2017/08/22

地獄絵ワンダーランド

三井記念美術館で『地獄絵ワンダーランド』を観てまいりました。

どうせ子どもも楽しめます的な夏休み向けの企画だろ、と最初はあまり興味を持ってなかったというか、高をくくっていたのですが、これが思いのほか面白かったのです。

くだけたタイトルから察せられるように、小難しところがなくて、もちろん子どもも楽しめるでしょうけど、仏画、地獄絵に興味がある人なら誰でも十分楽しめるのではないでしょうか。

毎年この時期は、妖怪だの怪談だのにまつわる作品を集めた展覧会がありますが、今年は源信の1000回忌ということもあってか、奈良国立博物館の『源信展』よろしく、出光美術館の『祈りのかたち 仏教美術入門』でも地獄絵が特集されていたりして、奈良に『源信展』を観に行けなかった身としてはとてもありがたいことです。


第1章 ようこそ地獄の世界へ

会場入ってすぐのアプローチには、肩慣らしというべきか、水木しげるの『水木少年とのんのんばあの地獄めぐり』の原画13点が展示されていて、地獄と極楽浄土の情景が分かりやすく紹介されています。あくまでも絵は水木ワールドなのですが、源信の『往生要集』の世界に意外なほど忠実なのに驚きました。

完本としては現存最古という鎌倉時代の版本の『往生要集』も展示されています。墨も黒々としていて状態は良さそう。日本人の死後世界観に絶大な影響を与えた“あの世のガイドブック”と解説されていて、うまいこと言うなと感心してしまいました。

「六道絵」(重要文化財)
中国・南宋~元時代 新知恩院蔵 (※写真は一部)

「六道絵」の最高傑作といわれる聖衆来迎寺の国宝「六道絵」の模写(文政本)や地獄草紙の模写もあったりしますが、興味深かったのが新知恩院蔵の「六道絵」(6幅)。中国伝来の六道絵としては他に違例がないとかで、日本のよく見る六道絵とは確かに雰囲気が異なります。大変精緻に描かれていて、青い髪や赤い髪をなびかせる鬼は風神や雷神の図様の原形を見る思いがしました。


第2章 地獄の構成メンバー

上品蓮台寺の「六地蔵像」も印象的。飛雲に乗って六地蔵が六道に向かう様子を描いたもので、云わば“六地蔵来迎図”。しかもみんな色白美男子。「地蔵十王図」というのもあって、地蔵菩薩が閻魔大王含め十王を従えている様子が描かれています。

「地蔵十王図」
室町時代 龍谷ミュージアム蔵

當麻寺の6曲1双の「十王図」は十王図10幅と地蔵菩薩図と阿弥陀三尊来迎図各1幅を表具ごと屏風仕立てにしたもの。片隻のみ展示されていましたが、十王図と並んで最後に阿弥陀来迎があるというのが面白い。地獄の顛末を見せつつ救済についてもフォローしているんでしょうね。地獄の様子はいかにも恐ろしげで、血の池かと思ったら、罪人の伸ばされた赤い舌で、舌の上で鬼が牛を使って耕す耕舌地獄という場面なんだそう。出光美術館で観た「六道・十王図」にも同じ場面がありました。


第3章 ひろがる地獄のイメージ

ここでは「立山曼荼羅」と「熊野観心十界曼荼羅」。「立山曼荼羅」は立山信仰に基づくものだと想像はつきましたが、立山の山中には地獄があると考えられていたそうで、血の池地獄に女の顔が浮かんでたり、人面牛馬がいたり、曼荼羅というより地獄絵のよう。鬼も大津絵風で、民間信仰の曼荼羅という感じです

「熊野観心十界曼荼羅」
江戸時代 日本民藝館蔵

「熊野観心十界曼荼羅」は柳宗悦の収集品。地獄極楽の絵解きをしながら諸国を廻ったという熊野比丘尼が絵解き布教に用いたものといいます。これも素朴絵風のところがあって、楽しんで学ぶという感じ。上部の円相に心の字が書かれていて、半円に人生の歩みを描く“老いの坂”も描かれています。


第4章 地獄絵ワンダーランド

江戸時代に入ると、地獄絵もバラエティに富み、世間の人が賢くなって地獄を怖がらなくなったなんてことが解説されていました。最早怖いんだか楽しんだか分からないような地獄絵のパロディ「地獄図巻」や人気歌舞伎役者・八代目市川團十郎の死絵の浮世絵、河鍋暁斎の絵でも知られる地獄太夫の一休宗純との出会いからその後の往生までを綴った絵伝、サイコロ振って最後は極楽浄土を目指す浄土双六なんかもありました。

「地蔵十王図」
江戸時代 東覚寺蔵(※写真は一部)

民間信仰的な地獄絵がいくつかあって、どれもユニーク。「観心十法界図」は「心」の字を中心に放射状に十界図が描かれていて、地獄に堕ちるも極楽浄土に行くのも心次第と諭します。葛飾・東覚寺の「地蔵・十王図」はヘタウマな素朴さに強く惹かれます。十王も漫画的に描かれていて面白い。並びにあった「十王図」は日本民藝館の『つきしまかるかや展』でも拝見した作品。まるで子どものイタズラ書きで、いくら民間信仰とはいえ、どんな用途でどんな人が描いたのかとても気になります。白隠の「地獄極楽変相図」も楽しい。お釈迦様や閻魔様は白隠の仏画風、地獄の様子は戯画風に描かれています。

「十王図屏風」
江戸時代 日本民藝館蔵(※写真は一部)


第5章 あこがれの極楽

最後にあった「山越阿弥陀図」は体は山に隠れ、顔しか見えないという珍しいタイプの作品。体が見えないので、阿弥陀如来なのかさえ本当は分からないとか。「当麻曼荼羅」は出光美術館でも観ましたが、こちらは當麻寺の曼荼羅の1/6の縮小版。



出光美術館の『祈りのかたち 仏教美術入門』は仏教美術史の流れで地獄絵が観られますが、こちらはさまざまなタイプ別の地獄絵を観ることができ、二つ併せて観ると、奈良に行かなくても大丈夫という気分になります。(行ければ行きたかったけど)


【特別展 地獄絵ワンダーランド】
2017年9月3日(日)まで
三井記念美術館にて


太陽の地図帖 地獄絵を旅する (別冊太陽 太陽の地図帖 20)太陽の地図帖 地獄絵を旅する (別冊太陽 太陽の地図帖 20)

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