ちょうど大阪に出張がありまして、一つ予定が飛んで、たまたま時間ができたものですから、どこかで展覧会観ようかなと思っていたら、名古屋の愛知県美術館で好評だったピカソ展が大阪に来てるというので、ちょっと寄ってみました。
『ピカソ 天才の秘密』というと、フランスの映画監督アンリ・ジョルジュ・クルーゾーが製作したピカソのドキュメンタリーが有名ですが、本展はピカソの青の時代とバラ色の時代を中心に、前半生の作品を紹介しています。
出品数は全91点。内、油彩は24点、残りは水彩や素描、銅版画など。愛知県美術館では79点だったので、少し増えているようですね。前後期で一部展示替えがあります。
第1章 少年時代 1894-1901
まずは少年時代の作品から。ハガキ大の紙に描かれた軍人や騎士の絵や、石膏像の頭部のデッサンなど13~14歳の作品からあって、最初期の自画像や人体デッサンなど観ると、10代半ばにして的確な筆致を身につけていたことが分かります。
パブロ・ピカソ 「自画像」
1896年 バルセロナ・ピカソ美術館
1896年 バルセロナ・ピカソ美術館
マドリードの美術アカデミーに通うも学校の教育方針に反発して、プラド美術館でベラスケスらの模写をしていたり、あまり個性を感じない花の絵(生活のために売っていたらしい)を描いていたりするわけですが、まだ作風が定まっていないとはいっても、ピカソらしい闘牛の絵や青の時代を予感させる色彩が目に付き始めます。
パブロ・ピカソ 「宿屋の前のスペインの男女」
1900年 DIC川村記念美術館蔵(展示は5/22まで)
1900年 DIC川村記念美術館蔵(展示は5/22まで)
第2章 青の時代 1901-194
青の時代は親友カサジェマスの自死がきっかけだったといいます。暗く冷たい青いトーンに包まれた作品は、その色合い故、寂しさや貧しさ、沈んだ心を象徴しているようで、暗い闇ならぬ青い闇に閉ざされた人々の心情を浮き彫りにしています。
パブロ・ピカソ 「スープ」
1902年 アート・ギャラリー・オンタリオ蔵
1902年 アート・ギャラリー・オンタリオ蔵
貧しさの中にも温もりを感じる「スープ」、眼もくぼみ痩せ細った親子を描いた「海辺の人物」が秀逸。作品はどれも沈鬱で哀しみを誘うものがありますが、青の時代になって初めてピカソの個性が現れたわけで、個人的にもこの時代のピカソが一番好きだったりします。
パブロ・ピカソ 「海辺の人物」
1903年 スミス・カレッジ美術館蔵
1903年 スミス・カレッジ美術館蔵
骨ばった男女が強い印象を残す青の時代を代表する「貧しき食事」をはじめ、青の時代からバラ色の時代にかけて制作されたピカソ初期の傑作版画「サルタンバンクシリーズ」も10点以上展示されています。
第3章 バラ色の時代 1905-1906
パリの安アトリエ“洗濯船”で出会ったフェルナンドとの恋愛がピカソの絵をバラ色に染めます。仏像のようなポーズをとった女性を描いた「扇子を持つ女」は青い時代の作品のように一見見えますが、頬や手は赤みを帯び、かつての物寂しさはありません。
パブロ・ピカソ 「扇子を持つ女」
1905年 ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵
1905年 ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵
恋人フェルナンドをモデルにしたというバラ色の時代を象徴するような「パンを頭にのせた女」や造形的にも次の時代を感じさせる素朴なタッチの「裸の少年」などが印象的。青の時代とバラ色の時代は色彩や題材が大きく変化しますが、どちらもピカソのナイーブな感情が画面の端々から伝わってきます。
パブロ・ピカソ 「パンを頭にのせた女」
1906年 フィラデルフィア美術館蔵
1906年 フィラデルフィア美術館蔵
第4章 キュビスムとその後 1904-1920s
アフリカやオセアニアの彫刻、古代イベリア美術に影響されて制作した「アヴィニョンの娘たち」により幕を開けるキュビスム。キュビスム最初期の作品をはじめ、セザンヌやジュルジュ・ブラックに影響された時期の作品、コラージュ的な技法を取り込んだ作品など、決して展示数は多くありませんが、キュビスム時代の作品が満遍なく網羅されています。
パブロ・ピカソ 「読書するコルセットの女」
1914-17年 トリトン・コレクション財団蔵
1914-17年 トリトン・コレクション財団蔵
最後には新古典主義に回帰した時代の作品があって、中でも印象的だったのが全体をグレーのトーンでまとめた「肘掛け椅子の女」。この時代に多く観られるギリシャ彫刻的な顔つきと量感豊かな安定感のある女性像で、おでこや鼻、胸などに白いハイライトを施し、柔らかな筆致とゆったりと落ち着いた姿がモナリザにも似た優美な雰囲気を醸し出しています。
パブロ・ピカソ 「肘掛け椅子の女」
1923年 富山県立近代美術館蔵
1923年 富山県立近代美術館蔵
一部ピカソ美術館やワシントン・ナショナル・ギャラリーなど海外の美術館の所蔵作品もありますが、ほとんどが国内美術館の作品で構成されているというのも面白いですね。それでこれだけ濃い内容になるんだから素晴らしいですね。点数は決して多くありませんが、ピカソの活動初期に絞ったなかなかの好企画だと思います。
【ピカソ、天才の秘密】
2016年7月3日(日)まで
あべのハルカス美術館にて
ピカソI: 神童1881-1906
ピカソII:キュビストの叛乱 1907-1916
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