずかしい…)

午後の割と遅い時間に行ったにもかかわらず、会場は若い層を中心に人が結構入っていました。そろそろ会期も終盤ですし、口コミで評判が広まったというのもあるかもしれませんね。ちなみに一部のコーナーの作品を除き、会場内は撮影可能です。


どの写真もモノクロームの風景で、トーンは統一され、静謐とも、孤独とも、詩的とも、神秘的とも、幻想的とも取れる、独特の世界観にとても惹かれます。



自然の写真も、都会の写真も、ピクチャレスクな写真も、コンセプチャルな写真も、社会的な写真も、どこか心象風景のように心に静かに沁みこんでいきます。



 

日本や中国の風景を写した写真も多くあって、そのモノクロームの深遠な世界は時に水墨画のような幽玄の美さえ感じさせます。最近は日本美術ばかり観てるので、そんな自分にもとても親近感が持てる絵作りでした。


会場の一角には、マイケル・ケンナが1988年からは約12年の歳月をかけて取り組んできたというナチスドイツの強制収容所を撮影した写真の連作があります。第二次世界大戦が終わって何十年も経つにもかかわらず今なお残る死の痕跡には言葉を失います。(ナチス強制収容所の写真は撮影不可)



【マイケル・ケンナ写真展 MICHAEL KENNA A 45 Year Odyssey 1973-2018】
2019年1月27日(日)まで
東京都写真美術館にて


マイケル・ケンナ写真集 (アンビエント・フォト)マイケル・ケンナ写真集 (アンビエント・フォト)

2019/01/03

博物館に初もうで

新年あけましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。

さて、今年も博物館・美術館巡りはトーハク毎年恒例の『博物館に初もうで』から始動です!

年末の厳しい寒さも少し和らぎ、空も雲一つなく青空で、お正月らしい気持ちのいい晴天のもと、今年もいつものごとく初日の2日から観てきました。

今年は少し寝坊しまして、東博には開館の40分前に到着。去年は開館30分前に100人ぐらいの列になっていたので、出遅れたなと思ってたのですが、拍子抜けするぐらい列が短くて、私が着いたときで20人ぐらい、開館時も去年の半分もいなかったんじゃないでしょうか。朝から並ぶ年配層が今年は一般参賀に流れたのかなと思ったのですが、どうでしょう。

ここ数年、朝一で入って、2時間半ぐらいぐるぐる観て、お昼ぐらいに東博を出るというパターンで、去年は午前中から館内は大変な賑わいで、お昼に外に出るときもチケット売り場に長い行列という光景でしたが、今年は館内の混雑もさほどではなく、比較的ゆっくり観て回ることができました(午後は少し混んでたようですが)。

今年は亥年ということで、本館2階の特別1室・2室では≪博物館に初もうで イノシシ 勢いのある年に≫と題し、イノシシをテーマとした作品が展示されています。

[写真左から] 「玉豚」 中国・ 前漢~後漢時代・前2~後3世紀
「猪形土製品」(重要美術品) 縄文時代(後~晩期)・前2000~前400年
東京国立博物館蔵(展示は1/27まで)

[写真左から] 「埴輪 猪」(重要文化財) 古墳時代・6世紀
「埴輪 猪」 古墳時代・5~6世紀
東京国立博物館蔵(展示は1/27まで)

干支の「亥」というと日本ではもちろん「イノシシ」ですが、中国や韓国などアジア圏では「ブタ」(元はイノシシを家畜化したもの)を指して、「イノシシ」を干支にしているのは日本だけだといいます。古来日本ではブタに馴染みがなく、山国なのでイノシシを見慣れていたということもあるのでしょう。中国ではブタが繁栄の象徴であることから墓に副葬品として一緒に入れられていたそうですが、猪形の縄文土器は狩りの成功を願ったものかもしれないとありました。「玉豚」はブタっぽいし、縄文土器のイノシシはイノシシらしい。古墳時代のイノシシの埴輪の足が長いのも面白いですね。

岸連山 「猪図」
江戸時代・19世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/27まで)

望月玉泉 「萩野猪図屏風」
江戸~明治時代・19世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/27まで)

絵画では岸連山の「猪図」がすごいインパクト。岸派というと虎のイメージですが、大きな画面一杯にイノシシが勢いよく描かれていて迫力満点。正に猪突猛進という感じ。イノシシの堅い毛や重量感までも伝わってきます。となりには明治期の京都画壇を代表する望月玉泉の「萩野猪図屏風」が展示されています。玉泉は萩の草むらで眠るイノシシ。臥して眠る猪(=臥猪(ふすい))から亥年を寿ぐ意味を込めて「富寿亥(ふすい)」と表し、そこから「撫綏(ぶすい)」の語呂合わせで鎮めて安泰にするという意味の吉祥画になったのだそうです。今回は左隻のみの展示でしたが、対の右隻には熊の親子が描かれていて、これがまた可愛いんですよ。


筆者不詳 「曽我仇討図屏風(右隻)」
江戸時代・17世紀 個人蔵(展示は1/27まで)

興味深かったのが筆者不詳の「曽我仇討図屏風」。展示は右隻のみで、源頼朝が富士の裾野で催した富士の巻狩が描かれています。展示されてなかった左隻には曽我十郎五郎兄弟の仇討が描かれているのでしょう。同様の屏風を根津美術館でも観たことがあって、調べたところ、この組合せの屏風は江戸初期に流行したといいます。鹿や熊、イノシシなど動物がいろいろ描かれていますが、走る姿などその描写がとても的確で、それなりの腕のある絵師だと分かります。人物が又兵衛風で、気になって解説を読むと、岩佐又兵衛に関係する絵師による作品だろうとありました。

結城正明 「富士の巻狩」
明治30年(1897) 個人蔵(展示は1/27まで)

同じ富士の巻狩を題材にした作品がもう一つ。富士山の表現がユニークな結城正明の「富士の巻狩」では巨大なイノシシの上に新田義貞が跨り、尻尾を切ろうとしています。

歌川豊国 「浮繪忠臣蔵・五段目之圖」
江戸時代・18世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/27まで)

イノシシ狩りで思い出すのは歌舞伎の『仮名手本忠臣蔵』の五段目。勘平が射止めたと思ったのはイノシシではなく定九郎だったという有名な場面。奥行きのある構図と、手前を走り去るこれまた大きなイノシシが印象的です。

喜多川歌麿 「浮世七ツ目合・巳亥」
江戸時代・19世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/27まで)

いつの世も開運グッズやラッキーアイテムは人気があるのか、ある干支とそれから数えて七つ目の干支を組み合わせると幸運になるということで摺られた人気シリーズ。イノシシが描かれた団扇を持つ女性をヘビのおもちゃで驚かすという他愛のない絵柄が微笑ましい。

長谷川等伯 「松林図屏風」(国宝)
安土桃山時代・16世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/14まで)

国宝室では、お正月は2年ぶりの公開となる「松林図屏風」。「松林図屏風」はやはり人気なので、朝一はこの状態で屏風を観られますが、時間が経つとともに二重三重に人垣ができて写真を撮るのもままならなくなります。

「松林図屏風」はもともとは屏風を想定したものではなく、障壁画か何かの草稿を後年等伯ではない別の者が屏風に仕立てたというのが現在ではほぼ定説になっていて、実際よく見ると紙継ぎの跡も分かり、墨の線もどことなく下書きのような感じを受けるところもあります。昨年東博で開催された『名作誕生 つながる日本美術』では「松林図屏風」と並んで松林図に先行して等伯が描いたとされる大徳寺旧蔵の「山水松林架橋図襖」(樂美術館蔵)が展示されていましたが、等伯の関連書籍で読んで知っていることを実際に目で触れられることができて、とても良かったなと思います。

なお、本館特別4室(1階)では「松林図屏風」の高精細複製品がガラスケースなしで展示されていて、畳に座って屏風を間近で眺めることができます。

「伝 源頼朝坐像」(重要文化財)
鎌倉時代・13~14世紀 東京国立博物館蔵(展示は2/3まで)

本館3室(2階)に入ると「伝 源頼朝坐像」がお出迎え。「伝 源頼朝坐像」は鎌倉の鶴岡八幡宮に隣接する白旗神社伝来の彫刻。白旗神社の祭神は源頼朝なので、肖像彫刻というより神像といっていいかもしれませんね。頼朝の没後100年を過ぎて造られたとものといわれています。両脚のシンメトリックなラインが印象的です。

「古今和歌集(元永本)下帖」(国宝)
平安時代・12世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/14まで)

新春特別展示として公開されているのが国宝「元永本古今和歌集」。全20巻が完存する『古今和歌集』の写本としては現存最古の遺品。豪華な料紙装飾と流れるような筆致が美しい。


「天狗草紙(延暦寺巻)」(重要文化財)(※写真は一部)
鎌倉時代・13世紀 東京国立博物館蔵(展示は2/3まで)

絵巻では鎌倉時代の絵巻を代表する「天狗草子」。南都北嶺の寺の驕慢や、浄土宗や時宗といった新興宗教を風刺した全7巻から成る異色の絵巻で、展示は延暦寺の僧徒を描いたもの。山の陰から天狗が何かニタニタしながら話をしています。悪口でも言ってるんでしょうか。

狩野正信 「布袋図」(重要文化財)
室町時代・15世紀 文化庁蔵(展示は2/3まで)

伝・狩野元信 「囲棋観瀑図屏風」(重要美術品)
室町時代・16世紀 東京国立博物館蔵(展示は2/3まで)

「禅と水墨画」のコーナーでは狩野正信の「布袋図」(別名「崖下布袋図」)が見どころ。景徐周麟の賛から制作時期が限定されることから正信の基準作になっているといいます。肩にかけた大きな袋から右肩にかけてのラインと真ん丸のお腹の丸い構図と人の良さそうな布袋様の表情がとてもいい。謹直な衣紋線はこれぞ狩野派という感じです。元信(伝)の「囲棋観瀑図屏風 」は2年前の『狩野元信展』には出品されてなかった作品。右隻に囲碁を眺める人々、左隻に滝を眺める人々が描かれます。奥行きのある空間構成やダイナミックな瀑布など素晴らしいねですね。隅々まで丁寧に描き込まれた元信らしい屏風です。

「紅白梅図屏風」
江戸時代・17世紀 東京・高林寺蔵(展示は2/3まで)

7室「屏風と襖絵」では屏風が3点。江戸初期のやまと絵絵師による作品と思われる「富士山図屏風」と同じく筆者不詳の「紅白梅図屏風」、狩野常信の「松竹梅図屏風」といういずれも美しい吉祥画。「紅白梅図屏風」は大胆な枝ぶりの梅の木や構図が琳派を思わせ(ちょっとごちゃごちゃしている気はしますが)、どういう絵師が描いたものなのか気になるところです。左右の屏風を入れ替えても鑑賞に適うようになっていて、そうした趣向も琳派の絵師のやりそうな感じがします。

円山応挙 「龍唫起雲図」
江戸時代・寛政6年(1794) 東京国立博物館蔵(展示は2/3まで)

8室「書画の展開」では応挙の「龍唫起雲図」。亥年だけど龍。テレビの『開運!なんでも鑑定団』で番組に登場した応挙といわれる掛軸の89%は偽物だったと言ってましたが、博物館や美術館で応挙として展示されていれば応挙なんでしょうが、この龍の絵だけを観て、応挙と分かるかといえば難しく、素人には到底判断できるものではないなと思います。

狩野〈晴川院〉養信 「福禄寿・松竹梅図」
江戸時代・19世紀 個人蔵(展示は2/3まで)

伝・土方稲嶺 「寿老・牡丹に猫・芙蓉に猫図」
江戸時代・18世紀 東京国立博物館蔵(展示は2/3まで)

お正月は縁起物、吉祥画が多い(というか基本的に縁起の良い画だけ)。狩野養信は幕末の狩野派の絵師。すっきりした構図と精緻な線描、コントラストのある明確な色彩は弟子の芳崖につながっていくものを感じます。土方稲嶺は昨年の『百花繚乱列島』でも強く印象に残った鳥取画壇を代表する絵師。宋紫石に師事した人なので、養信と同じ三幅対でもやはり南蘋派の影響を色濃く感じます。

葛飾北斎 「冨嶽三十六景・凱風快晴」
江戸時代・19世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/27まで)

浮世絵のコーナーではまず縁起の良い富士山。赤富士は夏の富士山ですが、それはおいておいて、今年からデザインが刷新される日本のパスポートのデザインに「凱風快晴」が選ばれたことはニュースになりましたね。それもあって展示されていたのかな? 今年は北斎の大きな展覧会があるのでそちらも楽しみです。

歌川広重 「名所江戸百景・日本橋雪晴」
江戸時代・安政3年(1856) 東京国立博物館蔵(展示は1/27まで)

鈴木春信 「新年ひきぞめ」
江戸時代・宝暦11年(1761) 東京国立博物館蔵(展示は1/27まで)

宮川長春 「万歳図」
江戸時代・18世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/27まで)

浮世絵もお正月の風俗や景物を描いた作品が中心。新春の賑わう日本橋と晴れ晴れとした富士山を描いた広重の「名所江戸百景・日本橋雪晴」や、今でいうところの初売り?でしょうか、清長の「名所江戸百景・日本橋雪晴」、新春の飾りつけをした遊郭の様子を描いた春信の「新年ひきぞめ」、長春の肉筆浮世絵などが印象的でした。

「片輪車蒔絵螺鈿手箱」(国宝)
平安時代・12世紀 東京国立博物館蔵(展示は3/31まで)

仁清 「色絵月梅図茶壺」(重要文化財)
江戸時代・17世紀 東京国立博物館蔵(展示は3/17まで)

ひとつひとつ挙げていると切りがないので、スピードアップ(笑)
漆工では国宝の「片輪車蒔絵螺鈿手箱」、陶磁では仁清の「色絵月梅図茶壺」が見どころ。刀剣コーナーは新年から刀剣ファンでいっぱい。



14室(1階)では「大判と小判」の小特集。豊臣秀吉が作らせた当時世界最大の金貨だったという「天正長大判」や6点しか現存しない「天正菱大判」、江戸初期から幕末にかけての大判小判がざっくざっく。小判が通過として用いいられて、大判は主に贈答用だったんですね。知りませんでした。

「江戸城本丸大奥総地図 」
江戸時代・19世紀 東京国立博物館蔵(展示は2/24まで)

東博で面白かったものの一つが「江戸城本丸大奥総地図」。赤色の部分が奥女中が居住するところで、黄色の部分が儀式や対面を行ったり御台所や側室、将軍の生母などが住むところだそうです。どれだけ部屋数があるのかというぐらい広大な屋敷で、大奥の女中は最盛期で1000人とも3000人ともいわれるますが、こうして見ると規模が想像を遥かに超えてますし、ものすごく複雑。大奥で迷子になった人は絶対にいたでしょうね。

小林古径 「異端(踏絵)」
大正3年(1914) 東京国立博物館蔵(展示は1/20まで)

「近代の美術」ではまず古径の「異端(踏絵)」に惹かれました。ここまで大きな古径の作品はあまり観た記憶がありません。踏絵のキリストをじっと見つめ、これから踏まんとする女性たちという隠れキリシタンの主題と背景の仏教的な蓮の花の取り合わせが印象的です。

落合芳幾 「五節句」
明治時代・19世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/20まで)

小林永濯 「美人愛猫」
明治時代・19世紀 東京国立博物館蔵(展示は1/20まで)

昨年の『落合芳幾展』が記憶に新しい、落合芳幾や小林永濯の肉筆浮世絵も良い。小林永濯はやはりどこかでまとめて観たいところです。前田青邨は、金屏風にやけにカラフルな唐獅子を描いた「唐獅子」(これは何度か観ている)と絵巻の「朝鮮之巻」が出ていたのですが、「朝鮮之巻」が青邨の軽妙さと人物表現のうまさがよく出ていて、とても良かったです。今村紫紅の「熱国の巻」に感化され、単身挑戦に渡り取材した作品だといいます。朝鮮の人々の生活風景や風俗が生き生きと描かれていてとても印象的です。

前田青邨 「朝鮮之巻」
大正4年(1915) 東京国立博物館蔵(展示は1/20まで)

ほかにも東洋館の中国絵画や墨蹟、中国や韓国の陶磁、黒田記念館などをひと通り回って、だいたい3時間弱。今年はお正月恒例の催し物のタイムスケジュールが例年と違って、獅子舞が午後だったので見られなかったのが残念ですが、朝からたっぷりトーハクを堪能しました。




【博物館に初もうで】
2018年1月3日(水)~1月27日(日)

※開館時間、休館日、作品の展示期間など詳しくは東京国立博物館のウェブサイトでご確認ください。